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第一章
五話
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キスをされたといっても、それは人化時の姿ではなく獣化時の姿。それも頬なので、特に照れるという感情はない。飼い猫に鼻をくっつけられた。それくらいの認識である。けれどこれがもし人化時だったとしたら、ベルの顔はゆでだこのように真っ赤になっていただろう。
気持ちを落ち着かせるべく、大きく深呼吸をする。
もし現実となるのなら、あの時欲張らずに一人にしておくんだったと後悔が押し寄せてくる。しかしそれと同時に、三人の中から誰か一人を選ぶことなんてできないとも思ってしまった。VRSLGということもあって、ゲームの中で一緒に過ごすうちに三人ともかけがえのない召喚獣となった。この気持ちばかりはどうすることもできないだろう。
それに、攻略キャラクターといっても、『召喚術師はじめました』というゲームは、優秀なAIをゲームで採用していた。だから出会い方やゲームの流れが一緒でもここにいる三人は、他のプレイヤーたちが攻略している三人とは根本は一緒でも全く別の人格の持ち主なのだ。それ故にネット上に攻略キャラクターの大まかな道筋はかかれていても、完璧な攻略方法が掲載されることは一切なかった。別人格なのだから当たり前だ。
ベルは三人がいたおかげでこれから先、寂しい思いをすることがなくなった。もちろん元の現実世界にいる両親や友人を思い出して、何度も恋しくなるかもしれない。それでもベルの傍には、こうして三人がいてくれる。その事実だけがベルの心に安寧をもたらした。
たとえば元の現実世界で三人も恋人がいたら、たくさんの避難を浴びることだろう。でもここは違う。一妻多夫や一夫多妻が認められている世界なのだ。
今、気持ちに区切りをつけたとしても、当分は三人と付き合っているという罪悪感が残るだろう。けれどこればかりは慣れていくしかない。誰か一人を選ぶことができないのだから。
「お嬢? おーい、お嬢? もしかして俺たちにキスされたの嫌だった?」
つい深く考えこんでしまっていると、アルブスに心配そうに声をかけられてしまった。
考えることを止め、ベルは慌てて手を振り違うと弁解をする。それにアルブスとアーテルがほっと胸をなでおろしていた。
ただ、この時もう少し考えるべきことがあった。それは現実世界となった『召喚術師はじめました』という乙女ゲームが年齢制限をされていたということ。そのことを後で思い出して深く後悔することになるとは、このときのベルは思ってもみなかった。
「ごめんね、心配かけて。ちょっと考えことしていただけだから」
「そう? ならいいんだけど……。あ、お嬢。行きはアーテルに乗ってね」
「わかった」
アルブスに言われた通り、アーテルへ体を向ければ、ベルが乗りやすいように伏せの状態で待っていてくれた。ありがとうとお礼を言いながらアーテルに跨ると、ある事にふと気づく。
(どこに掴まればいいんだろう……)
ロセウスのような長毛ではなく、アーテルとアルブスは短毛で掴めるところが見当たらない。ゲームだった頃は普通に跨っていたが、それは風の抵抗などを一切受けていなかったからにすぎない。現実となった今、同じことをすれば、走っている途中でバランスを崩してしまうだろう。
どうしようか、と迷った末にベルは思い切って首元に抱き着くことにした。馬に取り付けるような手綱や鞍があれば乗るのが幾分と楽になると思ったベルは、今度ゆっくり街に出掛けられるときにでも三人に相談しようと決めた。
「お嬢っ……!!」
どこか焦ったようなアーテルの声が聞こえてくる。なにかまずいことでもしてしまったのだろうか。
「どうしたの、アーテ。この乗り方じゃまずい? でも、こうしないと風の抵抗を受けたときに落ちそうだし……」
「いや、む、胸が……。いや、なんでもない。落ちないように、しっかりと掴まっていろよ」
「……? わかった」
アーテルが何かぼそりと呟いた気がするが、本人がなんでもないというんだ。気にするだけ無駄だろう。ベルはアーテルに言われた通り、しっかりと首元に掴まった。もちろん道中の二時間、アーテルの毛をしっかりと堪能したのは言うまでもなかった。
