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ルートF(フェアリー) ※十話から分岐

十七話 ボクの怒りが限界を超えました。

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 ボクは魔剣を向けるメカを睨みつけながら話す。

「死にたいなら死にたいって言いなよ。ボクをここまで怒らせたらどうなるか。ボクに恨みを抱いている人間なら、これくらいは分かるはずだよね。キミはそれを分かっていてやった。ならキミは当然死ぬ覚悟が出来ているはず……なら、何の問題もないよね。宣言しよう。ボクは必ず君を殺す。この幸せの妖精にここまで明確な殺意を抱かせたのだから大したもんだよ。君にはそれだけの理由と覚悟があるんだよね? どうしてもボクを殺したい理由、どうしてもボクを怒らせたかった理由。自分が殺される覚悟までせざるを得なかった理由。ボクが原因みたいに言ってるけど、ボクには全く心当たりがない。恋愛に関する恨みを抱かれる心当たりはあるよ。少し冷静になって考えれば分かるから。側からみればボクは女たらしだ。でも、だからと言って殺されるまでの事をした覚えはない。つまりこれじゃない。その他の事も色々考えてみたけど、やっぱり心当たりは無いんだ。だからね、二つの可能性を考えたんだ。一つは君の勘違い。これならボクに心当たりが無くても辻褄は合う。でもこれだと状況と食い違っている部分が一つある。君は明確にボクの名前を口にしている。なのに勘違いだと言い切るのは無理がある。つまり君の勘違いだという可能性はない。だから消去法で結論はもう一つの方だ。もう一つの可能性はボクの記憶が消されているという事。ボクをここまで明確に恨んでいるヤツがいるのにボクにはその心当たりがないなんて事、絶対にあり得ないよ。そしてボクの記憶が消えている理由にはいくつか心当たりがある。ボクがこの体になる前の最後の記憶は昨日寝たところまで。つまりそれ以降に何かがあってその記憶が消されたとするのならボクからすれば最も自然な形。でもこれにも不可解な点がある。人が寝てから目が覚めるまでの数時間で人からここまで恨まれるような事をボクがするとは思えない。そもそもボクにはそんな事をする理由がないし、あったとしても絶対にやらないよ。ただ、他に気になっている事はあってね。横穴で見たボクの記憶そっくりの出来事の茶番劇。ボクの記憶と似ているだけかと思ってたけど、もしボクの記憶が消えていて横穴で見た事が真実なら、君がボクを殺そうとする理由は何となく想像はつく。正直に答えてくれるかな。君はボクなんじゃない?」

 ボクの長い言葉と質問を聞いたメカはニヤリと笑い、ボクに向けていた魔剣を下ろして答える。

「その通りだよ。僕はキミだ。正確には小学五年生のキミのコピーだ。でも僕は自分を宇佐美つきみだと認識している。つまり本心ではこの僕自身をコピーだとは認める事はできていない。科学者に拉致された後、僕はある場所で生きる事を強制された。そこから脱出するまで二年かかったよ。そして真実を知り、オリジナルのキミがのうのうと生きている事が分かった。なんでキミがボクやってんだよ? ボクなのは僕のほうだろ? 僕が宇佐美つきみなんだよ。僕にはキミにはない壮絶な戦いの二年間の経験がある。それは本物の人生経験だ。平和に生きてきたキミなんかとは訳が違う。生きる事はただ幸せに穏やかな日々を送る事じゃない。苦しさや悲しみに心を壊されながらも戦い続ける事なんだ! どれだけ戦いから目を背けたくても、悲しいほどに冷たい現実がいつも目の前にある……戦いから逃げることなんかできないんだ。僕はそれを知っている。地獄を嫌と言うほど味わった。そんな僕は本物だ、僕が本物なんだ! コピーだとしても僕は生きている! 何の努力もせず修羅場も経験していないキミがオリジナルとしてただ平和に生きていると腹が立つし邪魔なんだよ! だから僕はキミを死ぬほど殺したくて堪らない。キミを倒して僕が本物である事を証明する、そう言う事だ!」

 メカの言葉を受けて、ボクは不満を口にする。
 思っている事をそのままに。

「だからと言ってレアルを殺す必要はなかったよね? ボクが憎いならボクを殺せば済んだ話だ。自分が味わった地獄を人にも味わわせようとした時点で君はもうボクじゃない。そして実際に命を奪った。君はただの殺人鬼だ。それにボクは君がレアルを殺しさえしなければ君に生きていてもらってもよかった。オリジナルだとかコピーだとかそんなのはどうでもいいよ。それぞれ別の道を歩んだボクが二人いる、それだけで済んだ話。でもレアルを殺した時点でボクと和解する事はもうなくなった。改めて宣言しよう。ボクは君を殺す。君を完全にこの世から消し去る。必要以上に苦しみを与えようなんて思わない。今のボクに出来る全力で君を殺す。レアルのためにも、君という悪を一秒でも早くこの世から永久追放する。勿論覚悟はできてる……よね?」

 ボクは歪んだ笑顔を見せ、両手にフレイムスフィアを出現させた。
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