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第7章 ラッハザーク
90. 地底湖の人魚族
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湖面を割って中から現れたのは……
下半身のヒレは光させば透き通って見えそして貝殻のアクセサリーをつけ、深い青の髪に途中から切り替わる白髪のロングヘアーが見目麗しく、黒貝殻を纏った胸当てと両手にフワッとした衣を装着されたアクセサリーが特徴的。上半身は人間、下半身は魚のようなヒレを持つ美しい人魚だった!
水面にたたずむソレは不意にアルヴィスに目を向けて敵意をむき出しに睨みつけながら声をかけてきた。
「我らが神聖な地底湖に! よもやラッドイーパー以外の種族のニンゲンや他種族が足を踏み入れるとはなんとも嘆かわしい! ……護衛共は一体何をしている!」
呆れたように怒りをにじませた口調で話す人魚。三叉の特殊な槍を持つ様はポセイドンのような出で立ち。黄金色の瞳には気品もありつつも殺気が周囲にビリビリと張り巡らされている。
周囲がピリつくこの状況下、未知なる人魚の前に足を運び声をかけ切実に懇願したのはササラだった。
「人魚様、ラッドイーパーに祝福されしピオリナが狐人ササラにゃ。どうしてもこの先の火山……『炎帝フォースヴァルド』様に会いに行きたいのにゃ。道を譲ってほしいにゃ」
「…………………」
ササラは嘘偽りなく人魚に今までの経緯と、炎王龍であり全ての炎を司る炎帝に逢いたいと素直に話す。睨みつけながらも静かに耳を傾け聞いていた人魚だったが……突然クスリと笑いながら蔑んだ目をササラに向け口を開く。
「クスッ……お前達は命は惜しくないのか? お前達が火山にたどり着く前に炎龍王の熱だけで消し炭にされるのだが……」
「えっ!火山にたどり着けないだと」
「あぁ……それでも向かうというのか? あの火山には誰一人たどり着くことも炎帝を一目見ることも叶わぬぞ? そんな場所に向かうのは我らには理解できぬな……」
人魚の話によると……この地底湖はどうやら火山とそれなりの距離があるにも関わらず湖は地熱で熱せられ冷たさなどは皆無。火山に近づけは近づくほど煮えたぎる湖の熱……
それは炎帝フォースヴァルドが火山にただいるだけで、たたずむだけで火山は灼熱の炎を纏う獄炎に包まれており、距離があってもこの有様だという。
そして火山への道へ踏み入れた者の末路は……熱を帯びた灼熱の空気に触れるだけでも人間の身体は耐えられず、消し炭になり姿形はなく塵と化す……
ゴクッ……
静かに人魚の話を聞いていた一行だったのだが、アルヴィスは人魚の含みのある話し方に引っかかり問い返した。
「なぁお前達……地底湖の水の属性の住人がな、火山にたどり着く旅人の……その消し炭になる様子を見ることができたとしたのならば……炎や地熱、そんなものから身を護る何かがお前達にはあるんじゃないのか? お前達は特に特化した水に属する者だ。この地熱に耐えうる何かがあるんだろ? 弱点をカバーするものがあるんじゃないのか?」
「………………」
アルヴィスの問いにギラリと睨みつける人魚。どうやらなにかがあるらしいが……流石にすぐに教えたり、渡してくれるほど初見のよそ者の一行に理解を示してくれる訳ではない。
はぁ…… ため息をつきながらさてどうしたものやら……と思いかけていると突如湖の湖面が揺れ動き何かが迫ってくる!
ザザザザッ!!
ザバッ!