そしてベルは決意する。国王への用事が終わったら、三人に思う存分もふもふさせてもらおうと。
気持ちを落ち着かせるべく、大きく深呼吸をする。
もし現実となるのなら、あの時欲張らずに一人にしておくんだったと後悔が押し寄せてくる。しかしそれと同時に、三人の中から誰か一人を選ぶことなんてできないとも思ってしまった。VRSLGということもあって、ゲームの中で一緒に過ごすうちに三人ともかけがえのない召喚獣となった。この気持ちばかりはどうすることもできないだろう。
それに、攻略キャラクターといっても、『召喚術師はじめました』というゲームは、優秀なAIをゲームで採用していた。だから出会い方やゲームの流れが一緒でもここにいる三人は、他のプレイヤーたちが攻略している三人とは根本は一緒でも全く別の人格の持ち主なのだ。それ故にネット上に攻略キャラクターの大まかな道筋はかかれていても、完璧な攻略方法が掲載されることは一切なかった。別人格なのだから当たり前だ。
ベルは三人がいたおかげでこれから先、寂しい思いをすることがなくなった。もちろん元の現実世界にいる両親や友人を思い出して、何度も恋しくなるかもしれない。それでもベルの傍には、こうして三人がいてくれる。その事実だけがベルの心に安寧をもたらした。
たとえば元の現実世界で三人も恋人がいたら、たくさんの避難を浴びることだろう。でもここは違う。一妻多夫や一夫多妻が認められている世界なのだ。
今、気持ちに区切りをつけたとしても、当分は三人と付き合っているという罪悪感が残るだろう。けれどこればかりは慣れていくしかない。誰か一人を選ぶことができないのだから。
「お嬢? おーい、お嬢? もしかして俺たちにキスされたの嫌だった?」
つい深く考えこんでしまっていると、アルブスに心配そうに声をかけられてしまった。
考えることを止め、ベルは慌てて手を振り違うと弁解をする。それにアルブスとアーテルがほっと胸をなでおろしていた。
ただ、この時もう少し考えるべきことがあった。それは現実世界となった『召喚術師はじめました』という乙女ゲームが年齢制限をされていたということ。そのことを後で思い出して深く後悔することになるとは、このときのベルは思ってもみなかった。
「ごめんね、心配かけて。ちょっと考えことしていただけだから」
「そう? ならいいんだけど……。あ、お嬢。行きはアーテルに乗ってね」
「わかった」
アルブスに言われた通り、アーテルへ体を向ければ、ベルが乗りやすいように伏せの状態で待っていてくれた。ありがとうとお礼を言いながらアーテルに跨ると、ある事にふと気づく。
(どこに掴まればいいんだろう……)
ロセウスのような長毛ではなく、アーテルとアルブスは短毛で掴めるところが見当たらない。ゲームだった頃は普通に跨っていたが、それは風の抵抗などを一切受けていなかったからにすぎない。現実となった今、同じことをすれば、走っている途中でバランスを崩してしまうだろう。
どうしようか、と迷った末にベルは思い切って首元に抱き着くことにした。馬に取り付けるような手綱や鞍があれば乗るのが幾分と楽になると思ったベルは、今度ゆっくり街に出掛けられるときにでも三人に相談しようと決めた。
「お嬢っ……!!」
どこか焦ったようなアーテルの声が聞こえてくる。なにかまずいことでもしてしまったのだろうか。
「どうしたの、アーテ。この乗り方じゃまずい? でも、こうしないと風の抵抗を受けたときに落ちそうだし……」
「いや、む、胸が……。いや、なんでもない。落ちないように、しっかりと掴まっていろよ」
「……? わかった」
アーテルが何かぼそりと呟いた気がするが、本人がなんでもないというんだ。気にするだけ無駄だろう。ベルはアーテルに言われた通り、しっかりと首元に掴まった。もちろん道中の二時間、アーテルの毛をしっかりと堪能したのは言うまでもなかった。
そしてベルは決意する。国王への用事が終わったら、三人に思う存分もふもふさせてもらおうと。
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