104 / 136
第二章
四十二話
しおりを挟む
起きるとすでに朝だった、というのは昨日と同じだった。
ただ昨日と同じようにのんびり過ごすわけにはいかない。クライシスの居場所さえ掴めれば、必然的に戦闘を行うことになるからだ。
「てことは、少しでも戦闘訓練をしておいた方がいいよね?」
「ああ、そうだな。ただ、俺たちだけだと、どうしても個々の戦闘になる」
「アーテル、ならラヴィックたちを呼んできたらどうだい? 召喚術師と召喚獣、本来のペアで戦闘訓練をするんだ。エリオットたちは王都に行っているかもしれないが、昨日街を散策していたようだから、今日は空いているかもしれないし」
「お、それはいいな。アルブス、俺たちで呼んでこようぜ」
「じゃあ私とロセウスでお昼ご飯作っておくよ。訓練したあとにすぐ食べられるようにさ」
「おう、楽しみにしてる」
「んじゃ、行ってくるな」
話はすんなりと決まり、獣化したアーテルとアルブスをロセウスと共に見送ったあと、二人でキッチンに立った。
「それで、何を作るんだい?」
「んー、作るとは言ったけど、まだ何を作ろうか迷ってて……。でも迷っている間に皆来ちゃうだろうから、早く作れて美味しいものがいいんだよね」
「早く作れて美味しいもの、ね……。だったら、これを使ったらどうだい?」
ロセウスが手に取ったのは、うどんだった。
うどんならば、今のうちにさっと茹でて冷蔵庫に入れておけばすぐに食べられる。それに運動したあとなら、冷たい物が食べたくなるはずだ。
大根おろしと、みじん切りのネギを作って、天かすと茹でたナスを乗せれば、それなりの見た目の物が簡単に出来るはずだ。天かすは以前天ぷらを作った際に作っておいたものがあるし、冷蔵庫の中を見る限り材料は全て揃っている。めんつゆは調味料を合わせれば作れるので問題はない。
「どうかな?」
「それはいいと思うよ。食べやすいだろうしね。ただ、運動後には少し食べ足りないかもしれないね」
「あー、そっか」
ベルからしてみれば十分な量だが、男性目線で考えてみると些か食べ応えがなさそうに感じる。せめて肉系のおかずや、おにぎりとかもあった方がいいだろう。
(あ、そうだ!!)
肉とおにぎり。その二つを思い浮かべていい物を思いつく。
「肉巻きおにぎりなんてどうかな? 海苔の代わりに濃い味で焼いたお肉を巻くの」
「ああ、それはいいね。ご飯を炊いているうちに肉に味付けをして焼いておけば、皆が来るまでには間に合いそうだ。そうしたら、私がこちらを担当するから、ベルはおろしうどんをお願いできるかい?」
「うん、任せといて」
まだご飯を食べたばかりだというのに、想像しただけで口の中で唾液が広がっていく。
ベルは食材を冷蔵庫から取り出すと、ロセウスと肩を並べて調理に移った。
基本的にベルは食材を切るだけの作業が多いため、リズムよく包丁を動かしていく。しかし隣にいるロセウスは肉巻きおにぎり用の肉をちょうど焼いていたため、とても美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。
「んー、美味しそう」
香ばしい匂いに鼻をひくつかせていると、ロセウスに笑われてしまった。
「味見、してみるかい? ちょうど私も味見するところだったんだ。ベルも一緒に味見してくれると嬉しい」
さすがベルに甘いロセウスである。普通に聞かれたところで、朝食も食べたことだし、と遠慮をしただろう。しかしお願いであれば、話は別だ。聞かない訳にはいかなくなる。
「したい!!」
甘いロセウスの言葉にベルは即座に乗っかることにした。菜箸で差し出された肉に息を数度吹きかけ、熱を冷ます。そうして口に頬張ると、想像以上にご飯に合う肉に仕上がっていた。
「どうだい?」
「すごく美味しいよ、セス!!」
昼ごはんの時間までまだ結構あるというのに、もう一枚食べたい。むしろご飯と一緒に口の中に放り込んでしまいたいという欲望に駆られてしまう。
(いや、ダメだ。ここで食べたらただのおデブだ。戦闘訓練後のお楽しみなんだから……!!)
