召喚術師はじめました

第二章

四十一話

　ベルの暴露によって見えた真実と実際起こったことを照らし合わせていき、誰もがベルの憶測が正しいと判断した。それを踏まえたうえで、ヴァイオレットが挙手をする。

「私たちからもいいかい？」

　私たち、ということは、ムースを含めてのことなのだろう。ムースはベルと視線が合うなり、笑みを浮かべた。

「昨夜ベルたちと別れたあと、私たちは夢見の力を使って夢を渡り歩いたんだ」

　先程ムースが口にしていた夢見の能力のことだろう。ヴァイオレットの言葉を受け継ぎムースが口を開く。

「そしてねー、見つけたのー。クライシスの夢をー」

「クライシスの！？」

「それは本当なのか！！」

　声を上げたのはベルとラヴィックだけだったが、驚いたのは皆同じなようで、一瞥すると誰もが続きを促していた。

「ああ、本当だよ。だが、すぐに気づかれて起きられてしまったがね。あんなにも早く夢見の能力に気づく奴とは初めて出会ったよ」

「本当にねー。私もびっくりしちゃったー」

　ヴァイオレットとムース。この二人は輝人、いや、召喚術師と召喚獣の中でも特に古株だ。ムースの夢見の能力がやすやすと見破られること自体がまずありえない。よほど注意していない限り、と考えたところで昔はクライシスも輝人だったことを思い出す。

「ムースの能力はクライシスの奴も把握してるだろ。なら、それくらい対策していてもおかしくはねぇんじゃねぇか？」

　そう最初に声を出したのはアクアだった。透き通った青の髪を乱雑に掻く。

「そうさのぅ。だが、ヴァイオレットたちが気づかれたからと、何の成果もなくこの場に話を持ってくるとは思えんが？」

「何当たり前のこと言ってるんだい。そんな恥ずかしいこと、私がする訳ないだろう」

「そうそうー。ちゃんと『跡』を残してきたんだからー」

　ヴァイオレットが息をつき、ムースが胸を張った。

「『跡』とはどういったものなのかしら？」

　コーディリアが小さく挙手をしてムースへ疑問を投げかける。夢見の能力があることは知っていたが、『跡』を残すという手段までは知らなかったため、コーディリアの言葉に同意するように頷いた。

「『跡』っていうのはねー、言葉通りに夢に跡を残すってことなのー。だから次からはクライシスの夢を探さなくても、『跡』を辿ってすぐにクライシスの夢に入れるってことー」

「ちなみに、この能力のことはクライシスですら知らないものだからね。気付かれている心配はないと断言してもいい。向こうは私たちが夢見で接触してきたけど、対策を施したおかげで何もされていないと思い込んでいる。その対策さえあれば、次来られても大丈夫だと思っているようだからね。だけど私たちはそれほど甘くないよ」

　ヴァイオレットが口角を片方だけあげる。味方のはずなのに、その姿はまるで敵役のように見えてしまった。そんな内心を気づかれないように、続くヴァイオレットの話に耳を傾ける。

「前回はあくまでも様子見で覗いたからね。向こうが気づくのも予想の範疇だった。まあ、常人ではまず気づかれないものだがね。けれど次は違う。油断しているであろうクライシスの夢に入る絶好のチャンスだ。多少夢見の能力への対策を強化しているかもしれないが、こっちは夢のスペシャリストといっても過言ではない。今日この場を解散次第、すぐにムースと乗り込むつもりだ。明日の夜二十二時。またここに集合しようじゃないか。良い報告を楽しみにしといとくれ」

　ヴァイオレットの言葉は力強く、頼もしかった。夢はムースの専門分野。予め幾つかの対策はあるのだろう。

「わかった。じゃあ明日の二十二時。報告を待っているね」

「ああ、任せな」

「うん、任せといてー」

　ベルたちはヴァイオレットとムースの二人を信じ、解散することになった。