「⁉ なんだ!」
「なっなんなのにゃ!」
「なにか来る!」
どこからともなく湖から水をザバザバとかき分け何かが迫りくる!威嚇している人魚の横からポンッと水から飛び出た瞬間に、魚のような尾は瞬時に人と同じような脚に変わり、ふんわりした白のワンピースを纏ってピンク色の髪をなびかせたソレはササラに近づくやいなや手を握りブンブンと振り回している。
「きゃーササラっ☆ 久しぶりぃ」
愛らしい声と風貌にハッとしたササラは驚きながらも目の前の彼女には見覚えがあった。
「‼ にゃっ⁉ ……あれっミルフィ? ミルフィにゃのにゃ? あれから無事に帰れてたのにゃ?」
ササラにミルフィと呼ばれた人魚は……どうやらササラを知っているようでそしてミルフィも知り合いのようだ。あっけに取られている周りを全く気にしていないミルフィと呼ばれた人魚に、慌てるのは深い青の髪の人魚だった。
「姫様⁉ ミルフィ様! なぜここに⁉ その者に不用意に近づいてはなりません! まだ何者かもわかっていないのですから!」
初めて慌てる素振りをした黄金色の瞳の人魚になんとも拍子抜けな口調で答えるミルフィ。
「えーっササラは大丈夫だよ☆ だってササラは昔私を助けてくれたもの。それにディアドラはなんでも気にし過ぎなんだよ」
「姫様!」
ぶぅぅっというような口をとがらせながらも愛くるしい女の子……どうやら急に飛び出してきた人魚姫はミルフィといい、威嚇している人魚はディアドラというらしい。
ササラはミルフィの握った手を優しく包み込み安堵しているように見える。スッと目線をミルフィの背に向けて後ろにまわると服をスッとめくる。その仕草にワナワナと怒りを向けるディアドラ。
「なんと無礼な! 姫様に……女性の服をめくるなど!」
「ディアドラ! やめなさい」
ミルフィの一言に怯むディアドラだったが常にササラを無言で睨みつけている。ササラは下心ではなく真剣に、すかさず過去に治療をしたであろう傷を負った背中を診て終えると傷跡がないことを確認しホッとしていた。
「ミルフィ。あの大ケガも傷跡も残ってにゃいにゃ……あの時治療が間に合ってほんとによかったにゃ! 女の子だからその後を心配してたけど跡もなくて安心したにゃ!」
ホッとにこやかに笑っているササラ。どうやら過去にミルフィは重傷を負っていた際にたまたまササラの治療を受けていたようだ。
ササラの方をクルッと向いて目に大粒の涙をたたえた人魚姫はギュッと手を握りお礼をいう。
「あの時は本当にありがとうササラ。あなたがいなかったら私はもう……この世にはいなかったかもしれないわ……今まで会えなくてお礼が言えなかったけど、本当に助けてくれてありがとう」
グスッ……ポロッ……ツツッ……
キラッ……カツンッ……コロコロ……
ミルフィはササラを見つめながら肩を震わせる。目から溢れ出たその涙は頬を伝い顔から離れた瞬間、粒は丸い固形物へと変わりアルヴィスやティレニアの足元にカツンと音を立ててコロンと転がってきた。
「なんだこれは?」
「真珠?かしら……」
その真珠はまばゆい光を放っているが、次第に淡い光に変わり微光をたたえてそれを維持しているようにも見える。
不思議なその真珠が気になり拾って目の前でジッと見つめ、そして手のひらにのせたアルヴィス。その仕草に反応するようにアルヴィスの肩に乗っていたヴァルがグッと首を伸ばしてソレの匂いを嗅いでいる。アルヴィスの肩から現れたヴァルの姿を見るやいなやギョッと慌てふためいたのはディアドラだった!
「なんだその龍は! いつからいた! お前らはやはりアイツと結託して我らを殺しに……」
ディアドラが言葉を発した瞬間……強烈な殺気が辺りに立ち込める!
ピクッ!
ビリビリッ!
