女教師・潤〜絶望の寝取られ教師〜

神宮寺灯

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地獄の入り口

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週末。
その日は、梅雨の中休みなのか、快晴だった。
湿度もしっかりとあり、まもなく夏がやってくる気候であった。


潤は地元から少し離れた高級料亭の一室にいた。
母の言いつけ通り、お見合いにきたのだ。

母の古い考え方には一つも賛同できないが、別に
父や母を悲しませたいわけではない。
渋々ではあるが、出席したのだ。

ライトグリーンの総レースが美しい、半袖のクラシカルワンピースが、
いつものかっちりとした教師の潤とは違う雰囲気を醸し出していた。


目の前に座っている男ーー西辺信和は、終始ニコニコしており、
まったく嫌味のない男だった。

男性としてはやや長めの髪に、軽くパーマがかかっており、
仕立ての良いスリーピーススーツを上品に着こなしていた。

若手起業家のようなさわやかな青年であった。

(わざわざお見合いなんてしなくても、いくらでも相手は見つかりそうな人じゃない)
と、潤は思っていた。


お互いが無意味に気を遣い合う両家の挨拶が終わり、
早々に「ここからは若い人だけで」などと、
安っぽいドラマのようなセリフで部屋に残された潤と、信和。

気乗りしていない潤が相手に興味を持つわけもなく、
緊張感も相まって、お互い押し黙ってしまった。
妙な沈黙を破ったのは、信和である。

「潤さんは、父の高校で英語を教えていらっしゃるんですよね?」

信和は笑顔を崩さず尋ねてきた。

「あ、はい」
「高校生なんて、多感な時期だし、なかなか大変でしょう?」
「そうですね。でもその分やりがいも大きいです」

潤は、正直に答えていた。

「潤さん、綺麗だから、結構男子生徒から告白とかされちゃうんじゃないですか?」

本人はなんの気なく聞いてきたのかもしれないが、確信をつかれた気がした。

「……っ!……そ…んなことは…」

即座に否定するも、脳裏に浮かんだのは悠真の顔だった。

その後も当たり障りのない話が続いたが、徐々に話すこともなくなり、
再び沈黙の時間が顔を出していた。

潤はこれ以上は耐えられないと、座布団を外し、信和に頭を下げた。

「このお話、どうか無かったことにしていただけませんか」
「え⁈」

それは驚くだろう。
信和に落ち度は一つもない。
清潔感もあって、話も上手い。

潤は畳に額を擦り付けるように、深々と頭を下げていた。

信和は、一瞬驚いたものの、すぐに笑顔に戻った。

「別に構わないですよ」
「本当ですか?!」

助かったと言わんばかりに勢いよく顔を上げた潤がみたのは、笑顔の信和であった。
しかし、その笑顔は今までの穏やかなニコニコとした笑顔ではなく、
どこか見下したような笑顔だった。

「いやぁ、実は私も乗り気じゃなかったんですよねぇ」
などと笑う信和に、もっと嫌な顔をされるか、怒られるかと思っていた潤は、
安堵し、表情が柔らかくなっていた。

しかし直後、信和の声のトーンが落ちた。

「でもね、断ると君や、君のお家の立場が危うくなるかもしれないよ?」

と、言い出した。
突然不気味なことを言われた潤は、どういう意味ですか?と、尋ねた。

「少し考えればわかるでしょ?」と、にべもなく答える信和。

ーー考えればわかる

自分の上司の息子との縁談を断れば、自分も職場で嫌がらせを受けるかもしれない。
そもそも、相手は地元の名士。
杉江家自体が地元で安泰に暮らせなくなるかもしれない。

「……それは脅し、でしょうか?」
と再度問う潤に、脅しではなく、事実だと信和は答えた。

事実、町の色々を取り仕切っている父が何をするかわからないからねと、
信和は軽い感じで付け加えた。

「同じ気持ちで今日この場所に来た"同志"として教えておいてあげる。
正直、私は父のすることには一切興味がないんだ。
結婚も、断れるのならば断りたいんだよね。
今まで海外で仕事したりして逃げ回ってきたけど、
この場をセッティングされた段階で、逃げ道がなくなったと諦めがついたんだ。
だから、君も早く諦めた方がいいよ」

