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第1章 グランディール
4. 外の世界へ
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難なく魔物を倒したフィーネがクルッとこちらを向いて近づいてくる。あまりの光景に口が塞がらない騎士。
「貴方がグリズリーキングを倒したのか?」
あまりにも一瞬の出来事に状況についていけてない騎士の肩をポンッとフィーネが触ると、優しくほほえみながら騎士に問いかける。
「ねぇ身体どう? 痛みはもうないんじゃない?」
フィーネの問いかけにえっ? と思った騎士だったが肩を叩かれた所から徐々に体が温かくなる。
パアァァァ!
自身の身体が光に包まれ痛みやケガが一瞬で癒やされ、痛みが嘘のようにひいてなくなっていることに気づく。
「なっ⁉」
騎士の肩に手を回しているぐったりとした騎士の肩にもフィーネがポンッと触れてまた光に包まれる。その光景に呆然としている騎士に向かって話しかける。
「もー……ソロキャン気分台無しだよ。まぁこうなったらしょうがないか」
今の状況をしょうがないと飲み込むフィーネ。散らばった食器を整理しながら意識のある騎士に話しかけた。
「その人このテントに運んで寝かせてあげたら? 寝る場所あるから自由に使って。それに食べ物もあるからこっちもいかが?」
「(ソロキャン? 台無し? しょうがない?)」
訳のわからない言葉に戸惑うが……それよりも先程、光に包み込まれた身体が妙に軽い。騎士が自分の身体の疲労が軽減され、ケガで血だらけだった痕や疲労蓄積がないことにハッと気づいた。
そして首もとでぐったりとした身なりのいい騎士に目を向けると重症で助かる見込みがなかった傷もきれいに治っており、すぅぅ……と寝息をたてて眠っている状態だった。
「うそだろ?なんで……」
さっきまで瀕死で死を覚悟していた。今の現実に驚きが隠せない。一方何をそんなに驚いているのか理解できないフィーネがもう一度声をかけてきた。
「ほらっもう早くしなよほらっ! せっかくのごはん冷めちゃうでしょ。これは焼きたてが一番なんだからっ!」
そう急かすとフィーネに言われるがままにもう一人をテントのベッドに寝かせ、もう一人を食事のそばに座らせると、騎士から見れば目の前には見たことのない変わった料理がたくさん並んでいる。
「体力は食べないと回復しないんだからね。あなたは今は遠慮せずに食べなさい。あの人の分はちゃんと後で分けてあげるから! さぁ」
強引な彼女に言われるがまま見慣れない食べ物をおそるおそる口にすると……
パクッ……
「うま……い!」
安心したからなのか危機が去り食事にありつけたからなのかホッとする騎士。騎士はフィーネが調理した料理を食べながら生きている実感を噛みしめていた。食事も終わりしばらくして騎士がフィーネに話しかける。
「本当にすまなかった。あのままでは私達は命を落としていただろう。あらためて礼を言う」
ぺこりと感謝をする騎士。身長は約178cm、髪はロングヘヤーで透き通った銀髪、それに薄い水色の瞳が印象的。右目は右の前髪が隠しており神秘的ないでたちであり、女性のような綺麗な顔立ちをしている。
「私はフィーネ旅人よ。あなた達は何をしていたの?」
「私はグランディール王国の騎士シオン・ルドネル。テントに助けて頂いたのはこの国の皇子グラン・エルフォート・グランディール殿下だ」
どうやら二人はグランディールという国の騎士と皇子らしい。
「私達はこの新翼の大森林に魔物討伐の依頼を受け最奥までやってきたんだ」
シオンは経緯を話す。シオンの言葉を聞きながら初めて聞くこの場所の名を口にしてみた。
「新翼の大森林って言うのここ?」
今いる居場所なのかと聞きなおすとシオンは頷く。
「この大森林の奥には大樹と呼ばれる不思議な木が存在していて、その周りに巣食う魔物を討伐するのが我々グランディール王国の騎士団の役目なのです」
シオンいわく魔物が増えすぎると大樹に危害が及ぶ可能性があるため、代々グランディールの騎士が魔物討伐をし魔物が増えすぎないように管理しているのだ。
だが近年凶暴な魔物が増えてきており討伐は苦労していたようだ。そこへ規格外のグリズリーキングの襲撃。部隊も二人を除き全滅し残ったのはシオンとグランのみだという。
飲み物を飲みながら話を聞いていたフィーネ。
「へぇ~でも……その魔物もあんまり強そうな感じではないんだけどなぁ……」
先程倒したグリズリーキングを横目で見ながら視線をシオンに戻す。
「まぁ……魔物は意外と美味しいから狩るのはキライじゃないし私で良ければ少しくらい力になってもいいよ?」
あっけらかんとしているフィーネに動揺を隠せないシオン。アレを見て……グリズリーキングを見て強そうじゃないなんて……
ガサガサっ!
「シオン……」
ガサガサとやってきたのはテントで先程休ませた皇子殿下だった。髪が光に当たると紫にも見える、あまり髪が長くない黒紫髪を持ち濃紫の吸い込まれそうな瞳をした男。身長はシオンと同等だ。男性にシオンは慌てて声をかける。
「グラン殿下お体は?」
瀕死の重傷だった体調を心配するシオンに、
「大丈夫だ。あれから何があった……この方は?」
少しふらつきながら二人がいる場所へやってくる。シオンがグランに今までの経緯を説明をする。大森林の最奥で魔物の襲撃にあい、致命傷を受けて命からがらここへ辿り着き、フィーネに手当と休息をさせてもらっている事。またグリズリーキングをフィーネがいとも簡単に倒してしまったことを告げる。
「そんな……凶悪なグリズリーキングをこの少女が倒しただと‼」
動揺を隠せないグラン。だがそれも無理はない。この純粋無垢そうなしかもかなりの軽装の彼女が凶悪な魔物を一撃で倒しただなんて……額に手を当てて考え込んでいる。
「………すまない。状況がうまくのみこめないが……あの死体をみると事実なのだろう。シオン共々世話になった」
グランが礼をいうそばからフィーネはいそいそと食事を用意しており、ズイッとグランの目の前に食事を持ってきて振る舞う。
トントントンッ
「これは?」
「はいっ! まずは傷は治せても食べないと体力は回復しないから食べて寝てください。そのテント使ってもらっていいですから。まずは食べて休息しましょう」
ズイッと野菜や魚が盛られた器を並べ、器を手渡され受け取るグラン。温かな食事を口に運ぶと身体を癒やしてくれる。
「うまい……」
しっかりとした食事をグランが口に運ぶ姿を見てフィーネは一安心する。グランが周りを見渡してからフィーネに問いかける。それはテントは一組しかないからだ。
「私達にテントを貸してフィーネは一体どこで寝るんだ?」
テントを男性二人で占領するのが忍びない。それに若い女性と一緒に寝るのは、特に未婚の彼女に失礼ではないのか?
また大森林の中だからこそ油断すると魔物に襲われる可能性だってある。グランとシオンは見張りも必要だろうと心配していると……意外な言葉が返ってきた。
「あっ私の事は気にしなくていいですよ。これから用意しますし……」
そう言うと先程のテントの横を指さして……
「(フカフカ布団とテント)えいっ!」
ポンッ!
「なんだ⁉」
二人はは驚き戸惑っている。……あっという間にテントや布団が目の前に現れたからだ。驚いている二人を目の当たりにし不思議そうに見つめているフィーネ。
「ねぇ二人共どうしたの? さて衣食住は大事だから早めに寝てくださいね~」
そういうと用意したテント入口をめくり入ろうとすると言い忘れていたことがあって振り向く。
「あっ魔物避け使ってますからぐっすり眠れるので、気にしてた見張りは不要ですよ。警戒しなくて大丈夫だからね~。じゃあおやすみなさい~」
「はっ? 嘘だろ……見張りはいらないだと?」
驚いている二人をよそにフィーネはテントの中に消えていってしまった。若く天真爛漫で規格外なフィーネに、しかも見たこともない魔術師をポンポン使える……それに二人は面食らっていた。
「フィーネは……これほど高度ですごい魔法を使えるのか! しかも……無詠唱に見たこともない魔法まで……」
「一体何者なのだ? このような魔法も見た事もない……」
二人にはフィーネとの出逢いは衝撃的なものだった。だがまずはフィーネの言われた通り疲れた身体を癒やす為、遠慮なく休ませてもらう事に。用意してもらったテントでつかの間の休息を取る。
チュンチュンッ……
朝日がサァっと木々の間から差し込み、ふわっといい匂いが鼻をくすぐる。美味しそうな匂いと共にグランとシオンが目覚め、テントを出ると食事の準備が終わったフィーネが二人を待っていた。警戒心を解いて深く眠りについたのはいつぶりだろう……かなり身体が軽かった。
「おはようよく眠れた? さっ温かいうちに食べよう」
机に温かな食事が並んでいて二人が席につき食事をいただく。
(ぱくっ)
「これはうまい⁉」
「昨日も思ったが……すごくうまい。何か特殊なものでも入れてるのか?」
シオンは不思議に思って訪ねた。これほどまでの料理は王都でもなかなか食べることはできないくらい美味しかった。そして材料が揃いにくい遠征では体験できない不思議な味付けだ。
「んー……」
頭をこてんと傾けながらちょっと考え込んだフィーネ。
「やっぱりわかんないや。だって別にその辺で狩ったホーンキャネットとか釣った魚とかだし、特別なことはしてないかな?」
思い当たるふしがないフィーネ。
「王都でもこんな食事は食べられないから貴重だな。フィーネは何でもできるのだな……食事の味付けもうまい!」
つぶやく二人を不思議そうに見つめる。そんなに特別なことはしてないのに……
「えっ普通魔法とかこんなのじゃないの? 私はいたって普通だよ(笑)」
にこやかに笑うフィーネに対して二人は無言で硬直する。その反応に違和感を覚えるフィーネ。
「……あれっ……これってそんなに変なの? 普通じゃないの?こうやって魔法使うのって」
二人の反応にちょっと困惑するとため息をつきながらシオンが口を開く。
「まず……魔法は無詠唱でポンポンッとだすのは初めて見ましたね。それに……それを簡単に実行しているがかなり高度な技術をフィーネは使用しています。王都にもそのような者は見た事はありませんよ」
「あははは………」
あははは……んー確かにそうだよね。自分の思ったものを『創造』どおりにとかチートすぎるよね……よそではポンポンっとだすのは自粛したほうが良さそう!うん……人に出会うと勉強になる!いい情報だなぁ~とフィーネが考えていると、
「フィーネはなぜこんな大森林にいるんだ?」
そう二人は不思議でならない事がこれだ。
大森林は魔物の巣窟。さらに若い女性一人で生き抜ける場所ではないので当然の指摘だ。ただフィーネは普通の女性ではなかった。
「えっ! だってここは自由だし……自分のしたい事ができるじゃない? 大森林には好きでいたかな? (笑)ふふふっ」
ふふふっと無邪気に答えるフィーネに驚く二人。
「(おいおい笑い事じゃない……)普通は凶悪な魔物がいる大森林に女性一人で生き延びるなど考えられないが……。だがよほどの自信があるのだろう。いや実力はアレを倒すくらいだ心配はないが……」
二人が妙に納得しようとしていたがフィーネが口を開きながらつぶやく。
「ん~でも私はここしか知らないから外の世界知らないのよね。ここで過ごした経験しかないからなぁ……」
「ここ以外で過ごしたことがない?」
二人にはフィーネは大森林以外を知らないことを説明すると、事情を聞いて二人は真っ青な顔をしていたがこのまま大森林にフィーネを置いていくわけにもいかず声をかけてみた。
「もしフィーネがよければ、一度王都に来てみないか? 助けてもらった礼もしたいんだが」
グランの提案に少し悩むフィーネ。それはまだ大森林に来て一週間も経っていないしソロキャンプも満喫したい気分があったからだ。
でも先程ここには人が訪れる環境ではない事。そして人に出会わなければ人里に行くこともその機会もないかもしれない。少し悩みはしたが、まっ……嫌になったらまたここに来ればいいか。そう楽観的に思い巡らせ返事をする。
「王都行ったことないから……よかったら案内してもらえると嬉しいかな」
フィーネの返事を聞き早速王都への準備をする。テントやいろんな物の片付けにかかり二人が物に触れようとすると、
「あっ……そのまま置いといて大丈夫だから!」
と言ってフィーネは指をさす。ほんの一瞬だった。
「さてっぜーんぶ収納! 草木も元に戻れっ!」
(!)
ポポンッ ブワッ
テントや道具は消え設置されたところには草木が生えキャンプした形跡は全くない。草木を生やし跡形もなくならせる魔法に目が点になる。
「すごい技術ですね。滞在した形跡すらないとは……フィーネは一体どこの方なんでしょうね」
魔法に自然を操るフィーネ……驚きっぱなしの二人。自在に魔法を操る魔女? すべてを癒やす聖女? 屈強な狩人?
何でもできるフィーネとは一体……そう思っているうちにどうやらフィーネの支度が整ったようだ。
「準備できました! さぁ行きましょう。二人共お願いします」
三人は大森林を後にして王都グランディールへ足を向けるのだった。
「貴方がグリズリーキングを倒したのか?」
あまりにも一瞬の出来事に状況についていけてない騎士の肩をポンッとフィーネが触ると、優しくほほえみながら騎士に問いかける。
「ねぇ身体どう? 痛みはもうないんじゃない?」
フィーネの問いかけにえっ? と思った騎士だったが肩を叩かれた所から徐々に体が温かくなる。
パアァァァ!
自身の身体が光に包まれ痛みやケガが一瞬で癒やされ、痛みが嘘のようにひいてなくなっていることに気づく。
「なっ⁉」
騎士の肩に手を回しているぐったりとした騎士の肩にもフィーネがポンッと触れてまた光に包まれる。その光景に呆然としている騎士に向かって話しかける。
「もー……ソロキャン気分台無しだよ。まぁこうなったらしょうがないか」
今の状況をしょうがないと飲み込むフィーネ。散らばった食器を整理しながら意識のある騎士に話しかけた。
「その人このテントに運んで寝かせてあげたら? 寝る場所あるから自由に使って。それに食べ物もあるからこっちもいかが?」
「(ソロキャン? 台無し? しょうがない?)」
訳のわからない言葉に戸惑うが……それよりも先程、光に包み込まれた身体が妙に軽い。騎士が自分の身体の疲労が軽減され、ケガで血だらけだった痕や疲労蓄積がないことにハッと気づいた。
そして首もとでぐったりとした身なりのいい騎士に目を向けると重症で助かる見込みがなかった傷もきれいに治っており、すぅぅ……と寝息をたてて眠っている状態だった。
「うそだろ?なんで……」
さっきまで瀕死で死を覚悟していた。今の現実に驚きが隠せない。一方何をそんなに驚いているのか理解できないフィーネがもう一度声をかけてきた。
「ほらっもう早くしなよほらっ! せっかくのごはん冷めちゃうでしょ。これは焼きたてが一番なんだからっ!」
そう急かすとフィーネに言われるがままにもう一人をテントのベッドに寝かせ、もう一人を食事のそばに座らせると、騎士から見れば目の前には見たことのない変わった料理がたくさん並んでいる。
「体力は食べないと回復しないんだからね。あなたは今は遠慮せずに食べなさい。あの人の分はちゃんと後で分けてあげるから! さぁ」
強引な彼女に言われるがまま見慣れない食べ物をおそるおそる口にすると……
パクッ……
「うま……い!」
安心したからなのか危機が去り食事にありつけたからなのかホッとする騎士。騎士はフィーネが調理した料理を食べながら生きている実感を噛みしめていた。食事も終わりしばらくして騎士がフィーネに話しかける。
「本当にすまなかった。あのままでは私達は命を落としていただろう。あらためて礼を言う」
ぺこりと感謝をする騎士。身長は約178cm、髪はロングヘヤーで透き通った銀髪、それに薄い水色の瞳が印象的。右目は右の前髪が隠しており神秘的ないでたちであり、女性のような綺麗な顔立ちをしている。
「私はフィーネ旅人よ。あなた達は何をしていたの?」
「私はグランディール王国の騎士シオン・ルドネル。テントに助けて頂いたのはこの国の皇子グラン・エルフォート・グランディール殿下だ」
どうやら二人はグランディールという国の騎士と皇子らしい。
「私達はこの新翼の大森林に魔物討伐の依頼を受け最奥までやってきたんだ」
シオンは経緯を話す。シオンの言葉を聞きながら初めて聞くこの場所の名を口にしてみた。
「新翼の大森林って言うのここ?」
今いる居場所なのかと聞きなおすとシオンは頷く。
「この大森林の奥には大樹と呼ばれる不思議な木が存在していて、その周りに巣食う魔物を討伐するのが我々グランディール王国の騎士団の役目なのです」
シオンいわく魔物が増えすぎると大樹に危害が及ぶ可能性があるため、代々グランディールの騎士が魔物討伐をし魔物が増えすぎないように管理しているのだ。
だが近年凶暴な魔物が増えてきており討伐は苦労していたようだ。そこへ規格外のグリズリーキングの襲撃。部隊も二人を除き全滅し残ったのはシオンとグランのみだという。
飲み物を飲みながら話を聞いていたフィーネ。
「へぇ~でも……その魔物もあんまり強そうな感じではないんだけどなぁ……」
先程倒したグリズリーキングを横目で見ながら視線をシオンに戻す。
「まぁ……魔物は意外と美味しいから狩るのはキライじゃないし私で良ければ少しくらい力になってもいいよ?」
あっけらかんとしているフィーネに動揺を隠せないシオン。アレを見て……グリズリーキングを見て強そうじゃないなんて……
ガサガサっ!
「シオン……」
ガサガサとやってきたのはテントで先程休ませた皇子殿下だった。髪が光に当たると紫にも見える、あまり髪が長くない黒紫髪を持ち濃紫の吸い込まれそうな瞳をした男。身長はシオンと同等だ。男性にシオンは慌てて声をかける。
「グラン殿下お体は?」
瀕死の重傷だった体調を心配するシオンに、
「大丈夫だ。あれから何があった……この方は?」
少しふらつきながら二人がいる場所へやってくる。シオンがグランに今までの経緯を説明をする。大森林の最奥で魔物の襲撃にあい、致命傷を受けて命からがらここへ辿り着き、フィーネに手当と休息をさせてもらっている事。またグリズリーキングをフィーネがいとも簡単に倒してしまったことを告げる。
「そんな……凶悪なグリズリーキングをこの少女が倒しただと‼」
動揺を隠せないグラン。だがそれも無理はない。この純粋無垢そうなしかもかなりの軽装の彼女が凶悪な魔物を一撃で倒しただなんて……額に手を当てて考え込んでいる。
「………すまない。状況がうまくのみこめないが……あの死体をみると事実なのだろう。シオン共々世話になった」
グランが礼をいうそばからフィーネはいそいそと食事を用意しており、ズイッとグランの目の前に食事を持ってきて振る舞う。
トントントンッ
「これは?」
「はいっ! まずは傷は治せても食べないと体力は回復しないから食べて寝てください。そのテント使ってもらっていいですから。まずは食べて休息しましょう」
ズイッと野菜や魚が盛られた器を並べ、器を手渡され受け取るグラン。温かな食事を口に運ぶと身体を癒やしてくれる。
「うまい……」
しっかりとした食事をグランが口に運ぶ姿を見てフィーネは一安心する。グランが周りを見渡してからフィーネに問いかける。それはテントは一組しかないからだ。
「私達にテントを貸してフィーネは一体どこで寝るんだ?」
テントを男性二人で占領するのが忍びない。それに若い女性と一緒に寝るのは、特に未婚の彼女に失礼ではないのか?
また大森林の中だからこそ油断すると魔物に襲われる可能性だってある。グランとシオンは見張りも必要だろうと心配していると……意外な言葉が返ってきた。
「あっ私の事は気にしなくていいですよ。これから用意しますし……」
そう言うと先程のテントの横を指さして……
「(フカフカ布団とテント)えいっ!」
ポンッ!
「なんだ⁉」
二人はは驚き戸惑っている。……あっという間にテントや布団が目の前に現れたからだ。驚いている二人を目の当たりにし不思議そうに見つめているフィーネ。
「ねぇ二人共どうしたの? さて衣食住は大事だから早めに寝てくださいね~」
そういうと用意したテント入口をめくり入ろうとすると言い忘れていたことがあって振り向く。
「あっ魔物避け使ってますからぐっすり眠れるので、気にしてた見張りは不要ですよ。警戒しなくて大丈夫だからね~。じゃあおやすみなさい~」
「はっ? 嘘だろ……見張りはいらないだと?」
驚いている二人をよそにフィーネはテントの中に消えていってしまった。若く天真爛漫で規格外なフィーネに、しかも見たこともない魔術師をポンポン使える……それに二人は面食らっていた。
「フィーネは……これほど高度ですごい魔法を使えるのか! しかも……無詠唱に見たこともない魔法まで……」
「一体何者なのだ? このような魔法も見た事もない……」
二人にはフィーネとの出逢いは衝撃的なものだった。だがまずはフィーネの言われた通り疲れた身体を癒やす為、遠慮なく休ませてもらう事に。用意してもらったテントでつかの間の休息を取る。
チュンチュンッ……
朝日がサァっと木々の間から差し込み、ふわっといい匂いが鼻をくすぐる。美味しそうな匂いと共にグランとシオンが目覚め、テントを出ると食事の準備が終わったフィーネが二人を待っていた。警戒心を解いて深く眠りについたのはいつぶりだろう……かなり身体が軽かった。
「おはようよく眠れた? さっ温かいうちに食べよう」
机に温かな食事が並んでいて二人が席につき食事をいただく。
(ぱくっ)
「これはうまい⁉」
「昨日も思ったが……すごくうまい。何か特殊なものでも入れてるのか?」
シオンは不思議に思って訪ねた。これほどまでの料理は王都でもなかなか食べることはできないくらい美味しかった。そして材料が揃いにくい遠征では体験できない不思議な味付けだ。
「んー……」
頭をこてんと傾けながらちょっと考え込んだフィーネ。
「やっぱりわかんないや。だって別にその辺で狩ったホーンキャネットとか釣った魚とかだし、特別なことはしてないかな?」
思い当たるふしがないフィーネ。
「王都でもこんな食事は食べられないから貴重だな。フィーネは何でもできるのだな……食事の味付けもうまい!」
つぶやく二人を不思議そうに見つめる。そんなに特別なことはしてないのに……
「えっ普通魔法とかこんなのじゃないの? 私はいたって普通だよ(笑)」
にこやかに笑うフィーネに対して二人は無言で硬直する。その反応に違和感を覚えるフィーネ。
「……あれっ……これってそんなに変なの? 普通じゃないの?こうやって魔法使うのって」
二人の反応にちょっと困惑するとため息をつきながらシオンが口を開く。
「まず……魔法は無詠唱でポンポンッとだすのは初めて見ましたね。それに……それを簡単に実行しているがかなり高度な技術をフィーネは使用しています。王都にもそのような者は見た事はありませんよ」
「あははは………」
あははは……んー確かにそうだよね。自分の思ったものを『創造』どおりにとかチートすぎるよね……よそではポンポンっとだすのは自粛したほうが良さそう!うん……人に出会うと勉強になる!いい情報だなぁ~とフィーネが考えていると、
「フィーネはなぜこんな大森林にいるんだ?」
そう二人は不思議でならない事がこれだ。
大森林は魔物の巣窟。さらに若い女性一人で生き抜ける場所ではないので当然の指摘だ。ただフィーネは普通の女性ではなかった。
「えっ! だってここは自由だし……自分のしたい事ができるじゃない? 大森林には好きでいたかな? (笑)ふふふっ」
ふふふっと無邪気に答えるフィーネに驚く二人。
「(おいおい笑い事じゃない……)普通は凶悪な魔物がいる大森林に女性一人で生き延びるなど考えられないが……。だがよほどの自信があるのだろう。いや実力はアレを倒すくらいだ心配はないが……」
二人が妙に納得しようとしていたがフィーネが口を開きながらつぶやく。
「ん~でも私はここしか知らないから外の世界知らないのよね。ここで過ごした経験しかないからなぁ……」
「ここ以外で過ごしたことがない?」
二人にはフィーネは大森林以外を知らないことを説明すると、事情を聞いて二人は真っ青な顔をしていたがこのまま大森林にフィーネを置いていくわけにもいかず声をかけてみた。
「もしフィーネがよければ、一度王都に来てみないか? 助けてもらった礼もしたいんだが」
グランの提案に少し悩むフィーネ。それはまだ大森林に来て一週間も経っていないしソロキャンプも満喫したい気分があったからだ。
でも先程ここには人が訪れる環境ではない事。そして人に出会わなければ人里に行くこともその機会もないかもしれない。少し悩みはしたが、まっ……嫌になったらまたここに来ればいいか。そう楽観的に思い巡らせ返事をする。
「王都行ったことないから……よかったら案内してもらえると嬉しいかな」
フィーネの返事を聞き早速王都への準備をする。テントやいろんな物の片付けにかかり二人が物に触れようとすると、
「あっ……そのまま置いといて大丈夫だから!」
と言ってフィーネは指をさす。ほんの一瞬だった。
「さてっぜーんぶ収納! 草木も元に戻れっ!」
(!)
ポポンッ ブワッ
テントや道具は消え設置されたところには草木が生えキャンプした形跡は全くない。草木を生やし跡形もなくならせる魔法に目が点になる。
「すごい技術ですね。滞在した形跡すらないとは……フィーネは一体どこの方なんでしょうね」
魔法に自然を操るフィーネ……驚きっぱなしの二人。自在に魔法を操る魔女? すべてを癒やす聖女? 屈強な狩人?
何でもできるフィーネとは一体……そう思っているうちにどうやらフィーネの支度が整ったようだ。
「準備できました! さぁ行きましょう。二人共お願いします」
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