4 / 136
第一章
三話
しおりを挟む
ベルが十年の間眠っていたことによって起こった障害が一つ。それはナツゥーレの総戦力の低下だ。他の四つの国にはそれぞれ輝人が一人ずつ存在している。彼らとはもちろん面識もあるし、それなりに仲もいい。ナツゥーレを含む五つの国が平和条約を結んだということは、今のところ国同士の戦争は起こらないとみて大丈夫だろうと判断できる。それでも、起こる可能性は決してゼロパーセントではないのだ。これから先ずっと平和に暮らしていきたいと考えるのならば、ベルが目覚めたことを国に伝え、他国に発信してもらうのが最善だ。
顎に片手をあて、確認をするように三人の顔を順に見ていった。
「となると、やることは二つかな? 国王への謁見と、他国にいる輝人四人へ目覚めたことの伝達。本当は四人と直接会った方がいいかもだけど、優先するのは、伝えることだし」
「お嬢の言う通り、国王に会いに行くことを最優先した方がいいかもな。そうすれば、国王がすぐに他国へお嬢が目覚めたことを勝手に広めていってくれるはずだ」
「アル、そんな勝手にって……」
相手は国王だ。アルブスの言い方は流石にまずいだろうと思い諫めようとするが、それを遮るようにアーテルが同意を示した。
「勝手に、でいいんだよ、お嬢。国王もお嬢の目覚めをずっと待っていたんだ。もちろん国の為に、だけれどね」
どこか棘のある言い方に思わず首を傾げてしまう。ロセウスに視線を投げれば、二人の意見を肯定するように頷かれてしまった。ベルが眠っていたというこの十年間に何かあったのかもしれない。理由を聞きたくもあったが、それをすれば話が脱線してしまう。ならばそれは後回しにしておくべきだ。頭の片隅に聞きたい欲をおいやり、話の続きを促した。
「その際に、他国にいる輝人へ伝達を頼んでおけば問題ないさ。むしろ率先してやってくれるに違いない。どの国も輝人への繋がりを少しでも欲しているだろうから」
「それは他国の輝人でも?」
ロセウスの言い方では、まるで他国の輝人との繋がりさえも欲しているように聞こえた。他国の輝人は様々な理由があることから、今住んでいる国から住処を変えることはない。それは国の上層部も把握していることである。なのになぜ、繋がりを欲するのだろうか。
「ああ、その認識で間違いはないよ。他国とはいえ、輝人は輝人だからね。まあ、仲良くしておくに越したものはない、ということさ」
「へえー、そういうもんなんだ」
ゲーム時代にはなかった、ベルの考えが及ばない様々なことが関係してくるのだろう。このことに関しては深く掘り下げても意味のないことだと判断し、考えることを途中で放棄した。
「お嬢、どうする? お嬢がすぐにというのなら、今から国王に会いに行くこともできるけど」
「俺たち的には別に急ぐことはないから、そこはお嬢の判断に任せるよ。お嬢はまだ目覚めたばっかだし、体を休めることも大切だからな」
「いや、目はばっちり覚めているし、早めの方がいいとは思うけど……。そんなすぐに謁見できるものなの? 相手、国王だよ? トップの人だよ?」
ゲーム中ならそんなこと、気にする必要はなかった。けれど今は現実だ。国のトップの人にすぐに会うなんてことは中々難しいだろう。
それにゲーム中では会っても中身がAIだということもあって、然程緊張をしていなかった。しかし今は現実。国王も実際にいる人となる。元の現実世界で雲の上のような人と会ったことがなかったので、会いに行くことを想像するだけで緊張してきてしまう。
ベルの緊張を察したのか、隣に座っていたロセウスが軽く肩を抱いてきた。VRとはいえ、五感を完全に再現するのは難しく、ゲーム中はどれだけくっついても温かみを感じることができなかった。触っているという感触はあっても、それがどういった触り心地なのか、冷たいのか熱いのか。そういったものを感じることができなかったのだ。
それが現実となった今、確かな温もりが服越しに伝わってくる。一人ではないということを、この温もりを通して改めて実感させられた。頭上にあるロセウスの顔を見上げれば、優しい眼差しでベルを見ていた。
「大丈夫だ、私たちがいる」
自信を持った口調ではっきりとロセウスが断言をしてくれた。
「うん、そうだね」
「それにな、お嬢。お嬢は少し勘違いをしている」
「勘違い?」
一房だけ長い白い髪を人差し指にくるくると巻き付けながら、アーテルはそうだよ、と教えてくれた。