あくまでも忠告といった雰囲気で諭される。

「そもそも、君には徹頭徹尾興味がない。おそらく今後もわかない。」
と、はっきり言われる。
あまりにもはっきり言われたため、潤の思考は追いつかなくなっていた。

「私、ゲイだからね」
だから、異性との結婚には興味がないという信和。

「男として、男としかセックスしたくないの。
例え君が女性としてどんなに魅力的な人物だったとしても、
抱きたいなんて微塵も思ってないから、結婚してもオンオフ含めて
好きにしてもらって構わないよ。
ただし、子どもは作らなきゃいけないと言われてるし、
両親には昔から色々わがままを聞いてもらったからね。
そこはなんとかがんばって孫の顔くらいは見せないとだけど」


その言葉に潤は絶望した。

自分の気持ちなど、誰も求めていないとわかったからだ。
逃げられないようにすべて仕組まれた挙句、子どもを産みさえすれば
どうでもいいと思われていたのだ。

愛のない生活のために、心から愛しあう人と別れなければならないなんて……。

「ま、そういうことで。一応僕は何か聞かれでもしないかぎり、黙っておくから。
何も聞かなかったことにしておくね」
と、信和はひらひらと手を振りながら部屋を出ていった。

惨めさのあまり、潤の目からポロポロと涙が零れ落ちた。




そこから夏休みまで約1ヶ月。
潤はひたすら仕事に打ち込んだ。

その反面、いけないことだとわかっているにも関わらず、どんどん悠真に溺れていった。

受験前で悠真は放課後は忙しく、土日も予備校だったため、
ひたすら学校で愛し合った。
誰もいない図書館や、誰も寄りつかない進路指導室。柱の影で熱烈なキスもした。

子どもを産むためだけの、人形のように生きていけと言われた見合いを、
一刻も早く忘れてしまいたかった。

両親には、見合いの当日に相手に断ってしまったと正直に報告した。
母の貴子はその場で泣き崩れて、寝込んでしまった。

康二は、「勝手にしなさい」と静かに言い、貴子の看病に付きっきりとなった。

ーーごめんなさい……

申し訳ないという気持ちは確かにあったが、潤の決意は固かった。



夏休み直前の、定期考査もまもなくというその日。

「杉江先生。放課後、少しお時間をいただけるかな?
夏休み以降の3年生のことで、お話ししたいのだがね」

潤は西辺から、放課後校長室に来るよう言われた。

定期考査前で、部活もすべて休み。
先生たちも早々に帰ってしまい、しんとした学校は
いつもと違う空気に包まれていた。

数回ノックをし、どうぞの言葉を聞き校長室に入る潤。


潤が入室すると、窓際で暮れゆく夕陽を眺めていた西辺は、
ゆっくりと椅子に腰掛け、顔の前で手を組み、机に肘をついた。

「お見合いの正式なお返事がいただけていないようですが」

こう一言いわれただけで、潤はまるで自分のまわりから
酸素がなくなったかのような息苦しさを感じた。

西辺は、徐に机の一番上の引き出しを開け、二十枚ほどの写真を取り出した。
そして、一枚一枚机の上に並べだした。


そこに写し出されていたのは、悠真とのデートを楽しんでいる潤の姿だった。

手を繋いでいる写真
腕を組んで、楽しそうに街を歩いている写真
潤が運転する車の中で熱い抱擁を交わしている写真
その後貪るようにキスをしている写真
今まさにラブホテルに入っていこうとしている写真


真っ青になる潤。

「極め付けは、これ」
校長室に設置されたプレイヤーを、西辺がリモコンで作動させると、
霰もない2人の姿が映し出された。
大きな画面いっぱいに、自身の痴態が映し出される。

(あっあっあっゆうま…っ…きもちいぃっ!イク…ッ!イクイクゥゥ…!!)
画面の中の自分が背中を反らせ、全身で快感の波を受け止めている。

動画を止めながら、
「いったい全体、これはどういうことですかな?」と、西辺から問い詰められる潤。

とっくの昔に自分のタガが外れていたことを、潤は思い知らされた。

「こっこれは、盗撮ではないのでしょうか…?」
精一杯の抵抗だった。

「盗撮ですよ。でも、ここ、進路指導室なのでね。映されて困ることはないはずなんですよ…」
「……」
「他の生徒から、ある先生に相談があったそうですよ。なんかあの部屋、"イカ臭い"って。」

潤は真っ赤になった。

「そりゃそうでしょうね。未成年との、「禁断おま●こ」、いかがでした?
気持ちいい!って絶叫してましたもんね?」
鼻で笑いながら、あなたの返答次第では解雇……と、西辺は続けた。


