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第一章
五十一話
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薄いカーテン越しに、部屋へと陽が差し込んでいた。眩い日差しが目を刺激し、夢の世界から現実の世界へ行くようにと促される。かすむ視界をどうにかしようと目を手でこすっていると、誰かにやんわりと止められてしまった。
「おはよう、お嬢。そんなに擦ったら真っ赤になるぞ」
「アル? おはよう」
目を瞑っていたので、声で判別する。しょぼしょぼとする目をゆっくりと開ければ、雪にも負けない真っ白な髪が視界に入った。その髪の持ち主はベルに顔を近づけると、横たわったまま、キスをしてきた。軽く触れ合うだけのキスなのに、昨日の夜のことを鮮明に思い出してしまい、顔がじわりと熱くなってくる。そんなベルの頬に、今度は後ろから誰かがキスをしてきた。
「おはよう、お嬢」
「アーテ、おはよう」
耳元で囁かれた声はアーテルだった。首だけで反対側を向くのは少し無理があったため、ごろんと体を動かす。下腹部に鈍痛が走ったが、動けない痛みではなかったので無視をしてアーテルの方へ体を向けた。
黒曜石のように綺麗な髪に触れると、アーテルは嬉しそうに目を細めた。
「体は大丈夫?」
続けて体のことを心配してきたので、少しだけ鈍痛が走ることを伝えておく。このまま一日ゆっくりしているのなら、大丈夫だと嘘をつき通したのだが、時間こそ決まっていいないものの学院に行くとラシードたちに伝えてしまっている。学院に行くには長い距離をロセウスたちの背に乗らなければならない。その際にバレてしまうのならば、素直に今白状をした方がいいだろうと判断した。
案の定そのことを伝えれば、今日は家でゆっくりしてほしいと口々に言われてしまったが、ベル自身色々と気になっていることがあるのでそうもいかない。
「なら、せめて午後から出かけよう」
「まだお嬢が寝てから五時間くらいしか経ってないんだ。もう少し眠って、昼ご飯を食べてから向かう。それでもいいなら、俺たちも許す」
部屋の壁にかけてある時計に目を向ければ、針は八時過ぎを指していた。
「わかった。そういえば、セスはどこにいるの?」
「ロセウスは買い出しで街に出ているよ。お嬢のために美味しい昼ごはん作るって、朝から張り切ってた」
「そうなんだ。楽しみだなあ」
正直昨日の戦闘の疲れや、夜のこともあったため、二人の意見には賛成だった。それに元々ベルの中でも昼頃に向かう予定であったので、反対する理由もない。素直に頷くとアルブスとアーテルに両側から抱きつかれた。抱きつかれて多少暑くはあったものの、眠気が勝って気になるほどのことでもなく、それほど時間もかからずして二度目の眠りに突入した。
そんな気持ちのいい二度寝から、耳心地のいい声で肩を揺らされながら起こされた。
「ベル、もうお昼だよ。起きれるかい?」
「んん、……セス?」
ぼやける視界の中、桜色の髪が見えて、セスの名前を呼ぶ。そんな寝ぼけた顔のベルが面白かったのか、ロセウスはくすりと笑うと額にキスを落とした。二度寝をするときにはベルを抱き枕のように抱いていたアーテルとアルブスの姿はすでにそこになく、ロセウスがベッドに腰を下ろしていた。
「あれ? アーテとアルは?」
「二人なら、先程起きて服を着替えに自室に戻っているよ。ほら、昼からは学院に行くんだろう? ベルは起きなくていいのかい?」
学院という言葉に、パチリと目が覚める。
「そうだ、学院に行かなきゃいけないんだった!」
慌てて体を起こすが、下腹部の痛みに思わず眉を寄せる。そのことにすぐさま気づいたロセウスは心配そうに眉を寄せていた。
「やはり今日一日は寝ているかい?」
「大丈夫だよ、ちょっと痛みと違和感があるだけだし」
ベッドから出てその場に立つ。秘部に何か挟まっているかのような違和感を感じたが、そのうち慣れるだろう。どうしても痛みで動きはゆっくりとしたものになってしまうが、それ以外の支障はなさそうだった。
ベルのゆったりとした足取りが心配なのか、ロセウスに何度か抱き上げられそうになることがあった。抱き上げられたらベッドに逆戻りだと直感したベルは、抱き上げられそうになるたびに躱した。
休みたいと訴える体に鞭を打って、学院に行くために召喚術師の正装へ腕を通す。正装とはいっても、なんだかんだ気に入っているので、正装という気がしない。全身鏡でおかしなところがないかしっかりとチェックをして、リビングへと降りていった。三人ともすでにキッチンに設置されている食事用の椅子に腰かけており、ベル待ちだったようだ。空いている椅子に座ると、さあ食べようかとロセウスが皆を促し、食事を開始した。
昼食ではあるものの、ベルの体調を気遣ってか、食べやすい物ばかり並んでいた。一口サイズにカットしてある蒸した鳥の胸肉は野菜と和えられていて、さっぱりとしたドレッシングで味付けされているので食べやすいし、メインのパスタはミートソースがかけられていた。パスタソースで一番ミートソースが好きなので、これもペロリと平らげてしまう。デザートにはベルの大好物であるチェツが用意されていた。桃と苺、マンゴーを足したような味であるチェツに舌鼓を打つ。ほっぺたが落ちてしまいそうなほど幸せな気分でいっぱいだ。
「セス、ご馳走様。すっごく美味しかったよ」
「それはよかった。頑張って作ったかいがあったよ」
「今日の夜はお返しに私が作るから楽しみにしていてね」
「ああ、それは楽しみだね」
全てを食べ終え、紅茶を飲みながら一息つく。食べた後にすぐ体を動かすのは良くないのでちょっとした休憩である。紅茶が飲み終わったら、学院に向かうつもりだった。
まだ鞍などを用意していないので今日もロセウスに往復を頼もうかと思っていると、アーテルとアルブスがわくわくしたような瞳でベルにあるものを見せてきた。
「おはよう、お嬢。そんなに擦ったら真っ赤になるぞ」
「アル? おはよう」
目を瞑っていたので、声で判別する。しょぼしょぼとする目をゆっくりと開ければ、雪にも負けない真っ白な髪が視界に入った。その髪の持ち主はベルに顔を近づけると、横たわったまま、キスをしてきた。軽く触れ合うだけのキスなのに、昨日の夜のことを鮮明に思い出してしまい、顔がじわりと熱くなってくる。そんなベルの頬に、今度は後ろから誰かがキスをしてきた。
「おはよう、お嬢」
「アーテ、おはよう」
耳元で囁かれた声はアーテルだった。首だけで反対側を向くのは少し無理があったため、ごろんと体を動かす。下腹部に鈍痛が走ったが、動けない痛みではなかったので無視をしてアーテルの方へ体を向けた。
黒曜石のように綺麗な髪に触れると、アーテルは嬉しそうに目を細めた。
「体は大丈夫?」
続けて体のことを心配してきたので、少しだけ鈍痛が走ることを伝えておく。このまま一日ゆっくりしているのなら、大丈夫だと嘘をつき通したのだが、時間こそ決まっていいないものの学院に行くとラシードたちに伝えてしまっている。学院に行くには長い距離をロセウスたちの背に乗らなければならない。その際にバレてしまうのならば、素直に今白状をした方がいいだろうと判断した。
案の定そのことを伝えれば、今日は家でゆっくりしてほしいと口々に言われてしまったが、ベル自身色々と気になっていることがあるのでそうもいかない。
「なら、せめて午後から出かけよう」
「まだお嬢が寝てから五時間くらいしか経ってないんだ。もう少し眠って、昼ご飯を食べてから向かう。それでもいいなら、俺たちも許す」
部屋の壁にかけてある時計に目を向ければ、針は八時過ぎを指していた。
「わかった。そういえば、セスはどこにいるの?」
「ロセウスは買い出しで街に出ているよ。お嬢のために美味しい昼ごはん作るって、朝から張り切ってた」
「そうなんだ。楽しみだなあ」
正直昨日の戦闘の疲れや、夜のこともあったため、二人の意見には賛成だった。それに元々ベルの中でも昼頃に向かう予定であったので、反対する理由もない。素直に頷くとアルブスとアーテルに両側から抱きつかれた。抱きつかれて多少暑くはあったものの、眠気が勝って気になるほどのことでもなく、それほど時間もかからずして二度目の眠りに突入した。
そんな気持ちのいい二度寝から、耳心地のいい声で肩を揺らされながら起こされた。
「ベル、もうお昼だよ。起きれるかい?」
「んん、……セス?」
ぼやける視界の中、桜色の髪が見えて、セスの名前を呼ぶ。そんな寝ぼけた顔のベルが面白かったのか、ロセウスはくすりと笑うと額にキスを落とした。二度寝をするときにはベルを抱き枕のように抱いていたアーテルとアルブスの姿はすでにそこになく、ロセウスがベッドに腰を下ろしていた。
「あれ? アーテとアルは?」
「二人なら、先程起きて服を着替えに自室に戻っているよ。ほら、昼からは学院に行くんだろう? ベルは起きなくていいのかい?」
学院という言葉に、パチリと目が覚める。
「そうだ、学院に行かなきゃいけないんだった!」
慌てて体を起こすが、下腹部の痛みに思わず眉を寄せる。そのことにすぐさま気づいたロセウスは心配そうに眉を寄せていた。
「やはり今日一日は寝ているかい?」
「大丈夫だよ、ちょっと痛みと違和感があるだけだし」
ベッドから出てその場に立つ。秘部に何か挟まっているかのような違和感を感じたが、そのうち慣れるだろう。どうしても痛みで動きはゆっくりとしたものになってしまうが、それ以外の支障はなさそうだった。
ベルのゆったりとした足取りが心配なのか、ロセウスに何度か抱き上げられそうになることがあった。抱き上げられたらベッドに逆戻りだと直感したベルは、抱き上げられそうになるたびに躱した。
休みたいと訴える体に鞭を打って、学院に行くために召喚術師の正装へ腕を通す。正装とはいっても、なんだかんだ気に入っているので、正装という気がしない。全身鏡でおかしなところがないかしっかりとチェックをして、リビングへと降りていった。三人ともすでにキッチンに設置されている食事用の椅子に腰かけており、ベル待ちだったようだ。空いている椅子に座ると、さあ食べようかとロセウスが皆を促し、食事を開始した。
昼食ではあるものの、ベルの体調を気遣ってか、食べやすい物ばかり並んでいた。一口サイズにカットしてある蒸した鳥の胸肉は野菜と和えられていて、さっぱりとしたドレッシングで味付けされているので食べやすいし、メインのパスタはミートソースがかけられていた。パスタソースで一番ミートソースが好きなので、これもペロリと平らげてしまう。デザートにはベルの大好物であるチェツが用意されていた。桃と苺、マンゴーを足したような味であるチェツに舌鼓を打つ。ほっぺたが落ちてしまいそうなほど幸せな気分でいっぱいだ。
「セス、ご馳走様。すっごく美味しかったよ」
「それはよかった。頑張って作ったかいがあったよ」
「今日の夜はお返しに私が作るから楽しみにしていてね」
「ああ、それは楽しみだね」
全てを食べ終え、紅茶を飲みながら一息つく。食べた後にすぐ体を動かすのは良くないのでちょっとした休憩である。紅茶が飲み終わったら、学院に向かうつもりだった。
まだ鞍などを用意していないので今日もロセウスに往復を頼もうかと思っていると、アーテルとアルブスがわくわくしたような瞳でベルにあるものを見せてきた。
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