ボクはうさぎのぬいぐるみ

白井しのの

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ルートF(フェアリー)

二十二話 残酷非道

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「私たち幼馴染でしょ……? ずっと一緒だったでしょ……? 私はかれんちゃんの事……大好きなんだよ……?」

 しずくの顔は目から溢れる雫で濡れていた。
 僕はしずくの泣き顔が目に入ってきて我に帰る。

「な、なんだよ……わけわかんね……」

 かれんは走り出した。

「ま……待って、かれんちゃん……! ダメ……行かないでっ!!」

 しずくは右手をかれんへと伸ばす。
 その右手が何かを掴む事は無かった。

 しずくは心に大きな傷を負ってしまった。
 大好きな幼馴染に忘れられた。
 それがしずくの心に大きな傷を与えた一つの事実。
 しずくはその場に崩れ落ち、走り去るかれんに右手を伸ばし、ただ眺める事しかできなかった。

 僕はしずくにかける言葉が見つからなかった。
 だから。

「僕が行く。絶対にかれんを連れて戻る。事情を全部聞く。僕を、信じて」

 僕はしずくに微笑みかけ、急いでかれんの後を追う。

「待ってよかれん! しずくの事、忘れちゃったの!?」
「知らねえよそんなの! 着いてくんな気持ちわりぃ!」
「知らないわけないだろっ!? 幼馴染なんだから!」
「だからなんの話だよっ!? あたしに幼馴染はいねえっつの!」
「……は?」

 かれんは走ったまま路地裏の建物へと入っていった。

「記憶を消されたとでも言うのか……? それとも本当に、偽物の話が……」

 僕は意を決して路地裏の建物へと入る。
 中には灯りなど無く、長い一本道になっていた。
 暗がりの中をただ歩いて進む。

「かれんはこんな所で何を……」

 ゴンッ

「あ痛っ……! 壁? いや、ドアか」

 僕は鉄製のドアに当たったらしい。
 僕はそのドアを開き、中へ入った。

「な、なんなんだこれは……!」

 僕の目に飛び込んだのは薄明かりに照らされた無数の大型培養器。
 そしてその中一つ一つに、かれんが入っていた。

「全部……かれん……」

 数えることすら億劫になるほどの培養器に恐怖を感じながらも僕はその培養器の先に進む。
 培養器を抜けた先で、かれんを見つけた。
 かれんは誰かと会話していた。

「全く変なやつだったぜ」
「あらあら。それは大変だったわね」

 かれんと話しているのは大人の女性。
 どことなくかれんと似ている。
 かれんの母親、だろうか?

 僕は覚悟して話しかけた。

「あの、ごめんください!」
「お前、さっきの!?」
「あら……」
「僕、宇佐美つきみって言います。岬かれんさんのお母さんですか?」
「ええ。そうよ」
「僕は中学校でかれんと同じクラスです。かれんが行方不明になったので、探していました」
「だから知らねえっつってんだろ!?」
「僕の知るかれんに会わせてください!」
「はあ? 何言ってんだよ?」
「いいわよ」

 かれんの母親はあっさりと答えた。

「かれん。ここで待っていなさい」
「ど、どういう事だよ?」
「黙っていう事聞きなさい」
「…………はい」
「こっちよ、宇佐美つきみさん」

 かれんの母親は更に奥の部屋へと僕を案内した。
 その部屋には大型培養器が一つあった。
 そしてその中にもまたかれんが入っていた。

「これがあなたの知るかれんよ」

 かれんの母親の声で、培養器の中のかれんが目を開いた。

「つきみ! やっと会えた!」
「かれん!」

 僕は培養器越しにかれんと手を合わせる。

「かれん、どうしてこんな事に……?」
「あたしにも分かんないんだよ」
「かれんのお母さん!! これは一体どういう事なんですか!?」

 声を荒げる僕に動じず、かれんの母親は淡々と話す。

「この子はかれんの体細胞から生み出されたクローン。かれんが四歳の時、このクローンにかれんの記憶をコピーしたのよ。かれん二号ってとこかしら」
「クローンにコピー、やっぱりそうだったのか……」
「つきみ、ごめん……あたし本物じゃなかった……自分を本物だと思い込んでて……気持ち悪いよな……」

「何言ってんだかれん!! 僕と、そしてしずくと時間を共に過ごしたのは他の誰でもない君だろ!! 君がクローンだとかコピーだとかは関係ない!!」
「つきみ……」
「それに、しずくが泣いてたんだ。オリジナルの君がしずくを知らなかったから、誰だって言われて、それで泣いてたんだ。しずくにとってはかれんは無くてはならない存在なんだよ!!」

「しずく……が?」
「そうだよ!」
「ありがとう、つきみ。しずくがそんなにあたしの事を……それだけで嬉しいよ」
「あらあら。ここまで来ると気持ち悪いわね。偽物風情が」
「な……何っ!?」

 かれんの母親は舌を出して吐くような動作を見せた。

「この実験の目的は人間の魂はどこに宿るのか、あるいはコピーは自分を本物であると認識するのか、それともコピーであると認識するのか、とか色々あるけど……我が子の真似をされるのは不愉快だわ」
「真似だと!? ふざけるな! 双子みたいなもんだろう!? あんたの娘だろ!! 言っていい事と悪い事があるだろう!?」
「あらあら、女の子の癖に随分とイキがるのねあなた。死んでみるかしら!?」

 かれんの母親は鉄の筒を僕へ向けてきた。
 直後。

 パァン

 部屋中に響き渡る程の大きな音。
 同時に右肩に襲いかかる凄まじい痛み。

「うぐあっ……! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ……!」
「つきみっ! 母さん! なんて事を!?」
「母さんなんて呼んでんじゃないわよっ!!」

 パァン

 鉄の筒は培養器へと向けられ、培養器はは割れ、かれんの腹部に穴が開く。

「っあ゛あ゛っ!」
「か……れん……!」

 痛い。痛い。
 何だあの筒は。
 痛い痛い。
 あの筒は銃なのか?
 痛い痛い痛い。
 かれんも痛そうだ。
 痛い痛い痛い痛い。
 勝手に涙が出てくる程痛い。

 だが、今は。

「よくもかれんを撃ったなァァ!!?」

 ブチ切れるべき時だッ!!
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