これだけの証拠が揃えられた今、否定できるわけもなく、
潤はただ俯くしかできなかった。

答えられるわけはないが、答えなければ肯定したのと同義語なのだ。


「すぐに見合いの返答がくると思っていたのにこないものだから、
息子に聞いたんですよ、あの日どうだったかって。
そしたら、あっさり断られたっていうじゃないですか。
仲人にも確認して、慌ててあなたの家に行かせて。
そしたらお母様はショックで寝込んでしまっていると。
お父様も休職して、お母様の看病をされているとか。
あの真面目で家族想いな杉江先生がなんでそんな「親不孝」をしてるのか、
気になりましてね。探偵の真似事が得意な知り合いに
調べさせたんですよ」という西辺。
「親不孝」という言葉をあえて強調して潤にぶつけた。


「調べたらこんなとんでもないことをしでかしてたと。
これが、見合いをあの場で断ってきた理由ですか?」
と問われ、耐えられなくなった潤は、降参する。

「申し訳、ございません……」

その事態の肯定ととれる言葉に、丸顔に立派な髭をたくわえた西辺の口元がニンマリと歪む。
頭を下げている潤は、気づいていない。

わざとらしくため息をつき、さらに潤を追い込む西辺。

「こんなことをしでかして……ご自分が何をしたのか、
お分かりですか?」
「はい……本当に申し訳ございません……」
「未来ある若者を、たらし込んで。
母親が心労で倒れているというのに……この恥知らずが!」
「まぁあなたは解雇が妥当。生徒に手を出していたんですからね。
解雇理由も、周囲の人間には知られてしまうでしょうなぁ」
白々しく西辺は続けた。

「私の方からは警察からの要請があれば、この写真と、進路指導室の動画は
提出しないといけませんね…あ、もしかすると、この動画で、
生徒の方にもなんらかのペナルティが生じるかもしれませんね。
最悪退学……」

「退学」の言葉を聞いて、潤は西辺に縋った。
「それだけは……彼は優秀な生徒ですし、受験も控えています……
私はどのような処罰でもお受けいたしますので……どうか、どうか……」
「どうなってもいいと?」
「はい……どんな処分でも甘んじて受け入れます……」

ーーかかった!
喜びのあまり、西辺は叫びだしそうになった。


「では、謝罪しなさい」
「……え?」
「謝罪ですよ、謝罪。わからないんですか?」
「……誠に、申し訳ございませんでした……」
再度深々と頭を下げる潤。

「違う!!!」
「一体、杉江家はどんな躾をしてきたんですか? 誠心誠意の謝罪は、
この国では土下座に決まっているでしょう!」と怒鳴られ、
潤は慌ててパンプスを脱ぎ、土下座しながら謝罪の言葉を紡いだ。

「まったく誠意が足りませんね!」と言われ、前についた手をぎゅっと握った。

私が今からいう言葉を復唱しなさい、そういって、西辺は潤に耳打ちした。
その言葉を聞きながら潤は目を見開くが、すぐにガックリと項垂れ、従った。

「…私、杉江…潤は…」
「声が小さい!! 聞こえるように言わないと、言ったことにはならないと、
親から習いませんでしたか? 杉江家は子育てに問題があるようですな!」

悔しかった。
自分はバカなことをしでかしたのだから、いくら詰られても構わない。
でも、父や母を貶されたくなかった。

「さぞ甘やかされて育てられたんでしょうね。
やってはならないことも碌に教えずに!ほら、最初からやり直せ!」


「わ、私…私、杉江…潤は…っ!」
「教え子に…っ、手を…出すという、ヒック……教師として、
ウゥ……最もやってはいけないことをしてしまいました…ウワァァ…」

とうとう潤は泣き出してしまった。
「泣いたら許されるんですか? 杉江家ではそういう躾なんですか? ねぇ?」
攻める西辺は容赦がなかった。

「ゥゥッ…こっ…校長先生にッ…お許しいただけるまで、
どんな……こと…でも…いたします……」

申し訳ございませんでしたと土下座するその様子は、
西辺のスマホでしっかり撮られていた。

この恥辱を乗り越えればと顔を上げた潤に、西辺は容赦なく告げる。

「これで謝罪が終わったとでも? どんなことでもするといいましたね?
では早速服を脱いでください」

あまりの言葉に、潤は一瞬頭の中が真っ白になった。
「……は⁈」
「先ほどの写真と謝罪動画、あぁ、永田悠真との猥褻動画も、
全部ばら撒きますよ?」


ばら撒かれたら、悠真にも被害が及ぶ。
潤は泣きながらブラウスのボタンに手をかけるのだった。
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