ボクはうさぎのぬいぐるみ

白井しのの

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ルートF(フェアリー)

二十一話 仮想現実

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「やめてよ! 離して!」

 ボクは白衣の男に手を掴まれ、白いワゴン車の方へと引っ張られる。

 ここは……あの公園だ。
 お姉さんと出会った公園。
 ボクの手を掴んでいるこの男は誰なんだろうか。
 全く記憶にない。

「おい、君たち、手伝うんだ!」

 白衣の男が合図を送ると、ワゴン車の中からワイシャツを着た男が三人現れ、ボクを担ぎあげ、車へ乗せた。
 大声を出そうとしたが、一人の男に口を抑えられ、声を出すことができなかった。

 手足を縛られ、車で移動する事一時間弱。
 ボクは車から乱暴に降ろされ、歩けと命じられた。

 何かの研究施設。
 ボクはその中の一室まで歩かされた。
 その部屋には大きなベッド、手術台という言い方が正しいと思える形のベッドがあった。
 そして白衣を着た男が四人。

「うあっ!」

 ボクはベッドの上に放り投げられ、ベッドの上下にある枷に手足を拘束された。

「それでは早速始めようか。コピーを!」

 白衣を着た男たちはボクの頭を抑え、何かしらの装置を被せた。
 脳波を読み取るような装置。
 だがこの状況でそんな生優しい道具が出てくるとは思えない。
 この白衣の男、科学者はコピーと言った。
 この機械はボクの全てを読み取るつもりだ!

「助けて! 嫌だ!」

 一人の男が装置のスイッチを入れるとそれが始まった。

 脳内をけたたましい雄叫びを上げる猿ともゴリラとも言えぬ生物が目にも止まらぬ速さで駆け回る。
 身体中に雷で貫かれたかのような衝撃を受け、その感覚のまま固定される。

 音、光、味、臭い、圧迫感、熱。
 無限にも思える情報量。
 一瞬が永遠にも思えるこの地獄のような時間。
 ボクは堪らず叫んだ。

「あがががががががぎぃぃぃぃぁあああああーーーッ!!」

 直後、視界は暗転した。


 次に目を覚ますと「僕」は小学校にいた。
 それも僕の知っている学校ではない。
 教室の一番後ろの端の席。
 居眠りでもしていたのだろうか。

 チャイムが鳴り、周りの生徒たちはゾロゾロと教室を出ていく。

「僕も帰るか……何かすごい夢を見ていた気がするんだけど……何だっけ?」

 それから頭はボーッとしたまま日々を過ごした。
 六年生もあっという間だった。

 そして僕ももう中学生。

 入学式が終わり、各々が教室へと歩いてゆく。
 その道中、僕は二人の女の子と会話した。

「なあアンタ、ハンカチ落としたよ」
「えっ」

 振り返ると、赤みがかった髪の毛を持つ長髪の少女がいた。
 表情はキリッとしていて身長が僕より少し高い。
 僕は差し出されたピンク色のハンカチを手に取り、お礼を言う。

「あたし、岬かれん。ヨロシク」
「僕は宇佐美つきみ。よろしくね」
「おっ、僕っ娘じゃん。あたしも中々レアな友達できちゃったぜ、へへっ」
「えっ、僕は男だけど……」
「はぁ? 女子の制服着てんじゃん」
「えっ……」

 僕は自身の体を確認する。
 黒いセーラー服。
 周囲を見回すと、男子は学ランを着ている。
 恥ずかしさを覚えるが、疑問が勝った。
 なぜ僕は女子の制服を着ているんだろう?

「まあいいや、教室いかねーと怒られちまうかも。いこうぜ」
「う、うん」

 僕はピンク色のハンカチをスカートの左ポケットに入れる。
 僕はこんな色のハンカチを持っていただろうか?

 胸の内に浮かぶ疑問を掻き消し、歩き出そうとすると、後ろから声が聞こえた。

「いいなあ~」
「えっ?」
「私もかれんちゃんと話したかったな~」
「えっと、知り合いなの?」
「うん。幼馴染だよ~。でも素っ気ないんだ~かれんちゃん」
「そ、そうなんだ」
「あ、私湊しずく。よろしくね~」
「宇佐美つきみです。どうぞよろしく」

 僕は大きな違和感を感じながらも無事中学生の初日を乗り切った。

 僕の頭はまだ少しボーッとしている。
 五年生くらいから記憶が曖昧だ。
 僕って……女の子だっけ?

 僕は自分の顔を確認しようと、自然に男子トイレに向かう。
 入る直前、呼び止められた。

「おいおい、そっちは男子トイレ! 女子トイレこっち」

 振り返ると岬かれんがそこにいた。
 かれんは僕の背中を押し、僕を連れて女子トイレに入った。

「女子トイレに入ってしまった、男なのに」
「だから何言ってんだよ? ほら、鏡見てみ?」
「!?」

 かれんに鏡を指さされ、僕は鏡を見た。
 確かにそこに映ったのは僕の顔だった。
 だが同時に今の僕が男ではない事も理解できた。
 可愛くなっている。
 というか、男とは呼べない顔つきになっている。
 髪型は五年生の頃と殆ど変わっていないが、やはり顔立ちが女っぽくなっている。

「つきみは可愛いよ。羨ましいくらいね。男なんて言うやつがいたらあたしがぶっ飛ばしてやる」
「そ、そんな事ないよ……かれんの方がずっと可愛いよ。顔整ってるしキリッとしてて凄く魅力的だよ」
「なっ……!? あんたあたしを落とそうとしてるわけ? 全く……」
「あ、ご、ごめん」

 僕とかれんがそんなやりとりをしていると、かれんの右肩から女の子の顔が飛び出した。

「ひっ!?」
「私抜きで何を盛り上がっているのかな~? か・れ・ん・ちゃん」
「何だしずくかよ……おい、つきみを怖がらせてんじゃねえよ」
「えっ、ああ、ごめんねつきみちゃん」
「いやっ、大丈夫。ちょっと驚いただけ」
「確かに女子トイレで人の後ろから顔が出てきたら軽くホラーだよね~」
「軽く……?」

 僕たち三人は仲良くなり、それから色々な思い出を作った。

 映画、買い物、散歩、スイーツ……どんな事も二人と一緒なら楽しかった。

 だが。
 夏休みに入ってからかれんの様子がおかしくなった。
 急に変な事を口走るようになった。

「なあ、もしあたしが二人いて、今ここにいるあたしが偽物だったとしたら……どうする?」
「え?」
「ちょっとかれんちゃんどうしたの?」
「済まない。忘れてくれ……」

 僕もしずくもただ困惑する事しかできない。

 ある日かれんが失踪した。
 僕としずくは連日探したがかれんは見つからなかった。

 そして夏休みは終わり、九月がやってきた。

 僕としずくは暗い顔を隠しながらかれんについて話し合った。
 そして、僅かな情報を頼りにかれんがいるかもしれない場所を突き止めた。

 僕としずくはそこへ向かった。

「いた! かれんちゃん!」

 僕としずくはかれんを見つけた。
 だが。

「誰、あんたたち?」
「何言ってんのかれんちゃん!? どれだけ探したと思ってるの!?」
「は? なんであたしの名前知って……」
「え、いや……嘘だよね?」

 かれんの様子は明らかにおかしかった。
 まるで本当に僕たちを初めて見るかのような反応。
 これじゃ、まるで──。

『なあ、もしあたしが二人いて、今ここにいるあたしが偽物だったとしたら……どうする?』

 ドクンッ。

 体の底から寒気が湧き上がってきた。
 心臓は大きく脈打ち、その寒気をハッキリと僕に感じさせる。

 恐怖。
 それも、得体の知れない恐怖。

 僕はその恐ろしい感覚に飲まれてゆく。
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