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ルートF(フェアリー) ※十話から分岐

七夕特別編 近い未来の日常

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 今日は二○二五年の七月七日。所謂七夕。
 願い事を短冊に書いて飾る日。
 織姫だとか彦星だとかそういうのはボクはよくわからないけど、人の願い事が顕になるのは面白いと思う。

 また一つ、このロゼオペラ街の笹の葉に短冊が飾られる。
 この短冊文化はラミィという冒険家によって持ち込まれた文化らしい。
 恐らくその冒険家は日本からこの世界にやってきたのだろうとボクは察した。

「彼女ができますように、魔法少女ロマと結婚したい、アオノ様ともっとイチャラブしたい……うわぁ、これは誰が書いたかすぐに分かるなあ。マリーニーズの海鮮料理を腹一杯食べたい、お金持ちになりたい、胸の穴が少しでも早く塞がりますように……これ受付のおじさんしかいないじゃん」
「何やってんだサラ」

 ボクの背後から声をかけてきたのはアオノ。
 アオノは髪の毛をオールバックにして固めていた。

「みんなの願い事を見てたんだよ。それよりアオノこそ、どうしたのその髪型」
「ああ。あいつがちょっとしつこくてな。変装だ変装」
「ボクはすぐに分かったけど?」
「あいつなら気づかないかもしれないだろ」
「そうかなあ? 好きな人が髪型変えたくらいで分からなくなるもんかなあ?」
「気休めでもオレは……うわっ、アオノ様ともっとイチャラブしたいって……あいつじゃねえかっ! こんなとこに欲望丸出しにしやがってっ!」
「まあそれが七夕だからね」

 その時、背後から見知った少女の声が聞こえてきた。
 アオノは青い顔をしながら振り返る。

「うっひょー! アオノ様がオールバックにしてるっす! かっこいいっす! パネェっす! 最高っす! 七夕の願いが早速叶う予感っすかぁ!?」
「うわっ! やめろ! くっつくな!」

 声の主はボクたちより一つ年下の少女マルファ・メリーベル。
 茶色の癖っ毛と活発な性格が特徴の少女でアオノの恋人だ。

「やっぱり裏目に出た……このパターンにももう慣れちゃったなあ。アオノも表面上は否定してるけど、満更でもなさそうなんだよなあ。まあ中学生の恋愛ってこんな感じではあるけど……よし、幸せの妖精サラとしてひと押ししてあげよう。おりゃっ」

 ボクはアオノを後ろから押し、マルファの方へ倒れ込むようにする。

「あっ」

 アオノとマルファの唇が重なった。
 ごめんアオノ、ちょっと勢い強過ぎたみたい。

「ア、アオノ様っ……!」
「わ、悪いマルファ……」

 マルファは先ほどまでの活発さを失い、顔を赤らめている。
 アオノも顔を赤らめつつ、それを悟られないように必死に表情を抑えている。

「いやあ青春ですな」

 そこに現れたのは受付のおじさん。
 最初に会った時より胸の穴は小さくなっている。

「やあおじさん。今日は休み?」
「ええ。今日は有給が取れましてな。代わりにクロノが仕事をしてくれております」
「な、なるほど、兄さんが来てるのか! じゃあちょっくらからかいに行ってくるかな!」
「それならあたしもいくっす!」
「お前少しは空気読めよっ!」

 クロノはアオノの兄で、黒髪に黒い瞳の色白イケメン。
 アオノと違い、実家で長い間厳しく育てられたため、アオノよりずっと強い。

「あれっ? この短冊もしかしてクロノが書いたんじゃない?」

 ボクは一つの短冊を指指す。
 そこには「魔族が爆笑しながらくしゃみが止まらなくなりますように」と書かれていた。

「これは間違いないな。こんなふざけた内容かつ鬼畜なのは兄さんしかいない。でもちょっと見てみたいな、爆笑しながらくしゃみが止まらない魔族」
「確かに。そんな光景見ちゃったらボク三時間で腹筋割れちゃうよ」
「お前妖精だけど腹筋とかあるのか?」
「モノの例えだよ」

 一年にも満たないボクの戦いが終わってからこの世界は本当に平和になった。
 でも今日、また何かが始まる予感がした。

「ぬああああっ!? どいてくれええっ!!」

 突如空から聞こえた謎の声にその場にいた全員が上を見上げる。
 ボクの体の上に何かが降ってきた。

 ボクの体がクッション代わりになり、降ってきた何かは無事に着地したようだった。

「うわっ、やべぇ潰しちまった……!」
「サラァァァァ!? ペッシャンコじゃねえかっ!」
「大丈夫だよ。妖精は死なないから。凄く痛いだけ……」
「それだいじょばなくないっすか?」
「悪りぃぬいぐるみ! いや、ぬいぐるみ……か?」

 ボクの上に乗っているのは濃い桜色のセミロングの髪の少女。
 そして次の瞬間、薄紫色のベリーロングの髪の少女が空からふわりと降りてきて着地した。
 その少女はボクの上に乗っている少女と同じ顔をしていた。

「もう何やってんのしろ……じゃない、お姉ちゃん。あー可哀想」
「ぐうの音も出ねぇ」
「それより何で空から降ってきたの?」

 ボクは体を元のふわふわに戻して尋ねると、濃い桜色の髪の少女は答えた。

「ああ、それが……大技を撃った影響で時空に穴が空いちまったみてぇなんだよな。で、その穴に吸い込まれちまってここに来たんだ」
「へえ、そうだったんだね。あれ? どこかで見た事あるような……あ! そうだ、トマーヤに飾られてた銅像のラミィそっくりだ!」
「は? あたしの銅像? あいつマジで作りやがったのか……完成予定は二ヶ月後とか言ってやがったのに」
「二ヶ月後……?」

「まあまあ落ち着いてよお姉ちゃん。とりあえず土下座で謝らないと」
「とりあえずで土下座ってお前な……ん? 短冊か? こんな時期に? 異世界で? 意味わかんねえ……」
「書いていこうよお姉ちゃん。土下座はちゃんとしてね」
「……はいはい」

 ラミィは見事な土下座を見せると短冊に願いを書き始めた。

「短冊なんて何十年振りだろうか……よし書けた! 我ながら完璧すぎて恐ろしい」
「私もかけたよ」

 ラミィが書いた願いは「この世界が超面白くなりますように」で、その妹が書いたのは「世界平和」だった。

「本当はこんな事してる場合じゃないよね、お姉ちゃん? 次の目的地まで競争!」
「うわっ! こらっ! 待てよ!!」

 ラミィとその妹は走り去っていった。

「平和で超面白い世界。それはここにあるんだよ。日本からの転生者ラミィさん」

 この「少し先の未来」の世界で、ボクは自信満々に微笑んで彼女たちを見送った。
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