「お嬢は庶民で、国王は貴族よりもさらに上の存在、つまりはトップ。地位的には明らかな差がある。そう思っているんでしょう?」
「うん」
「けれどそこが勘違いしている箇所なんだ。お嬢はこの世界にたった五人しかいない輝人でもある。それはどんな地位よりも上にいるということを意味するんだ。発言も、力も、ね」
要するに、輝人は国王より偉い、ということだろうか。確かに力だけでいえばこの三人がいれば、そこらにいる人たちに負けない自信がある。でも発言まで通るというのは些か力押ししているようでならない。その考えに行き当たり、まさかと思ってアーテルに視線を合わせればにっこりと微笑まれてしまった。
「つまりお嬢は、国王相手に萎縮しなくても大丈夫だよってこと。お嬢が国王に会いたいっていうのなら、会いにいけばいい。国王はどちらかといえばお嬢に謁見する立場だからな」
それはベルの考えていたことがあながち間違っていないということを意味する。通りで先程から謁見という単語を使わないはずだ。謁見というのは目上の人に会うときに使う言葉。つまりベルは国王に使われる立場なのだ。
まさか自分がそんな地位についていたとは知らず、内心渇いた笑みを浮かべた。あまり知りたくなかった事実に目を背けたくもなるが、現実問題そうすることは難しい。自身の気持ちはとりあえず頭の片隅に避けておくことにした。
「わかった。だったら、今日行くことにする。だから誰か背中に乗せていってほしい」
善は急げとよく言うし、嫌なことは早く終わらせておくに限る。
窓から見える空の色からしてまだ昼を少し過ぎたくらいだろう。家を構えている場所は王都ではなく、一つ隣にある街の片隅。ベルの知識では、ここから王城まで三人のうち誰かの背に乗れば、二時間ほどで辿り着けるはずだ。
それに誰かの背中に乗るということは、召喚獣である三人のうち、獣化した誰かの毛皮を思う存分堪能できるということでもある。もふもふ好きなベルとしては、たまらなく至宝な時間とはいえるだろう。もちろん断られないという前提もあるのだが、そこは問題ない。なぜなら、三人の目は自分を指名してほしいとでもいうように、キラキラと目を輝かせていたからだ。
ベルとしては堪能できるのなら誰でもよかった。
しかしベルを自身の背中に乗せたがった三人の召喚獣は、ベルが外出をするために服を着替えに私室へ戻った間に、じゃけんで勝者を決めるという謎の白熱した戦いをしたというのはここだけの話だ。
顎に片手をあて、確認をするように三人の顔を順に見ていった。
「となると、やることは二つかな? 国王への謁見と、他国にいる輝人四人へ目覚めたことの伝達。本当は四人と直接会った方がいいかもだけど、優先するのは、伝えることだし」
「お嬢の言う通り、国王に会いに行くことを最優先した方がいいかもな。そうすれば、国王がすぐに他国へお嬢が目覚めたことを勝手に広めていってくれるはずだ」
「アル、そんな勝手にって……」
相手は国王だ。アルブスの言い方は流石にまずいだろうと思い諫めようとするが、それを遮るようにアーテルが同意を示した。
「勝手に、でいいんだよ、お嬢。国王もお嬢の目覚めをずっと待っていたんだ。もちろん国の為に、だけれどね」
どこか棘のある言い方に思わず首を傾げてしまう。ロセウスに視線を投げれば、二人の意見を肯定するように頷かれてしまった。ベルが眠っていたというこの十年間に何かあったのかもしれない。理由を聞きたくもあったが、それをすれば話が脱線してしまう。ならばそれは後回しにしておくべきだ。頭の片隅に聞きたい欲をおいやり、話の続きを促した。
「その際に、他国にいる輝人へ伝達を頼んでおけば問題ないさ。むしろ率先してやってくれるに違いない。どの国も輝人への繋がりを少しでも欲しているだろうから」
「それは他国の輝人でも?」
ロセウスの言い方では、まるで他国の輝人との繋がりさえも欲しているように聞こえた。他国の輝人は様々な理由があることから、今住んでいる国から住処を変えることはない。それは国の上層部も把握していることである。なのになぜ、繋がりを欲するのだろうか。
「ああ、その認識で間違いはないよ。他国とはいえ、輝人は輝人だからね。まあ、仲良くしておくに越したものはない、ということさ」
「へえー、そういうもんなんだ」
ゲーム時代にはなかった、ベルの考えが及ばない様々なことが関係してくるのだろう。このことに関しては深く掘り下げても意味のないことだと判断し、考えることを途中で放棄した。
