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第7章 ラッハザーク

89. 地底湖のワナ

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 ササラの魔法で光の灯った洞窟を先へ先へと足を運ぶその先は……どのくらいの道のりを奥深く、そして歩みを進めたのだろうか。
 灯りはあるものの天井から滴る水に泥濘んで道が悪いのは否めない。スライムといった魔物等もちらほら現れてくる薄暗いダンジョン……
 スライムのような液体の魔物にはシェリルとティレニアの魔法に加えて、しっかりと体を持つ獣の魔物はアルヴィスの剣が引き裂き、そして見事に連携して遭遇した魔物をさばいていく。ササラは皆の身体をいたわりながら最適な調薬をヴァルに守られながら進めていく。
 天井から湧き出ている雫が背に降り注ぐと、ビクリと身体を震わすササラにアルヴィスがそっと手を添える。そんな気配りにホッとした顔をのぞかせているササラがいたのだった。

………………

 どのくらいの時間が経過しただろうか……先の見えない一本道かと思いきや、突如現れた空間の先には三つの道が現れ広がっている。
 恐らくこういった分岐点が多数存在し地底湖に向かう者を選定、よそ者をふるいにかけているようにも思う。
 三つの道には灯りは今現在灯されてはいないが空気を鼻で吸いながら、ため息混じりに何かに反応しているのは飛翼族のシェリルだ。
スンスンスン……
【うむ……左の道は途中で道が途絶えておるようじゃな。空気が途切れておる! これはハズレじゃな。中央と右はどこまでもつづいておるようじゃが……なんじゃ……この二つは?気持ちが悪いのぅ……】
「シェリルはなぜ道が途切れてるのがわかるにゃ?」
【それはじゃな……】
 シェリルによると洞窟内でも空気の流れは外と変わらず必ずしも流れがあり、風の流れが途絶えたりしないのだという。しかし左の道は途絶えているため行き止まりだ。ただ、残りの二つの道にも何か歪みというよりも何かが直感で引っかかっている様子のシェリル。
 言葉では言い表せない気持ちの悪さに、顔が引きつっている状態の飛翼族の直感はあながちスルーする事案ではない事はティレニアがよく知っている。飛翼族も天翼族も直感は当たることが多いためだ。
 シェリルの言葉を踏まえ、一行は中央と右でどちらかと相談しようとしたところ……タタタッとササラが二つの道の間に立ちながら天井に向けて杖を掲げている。
「ササラ?」
「どうしたんだ急にそんなところに立って……」
 急にどうしたというのだろう。どうしたの? と近寄り声をかけようとしたティレニアの前でササラが魔法を使用し始めた。

「(道がわからないのにゃ……みんなが迷わず正しい道に行きたいのにゃ……杖さん頼むにゃ!)」

「ピオリナが一族ササラ。地底湖まで正しい道を導け!」

ゴゴゴッ……
パパパパッ……
「うそっ⁉」
「これは‼新たな道が現れた!」
 なんと、ササラの魔法に反応したのは三つの道とは全く違う別の第四の道が現れ、道が開けたのだった。あっという間に新しい道が開けたのには驚きを隠せない。
 先程の三つの道は相変わらずあるのだが、新たにできた道には光が奥までササラの魔法により灯されていく。
 おそらくこれが正しい道……この不思議な状況にササラがなぜ魔法を唱えたのか気になったのはアルヴィスだ。
 アルヴィスはいつもパーティの後ろにいて補助的な役割のササラが前に出て行動したことに不思議と口が開いたようだ。ササラはフイッとアルヴィスの方に顔をむけて口を開く。
「ササラはなんでその魔法を唱えたんだ?」
「三つの道は……ササラが道を眺めると背筋が凍るような怖さがあったにゃ。今でもピリピリした感覚が尻尾に残ってるのにゃ。あるべき道はこの三つとは違うんじゃないか……だからもしかしたらこの杖が正しい道を知ってるかもしれないと思って使ってみたにゃ」
ピリピリッ……
 ふいにアルヴィスがササラの尻尾に目を向けると緊張しているようにも見えるが毛先まで尻尾は逆だっている。
 今まで見たこともない状態にこれは獣人がゆえにかなり何かに警戒しているように思えた。
〘ササラは……狐人は種族的に警戒心が優れた一族ゆえ……このまやかしを見抜けたのかもしれぬな……〙
 攫われる事や一瞬の判断ミスは死を意味する、そんな一族だからこその直感……アルヴィスは感心しながらササラの頭に手を触れて撫でてやる。
「よくやったササラ。これで安全に道に迷わずに進める。ありがとな」
 ササラはアルヴィスがわしゃっと頭を撫でる手にそっと手を添えてニコッと笑顔を浮かべている。心地よさそうなその光景、その姿にティレニアは驚きを隠せない。
「狐人が……人間にあれ程心を寄せるなんて……フィーネは特別としても、アルヴィスって一体何者なんでしょうか……」
 異世界からやってきて命の恩人であるフィーネならいざしらず、こちらの世界の人間がなぜ? と首を傾げているティレニアにヴァルが口を開く。
〘アルヴィスは精霊に好かれた一族の末裔だからな……精霊を大切にしてきた狐人やこのラッハザークに住む獣人はフィーネ同様心地よいのだろう……〙
ヒィンッ……
 アルヴィスのリストリングが淡く輝いたように見える。まるで精霊達が喜んでいるような温かい煌めき。精霊達が認めている懐の深いアルヴィスに少し興味を持ち始めたティレニア。
 と、ササラが導いてくれた道に足を踏み入れ、そしてみんなが通過するとともに来た道へのが退路塞がる。

