召喚術師はじめました

鈴野あや(鈴野葉桜)

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第二章

三十三話

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 三人の愛をしっかりと受け止め、体力を消耗したこともあって、すぐに眠りについた。しかし眠りについたのは体のみ。ベルは夢の中で閉じていた瞼を開けた。

「これが夢の中……すごい」

 ベルはぱちくりと何度か瞬きをする。視界に広がったのは、曇りのない青空、寝転んだらさぞ気持ちよさそうな一面の芝生だった。長い髪を靡かす風は適度に温かく気持ちがいい。柔らかな自然の匂いが通り抜けていった。

 夢の中だからなのか、体のだるさもない。

 服装も、黒と白を基調とし、その生地の境目には金の細かな刺繍が施されている召喚術師の制服を着用していた。寝間着のままだと少し恥ずかしいと思っていたのだが、着用していたのが制服であることにほっと胸を撫で下ろす。

「さて、と。皆はどこにいるのかな?」

 見渡す限り、どこにも人影はない。どうしようかと思案していると、目の前にいきなり道が現れた。道はベルの後ろにもあるのかと振り向いてみるが、どうやらベルの目の前から道はスタートしているらしい。さすが夢の中だと舌を巻く。

「とりあえず、この道の先に行ってみるとしますか」

 敵の魔法であればもう少し警戒するが、この夢見の魔法は同じ召喚術師であるヴァイオレットの召喚獣ムースの魔法。前もって夢見を使用するという情報を得ていたため、夢の中でのことは何も警戒する必要がなかった。

 散歩気分を味わいながら歩いていると、徐々に景色が変わっていくことに気づいた。先程までは一面芝生が広がっていたのに、いつの間にか出現した森の中を歩いていた。鬱蒼とした森ではなく、森林浴ができそうな気持ちのいい森だ。森の中には鳥や蝶、兎などの野生動物がいた。どの動物もベルに対して警戒心を持つことなく、そこにいることが当たり前かのように普段通りの生活をしている。

「触れるのかな」

 ここまで野生動物たちに警戒されないのも逆に珍しい。好奇心が勝ったベルは、ためしに一頭の鹿に近づいてみた。鹿はベルが隣にきても逃げることなく、その場にとどまっていた。その頭を撫でてみれば、鹿は嬉しそうに自分から頭を擦りつけてきた。

「おおお! もふもふ!!」

 頭だけでなく胴体のもふもふ部分も触らせてくれて、感動に目を輝かす。ベルが感動をしていると他の動物たちもベルの近くに歩みよってきてくれた。どうやら鹿が気持ちよさそうにしているのを見て、自分たちも触ってほしいと思ってきたようだ。その証拠に肩に乗った小鳥やリスが頬擦りをしてくれている。

「ここはもふもふ天国か……。まさに夢の中の世界!」

 夢の中の世界だからなのか、獣独特の匂いすらしない。

 もふもふ大好きなベルは頬を緩ませながら堪能していると、動物たちが一斉に何かの音を聞き取るかのように、耳をピクリと動かした。どうしたのだろう、とベルが首を傾げていると動物たちは一斉に光の滴となって消えてしまった。

「あ…………、私のもふもふたちが……」

 夢の中だから、動物たちに命はない。けれどその手触りは本物だった。おそらくこの空間の主であるムースが、消してしまったのだろう。理由はわかりきっている。ベルがいつまでたっても、ムースたちの元へやってこないからだ。

「うう、でも消さなくたっていいと思うんだよぉ」

 もふもふの消失感に見舞われながら、ご丁寧にも目の前にまた現れた道をとぼとぼと歩き始めた。

 森を抜けると小さな家が森の中にぽつんと建っており、家の前にはお茶会のセットが用意されていた。まるで不思議の国のアリスの中に入ったかのような不思議な感覚だ。

 お茶会用のテーブルにはすでに皆が席についており、空いている席は一席のみ。おそらくそこがベルの席なのだろう。

 ベルの姿にいち早く気づいた女性二人が席をたち、ベルの元へ歩いてきた。

「いらっしゃい、ベル」

「もー、遅いよー。でも、ようこそ、夢見のお茶会へ」

 一人は紫陽花のように柔らかな紫色の髪を持つ、四十代くらいの外見をしたヴァイオレット。そしてもう一人は十歳くらいの幼女の姿をした、肩で切り揃えた桃色の髪を持つムースだった。二人が放つ雰囲気はよく似ており、召喚術師と召喚獣だと言われなければ本物の親子にも見えるだろう。

「ヴァイオレットさん、ムース。二人とも久しぶり」

 そんな二人と挨拶と抱擁を交わす。

「全く、いつまでも寝てるんじゃないよ。ムースじゃあるまいし、心配するだろう?」

「うん、ごめんなさい」

「そこはうんって言わないでー。全く、眠り鼠だから多くの睡眠を必要とする私より長く寝てるってどうなのよー。本当に心配したんだからー」

「ふふ、ごめんねムース」

 ヴァイオレットとムースはベルの想像と全く変わりのない人たちだった。ベルのことを心から心配していてくれたようで、その気持ちに涙腺が緩みそうになる。それを堪えて頷けば、抱擁してくれていた腕の力をさらに強めてくれた。

 久しぶりの再会に喜びつつも、夢見の時間は無限ではない。そのため、話したいことはあとにして、目的の会話を交わすためにベルも席へつくことになった。
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