「お嬢、どうする? お嬢がすぐにというのなら、今から国王に会いに行くこともできるけど」
「俺たち的には別に急ぐことはないから、そこはお嬢の判断に任せるよ。お嬢はまだ目覚めたばっかだし、体を休めることも大切だからな」
「いや、目はばっちり覚めているし、早めの方がいいとは思うけど……。そんなすぐに謁見できるものなの? 相手、国王だよ? トップの人だよ?」
ゲーム中ならそんなこと、気にする必要はなかった。けれど今は現実だ。国のトップの人にすぐに会うなんてことは中々難しいだろう。
それにゲーム中では会っても中身がAIだということもあって、然程緊張をしていなかった。しかし今は現実。国王も実際にいる人となる。元の現実世界で雲の上のような人と会ったことがなかったので、会いに行くことを想像するだけで緊張してきてしまう。
ベルの緊張を察したのか、隣に座っていたロセウスが軽く肩を抱いてきた。VRとはいえ、五感を完全に再現するのは難しく、ゲーム中はどれだけくっついても温かみを感じることができなかった。触っているという感触はあっても、それがどういった触り心地なのか、冷たいのか熱いのか。そういったものを感じることができなかったのだ。
それが現実となった今、確かな温もりが服越しに伝わってくる。一人ではないということを、この温もりを通して改めて実感させられた。頭上にあるロセウスの顔を見上げれば、優しい眼差しでベルを見ていた。
「大丈夫だ、私たちがいる」
自信を持った口調ではっきりとロセウスが断言をしてくれた。
「うん、そうだね」
「それにな、お嬢。お嬢は少し勘違いをしている」
「勘違い?」
一房だけ長い白い髪を人差し指にくるくると巻き付けながら、アーテルはそうだよ、と教えてくれた。
「お嬢は庶民で、国王は貴族よりもさらに上の存在、つまりはトップ。地位的には明らかな差がある。そう思っているんでしょう?」
「うん」
「けれどそこが勘違いしている箇所なんだ。お嬢はこの世界にたった五人しかいない輝人でもある。それはどんな地位よりも上にいるということを意味するんだ。発言も、力も、ね」
要するに、輝人は国王より偉い、ということだろうか。確かに力だけでいえばこの三人がいれば、そこらにいる人たちに負けない自信がある。でも発言まで通るというのは些か力押ししているようでならない。その考えに行き当たり、まさかと思ってアーテルに視線を合わせればにっこりと微笑まれてしまった。
「つまりお嬢は、国王相手に萎縮しなくても大丈夫だよってこと。お嬢が国王に会いたいっていうのなら、会いにいけばいい。国王はどちらかといえばお嬢に謁見する立場だからな」
それはベルの考えていたことがあながち間違っていないということを意味する。通りで先程から謁見という単語を使わないはずだ。謁見というのは目上の人に会うときに使う言葉。つまりベルは国王に使われる立場なのだ。
まさか自分がそんな地位についていたとは知らず、内心渇いた笑みを浮かべた。あまり知りたくなかった事実に目を背けたくもなるが、現実問題そうすることは難しい。自身の気持ちはとりあえず頭の片隅に避けておくことにした。
「わかった。だったら、今日行くことにする。だから誰か背中に乗せていってほしい」
善は急げとよく言うし、嫌なことは早く終わらせておくに限る。
窓から見える空の色からしてまだ昼を少し過ぎたくらいだろう。家を構えている場所は王都ではなく、一つ隣にある街の片隅。ベルの知識では、ここから王城まで三人のうち誰かの背に乗れば、二時間ほどで辿り着けるはずだ。
それに誰かの背中に乗るということは、召喚獣である三人のうち、獣化した誰かの毛皮を思う存分堪能できるということでもある。もふもふ好きなベルとしては、たまらなく至宝な時間とはいえるだろう。もちろん断られないという前提もあるのだが、そこは問題ない。なぜなら、三人の目は自分を指名してほしいとでもいうように、キラキラと目を輝かせていたからだ。
ベルとしては堪能できるのなら誰でもよかった。
しかしベルを自身の背中に乗せたがった三人の召喚獣は、ベルが外出をするために服を着替えに私室へ戻った間に、じゃけんで勝者を決めるという謎の白熱した戦いをしたというのはここだけの話だ。
11
あなたにおすすめの小説
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
蝋梅
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる