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第6章 精神世界
76. 第三 第四の部屋に待ち受けるモノ
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アルヴィスの目の前に広がる鬱蒼とした森には見覚えがある。この木々が道を塞ぐような何かを守っているこの森は……
(俺が初めてラギと一緒にフィーネに連れられてきた……サラディナーサが居た森?)
そう……ここはファブニールの北の嘆きの谷にそっくりだった。ここも先程のバーティミアス同様に解放されたはずなのに禍々しい空気とそして魔物がうごめいている。
思い返してみると確かここには、サラディナーサが居たはずだと記憶を遡り導かれた場所を探しながら突き進んでいく。時々小物の魔物が飛び出しては来るが、難なく剣で倒しながら歩みを進めるのだった。
程なくして目の前に現れたのは……
「っ⁉ フィーネ!」
服装は違えど見間違うはずのない彼女の姿が目に飛び込んでくる。思わず声をかけずにはいられない!
「フィーネっ! 無事だったのか!」
目の前に現れたのは姿形は確かにフィーネだった。フィーネはアルヴィスに気づき笑顔で駆け寄ってくる。
「あぁ……アルヴィス様」
「は? フィーネ?」
「ポロポロっ……ぐすっ……フィーネはアルヴィス様にお会いできず……寂しゅうございました」
「なっ!」
ゾワッ!
アルヴィスの身体は即座に何かが反応し、違和感を感じ……そして身の毛がよだつ!
咄嗟に近寄るフィーネの喉元目がけて剣を引き抜き突きつける。
チャキッ ヒタッ……
その瞬間、駆け寄るフィーネは首元に剣を突きつけられた状態でピタッと止まりコテンと首を傾げている。
「アルヴィス様……なぜ? 私をいつものように優しく抱きしめて温めてくださらないのですか?」
「フィーネはそんな女じゃない!」
「アルヴィス様……私はあなた様のことをお慕いしております……いつものように私を……」
アルヴィスは気分が悪い。ソレは姿形、声はフィーネそのものだが中身が伴っていないからだ。
アルヴィスが最も嫌いな貴族に媚びへつらう……あの女共と変わらないその仕草や話し方に虫酸が走る。
「何者だお前! フィーネを何処にやった!お前はフィーネなんかじゃない!」
アルヴィスは剣を構えたまま険しい顔でフィーネに叫ぶと、ソレは不気味に口元を震わしながらケタケタと怪しげな笑いと笑みを湛えている。
「うふふふふっ……大人しく喰われれば良いモノを!」
「なっ……変化した!」
「あはははは……私は私……お前を喰らうためにココにイル!」
そう言い放つと変化したフィーネもどきはバッとアルヴィスに襲いかかるが、それも虚しくリースの加護が宿る剣、鋭い刃が魔物の喉をとらえ貫き、そして斬り裂いた……
フィーネらしき姿が血飛沫とともに空に散り倒れていくが、その顔には不気味な笑顔があった。ソレを斬り裂いた光景を目にした瞬間、アルヴィスの体に異変が生じる!
(ドクン! ズキンッ!)
「痛ッッ……何なんだ!」
パキンッ……グラッ……
「ぐっ……何、何なんだよ。これは頭が割れるように痛い……」
アルヴィスがフィーネらしき姿をした魔物を切り裂くと何か綻びが現れ始め……軋みと共に頭が割れるように痛い。痛みに耐えかねたアルヴィスは膝をつきググッと額に手をあて地面に跪くと、ヒョコッと胸から首を出し現れたドラゴンが額に擦り寄る。
「ピィィ…… ピィィ……」
(スリっっ ふわっ)
「痛っ………んっ?……なんだ……体が軽い?」
(なんだコイツ……ドラゴンが擦り寄る場所から痛みが和らいでる……コイツ心配してくれているのか?)
なぜかドラゴンが触れる場所から割れそうなくらいの痛みが和らぐ。少しだけ痛みが和らぎ……冷静になり先程の倒れた魔物に目を向けると、そこには先程の扉の時と同様でやはりキラキラとした砂の光が斬り口から漏れている。
痛みを堪えながら先程の部屋と同じように砂のある場所にドラゴンを連れていきスッと前に差し出すと……
スゥゥゥ……フワッ……シュウゥゥ……
ドラゴンの体にキラキラとした光がさらに取り込まれていく。すると弱ったそのドラゴンの体がまた更に回復しているように思えた。
「キュイッ!……」
元気になっていくドラゴンに反してアルヴィスは次第に強い痛みに耐えられずにフラついていく。
パキンッ……
ドクンっ! ズキッ!
「ちっ……何なんだよ!」
先程の魔物……フィーネの姿をした魔物を斬り捨てた事により何かがおかしい。頭痛が止まらない! そして何かの記憶の断片がチラつく。
(何なんだよ……この霞がかった記憶はよ!チッ……俺はフィーネを早く見つけなくてはならないのに!)
フラつきながらも前に進んで行くと急にガクンッと体が沈む。いや……体が落ちていく!
「えっ⁉ 落ちる!」
アルヴィスの足元から体がガクンと沈み、そして床が抜け真っ直ぐに落下していく。どうやら落とし穴にハマったようだ!どこまで落ちていくかわからない状況にゾクッとしているアルヴィスの胸元から声があがる。
「キュィィィっ!」
バサッ!バサッ!
胸に潜ませていたドラゴンが少し大きく翼を広げアルヴィスの両肩を手足で鷲掴みにし落下速度を和らげてくれる。
しばらく落下した後、底にアルヴィスの脚がつく事を確認すると……
シュウゥゥ……
ドラゴンは元の姿より少し小さくなりキュィ……キュィ……と息絶え絶えになっていた。ドラゴンに助けられたアルヴィスは頭をなでながら胸にしまう。
「すまない! かなり無理をさせたな。あのまま落下していたら俺は叩きつけられバラバラになっていただろう。ありがとう助かった。さぁゆっくり休みな」
「キュゥゥ………」
力を振り絞ったドラゴンはキュゥゥ……と弱々しく返事をしながら優しく胸に忍ばされている。
随分深く落ちてきたように思う。見上げてみても落ちてきた穴の先は見えないのだから……
周りは相変わらず暗闇だが道は左右は閉ざされており、何もない暗闇を真っ直ぐに突き進んでいくしかない状況。そしてさらなる光に照らされる部屋が出現する。またその扉に手を添えてみると……
カチャリ……
扉が開き中に入っていくアルヴィス。すると次に現れた後景は……
「グランディール……だな」
そう……次にアルヴィスの目の前に現れたのはグランディール城内だった。
グランディール城内には両脇を正装をした騎士達かずらっと控えていて、玉座にはグランディール王。そしてその前には着飾ったグランとフィーネが仲睦まじくお互いを見つめ合っている。
何やらこれは宣言をする様な場面である。と、アルヴィスが来たのを見計らったかのように王に宣言を始めるグラン。
「王よ。私グラン……グラン·エルフォート·グランディールはフィーネと……永遠の時を過ごすと誓います」
グランが突然宣言するとフィーネが続いて笑顔で涙を流しながら王に宣言する。
「私……フィーネはグラン·エルフォート·グランディールを永久に愛する事を誓います」
「‼ なんだと!グランとフィーネが婚姻だと!」
ワァァァァ……
「グラン殿下おめでとうございます」
「フィーネ様おめでとうございます」
何やらこの状況は……グランはグランディール国全体に祝福されて、見届人を含め婚姻を結んでいるような状況だ! その光景を目の当たりにしたアルヴィスは打ち震えながら、自身の感情のままつかつかと玉座の前に歩み寄り二人に割り込み自分の思いの丈をぶつけたのだった。
「異議あり! フィーネは俺が永久に愛すると約束してある最愛の人なのだ。例え俺にまだ足りない部分があったとしても……グラン! グランには! お前だけにはフィーネは相応しくないし何があってもグランには渡さない!」
「………………はぁ……」
急に出しゃばってきたアルヴィスを見たグランは、ため息をつきながら急に冷たい目で見ながら問いかけてきた。
「はぁ……貴殿はバーティミアスの皇子と見受けられるがこのような無作法……不敬であると思わぬのか?」
「なっ!グランお前こそ俺の婚約者に勝手なことをするんじゃない! フィーネはバーティミアス帝国皇子アルヴィス·アルローズ·バーティミアスの婚約者だ!」
グランがアルヴィスの話を聞いた途端、スッと手を挙げると騎士達がサッとアルヴィスの周りを囲む。しかしフィーネが絡んでいる事案だ。黙っている訳にはいかないアルヴィスは食い下がる。
「フィーネは俺の愛しい人だ。どれだけお互いが想い合っているのかは聞けばわかるはずだ。なぁフィーこっちに来るんだ!」
グランとアルヴィスのやり取りを不思議そうに聞いているフィーネは、アルヴィスにキッと睨みつけるように辛辣な言葉をかける。
「貴方は誰? 私はあなたを知らないわ。私はグランだけを心から愛しているのよ……」
「なっ‼ フィー!操られているのか?目を覚ませ!フィー‼」
このフィーネの声は……話し方も仕草も自分の知っているフィーネだ。拒絶される最愛の人の言葉はアルヴィスにはすごいダメージが与えられる。
ズキンッ……
「っ……痛っ! 何なんだよこの痛みは!」
フィーネの言葉に心が痛む。だが正気に戻さなければ、いや恋敵から最愛の人を奪い返さないとと必死になるアルヴィス。だがそんな状況の中でグランがとった予想外の行動はアルヴィスには意外なものだった!
それまで温かかった眼差しをフィーネに向けていたグランが、急に冷徹な目で彼女を睨みつけてフィーネを突き飛ばしたのだ。距離を取るグランを驚いた表情で涙を浮かべながら見つめているフィーネ。
「グラン痛いっ! どうしてそんな顔をするの……私はあなた愛してるのに」
「フィーネ。キミにはがっかりだよ……君は僕以外の男とも通じていたとは……結婚前に分かってホントに良かったよ。彼には感謝しないとね」
チャキッッ……
グランは腰に装備している剣を抜きフィーネに向けている。
「えっ……何なのグランっ! ホントに私はこの人なんて知らないのよ。剣を向けるなんて冗談はやめて!」
「私にも許さなかった愛称呼びまでさせておいて! 私をバカにするのもいい加減にするんだな!一国の皇子を弄んだのだ!万死に値する!死をもって償え!」
「違っ……違うから!待ってグラン! 私はグランだけを愛して……」
諭す彼女に向かってグランは一気に力を入れて真正面から無情にも斬り捨てる。
ズバッ……バシャッ!
ドシャリ………
フィーネは真正面から斬られ、その血飛沫が舞い上がる。そしてその場に横たわるフィーネは血に染まり血溜まりができていく。その光景を目の当たりにするとアルヴィスに変化が現れる!
パァァンっ!
綻びは弾け飛び、封印されていたおびただしい情報量がアルヴィスの頭に一気に流れてくる。
これは……自分がフィーネをダンジョンで真正面から斬り捨てた記憶!
「ウワァァァァ!」
すべてを思い出したアルヴィス。以前ダンジョンで最愛の人フィーネを自らの手で切り捨ててしまった事を。
「あははは!そんなにこの女が必要なのか?誰とでも情を交わすこの女が!」
全てを思い出し精神が不安定なアルヴィスに追い打ちをかけるように虫の息のフィーネを引きずりながらアルヴィスの前に立つグランが冷ややかに話しかけてくる。
「何を今更……お前だってこの女を殺したじゃないか? それに私と婚姻を結んだのだフィーネは。私の物をどうしようが勝手だろ?不貞をする女はこの世からいなくなればいい!あばずれは……不誠実な女は末路はこうだ」
ドシャッ……
最愛の人の亡骸が目の前に放り出される。精神を完全に蝕まれ、目が虚ろで正気でないアルヴィスに近寄り耳元でグランは囁く。
「なぁアルヴィス……辛いだろう? もうすべてを忘れて深い眠りにつこう……そうすれば何も苦痛はなく……夢の中で幸せに暮らして行けるのだから……」
闇に深く取り込まれていくアルヴィスは意識が遠のいていく。だが、その状況を察して手を差しのべたのは一緒についてきていたドラゴンだった! 胸元に隠れていたソレは、首を伸ばし力一杯アルヴィスの首元に噛みつく!
「ガッ!」
「痛っ‼」
激しい痛みが首元に走り反応するアルヴィスはハッと一瞬だが正気に戻る。
「痛っ、何すんだ!このっ!」
胸から首を伸ばし噛みついているドラゴンを両手でバッと剥がして目の前でみると大粒の涙を浮かべながらアルヴィスを心配している。
「ピィィィ! ピィィ……ピィィィ!」
翼を広げバシバシとアルヴィスの体に手足を叩きつけ、必死なドラゴンの目からは涙がこぼれ落ち、それがアルヴィスの体に触れると……
カッ!
「これは!」
そのドラゴンの涙の触れた場所からアルヴィスを蝕んていく闇をサラサラの砂と光がまとわりつき闇を打ち払う!
カカッカカカカッ!
アルヴィスが動けるようになり未だに手足を必死にアルヴィスに叩きつけるドラゴンを落ち着けと言わんばかりに、両手で掴んだまま目の前に持ってくるとポロポロと涙を流すコイツに……愛しいあの人の姿がダブって視えたような気がした……アルヴィスが不意に呟く。
「………フィーネ? ……お前フィーネなのか?」
カカッカカカカッ!
必死にもがき泣いているドラゴンが目をカッと開き凄まじい光に包まれる!
と、そこに現れたのは……
(俺が初めてラギと一緒にフィーネに連れられてきた……サラディナーサが居た森?)
そう……ここはファブニールの北の嘆きの谷にそっくりだった。ここも先程のバーティミアス同様に解放されたはずなのに禍々しい空気とそして魔物がうごめいている。
思い返してみると確かここには、サラディナーサが居たはずだと記憶を遡り導かれた場所を探しながら突き進んでいく。時々小物の魔物が飛び出しては来るが、難なく剣で倒しながら歩みを進めるのだった。
程なくして目の前に現れたのは……
「っ⁉ フィーネ!」
服装は違えど見間違うはずのない彼女の姿が目に飛び込んでくる。思わず声をかけずにはいられない!
「フィーネっ! 無事だったのか!」
目の前に現れたのは姿形は確かにフィーネだった。フィーネはアルヴィスに気づき笑顔で駆け寄ってくる。
「あぁ……アルヴィス様」
「は? フィーネ?」
「ポロポロっ……ぐすっ……フィーネはアルヴィス様にお会いできず……寂しゅうございました」
「なっ!」
ゾワッ!
アルヴィスの身体は即座に何かが反応し、違和感を感じ……そして身の毛がよだつ!