真珠の匂いを嗅いだヴァルの表情や様子は、怒りに満ちており殺気が漏れ出ていて地底湖の空気が瞬時に張りつめていく。何か言いかけたディアドラの言葉を殺気で遮り口を開くのさえも許さない状況下。ただし殺気は人魚のみに向けられている。
〘⁉ ほぅ……これは……我らへの挑戦状か……人魚族よ……〙
「ヒッッ!」
怯えて声も出ずガタガタと震えながら立ちすくんでいるディアドラとミルフィ。その姿を見るやいなやアルヴィスはヴァルの頭を撫でながら何を感じていたのか問いかけた。
「ヴァル? どうしたんだ。そんな殺気を放つなんて……わかるように訳を話してくれ」
〘…………〙
アルヴィスの言葉に少しだけ間をおきヴァルはササラに目を向け光らす。
〘ササラ……その娘全力で守り抜く覚悟はお前にあるのか?〙
「えっ‼」
「にゃ……ヴァル様どうしたにゃ?ミルフィを守るにゃ?」
目線をササラから外し静かに真珠を見つめているヴァルは、フッとディアドラと呼ばれた人魚に顔を向け口を開く。ディアドラは殺気と龍に睨まれた事によりビクつき怯えている。震えあがり驚きを隠せていないようだ。
〘……人魚族のお主はこの娘をフォースヴァルドから……いや違うな……炎龍達から守っておるのだろう……あやつからすればこの娘は非常に厄介だからな……〙
「………………」
「どういうことだヴァル?」
アルヴィスの手のひらにある真珠を見つめながらも動揺する人魚を横目に、ヴァルに説明を求めると……ヴァルはヤレヤレとため息をつきながら事態を説明する。
〘これは……『破炎珠』……いかなる炎も軽減し、そしていかなる炎からも身を護る代物……〙
「は?この真珠にそんな加護があるのか!」
「でも涙でできちゃうなんて……それじゃたくさん生産できちゃうんじゃ……」
〘そう……その娘の涙から無条件に量産されるとなると……炎龍の天敵『氷帝リズヴァルド』よりも『炎帝フォースヴァルド』からすれば後々厄介だからな……存在を知っているならば八つ裂きにしたいほどだろう……だが……〙
ヴァルが話していると嗚咽を上げながらヴァルの気にあてられ、震えあがるミルフィの背中をササラがさすってあげている。どうやらササラが助けた人魚姫の背の大ケガはフォースヴァルド配下の炎龍達に襲われた時に受けた傷だった。
姫の一大事に慌てて湖から地上に降り立つディアドラ。駆け寄りそっと人魚姫を抱きしめて声をかけて気づかうが……ジッとその一部始終を見ていたシェリルがそっと声をかける。
【いつからそなたらは炎帝に狙われ始めたのじゃ? 龍族は千年以上生きる種族じゃ……人魚族など数百年の種族じゃぞ? 龍族からすれば放っておいてもなにも問題のないたわいもない存在じゃ……それに人魚族は争いは好まぬのじゃからヴァルの言うような危険も心配もなく何も脅威ではないじゃろうに……】
そう、シェリルの言うことも最もだ。
長命種族である龍族にとって確かに『破炎珠』は脅威ではあるが、争いを好まぬ人魚族が龍族を脅かす存在には到底なりえないからだ。調和を尊ぶ種族だということは龍族も承知の上だ。
疑問だらけの状況だがそれはヴァルの言葉で波紋を呼ぶことになる。
下半身のヒレは光させば透き通って見えそして貝殻のアクセサリーをつけ、深い青の髪に途中から切り替わる白髪のロングヘアーが見目麗しく、黒貝殻を纏った胸当てと両手にフワッとした衣を装着されたアクセサリーが特徴的。上半身は人間、下半身は魚のようなヒレを持つ美しい人魚だった!
水面にたたずむソレは不意にアルヴィスに目を向けて敵意をむき出しに睨みつけながら声をかけてきた。
「我らが神聖な地底湖に! よもやラッドイーパー以外の種族のニンゲンや他種族が足を踏み入れるとはなんとも嘆かわしい! ……護衛共は一体何をしている!」
呆れたように怒りをにじませた口調で話す人魚。三叉の特殊な槍を持つ様はポセイドンのような出で立ち。黄金色の瞳には気品もありつつも殺気が周囲にビリビリと張り巡らされている。
周囲がピリつくこの状況下、未知なる人魚の前に足を運び声をかけ切実に懇願したのはササラだった。
「人魚様、ラッドイーパーに祝福されしピオリナが狐人ササラにゃ。どうしてもこの先の火山……『炎帝フォースヴァルド』様に会いに行きたいのにゃ。道を譲ってほしいにゃ」
「…………………」
ササラは嘘偽りなく人魚に今までの経緯と、炎王龍であり全ての炎を司る炎帝に逢いたいと素直に話す。睨みつけながらも静かに耳を傾け聞いていた人魚だったが……突然クスリと笑いながら蔑んだ目をササラに向け口を開く。
「クスッ……お前達は命は惜しくないのか? お前達が火山にたどり着く前に炎龍王の熱だけで消し炭にされるのだが……」
「えっ!火山にたどり着けないだと」
「あぁ……それでも向かうというのか? あの火山には誰一人たどり着くことも炎帝を一目見ることも叶わぬぞ? そんな場所に向かうのは我らには理解できぬな……」
人魚の話によると……この地底湖はどうやら火山とそれなりの距離があるにも関わらず湖は地熱で熱せられ冷たさなどは皆無。火山に近づけは近づくほど煮えたぎる湖の熱……
それは炎帝フォースヴァルドが火山にただいるだけで、たたずむだけで火山は灼熱の炎を纏う獄炎に包まれており、距離があってもこの有様だという。
そして火山への道へ踏み入れた者の末路は……熱を帯びた灼熱の空気に触れるだけでも人間の身体は耐えられず、消し炭になり姿形はなく塵と化す……
ゴクッ……
静かに人魚の話を聞いていた一行だったのだが、アルヴィスは人魚の含みのある話し方に引っかかり問い返した。
「なぁお前達……地底湖の水の属性の住人がな、火山にたどり着く旅人の……その消し炭になる様子を見ることができたとしたのならば……炎や地熱、そんなものから身を護る何かがお前達にはあるんじゃないのか? お前達は特に特化した水に属する者だ。この地熱に耐えうる何かがあるんだろ? 弱点をカバーするものがあるんじゃないのか?」
「………………」
アルヴィスの問いにギラリと睨みつける人魚。どうやらなにかがあるらしいが……流石にすぐに教えたり、渡してくれるほど初見のよそ者の一行に理解を示してくれる訳ではない。
はぁ…… ため息をつきながらさてどうしたものやら……と思いかけていると突如湖の湖面が揺れ動き何かが迫ってくる!
