5 / 5
手を伸ばす
しおりを挟む「まるで呪いだな」
つがいという概念のない遠い国からきた男は、俺の両親をみてそう言った。
当時の俺は社交界でも仲が良いと評判な両親を侮辱されたと思いひどく怒ったが、当の本人たちはむしろ納得した様子で、興味深げにそいつの話を聞いていたのを覚えている。
この世界において"つがい"とは、主に二つの意味をもつ。
一つ目は契った夫婦の意味。
二つ目は、"運命の人"の意味
その存在に会ったことのない人間は皆口を揃えて『恋愛小説の見過ぎだ』と笑うが、経験側、それはロマンチックを語れるような美しいものでは決してない。
まず大原則として、本当の意味でつがった……契りを交わした番同士は、番以外の人間と性行をすることはまずできない。
元々はかみ合うことのなかった魂でも、1度契約を交わしてしまえば、身体がつくりかえられ、お互いがお互いのモノになってしまう。
例えば政略的な意味で婚姻を結んだつがいの片割れが、契ったあとに"運命"を見つけてしまったとしても、その運命と性的接触をしたり、契り直したりすることはまず不可能だ。
つがった者同士とは、一生添い遂げなくてはいけない。もちろん愛人として複数人を囲うことも不可能だ。
さて、問題は赤の他人と結ばれる前に幸いにも運命と出会うことができた時の話だが───
運命のつがいは、出会った瞬間に魂が融合し、共鳴する。
片方が死ねば片方が死ぬ。
片方が狂えばもう片方も狂う。
辻褄合わせのように、互いが互いにとって都合が良い存在になるように。
まるで天秤のようだ。
大昔のバカな俺たちへの神からの贈り物。
その均等を崩そうとすることは、神に逆らうことに等しい。
豊かな生活を送っているにも関わらず貴族の平均寿命が平民より6年も短いのは、政略結婚後につがいと出会い、心中する番が多いからだ。
どんなに恋い焦がれても、自分の身体の仕様が勝手に変わってしまったせいで、一生片割れに触れることのできない自分自身に絶望するからだ。
元々は一対のものだったのだから、運命を見つけることは意外にもそう難しくないとされている。だが、その出会いを待っていられない立場にいる人間は意外と多い。
なるほど、あの頃は幼くてわからなかったが、今思えばこれは確かに呪いだ。
神のエゴでつくられた偏愛の結晶だ。
暖かい陽だまりの下で眠る。
久しぶりに満ち足りた気分だった。
薄目をあけて、その眩しい存在に向かって片手を伸ばす。
「ハイド……ハイドリヒ」
少しカサついた頬に指先が触れた途端、眩しい存在が大きく目を見開くのがわかる。
その視線に当てられただけで、簡単にこの均等がまだ崩れていないのを理解した。
ああ、お前は、俺がよく知っている方のハイドか。
泣いてんじゃねえよ、泣きたいのはこっちだ。
偽物のくせに期待させるような顔しやがって。なんで今世も俺に執着しているんだ。
お前が突き落とした狂気の渦から、何度もみっともなく手を伸ばしてお前を殺そうとするのに、お前がそんな顔してるせいでこちらに引きずり落とすことすら躊躇ってしまう。
なのにお前、あろうことか自分から俺のところに飛び込んできただろう。
馬鹿な奴。いつか俺がお前を殺す前に"本物"が現れても、絶対に心中なんてさせねえからな。
お前の目の前で、その本物を殺してやる。
355
お気に入りに追加
506
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(3件)
あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました
かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。
↓↓↓
無愛想な彼。
でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。
それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。
「私から離れるなんて許さないよ」
見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。
需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。
いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。
エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。
俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。
処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。
こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…!
そう思った俺の願いは届いたのだ。
5歳の時の俺に戻ってきた…!
今度は絶対関わらない!

悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

嫌われ者の僕が学園を去る話
おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。
一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。
最終的にはハピエンの予定です。
Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。
↓↓↓
微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。
設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。
不定期更新です。(目標週1)
勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。
誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

今世では誰かに手を取って貰いたい
朝山みどり
BL
ノエル・レイフォードは魔力がないと言うことで、家族や使用人から蔑まれて暮らしていた。
ある日、妹のプリシラに突き飛ばされて、頭を打ち前世のことを思い出し、魔法を使えるようになった。
ただ、戦争の英雄だった前世とは持っている魔法が違っていた。
そんなある日、喧嘩した国同士で、結婚式をあげるように帝国の王妃が命令をだした。
選ばれたノエルは敵国へ旅立った。そこで待っていた男とその日のうちに婚姻した。思いがけず男は優しかった。
だが、男は翌朝、隣国との国境紛争を解決しようと家を出た。
男がいなくなった途端、ノエルは冷遇された。覚悟していたノエルは耐えられたが、とんでもないことを知らされて逃げ出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
はじめまして こんにちは😊こちらの作品を見つけ拝読させて頂き 本当っに続きが読みたいです‼️
宜しくお願い致します😭🙇🙇🙇
続きが気になりすぎます!!
めっちゃ面白いです!続きはありますか??😭💦主人公が亡くなったあとのハイドの様子が気になりました!