咄嗟に近寄るフィーネの喉元目がけて剣を引き抜き突きつける。
チャキッ ヒタッ……
その瞬間、駆け寄るフィーネは首元に剣を突きつけられた状態でピタッと止まりコテンと首を傾げている。
「アルヴィス様……なぜ? 私をいつものように優しく抱きしめて温めてくださらないのですか?」
「フィーネはそんな女じゃない!」
「アルヴィス様……私はあなた様のことをお慕いしております……いつものように私を……」
アルヴィスは気分が悪い。ソレは姿形、声はフィーネそのものだが中身が伴っていないからだ。
アルヴィスが最も嫌いな貴族に媚びへつらう……あの女共と変わらないその仕草や話し方に虫酸が走る。
「何者だお前! フィーネを何処にやった!お前はフィーネなんかじゃない!」
アルヴィスは剣を構えたまま険しい顔でフィーネに叫ぶと、ソレは不気味に口元を震わしながらケタケタと怪しげな笑いと笑みを湛えている。
「うふふふふっ……大人しく喰われれば良いモノを!」
「なっ……変化した!」
「あはははは……私は私……お前を喰らうためにココにイル!」
そう言い放つと変化したフィーネもどきはバッとアルヴィスに襲いかかるが、それも虚しくリースの加護が宿る剣、鋭い刃が魔物の喉をとらえ貫き、そして斬り裂いた……
フィーネらしき姿が血飛沫とともに空に散り倒れていくが、その顔には不気味な笑顔があった。ソレを斬り裂いた光景を目にした瞬間、アルヴィスの体に異変が生じる!
(ドクン! ズキンッ!)
「痛ッッ……何なんだ!」
パキンッ……グラッ……
「ぐっ……何、何なんだよ。これは頭が割れるように痛い……」
アルヴィスがフィーネらしき姿をした魔物を切り裂くと何か綻びが現れ始め……軋みと共に頭が割れるように痛い。痛みに耐えかねたアルヴィスは膝をつきググッと額に手をあて地面に跪くと、ヒョコッと胸から首を出し現れたドラゴンが額に擦り寄る。
「ピィィ…… ピィィ……」
(スリっっ ふわっ)
「痛っ………んっ?……なんだ……体が軽い?」
(なんだコイツ……ドラゴンが擦り寄る場所から痛みが和らいでる……コイツ心配してくれているのか?)
なぜかドラゴンが触れる場所から割れそうなくらいの痛みが和らぐ。少しだけ痛みが和らぎ……冷静になり先程の倒れた魔物に目を向けると、そこには先程の扉の時と同様でやはりキラキラとした砂の光が斬り口から漏れている。
痛みを堪えながら先程の部屋と同じように砂のある場所にドラゴンを連れていきスッと前に差し出すと……
スゥゥゥ……フワッ……シュウゥゥ……
ドラゴンの体にキラキラとした光がさらに取り込まれていく。すると弱ったそのドラゴンの体がまた更に回復しているように思えた。
「キュイッ!……」
元気になっていくドラゴンに反してアルヴィスは次第に強い痛みに耐えられずにフラついていく。
パキンッ……
ドクンっ! ズキッ!
「ちっ……何なんだよ!」
先程の魔物……フィーネの姿をした魔物を斬り捨てた事により何かがおかしい。頭痛が止まらない! そして何かの記憶の断片がチラつく。
(何なんだよ……この霞がかった記憶はよ!チッ……俺はフィーネを早く見つけなくてはならないのに!)
フラつきながらも前に進んで行くと急にガクンッと体が沈む。いや……体が落ちていく!
「えっ⁉ 落ちる!」
アルヴィスの足元から体がガクンと沈み、そして床が抜け真っ直ぐに落下していく。どうやら落とし穴にハマったようだ!どこまで落ちていくかわからない状況にゾクッとしているアルヴィスの胸元から声があがる。
「キュィィィっ!」
バサッ!バサッ!