ザザザザッ!!
ザバッ!
「⁉ なんだ!」
「なっなんなのにゃ!」
「なにか来る!」
どこからともなく湖から水をザバザバとかき分け何かが迫りくる!威嚇している人魚の横からポンッと水から飛び出た瞬間に、魚のような尾は瞬時に人と同じような脚に変わり、ふんわりした白のワンピースを纏ってピンク色の髪をなびかせたソレはササラに近づくやいなや手を握りブンブンと振り回している。
「きゃーササラっ☆ 久しぶりぃ」
愛らしい声と風貌にハッとしたササラは驚きながらも目の前の彼女には見覚えがあった。
「‼ にゃっ⁉ ……あれっミルフィ? ミルフィにゃのにゃ? あれから無事に帰れてたのにゃ?」
ササラにミルフィと呼ばれた人魚は……どうやらササラを知っているようでそしてミルフィも知り合いのようだ。あっけに取られている周りを全く気にしていないミルフィと呼ばれた人魚に、慌てるのは深い青の髪の人魚だった。
「姫様⁉ ミルフィ様! なぜここに⁉ その者に不用意に近づいてはなりません! まだ何者かもわかっていないのですから!」
初めて慌てる素振りをした黄金色の瞳の人魚になんとも拍子抜けな口調で答えるミルフィ。
「えーっササラは大丈夫だよ☆ だってササラは昔私を助けてくれたもの。それにディアドラはなんでも気にし過ぎなんだよ」
「姫様!」
ぶぅぅっというような口をとがらせながらも愛くるしい女の子……どうやら急に飛び出してきた人魚姫はミルフィといい、威嚇している人魚はディアドラというらしい。
ササラはミルフィの握った手を優しく包み込み安堵しているように見える。スッと目線をミルフィの背に向けて後ろにまわると服をスッとめくる。その仕草にワナワナと怒りを向けるディアドラ。
「なんと無礼な! 姫様に……女性の服をめくるなど!」
「ディアドラ! やめなさい」
ミルフィの一言に怯むディアドラだったが常にササラを無言で睨みつけている。ササラは下心ではなく真剣に、すかさず過去に治療をしたであろう傷を負った背中を診て終えると傷跡がないことを確認しホッとしていた。
「ミルフィ。あの大ケガも傷跡も残ってにゃいにゃ……あの時治療が間に合ってほんとによかったにゃ! 女の子だからその後を心配してたけど跡もなくて安心したにゃ!」
ホッとにこやかに笑っているササラ。どうやら過去にミルフィは重傷を負っていた際にたまたまササラの治療を受けていたようだ。
ササラの方をクルッと向いて目に大粒の涙をたたえた人魚姫はギュッと手を握りお礼をいう。
「あの時は本当にありがとうササラ。あなたがいなかったら私はもう……この世にはいなかったかもしれないわ……今まで会えなくてお礼が言えなかったけど、本当に助けてくれてありがとう」
グスッ……ポロッ……ツツッ……
キラッ……カツンッ……コロコロ……
ミルフィはササラを見つめながら肩を震わせる。目から溢れ出たその涙は頬を伝い顔から離れた瞬間、粒は丸い固形物へと変わりアルヴィスやティレニアの足元にカツンと音を立ててコロンと転がってきた。
「なんだこれは?」
「真珠?かしら……」
その真珠はまばゆい光を放っているが、次第に淡い光に変わり微光をたたえてそれを維持しているようにも見える。
不思議なその真珠が気になり拾って目の前でジッと見つめ、そして手のひらにのせたアルヴィス。その仕草に反応するようにアルヴィスの肩に乗っていたヴァルがグッと首を伸ばしてソレの匂いを嗅いでいる。アルヴィスの肩から現れたヴァルの姿を見るやいなやギョッと慌てふためいたのはディアドラだった!
