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第二章
六十話
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ベルのため、クライシスのため。
誰かのためだと口にする神の言葉を最近よく耳にする。しかし誰がそんなことを望んだのか。それは神の傲慢ではないのか。そう思えてならない。
ベルのためだと言いながら、結果ベルに多大な迷惑をかけている。この短期間で二度も死の恐怖を味わっているのだ。これで迷惑をかけてないというのなら、神と名乗る存在の顔を直接見ながら、話をしてみたいものだ。
それに現状、一番辛いのはリーディルだろう。
クライシスに会いたいのに会えず、クライシスが罪を重ねる度に心が痛む。自ら動こうとしても、神の戒めのせいで姿を見せることすら許されない。
「クライシスの前に姿を見せることができない私のために、ヴィータ様は色々手を尽くしてくださいました。鉢合わせしないようにこの異界の湖に姿を隠させてくれたり、こうしてクライシスの説得を担ってくれたり。……本当に感謝の言葉しかありません」
「そういうことだったの。……勝手に勘違いをして怒ってごめんなさい」
ヴィータが自身の意思で動いていた。ならばそれをリーディルのせいにして、咎めることはできない。むしろここまで聞いてしまったのなら、リーディルとクライシスのために動くべきだと思う。
「いえ、ベルさんの怒りは最もですから。気にしないでください」
「ありがとう。でも、今の話を聞いたらここで動かないわけにもいかない。だからお願い。私にもクライシスのことを手伝わせてほしい」
「……いいのですか?」
「いいに決まってるよ。元々はヴィーを助けに来たんだけど、その話を聞いたら手伝わない訳にはいかないでしょう。それに手伝うことによって、ヴィーのためにもなりそうだし」
ベルは素直に思ったことを口にする。一緒にここまでやって来たロセウスたちが手伝わなくとも、ベルはリーディルのためにも動こうと思った。クライシスがベルを標的にしてきたせいで、ロセウスたちがクライシスを嫌っている、というよりも憎悪していることを知っている。だから強制するつもりはなかった。
「お嬢が手伝うんなら、俺たちも手伝うか」
「そうだな。その方がお嬢のためなりそうだし」
「私も二人の意見に賛成だよ。クライシスに対する気持ちはともかくとしてね」
しかしベルの考えは杞憂に終わったようだ。三人ともベルが何も言わずとも、手伝う気であったらしい。
「ベルの召喚獣がそこまで言うのなら、俺たちも手伝わないわけにはいかないよな」
「格好つけちゃって、ラヴィってば、最初からそのつもりだったくせに」
相変わらずのラヴィックとトトー。
「ベルやヴィータの手助けになるのなら、私も手を貸そう。コーディリア、一緒に手を貸してくれるか?」
「ええ、もちろんよ。クライシスは気に入らないけれど、女性の涙を見過ごすほど、嫌な性格はしていないわ」
クライシスにいい感情を持っていないにせよ、強力してくれるエリオットとコーディリア。
(本当に言い仲間を持ったなあ)
ベルにはもったいないくらいの仲間だ。
全員の顔を順番に見ていく。ベルと視線が合うと、誰もが任せてと言わんばかりに頷いてくれた。
「ありがとう」
たくさんの気持ちをこめた一言だった。
その一言を皆へ告げたあと、リーディルに向き直る。
「私たちはリーディルを手伝うよ。そのためにもヴィーが今、どういう状態なのか、私たちがどう動けばいいのか教えてほしい」
「っ、ありがとうございます! 本当に、どう感謝をすればいいのか……っ」
まさかベルたちに協力してもらえるとは思わなかったのだろう。瞳を濡らしていた涙は崩壊し、頬を濡らしていた。
「感謝は全てが終わったあとで。今は成功に向けて動こう」
ただでさえ、話を聞いて時間をロスしてしまっているのだ。さらにここでロスをしてしまうわけにはいかない。
「わかりました」
それはリーディルも分かっていたのだろう。再びお礼を口にすることはなかった。代わりに涙を手の甲で拭うと、この後どうしたらいいのかを真剣な口調で提案してきた。