胸に潜ませていたドラゴンが少し大きく翼を広げアルヴィスの両肩を手足で鷲掴みにし落下速度を和らげてくれる。
しばらく落下した後、底にアルヴィスの脚がつく事を確認すると……
シュウゥゥ……
ドラゴンは元の姿より少し小さくなりキュィ……キュィ……と息絶え絶えになっていた。ドラゴンに助けられたアルヴィスは頭をなでながら胸にしまう。
「すまない! かなり無理をさせたな。あのまま落下していたら俺は叩きつけられバラバラになっていただろう。ありがとう助かった。さぁゆっくり休みな」
「キュゥゥ………」
力を振り絞ったドラゴンはキュゥゥ……と弱々しく返事をしながら優しく胸に忍ばされている。
随分深く落ちてきたように思う。見上げてみても落ちてきた穴の先は見えないのだから……
周りは相変わらず暗闇だが道は左右は閉ざされており、何もない暗闇を真っ直ぐに突き進んでいくしかない状況。そしてさらなる光に照らされる部屋が出現する。またその扉に手を添えてみると……
カチャリ……
扉が開き中に入っていくアルヴィス。すると次に現れた後景は……
「グランディール……だな」
そう……次にアルヴィスの目の前に現れたのはグランディール城内だった。
グランディール城内には両脇を正装をした騎士達かずらっと控えていて、玉座にはグランディール王。そしてその前には着飾ったグランとフィーネが仲睦まじくお互いを見つめ合っている。
何やらこれは宣言をする様な場面である。と、アルヴィスが来たのを見計らったかのように王に宣言を始めるグラン。
「王よ。私グラン……グラン·エルフォート·グランディールはフィーネと……永遠の時を過ごすと誓います」
グランが突然宣言するとフィーネが続いて笑顔で涙を流しながら王に宣言する。
「私……フィーネはグラン·エルフォート·グランディールを永久に愛する事を誓います」
「‼ なんだと!グランとフィーネが婚姻だと!」
ワァァァァ……
「グラン殿下おめでとうございます」
「フィーネ様おめでとうございます」
何やらこの状況は……グランはグランディール国全体に祝福されて、見届人を含め婚姻を結んでいるような状況だ! その光景を目の当たりにしたアルヴィスは打ち震えながら、自身の感情のままつかつかと玉座の前に歩み寄り二人に割り込み自分の思いの丈をぶつけたのだった。
「異議あり! フィーネは俺が永久に愛すると約束してある最愛の人なのだ。例え俺にまだ足りない部分があったとしても……グラン! グランには! お前だけにはフィーネは相応しくないし何があってもグランには渡さない!」
「………………はぁ……」
急に出しゃばってきたアルヴィスを見たグランは、ため息をつきながら急に冷たい目で見ながら問いかけてきた。
「はぁ……貴殿はバーティミアスの皇子と見受けられるがこのような無作法……不敬であると思わぬのか?」
「なっ!グランお前こそ俺の婚約者に勝手なことをするんじゃない! フィーネはバーティミアス帝国皇子アルヴィス·アルローズ·バーティミアスの婚約者だ!」
グランがアルヴィスの話を聞いた途端、スッと手を挙げると騎士達がサッとアルヴィスの周りを囲む。しかしフィーネが絡んでいる事案だ。黙っている訳にはいかないアルヴィスは食い下がる。
「フィーネは俺の愛しい人だ。どれだけお互いが想い合っているのかは聞けばわかるはずだ。なぁフィーこっちに来るんだ!」
グランとアルヴィスのやり取りを不思議そうに聞いているフィーネは、アルヴィスにキッと睨みつけるように辛辣な言葉をかける。
「貴方は誰? 私はあなたを知らないわ。私はグランだけを心から愛しているのよ……」
「なっ‼ フィー!操られているのか?目を覚ませ!フィー‼」
このフィーネの声は……話し方も仕草も自分の知っているフィーネだ。拒絶される最愛の人の言葉はアルヴィスにはすごいダメージが与えられる。
ズキンッ……
「っ……痛っ! 何なんだよこの痛みは!」
フィーネの言葉に心が痛む。だが正気に戻さなければ、いや恋敵から最愛の人を奪い返さないとと必死になるアルヴィス。だがそんな状況の中でグランがとった予想外の行動はアルヴィスには意外なものだった!
それまで温かかった眼差しをフィーネに向けていたグランが、急に冷徹な目で彼女を睨みつけてフィーネを突き飛ばしたのだ。距離を取るグランを驚いた表情で涙を浮かべながら見つめているフィーネ。
「グラン痛いっ! どうしてそんな顔をするの……私はあなた愛してるのに」
「フィーネ。キミにはがっかりだよ……君は僕以外の男とも通じていたとは……結婚前に分かってホントに良かったよ。彼には感謝しないとね」
チャキッッ……
グランは腰に装備している剣を抜きフィーネに向けている。
「えっ……何なのグランっ! ホントに私はこの人なんて知らないのよ。剣を向けるなんて冗談はやめて!」
「私にも許さなかった愛称呼びまでさせておいて! 私をバカにするのもいい加減にするんだな!一国の皇子を弄んだのだ!万死に値する!死をもって償え!」
「違っ……違うから!待ってグラン! 私はグランだけを愛して……」
諭す彼女に向かってグランは一気に力を入れて真正面から無情にも斬り捨てる。
ズバッ……バシャッ!
ドシャリ………
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パァァンっ!
綻びは弾け飛び、封印されていたおびただしい情報量がアルヴィスの頭に一気に流れてくる。
これは……自分がフィーネをダンジョンで真正面から斬り捨てた記憶!
「ウワァァァァ!」
すべてを思い出したアルヴィス。以前ダンジョンで最愛の人フィーネを自らの手で切り捨ててしまった事を。
「あははは!そんなにこの女が必要なのか?誰とでも情を交わすこの女が!」
全てを思い出し精神が不安定なアルヴィスに追い打ちをかけるように虫の息のフィーネを引きずりながらアルヴィスの前に立つグランが冷ややかに話しかけてくる。
「何を今更……お前だってこの女を殺したじゃないか? それに私と婚姻を結んだのだフィーネは。私の物をどうしようが勝手だろ?不貞をする女はこの世からいなくなればいい!あばずれは……不誠実な女は末路はこうだ」
ドシャッ……
最愛の人の亡骸が目の前に放り出される。精神を完全に蝕まれ、目が虚ろで正気でないアルヴィスに近寄り耳元でグランは囁く。
「なぁアルヴィス……辛いだろう? もうすべてを忘れて深い眠りにつこう……そうすれば何も苦痛はなく……夢の中で幸せに暮らして行けるのだから……」
闇に深く取り込まれていくアルヴィスは意識が遠のいていく。だが、その状況を察して手を差しのべたのは一緒についてきていたドラゴンだった! 胸元に隠れていたソレは、首を伸ばし力一杯アルヴィスの首元に噛みつく!
「ガッ!」
「痛っ‼」
激しい痛みが首元に走り反応するアルヴィスはハッと一瞬だが正気に戻る。
「痛っ、何すんだ!このっ!」
胸から首を伸ばし噛みついているドラゴンを両手でバッと剥がして目の前でみると大粒の涙を浮かべながらアルヴィスを心配している。
「ピィィィ! ピィィ……ピィィィ!」
翼を広げバシバシとアルヴィスの体に手足を叩きつけ、必死なドラゴンの目からは涙がこぼれ落ち、それがアルヴィスの体に触れると……
カッ!
「これは!」
そのドラゴンの涙の触れた場所からアルヴィスを蝕んていく闇をサラサラの砂と光がまとわりつき闇を打ち払う!
カカッカカカカッ!
アルヴィスが動けるようになり未だに手足を必死にアルヴィスに叩きつけるドラゴンを落ち着けと言わんばかりに、両手で掴んだまま目の前に持ってくるとポロポロと涙を流すコイツに……愛しいあの人の姿がダブって視えたような気がした……アルヴィスが不意に呟く。
「………フィーネ? ……お前フィーネなのか?」
カカッカカカカッ!
必死にもがき泣いているドラゴンが目をカッと開き凄まじい光に包まれる!
と、そこに現れたのは……
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2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
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