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第二章

六十四話

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「誰かの召喚獣か。残念、君では役不足だ!」

「どうかしら?」

 コーディリアの姿を一瞥し、興味なさげに視線を彷徨わす。ベルの姿を探しているのだろう。体はベルの召喚獣である三人の魔法で拘束されているというのに、余裕の行動だ。

(まあ本当に余裕なんだろうけど)

 クライシスはベルの知らない力をたくさん持っている。でなければヴィータもここまでやらるはずがない。

「私の力を侮らないでくださる? ベルの召喚獣たちと引けは取らないわよ」

「別に比較しているつもりではないよ。ただ、本心を呟いたまでだ」

「後で後悔しても遅いわよ」

「それはこっちの台詞、とでも言っておこうか」

 コーディリアが指をパチンと鳴らすと、光の矢が一斉にクライシスめがけて飛んでいった。一本でも当たればただでは済まない攻撃が、数十本も飛んでいく。

「そんな脆弱な光が僕に届くわけがないでしょ?」

 見下すような笑みを口元に浮かべ、魔法を詠唱する。

「『ダークアロー』」

 光に対抗できるのは闇。だからこそ闇の矢を幾つも魔法で出現させたのだろう。それぞれの闇の矢が光の矢に向かって相打ちとなる。

「なっ!!」

 コーディリアの光の矢の威力が弱かったわけではない。クライシスの魔法の使い方が、想像以上に洗練されたものだった。召喚獣が得意とする魔法攻撃に人間の魔法が相打ちになることは、余程の鍛錬を積まなきい限り難しい。

(これはちょっと計算外、かも)

 しかし戦闘中に計算が狂うことなんてよくあることだ。

「あれ、攻撃はこれだけで終わり? つまんないなあ」

 そう言いながらクライシスは自身を拘束する魔法を全て弱点を突く形で解いていった。四つの魔法に拘束されているせいで手間と時間がかかっているようだ、拘束を何重にもして良かったと内心息をつく。もちろん息をつきながら、それをぼけっとみているわけではないが。

 エリオットとラヴィックが剣を手に、それぞれ木々の繁みから飛び出した。二人が飛び出した繁みは、クライシスの背後。足音で気づかれないように、コーディリアが再び攻撃を仕掛けていた。

「だから君の攻撃は効かないってば」

「そうかしら? 何度もやってみないと分からないものよ?」

「頭の悪い召喚獣だね……ああ、もしかして、誰かの足音を消しているとかそんな感じかな?」

 全ての拘束を解いてしまったクライシスは、コーディリアと戦っている最中だと言うのに視線を後ろに向けた。

「やっぱり。召喚獣だけでいるはずがないもんね。大切な大切な召喚獣なんだから」

 大切な大切な召喚獣。

 その言葉は、どこか自身を責めているように聞こえた。

 闇の矢をさらに量産し、エリオットとラヴィックに向けて放った。

「セス!」

 これはまずいと判断し、急いでロセウスに結界を指示する。

 キン、と甲高い音を立てて結界が攻撃を凌いでくれたが、闇の矢の威力が相当高かったからなのかすぐに結界は消滅してしまった。

(危なかった)

 一秒でも遅れていたら、二人に当たっていたところだった。

「ああ、星野鈴の召喚獣の結界か」

 確実に当てたと思っていたのだろう。二人が無事な姿を見て、眉間に皺を寄せる。

「邪魔だなあ。番人との戦いで結構魔法使っちゃったから、今日はあんまり魔法使いたくないってのに」

 その呟きにふと疑問を抱く。

(確か前に戦ったとき、クライシスは言っていた。魔法を使うには代償が必要だって。その代償がどんなものか分からないけど、代償を気にしてるってことは魔法をたくさん使わせた方がいいってこと?)

 使えば使うほど代償が大きくなるのなら、クライシスは魔法を最終的には使えなくなる可能性がある。

「セス、アル、アーテ。クライシスに魔法をたくさん使わせて。手段はどういうふうでも問わない」
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