ボクはうさぎのぬいぐるみ

白井しのの

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ルートF(フェアリー)

十二話 魔族は相当嫌われているようです。

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 北門から出て三百メートル以上進んだところでボクはレアルを下ろし、呼吸を整える。
 正常な呼吸に戻るとボクは空に向かって話す。

「ミルクウィードさん! 見てるんでしょ?」
「はい。あなたの事はいつでも見守っていますよっ」

 案の定ミルクウィードさんが答えてくれた。

「ものすごく気分が悪い事があったけど、これは何なの!?」
「お察しの通りです。魔族は人間にすっごく嫌われています。それこそ差別と呼べる程に」
「どうして!」
「過去に魔族が人間を滅ぼそうとした経緯があるからです」
「なるほどね。で、ボクは正しかったの? 間違ってたの?」
「あなたが正しいと思っているのなら、それは正解です。何故ならあなたは幸せの妖精なのですから」
「……」

 ボクはため息を吐くと、ミルクウィードさんにもう一つの質問をする。

「ボクが振り撒く幸せって人間に対してだけじゃないとダメなのかな?」
「そんな事はありませんよ。念を押しますが、あなたが正しいと思う事が正解なのです」
「……ありがとうミルクウィードさん」

 ミルクウィードさんとの会話を止め、ボクはレアルに話しかける。

「ボクは魔族があんなに嫌われているなんて知らなかったけど、それなのにどうやって君はあの街に入ったの?」
「行商人の荷物に紛れて入った。ぼくは普通の方法じゃ入れない……魔族はどの街にも入れないし、お金があっても物を買えない。お金が無くても働けない。だからゴミを漁ったり隙を見て盗むしか食べ物は手に入らない」
「そっか……そっか。ボクのお父さんが言ってたんだ。『確率は収束する』って。ボクには何の事だかよく分からないけど、悪い事があった後には必ずいい事が起こるって事だとボクは思う。レアルはずっと苦しんできた。ならここからはいい人生が待ってるはずなんだ。そしてそれはきっと、ボクが与えるべきなんだと思う。ボクは幸せの妖精だから。それに人間が魔族を嫌うなら、誰かがレアルを幸せにするなんて期待できない。期待しろなんて残酷な事言えないよ。ボクは君を必ず幸せにしてみせる。この世界の全てが敵でも、ボクだけは君の味方だ。これからも、この先も」

 ボクはレアルにギュッと抱きついて笑いかけた。
 レアルは涙を流しながら弱々しくも抱き返してきた。
 ボクはレアルの背中を摩りながら、よしよし、と何度も繰り返す。

「グルル……」
「!?」

 突然左の耳元で獣の唸り声が聞こえた。
 視線を左にずらすと、そこには見るからにヤバい犬型の化け物がいた。
 両目は本来あるべき位置から半分ほど飛び出しており、外側に向いている。
 明らかに正気じゃない。
 顔の大きさから推測するに、その大きさは全長五メートルはくだらない。
 
 そしてこの犬はそもそも生きているのかどうかすら怪しい。
 獣臭さというよりは何かが腐ったような酷いにおいと寒気にボクの体は支配される。

 こいつはどうやってこんな一瞬でボクのすぐそばに現れたんだろう。
 唸り声がするまで、風も音も無かった。
 何かが起こる予兆なんて全く無かった。

 どうして、どうして、どうして!

 怖い、怖い、怖い。
 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い……怖い。

 でも、ボクがやらなきゃ。
 ボクがレアルを守らなきゃ。

 ボクは両手にフレイムスフィアを発動すべく魔力を集中させた。
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