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十三話「仮入部」

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 あれからぐちぐちと私に嫌みを吐き続ける譲お兄ちゃんをどうにか丸め込んで、自分の家へ帰らせることに成功した私は、ベッドにダイブするなり、長いため息をついた。

 「あーーー、もう、どうしてこうなった……」

  譲お兄ちゃんが色んな意味で衝撃的な爆弾を落としていったといのもあるが、そもそもここ半月ほどで色んなことが起こりすぎだ。
  ごちゃごちゃしている頭の中を一旦整理しないと、いつかショートする。
  私は瞼を降ろして、枕に顔を埋めながら今まであったことを、順に頭の中で並べていった。

  一つ、前世を思い出した。うん、これはもう私の中では解決した。色々思うところはあるけどね。

  二つ、前世の幼馴染みである瑛ちゃん、悠くんに再開した。瑛ちゃんが担任の先生なのはまだしも、結婚までしていることには、さすがに衝撃受けたし、まだ心がちゃんと理解してないかも。

  三つ、二つめに付随してるけど、悠くんと再会して私の好きなマンガ家さんだと発覚した。しかもファンレターに書いた住所と名前が前世で、次に会うときはサイン会。まさに詰みすぎである。

  四つ、今世の幼馴染み、恋多き譲お兄ちゃんがついに同性愛に目覚めてしまった。それはまだいいのだが、相手はなんと悠くん。なんだか気持ちが複雑すぎて応援する気になれない。

  どれも前世絡みで、誰にもきちんとした相談ができないときた。
  ごろんと寝返りを打って、仰向けになる。

 「でも自分のことだから、どうにかするしかないよね」

  否が応でも時間は止まってくれない。こうして考えているうちも一秒、一秒と時は進んでいく。
  きちんと向き合っていくしかないのだ。自分自身に。

 「一つめ、二つめは私の気持ちの問題だから、時間はまだある。問題は三つめと四つめだよね。時間的に言ったら、一番優先しなくちゃいけないのは三つめのサイン会かぁ」

  大好きなマンガ家さんのサインがもらえる。そのマンガ家さんが知り合いだった。それだけを抜き取れば、本当に嬉しいことだ。それに美優にもにやけてしまうくらいに嬉しい言葉を貰った。

 「うじうじしているのは、私らしくないよね。もう何度も考えて決めたことなんだから」

  どうするかなんて悠くんが来夢先生だと知って、すぐに出している。
  天井に手を伸ばして、拳を握る。

 「ポジティブに考えよう!」

  もしかしたら、裏の名前なんて見ていないかもしれない。もし見ていたら、その時の悠くんの様子を見て、出方を考えればいい。あの時、前世のことを話すことも視野に入れたではないか。
  再度、そう自分を納得させ、うじうじしないためにも、寝転んでまま携帯を手に取る。携帯のメモ帳に決定事項というタイトルをつけて、決めたことを書いていった。








  メモ帳に決定事項として書いたことが功を成したのか、あの日から心のもやは徐々に消えかかっていた。美優の優しい言葉のを思い出す度に心も浮上するし、決して悪いことばかりではない。

 「結芽、なんか今日機嫌いいね」

  鼻歌を歌いだい出しそうな雰囲気でるんるんしていると、鞄に教材を詰めて、あとは帰るばっかの美優が話しかけてきた。

 「だって、今日からイヌネコ部が始まるんだよ。楽しみすぎて、楽しみすぎて!!」

  仮入部ですぐにお世話ができるわけじゃないのは分かってる。でも檀上の犬と猫たちに間近でもうすぐ会えると思うと、頬がつい緩んでしまう。それにいつになるかは分からないけど、早くあの柔らかそうな毛に触ってみたい。

 「あーそういうこと。今日から一週間が仮入部なんだっけ」

 「そうなの。定員の二倍くらい入部希望者がいるから、もう競争だよ。だから残れるように頑張るんだ。美優はこれからバイト?」

 「うん。五時半から二時間半だけだけどね」

 「そうなんだ。お互い頑張ろうね!」

 「うん、頑張ろう。じゃあね、結芽」

 「ばいばい、また明日!」

  手を振ってくれる美優に、手を振り返し、私はイヌネコ部の部室へと向かった。




  イヌネコ部の部室は教室から少し離れたところにあった。運動部はグランドが近いところに部室棟があり、文化部は美術室や音楽室など、普段の授業でも使用するところで活動しているため、教室のすぐ近くに部室がある。しかしイヌネコ部は動物アレルギーを持つ人や、動物が苦手な人がいることも配慮して、体育館を挟んだ向こう側にあるプレハブが部室となっていた。
  そこに足を運ぶと、すでに入部希望の一年生が部室の前に集まっていた。

 「やっぱりすごい人数だなぁ」

  定員の二倍はいるとあらかじめ聞いてはいても、やはり聞くのと見るのとじゃ大分違う。仮入部の紙を持って、きょろきょろしていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。振り向くとそこには、しっかりとした体格の男子生徒がいた。制服にポケットに入っているラインの色を見て、一つ上の先輩であることが判明する。

 「入部希望者か?」

  身長は悠くんや瑛ちゃんよりも高く、目力がなんだか強い。なんだか威圧されているみたいだ。知らない人ならここで視線を逸らしてしまいそうだが、同じ学校の先輩に対してそれは失礼極まりない。私は視線を逸らさず真っ直ぐ先輩の瞳を見た。

 「はい、イヌネコ部入部希望です。仮入部の紙は誰に渡せばいいですか?」

 「俺が貰おう」

 「お願いします」

  頭を軽く下げて渡せば、先輩は口角を少し上げた。よく先輩を観察してみれば、雰囲気は穏やかで、怖い人じゃない。人を見かけで判断してはいけないとよく言うが、今の私はまさに見かけで判断していた。心の中で反省を行っていると、私にあとに続いてぞろぞろと仮入部の紙を先輩に渡しにきていた。皆の顔には、怖そうな先輩という言葉がはっきりと書かれていて、思わず先輩が可哀想になってきた。
  それとなく先輩の顔を見てみれば、いつものことなのか、全く気にならないという表情で仮入部の紙を集めていた。
  そして全て集め終わると、先輩が声を張り上げた。

 「仮入部希望はこれで全員だな? まだ紙を提出していない者は速やかに提出するように。それと今日の部活動は自己紹介と動物たちの紹介、部活の内容についてだ。皆部室に入ってくれ」

  部室の扉を開けた先輩に続いて、私たちはぞろぞろと部室に入っていった。
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