ゴゴゴッ……
「道がっ!塞がれた!」
 突然後ろの道が塞がれはするが光は消えずに今の道の先まで灯っている。道が塞がれ動揺しているが少しすると地響きと共に洞窟が揺れている。
 何なんだ? とひとかたまりになる一行にピクッと反応するのはシェリルだ。

ゴゴゴゴ…………
ピクッ!
【これは! ササラ……お主は命の恩人だな! これを見つけてくれなければワシらは今全滅してたやもしれぬな……】
「シェリル?この揺れは何なのにゃ!怖いのがいっぱいにゃ!」
【これを見てみるがいいのじゃ!】
 シェリルはもしもの時の為に迷ってしまった時の為に、道に魔法で何やら細工をしていたようだ。その細工をした場所の映像が見られるように仕掛けたものをみせてくれる。
「これは⁉魔物の群れ!」
「モンスターパレード‼」
「一体どこから出てきたんだ⁉」
 そう……そこに映し出されたのは先程の道におびただしい魔物の群れが溢れかえっており、逃げ場がないほどの多種の魔物達が入り乱れ溢れる『通称モンスターパレード』。
 正気ではない魔物達が一気にその場を駆け巡る……殺気漂うこの光景に先程の気持ち悪い直感の答えがでていた。
 もし先程の二つの道に間違って歩みを進めていたら……今頃このモンスターパレードに挟み撃ちにされ、この群れの中に見を投じていたのだ。こうなれば身体は八つ裂きに引き裂かれ、魔物に玩具にされたあげくに喰われていただろう……
(ゾクッ!)
 一行は道の選択には慎重にと……さらに気を引き締めて灯りの先へと歩んでいく。
 その後もいろんな道を歩むのだが最終的に一本道を進むとそこは開けた空間に繋がっていた。
 そこには灯りが……というよりも湖のような広い場の水自体が光をたたえていて灯りなどが全く必要がない空間になっていた。湖の中を恐る恐る覗いてみるとその湖は変わったものがたくさんあったのだった。
「なんだこれは? 湖の中に建物がある……」
「不思議な生き物がいっぱいにゃ」
 湖の中には彩とりどりの魚や草木、そして動植物も多々自生している。そして一番衝撃だったのは奥深くにある神殿のような建物だ。こんなところに建物とは何かが住んでいたのだろうか……。
 アルヴィスが湖に近寄り水を触るとやはりモスリーン達の言うようにお湯のように温かい水。
 火山の地下熱で温められたこの湖は温泉のようでもあるが、地上と違っているのはこの環境でも生きている植物や魚たちには驚きである。
「……この魚って食えるのかな?」
【はぁ?なんじゃおぬし……】
「アルヴィス?」
 突然のつぶやきにティレニアやシェリルは口を開いて唖然としている。湖を目の前にしてコイツ何言ってるんだと。だが、にゃっと笑いながらもアルヴィスに笑いながら声かけるのはササラだ。
「アルヴィスはフィーネみたいだにゃ!」
「………なんでフィーネがでてくるんだ……」
 確かにあいつがいたら……やれ魚釣りだ!キャンブだ!魚焼けたから食べて! などとはしゃいでいるに違いない。いつの間にかフィーネに感化されていたアルヴィスにヤレヤレと思いながら指を指しながら湖を見る様に話すヴァル。
〘アルヴィス……神聖な魚達……この湖の眷属に……そのような口を利くと喰われることになるぞ……奴らはニンゲンの言葉を理解するし……あ奴等もこちらに気づいている……口の聞き方には気をつけるんだな……〙
「おぃおぃ……ヴァルそういう事は早く言ってもらいたかったな!」
 ヴァルの言葉に湖内を見ると中から魚の群れが集まりだしていた。

ゴゴゴッ……
 それは大きな渦となりそして一気に湖面から突上げ水が浮き上がりながらまとまった水が盛り上がりそして割れる!
 その水の中から現れたのは透き通るような水色の長い髪を持ち上半身は人間、下半身は魚のようなヒレを持つ美しい人魚だった!
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