そう自分自身に言い聞かせ、おろしうどんの調理を再開させた。ロセウスがそんなベルの姿を見て、苦笑していることを知らずに。
ただ昨日と同じようにのんびり過ごすわけにはいかない。クライシスの居場所さえ掴めれば、必然的に戦闘を行うことになるからだ。
「てことは、少しでも戦闘訓練をしておいた方がいいよね?」
「ああ、そうだな。ただ、俺たちだけだと、どうしても個々の戦闘になる」
「アーテル、ならラヴィックたちを呼んできたらどうだい? 召喚術師と召喚獣、本来のペアで戦闘訓練をするんだ。エリオットたちは王都に行っているかもしれないが、昨日街を散策していたようだから、今日は空いているかもしれないし」
「お、それはいいな。アルブス、俺たちで呼んでこようぜ」
「じゃあ私とロセウスでお昼ご飯作っておくよ。訓練したあとにすぐ食べられるようにさ」
「おう、楽しみにしてる」
「んじゃ、行ってくるな」
話はすんなりと決まり、獣化したアーテルとアルブスをロセウスと共に見送ったあと、二人でキッチンに立った。
「それで、何を作るんだい?」
「んー、作るとは言ったけど、まだ何を作ろうか迷ってて……。でも迷っている間に皆来ちゃうだろうから、早く作れて美味しいものがいいんだよね」
「早く作れて美味しいもの、ね……。だったら、これを使ったらどうだい?」
ロセウスが手に取ったのは、うどんだった。
うどんならば、今のうちにさっと茹でて冷蔵庫に入れておけばすぐに食べられる。それに運動したあとなら、冷たい物が食べたくなるはずだ。
大根おろしと、みじん切りのネギを作って、天かすと茹でたナスを乗せれば、それなりの見た目の物が簡単に出来るはずだ。天かすは以前天ぷらを作った際に作っておいたものがあるし、冷蔵庫の中を見る限り材料は全て揃っている。めんつゆは調味料を合わせれば作れるので問題はない。
「どうかな?」
「それはいいと思うよ。食べやすいだろうしね。ただ、運動後には少し食べ足りないかもしれないね」
「あー、そっか」
ベルからしてみれば十分な量だが、男性目線で考えてみると些か食べ応えがなさそうに感じる。せめて肉系のおかずや、おにぎりとかもあった方がいいだろう。
(あ、そうだ!!)
肉とおにぎり。その二つを思い浮かべていい物を思いつく。
「肉巻きおにぎりなんてどうかな? 海苔の代わりに濃い味で焼いたお肉を巻くの」
「ああ、それはいいね。ご飯を炊いているうちに肉に味付けをして焼いておけば、皆が来るまでには間に合いそうだ。そうしたら、私がこちらを担当するから、ベルはおろしうどんをお願いできるかい?」
「うん、任せといて」
まだご飯を食べたばかりだというのに、想像しただけで口の中で唾液が広がっていく。
ベルは食材を冷蔵庫から取り出すと、ロセウスと肩を並べて調理に移った。
基本的にベルは食材を切るだけの作業が多いため、リズムよく包丁を動かしていく。しかし隣にいるロセウスは肉巻きおにぎり用の肉をちょうど焼いていたため、とても美味しそうな匂いが鼻をくすぐった。
「んー、美味しそう」
香ばしい匂いに鼻をひくつかせていると、ロセウスに笑われてしまった。
「味見、してみるかい? ちょうど私も味見するところだったんだ。ベルも一緒に味見してくれると嬉しい」
さすがベルに甘いロセウスである。普通に聞かれたところで、朝食も食べたことだし、と遠慮をしただろう。しかしお願いであれば、話は別だ。聞かない訳にはいかなくなる。
「したい!!」
甘いロセウスの言葉にベルは即座に乗っかることにした。菜箸で差し出された肉に息を数度吹きかけ、熱を冷ます。そうして口に頬張ると、想像以上にご飯に合う肉に仕上がっていた。
「どうだい?」
「すごく美味しいよ、セス!!」
昼ごはんの時間までまだ結構あるというのに、もう一枚食べたい。むしろご飯と一緒に口の中に放り込んでしまいたいという欲望に駆られてしまう。
(いや、ダメだ。ここで食べたらただのおデブだ。戦闘訓練後のお楽しみなんだから……!!)
そう自分自身に言い聞かせ、おろしうどんの調理を再開させた。ロセウスがそんなベルの姿を見て、苦笑していることを知らずに。
0
お気に入りに追加
673
あなたにおすすめの小説
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……
昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど
睦月はむ
恋愛
剣と魔法の国オルランディア王国。坂下莉愛は知らぬ間に神薙として転移し、一方的にその使命を知らされた。
そこは東西南北4つの大陸からなる世界。各大陸には一人ずつ聖女がいるものの、リアが降りた東大陸だけは諸事情あって聖女がおらず、代わりに神薙がいた。
予期せぬ転移にショックを受けるリア。神薙はその職務上の理由から一妻多夫を認められており、王国は大々的にリアの夫を募集する。しかし一人だけ選ぶつもりのリアと、多くの夫を持たせたい王との思惑は初めからすれ違っていた。
リアが真実の愛を見つける異世界恋愛ファンタジー。
基本まったり時々シリアスな超長編です。複数のパースペクティブで書いています。
気に入って頂けましたら、お気に入り登録etc.で応援を頂けますと幸いです。
連載中のサイトは下記4か所です
・note(メンバー限定先読み他)
・アルファポリス
・カクヨム
・小説家になろう
※最新の更新情報などは下記のサイトで発信しています。
https://note.com/mutsukihamu
※表紙などで使われている画像は、特に記載がない場合PixAIにて作成しています

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?
rita
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、
飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、
気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、
まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、
推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、
思ってたらなぜか主人公を押し退け、
攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・
ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる