17 / 136
第一章
十六話
しおりを挟む
翌日。すっきりと目覚めたベルは早速服を着替えて、洗面所で顔を洗ってからリビングへと降りていった。昨日の夜は四人で寝ようとあのベッドルームへ誘われたが、どうにか固辞して自分の部屋で寝るという権利を勝ち取った。四人で寝るのは、あらゆる意味でドキドキして、絶対に寝不足になるという確信があったからだ。
リビングへと顔を出すと、すでに三人とも起きていた。
「おはよう、セス、アーテ、アル」
三人の名前を呼びながら挨拶をすれば、すぐに挨拶を返してくれた。キッチンには双子のアーテルとアルブスが立っていて、何やら美味しそうな匂いが鼻をくすぐってくる。
「二人とも、何を作っているの?」
そう尋ねれば、朝食との返事がアーテルから返ってきた。
「そんな、私作るのに。もしかして、起きるの遅かった?」
はっとして壁にかかっている時計を見てみると、針は八時を少し過ぎたあたりを指していた。ベルからしてみれば早い方なのだが、彼らからしたら遅い方なのかもしれない。
「そんなことないよ。ただ昨日の夕飯は作ってもらったから、朝は俺たちで作ろうって話して作ってただけ。お嬢は甘いの好きだよね? だから二人でパンケーキを作ってみたんだ」
二人の合間から美味しそうな匂いを発するフライパンを覗いてみる。するとそこにはふっくらとしたパンケーキが今まさにできようとしていた。パンケーキの飾りつけであるフルーツや生クリームをアーテルが、パンケーキをアルブスが担当をしているらしい。
普段から作っているのか、手つきが慣れていて手際がとてもよかった。
「お嬢はロセウスと座って待ってて。もうすぐできるから」
アルブスに椅子を引かれたので、大人しく座って待つことにした。
「はーい」
ロセウスはベルがキッチンに設置されている椅子に座ったのを見て、隣へとやってきてくれた。そして隣へ座ると、今日はなにをするのかと尋ねてきた。
「明日はラシード殿のお願いを聞く日だから、今日はこの街を散策でもしようかと思って。十年も経っていれば、街の様子とか大分変っていると思うし」
昨日ちらりとアーテルの乗りながら見た限りでも、知らないお店が多かったように見えた。
「ああ、確かにそうかもしれないね。私でよければお供をしようか?」
「え、いいの?」
「もちろんさ」
一人で散策をしようと思っていたのだが、やはり誰かがついてきてくれるのはありがたい。十年も住んでいるロセウスならば、案内役にもうってつけだ。さらに散策が楽しみになってきた。
「えー、俺も一緒に行きたい」
「俺も俺も! ロセウスばっかずるい」
どこに行きたいか、どんな店があるのか、十年前にあったあの店はまだあるのか、などと和気あいあいと話していると、ふわふわのパンケーキを綺麗に盛り付けした皿をアーテルとアルブスが二つずつ運んできた。それをそれぞれの前に置いて、席へと座る。
二人の作ってくれたパンケーキは絶品で、今日の予定について話しているのに、ついつい意識をそちらに取られてしまいがちになりそうになる。頑張って意識を今日の予定へと持っていくが、それをすぐに見破られてしまい、また作るからという約束の元、結局は食べ終えてからの話し合いとなった。
「今日だけど、皆で街に行く? 私はどういうふうでも街へ行ければ構わないけど」
四人で街へ行くのも楽しそうだ。しかしその提案には、残念そうにアーテルが首を横に振った。
「残念なんだけど、非常に、残念なんだけど、俺たち今日は用事があるんだよね」
非常に、という単語をやたらと押してくるアーテルに苦笑をしながら、話の続きを促す。
「用事?」
「そう、用事。お嬢が眠っている間、街の仕事を引き受けていたって言ったろ? それのこと」
そういえば、と昨日のことを思い出す。
街の人だけでは、解決できないことを仕事として請け負ってお金を稼いでいると言っていた。
「それを今日までに終わらせる約束をしていてさ。ちょっと片づけてこなきゃいけないんだよね」
「そっか。それなら、行かなきゃだよね」
仕事があるのなら仕方がない。
「ごめんね、お嬢」
「いいよ、気にしないで」
「お嬢が目覚めた以上、お嬢から離れるのは今回だけだから」
ベルと三人の関係は恋人という関係以前に、召喚術師と召喚獣という関係がある。
召喚術師が一人で仕事をこなすことはあっても、召喚獣だけで働くという形は滅多にない。今回はベルが十年間眠り続けたというイレギュラーがあったからこそ働いていただけであって、本来であればベルが引き受けた仕事を一緒にこなすというのが普通なのだ。
「わかった。じゃあ、街までは一緒に行く? そこから別行動ってことで」
仕事を依頼で引き受けているということは、仕事へ行く前に仲介場所へ寄る必要がある。所謂ギルドと呼ばれる場所で、ベルも契約術師時代に何度もそこで仕事の依頼を引き受けていた。輝人となってからは、王国の依頼が中心となってくるので終盤では行かなくなってしまったが、それでも懐かしいものがある。今後使わないとは言い切れない場所でもあるので、一度は足を運んできちんと目を通しておきたかった。
「そうだな、お嬢さえ良ければ」
「むしろ久しぶりに行ってみたかったからちょうどいいよ。どうする? もう街へ出かける準備は済んでるけど、もう出る?」
「早く終わらせるに越したことはないし、出るとするか。今からなら夕方までには終わるだろうし」
「わかった。なら、それくらいの時間になったらギルドに迎えに行くよ。だから一緒に帰ろう」
色んな店を見て回るとしたら、この時間から行ってもあっという間に夕方になってしまうだろう。
「了解。そうとなれば、早速出るか」
こうしてベルたちは、家をあとにしたのだった。
リビングへと顔を出すと、すでに三人とも起きていた。
「おはよう、セス、アーテ、アル」
三人の名前を呼びながら挨拶をすれば、すぐに挨拶を返してくれた。キッチンには双子のアーテルとアルブスが立っていて、何やら美味しそうな匂いが鼻をくすぐってくる。
「二人とも、何を作っているの?」
そう尋ねれば、朝食との返事がアーテルから返ってきた。
「そんな、私作るのに。もしかして、起きるの遅かった?」
はっとして壁にかかっている時計を見てみると、針は八時を少し過ぎたあたりを指していた。ベルからしてみれば早い方なのだが、彼らからしたら遅い方なのかもしれない。
「そんなことないよ。ただ昨日の夕飯は作ってもらったから、朝は俺たちで作ろうって話して作ってただけ。お嬢は甘いの好きだよね? だから二人でパンケーキを作ってみたんだ」
二人の合間から美味しそうな匂いを発するフライパンを覗いてみる。するとそこにはふっくらとしたパンケーキが今まさにできようとしていた。パンケーキの飾りつけであるフルーツや生クリームをアーテルが、パンケーキをアルブスが担当をしているらしい。
普段から作っているのか、手つきが慣れていて手際がとてもよかった。
「お嬢はロセウスと座って待ってて。もうすぐできるから」
アルブスに椅子を引かれたので、大人しく座って待つことにした。
「はーい」
ロセウスはベルがキッチンに設置されている椅子に座ったのを見て、隣へとやってきてくれた。そして隣へ座ると、今日はなにをするのかと尋ねてきた。
「明日はラシード殿のお願いを聞く日だから、今日はこの街を散策でもしようかと思って。十年も経っていれば、街の様子とか大分変っていると思うし」
昨日ちらりとアーテルの乗りながら見た限りでも、知らないお店が多かったように見えた。
「ああ、確かにそうかもしれないね。私でよければお供をしようか?」
「え、いいの?」
「もちろんさ」
一人で散策をしようと思っていたのだが、やはり誰かがついてきてくれるのはありがたい。十年も住んでいるロセウスならば、案内役にもうってつけだ。さらに散策が楽しみになってきた。
「えー、俺も一緒に行きたい」
「俺も俺も! ロセウスばっかずるい」
どこに行きたいか、どんな店があるのか、十年前にあったあの店はまだあるのか、などと和気あいあいと話していると、ふわふわのパンケーキを綺麗に盛り付けした皿をアーテルとアルブスが二つずつ運んできた。それをそれぞれの前に置いて、席へと座る。
二人の作ってくれたパンケーキは絶品で、今日の予定について話しているのに、ついつい意識をそちらに取られてしまいがちになりそうになる。頑張って意識を今日の予定へと持っていくが、それをすぐに見破られてしまい、また作るからという約束の元、結局は食べ終えてからの話し合いとなった。
「今日だけど、皆で街に行く? 私はどういうふうでも街へ行ければ構わないけど」
四人で街へ行くのも楽しそうだ。しかしその提案には、残念そうにアーテルが首を横に振った。
「残念なんだけど、非常に、残念なんだけど、俺たち今日は用事があるんだよね」
非常に、という単語をやたらと押してくるアーテルに苦笑をしながら、話の続きを促す。
「用事?」
「そう、用事。お嬢が眠っている間、街の仕事を引き受けていたって言ったろ? それのこと」
そういえば、と昨日のことを思い出す。
街の人だけでは、解決できないことを仕事として請け負ってお金を稼いでいると言っていた。
「それを今日までに終わらせる約束をしていてさ。ちょっと片づけてこなきゃいけないんだよね」
「そっか。それなら、行かなきゃだよね」
仕事があるのなら仕方がない。
「ごめんね、お嬢」
「いいよ、気にしないで」
「お嬢が目覚めた以上、お嬢から離れるのは今回だけだから」
ベルと三人の関係は恋人という関係以前に、召喚術師と召喚獣という関係がある。
召喚術師が一人で仕事をこなすことはあっても、召喚獣だけで働くという形は滅多にない。今回はベルが十年間眠り続けたというイレギュラーがあったからこそ働いていただけであって、本来であればベルが引き受けた仕事を一緒にこなすというのが普通なのだ。
「わかった。じゃあ、街までは一緒に行く? そこから別行動ってことで」
仕事を依頼で引き受けているということは、仕事へ行く前に仲介場所へ寄る必要がある。所謂ギルドと呼ばれる場所で、ベルも契約術師時代に何度もそこで仕事の依頼を引き受けていた。輝人となってからは、王国の依頼が中心となってくるので終盤では行かなくなってしまったが、それでも懐かしいものがある。今後使わないとは言い切れない場所でもあるので、一度は足を運んできちんと目を通しておきたかった。
「そうだな、お嬢さえ良ければ」
「むしろ久しぶりに行ってみたかったからちょうどいいよ。どうする? もう街へ出かける準備は済んでるけど、もう出る?」
「早く終わらせるに越したことはないし、出るとするか。今からなら夕方までには終わるだろうし」
「わかった。なら、それくらいの時間になったらギルドに迎えに行くよ。だから一緒に帰ろう」
色んな店を見て回るとしたら、この時間から行ってもあっという間に夕方になってしまうだろう。
「了解。そうとなれば、早速出るか」
こうしてベルたちは、家をあとにしたのだった。
0
お気に入りに追加
672
あなたにおすすめの小説
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
私の愛する夫たちへ
エトカ
恋愛
日高真希(ひだかまき)は、両親の墓参りの帰りに見知らぬ世界に迷い込んでしまう。そこは女児ばかりが命を落とす病が蔓延する世界だった。そのため男女の比率は崩壊し、生き残った女性たちは複数の夫を持たねばならなかった。真希は一妻多夫制度に戸惑いを隠せない。そんな彼女が男たちに愛され、幸せになっていく物語。
*Rシーンは予告なく入ります。
よろしくお願いします!
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
従者♂といかがわしいことをしていたもふもふ獣人辺境伯の夫に離縁を申し出たら何故か溺愛されました
甘酒
恋愛
中流貴族の令嬢であるイズ・ベルラインは、行き遅れであることにコンプレックスを抱いていたが、運良く辺境伯のラーファ・ダルク・エストとの婚姻が決まる。
互いにほぼ面識のない状態での結婚だったが、ラーファはイヌ科の獣人で、犬耳とふわふわの巻き尻尾にイズは魅了される。
しかし、イズは初夜でラーファの機嫌を損ねてしまい、それ以降ずっと夜の営みがない日々を過ごす。
辺境伯の夫人となり、可愛らしいもふもふを眺めていられるだけでも充分だ、とイズは自分に言い聞かせるが、ある日衝撃的な現場を目撃してしまい……。
生真面目なもふもふイヌ科獣人辺境伯×もふもふ大好き令嬢のすれ違い溺愛ラブストーリーです。
※こんなタイトルですがBL要素はありません。
※性的描写を含む部分には★が付きます。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
異世界で婚活したら、とんでもないのが釣れちゃった?!
家具付
恋愛
五年前に、異世界に落っこちてしまった少女スナゴ。受け入れてくれた村にすっかりなじんだ頃、近隣の村の若い人々が集まる婚活に誘われる。一度は行ってみるべきという勧めを受けて行ってみたそこで出会ったのは……?
多種多様な獣人が暮らす異世界でおくる、のんびりほのぼのな求婚ライフ!の、はずだったのに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる