復讐のナイトメア〜伝承

ep7 夏娘の危機

「えっ幼稚園の時、いじめられていた女の子……君だったの！」と甲馬は大きく目を見開いた。

　甲馬が人助けをしたのは、後にも先にもそれが一度きりであったので彼は、その事を直ぐに思い出した。

「だから今度はウチが甲馬を助けたい」

　甲馬は飛び跳ねるほどに嬉しかった……だが相手はあの日之出と大手企業社長の息子、熊虎だ。天と地がひっくり返っても勝ち目がない事を甲馬は理解していた。

「そんなのムリだよ……」仕返しても何倍に跳ね上がって戻ってくる。それを想像するだけで甲馬は縮こまり言葉が出ないほどに身体が小刻みに震える。

「そうか……わかった。ウチひとりでやるわ」
　夏娘は手に持っているカバンで甲馬の尻を叩き去って行った。

「本当に良いのか甲馬！　お前をかばったせいで矛先は間違いなく夏娘にむくぞ」

　ナイトメアは甲馬の胸元を掴みにらみつけるが甲馬は目をそらす。

「君に僕の苦しみはわからない」とボソボソと風に打ち消されるような覇気のない声で言い放ち甲馬は走り去った。

　翌日、甲馬の予想通り、夏娘への嫌がらせが始まった。

「いいか！　おまえら、この木本夏娘という女を拉致して、少し怖い目みせてやれ」
　
　熊虎は父親の権力を使い夏娘の通学路にチンピラの人達を向かわせたのであった。

「……ったく何でガキの遊びに駆り出されるんだ」とぶつくさ文句を言いながらはチンピラ共は夏娘を待ち伏せしていた。

「兄貴、あの女じゃねえですか？」

「へえ……結構、いい女じゃねえか」

　男らは逃げられないように夏娘を囲み、響き渡るような低い声で脅した。

「あんたが木本夏娘だな。昨日の御礼をしに来たよ、お嬢ちゃん」と男どもは妙に高いテンションで瞳孔を開き、冷やかに笑い彼女に話しかけた。

「だれ、あんた達……」夏娘は、不快そうに口をゆがめながら言った。
　
「あなたには邪気が憑いていますよ。昨日の御礼にその邪気を祓って上げてと熊虎様からの頼まれましてね」と言い、男は複数で夏娘に襲いかかり、暴れる彼女を車に乗せ連れ去っていった。

「大変だ甲馬！　夏娘が野郎共に拉致された」

「本当に……夏娘だったのか？　ナイトメア」

「ああ……間違いない。その場所にいる地縛霊に確認した……間違いない」

「ちきしょ……まさか大人を使うなんて」甲馬は悩んだ。熊虎の会社は裏では国の大物や反社とつながりがあるという黒い噂が後をたたない。

　その証拠に正義の鉄拳を振りかざした刑事とジャーナリストが自殺とみせかけ世の中から抹消された。

「だから……夏娘が危ない」と甲馬は学校へ行くのをやめ夏娘救出に向かった。

「おい……甲馬、夏娘の居場所わかるのか？」

「ああ……恐らくあそこだ」