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一話 どうも、うさぎのぬいぐるみです。 ※加筆修正アリ

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 ボクの名前は「宇佐美つきみ」です。
 十三歳の中学生です。
 現在、うさぎのぬいぐるみの姿で異世界にいます。

 え? 何を言ってるのかって?
 ボクにもよくわかりません。

 事の始まりは昨日に遡ります……。


 二〇二四年 九月十七日

 二学期も始まり中学生である自覚もしっかり芽生えた頃。
 ボク、宇佐美つきみは明日の授業の準備を終え、ベットに入る。
 勿論寝る時はお気に入りのうさぎのぬいぐるみと一緒。

 この白いうさぎのぬいぐるみの名前は「サラ」。
 ロップイヤーが特徴で、両手で抱えられる全長四十センチメートルくらいの可愛い顔をしたぬいぐるみ。
 ボクが小学五年生の時に近所の公園で出会ったお姉さんからもらった。
 そのお姉さんはとても綺麗な人で、その日は一日中遊んだっけ。
 お姉さんは別れる瞬間、どこか遠くの世界を見るような浮世離れした顔をしていた。
 あのお姉さんは元気だろうか。

 当時、両親はこのぬいぐるみを見て、ボクが男の子なのに少女趣味になっちゃったって少し騒いでたけど、今では特に何も言われない。
 ボクがあまりにも幸せそうな表情だったから途中からいいやって思ったみたい。
 ボクは男の子だから表立って言ったりはしないけど、元々可愛い物が好きだ。
 このサラちゃんを抱いて寝ると、お姉さんと一緒に寝ている感じがして、とても安心する。
 不思議とサラちゃんを少し強めに抱きしめるとほんのり温かさを感じる。
 この温かさは夏も終わって涼しくなり始めたこの時期にピッタリで重宝している。

「明日は水曜日、家庭科があるなー」

 ボクは毎週水曜日の三、四時間目の家庭科の授業が大好きだ。
 家庭科の授業では裁縫や料理を行う。
 ボクは裁縫も料理も好きで得意。
 家庭科を担当する先生もとても優しくてお母さんみたいで大好き。
 家庭科の授業中はいつも心がふわふわ幸せ気分になる。
 裁縫の時、くまのぬいぐるみを作って、それが先生に褒められてとても嬉しかったな。
 そのくまのぬいぐるみは部屋のインテリアの棚の上に飾られている。
 ボクはそのくまのぬいぐるみに視線を送り、微笑んだ。

 ボクはその時の幸せな気持ちを思い出しながら、深い眠りについた。


 どれだけ長い時間眠っただろうか。
 九時間か十時間か、いつもより長く眠ってしまった気がする。
 それなのにも関わらずこんなにも眠い。
 身体中がふわふわして思うように動かせない。

「幸せの妖精さん、幸せの妖精さん、この世界に幸せをもたらしてください」

 誰かの声が聞こえる。女性の声だ。
 ボクの脳は今ボクがいる空間を薄明るい黒っぽい空間だと認識している。
 意識がぼんやりしているからか自分の目が開いているのかどうかすら分からない。
 これは夢なのかな。

「幸せの……妖精? 何それ」

 ボクは固い口をゆっくりと動かし、疑問を口にする。
 そう、ボクの耳に聞こえてきたのは「幸せの妖精」という単語。
 それがボクのことを指しているのか、それとも他の誰かを指しているのか。
 今の虚ろなボクにはそれすらも判断する事はできない。

 それに答えたのは先ほど聞こえた女性の声。
 とても透き通るような声で、何だか懐かしいような感じ。

「あなたの事ですよ。あなたは幸せの妖精サラ。私たちの世界に幸せをもたらす者」
「ボクが幸せの妖精サラ? サラ……? ん? んん!?」

 ボクは自分の両手を見る。
 ボクの両手は真っ白で短く、そして手のひらはぺったんこになっていた。
 ぺったこんな手のひらで自分の顔や頭をペタペタと触って形を確かめる。
 普通ではあり得ない事がボクの身に起こっている。
 この形は……まさか。

「ボクぬいぐるみになってるううっ!?」
「正確にはぬいぐるみではありませんが、まあ似たようなものなのでそれでおっけーですよ。私が見えますか?」

 その一言で今までぼやけていた声の主の姿がはっきり見えた。
 美しい金髪の女性。
 五年生の頃出会ったあのお姉さんによく似ている。
 けどあのお姉さんではない事は分かった。
 あのお姉さんとは少し顔付きが違う。

「あなたはボクが五年生の時に出会ったお姉さんの姉妹か何かなの? 凄く似てるけど」
「五年生の時に? いいえ、私に姉妹はおりませんよ。お姉ちゃんがいて欲しいなーと思った事はありますが」
「そーなんだ。で、これは夢? にしてはリアルというか、色々考えたり自分の意思で動いたりできるし……」
「ふふっ、夢ではありません。ここは紛れもない現実……とは言っても、あなたがこれまでいた科学の世界とは違う世界ですが。これからあなたには私たちの住むこの世界で、色々な人に出会って、幸せを与えて欲しいのです」
「この世界って……」

 ボクと金髪の女性以外の物、風景なんかはここまで何一つ見えなかった。
 でも次の瞬間。
 ボクは空に浮いていた。
 それと同時に金髪の女性は両手をいっぱいに広げ、声を張り上げた。

「ここはミルフィルム! あなたの住む科学の世界とは異なる魔法の世界!」
「ええええっ!? 空っ!? 落ちちゃうよおおおおっ!」
「大丈夫ですよ。落ちません、絶対に」

 金髪の女性は目を閉じ、人差し指を立てて微笑んだ。
 ボクは足を上下させて透明な地面に足がついている事を理解した。

「あ、本当だ。落ちない。びっくりした……」
「受験生たちにも縁起がいいでしょう?」
「??」
「うーん、そういえばまだ中学一年生でしたね。なら反応が帰ってこなくてもおかしくはないですよね。はあ……それはさておき。宇佐美つきみさん改めサラさん。冒険の旅が始まりますよ?」
「え? 冒険? いきなり? それってハードなやつ?」
「大丈夫ですよ。そこまでハードなものではありません。ワクワクな冒険です。それにあなたは妖精さんですから、万が一にも死んだりしません、絶対に」

 金髪の女性はまた目を閉じ、人差し指を立てて微笑んだ。

「そっかー。じゃあ安心だね。でも冒険にでたらボクの家族が心配するんじゃないかな?」
「大丈夫ですよ。ご家族様の記憶は改竄しておきます」
「大丈夫じゃなくない!?」
「大丈夫ですよ。メスを入れるわけではありません。安全です、絶対に」

「……なんか怖いなぁ。いつになったら帰れるの?」
「それはあなた次第ですよ。帰りたいと願えばいつでも帰ることができます。姿も元のあなたのままです。いつもの、女の子みたいなショートカットのあなたですよ」
「あー、やっぱり女の子みたいって思っちゃうよねボクの髪型。うん、分かったよ。ありがとうお姉さん。そういえばお姉さんの名前は?」

 金髪の女性は胸に手を当て、お辞儀をして言う。

「私はミルクウィード。別名は草原の女神です」
「草原の女神……確かに女神ってくらい綺麗だもんね。ミルクウィードさんね。覚えたよ」
「ふふっ、綺麗だなんて。おませさんですね。まあ私そう呼ばれているだけで本物の女神様とは程遠いのですが。それでは。幸せの妖精サラさん、ミルフィルムに幸せを振り撒いてくださいね。『リプレイス』」

 ボクはミルクウィードさんの空間移動魔法ですぐ近くの草原に瞬間移動した。
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