誰かのためだと口にする神の言葉を最近よく耳にする。しかし誰がそんなことを望んだのか。それは神の傲慢ではないのか。そう思えてならない。
ベルのためだと言いながら、結果ベルに多大な迷惑をかけている。この短期間で二度も死の恐怖を味わっているのだ。これで迷惑をかけてないというのなら、神と名乗る存在の顔を直接見ながら、話をしてみたいものだ。
それに現状、一番辛いのはリーディルだろう。
クライシスに会いたいのに会えず、クライシスが罪を重ねる度に心が痛む。自ら動こうとしても、神の戒めのせいで姿を見せることすら許されない。
「クライシスの前に姿を見せることができない私のために、ヴィータ様は色々手を尽くしてくださいました。鉢合わせしないようにこの異界の湖に姿を隠させてくれたり、こうしてクライシスの説得を担ってくれたり。……本当に感謝の言葉しかありません」
「そういうことだったの。……勝手に勘違いをして怒ってごめんなさい」
ヴィータが自身の意思で動いていた。ならばそれをリーディルのせいにして、咎めることはできない。むしろここまで聞いてしまったのなら、リーディルとクライシスのために動くべきだと思う。
「いえ、ベルさんの怒りは最もですから。気にしないでください」
「ありがとう。でも、今の話を聞いたらここで動かないわけにもいかない。だからお願い。私にもクライシスのことを手伝わせてほしい」
「……いいのですか?」
「いいに決まってるよ。元々はヴィーを助けに来たんだけど、その話を聞いたら手伝わない訳にはいかないでしょう。それに手伝うことによって、ヴィーのためにもなりそうだし」
ベルは素直に思ったことを口にする。一緒にここまでやって来たロセウスたちが手伝わなくとも、ベルはリーディルのためにも動こうと思った。クライシスがベルを標的にしてきたせいで、ロセウスたちがクライシスを嫌っている、というよりも憎悪していることを知っている。だから強制するつもりはなかった。
「お嬢が手伝うんなら、俺たちも手伝うか」
「そうだな。その方がお嬢のためなりそうだし」
「私も二人の意見に賛成だよ。クライシスに対する気持ちはともかくとしてね」
しかしベルの考えは杞憂に終わったようだ。三人ともベルが何も言わずとも、手伝う気であったらしい。
「ベルの召喚獣がそこまで言うのなら、俺たちも手伝わないわけにはいかないよな」
「格好つけちゃって、ラヴィってば、最初からそのつもりだったくせに」
相変わらずのラヴィックとトトー。
「ベルやヴィータの手助けになるのなら、私も手を貸そう。コーディリア、一緒に手を貸してくれるか?」
「ええ、もちろんよ。クライシスは気に入らないけれど、女性の涙を見過ごすほど、嫌な性格はしていないわ」
クライシスにいい感情を持っていないにせよ、強力してくれるエリオットとコーディリア。
(本当に言い仲間を持ったなあ)
ベルにはもったいないくらいの仲間だ。
全員の顔を順番に見ていく。ベルと視線が合うと、誰もが任せてと言わんばかりに頷いてくれた。
「ありがとう」
たくさんの気持ちをこめた一言だった。
その一言を皆へ告げたあと、リーディルに向き直る。
「私たちはリーディルを手伝うよ。そのためにもヴィーが今、どういう状態なのか、私たちがどう動けばいいのか教えてほしい」
「っ、ありがとうございます! 本当に、どう感謝をすればいいのか……っ」
まさかベルたちに協力してもらえるとは思わなかったのだろう。瞳を濡らしていた涙は崩壊し、頬を濡らしていた。
「感謝は全てが終わったあとで。今は成功に向けて動こう」
ただでさえ、話を聞いて時間をロスしてしまっているのだ。さらにここでロスをしてしまうわけにはいかない。
「わかりました」
それはリーディルも分かっていたのだろう。再びお礼を口にすることはなかった。代わりに涙を手の甲で拭うと、この後どうしたらいいのかを真剣な口調で提案してきた。
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