「なんだその龍は! いつからいた! お前らはやはりアイツと結託して我らを殺しに……」
ディアドラが言葉を発した瞬間……強烈な殺気が辺りに立ち込める!
ピクッ!
ビリビリッ!
真珠の匂いを嗅いだヴァルの表情や様子は、怒りに満ちており殺気が漏れ出ていて地底湖の空気が瞬時に張りつめていく。何か言いかけたディアドラの言葉を殺気で遮り口を開くのさえも許さない状況下。ただし殺気は人魚のみに向けられている。
〘⁉ ほぅ……これは……我らへの挑戦状か……人魚族よ……〙
「ヒッッ!」
怯えて声も出ずガタガタと震えながら立ちすくんでいるディアドラとミルフィ。その姿を見るやいなやアルヴィスはヴァルの頭を撫でながら何を感じていたのか問いかけた。
「ヴァル? どうしたんだ。そんな殺気を放つなんて……わかるように訳を話してくれ」
〘…………〙
アルヴィスの言葉に少しだけ間をおきヴァルはササラに目を向け光らす。
〘ササラ……その娘全力で守り抜く覚悟はお前にあるのか?〙
「えっ‼」
「にゃ……ヴァル様どうしたにゃ?ミルフィを守るにゃ?」
目線をササラから外し静かに真珠を見つめているヴァルは、フッとディアドラと呼ばれた人魚に顔を向け口を開く。ディアドラは殺気と龍に睨まれた事によりビクつき怯えている。震えあがり驚きを隠せていないようだ。
〘……人魚族のお主はこの娘をフォースヴァルドから……いや違うな……炎龍達から守っておるのだろう……あやつからすればこの娘は非常に厄介だからな……〙
「………………」
「どういうことだヴァル?」
アルヴィスの手のひらにある真珠を見つめながらも動揺する人魚を横目に、ヴァルに説明を求めると……ヴァルはヤレヤレとため息をつきながら事態を説明する。
〘これは……『破炎珠』……いかなる炎も軽減し、そしていかなる炎からも身を護る代物……〙
「は?この真珠にそんな加護があるのか!」
「でも涙でできちゃうなんて……それじゃたくさん生産できちゃうんじゃ……」
〘そう……その娘の涙から無条件に量産されるとなると……炎龍の天敵『氷帝リズヴァルド』よりも『炎帝フォースヴァルド』からすれば後々厄介だからな……存在を知っているならば八つ裂きにしたいほどだろう……だが……〙
ヴァルが話していると嗚咽を上げながらヴァルの気にあてられ、震えあがるミルフィの背中をササラがさすってあげている。どうやらササラが助けた人魚姫の背の大ケガはフォースヴァルド配下の炎龍達に襲われた時に受けた傷だった。
姫の一大事に慌てて湖から地上に降り立つディアドラ。駆け寄りそっと人魚姫を抱きしめて声をかけて気づかうが……ジッとその一部始終を見ていたシェリルがそっと声をかける。
【いつからそなたらは炎帝に狙われ始めたのじゃ? 龍族は千年以上生きる種族じゃ……人魚族など数百年の種族じゃぞ? 龍族からすれば放っておいてもなにも問題のないたわいもない存在じゃ……それに人魚族は争いは好まぬのじゃからヴァルの言うような危険も心配もなく何も脅威ではないじゃろうに……】
そう、シェリルの言うことも最もだ。
長命種族である龍族にとって確かに『破炎珠』は脅威ではあるが、争いを好まぬ人魚族が龍族を脅かす存在には到底なりえないからだ。調和を尊ぶ種族だということは龍族も承知の上だ。
疑問だらけの状況だがそれはヴァルの言葉で波紋を呼ぶことになる。
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