33 / 36
第三章 ラッキー・クローバー冒険者試験編
28
しおりを挟む
「なァ盾騎士」
「ん」
「アンタさ、騎士名乗ってるけどよ」
「うむ」
「その重装備で馬に乗れンの?」
そのときリモンに衝撃走る──。
鎧兜で全身を覆い隠すようになったのはドラゴンに呪いを受けてから。巨大な三人用の盾──正式名称・油圧展開式三人用突撃防盾を武器としはじめたのは【ドラゴンスレイヤーズ】加入後。
全てを装備した状態で馬に乗ったことは未だなく、常識に照らし合わせて、その重量に耐えきれる頑健な馬はこの世に存在しない。
「……フゥン」
「フゥンじゃねェよ騎士なんだろがよ騎乗しろよォー、ギャハハハ!」
「煽りおる」
面白くてたまらず、ノッペラは笑いが止まらず腹を抑えてうずくまるほどだ。
「盾騎士から騎士取ったら盾しか残りませんね」
「ヒィーッ、ヒヒッ、それオモシロすぎだろッ、ギャハハ」
「むっ」
同席していたオリヴィアも、冷ややかにノッペラを見ながらもその言説には賛同しているようだった。
「脱げば良いだろ脱げば。鎧などポイだ。盾もポイだ」
「それじゃあ盾騎士じゃなくて騎士じゃないですか」
「ヒャハハハハ!!」
「うるさいぞ!」
リモンはその日から「馬に乗れない」ことを大層気にするようになった……。
「というわけだ」
カレドゥシャ近郊。
一頭の馬とともにリモンはそこに居た。
「頼むぞ」
馬は何も言わない。
「乗るぞ」
馬は何も言わない。
リモンは馬に乗った。
まずは防具一式のない、裸一貫での騎乗だ。
「乗ったぞ。大丈夫か」
馬は何も言わない。
「よし。次」
リモンは颯爽と馬から降りようとして着地に失敗したのを前転で誤魔化した。
「鎧のみ。これは軽くて良いものであるからして。すまん、少し重いぞ」
ひとまず鎧のみを装備。足場に登って馬に跨がる。
馬は何も言わないが、「この程度か?」とでも言いたげに自信に満ちた目をしていた。
「ならもう完全装備だ」
鎧。兜。盾。
全身黒色の不審者が完成する。
総重量、オリヴィアふたりぶんの負荷。
それをまるで普段着でも着ているかのように軽々着こなし俊敏に動ける。リモンはそんな自分が誇らしくなった。
「行くぞ。とても重いぞ」
馬は何も言わない。
ただ、少しばかり「それは無理だろ」というような自信なさげな瞳でリモンを見つめている。
「行くぞ。乗るぞ。行くぞっ」
馬は逃げた。
その脚力をもってして、全速前進した。
彼は賢かった。彼は自分の限界を知っていたのだ。
この場で限界を知らない馬鹿はリモンだけである。
「うぬぬぬぬぬぬ」
どれほど歯噛みしても馬には乗れない。悲しいかな、リモンは「盾騎士」ならぬ「盾」になってしまった。
「悲しき運命だとしても……俺は、盾騎士であるからして……」
本人が盾騎士を名乗っているのだから、たとえ馬に乗れずともリモンは盾騎士である。
それ以上に確かなことはない。盾騎士を自称し続ければ良いだけの話だ。
だが馬に乗れないと格好がつかないのは事実で、リモンは格好良いほうが好きである。
よって、彼はフル装備では馬に乗れないことに大層落ち込むこととなった!
──数日後──
「…………ッ、…………ッッッッ、殺ッッッ」
「ワハハハ!」
リモンはノッペラに乗っていた。
ノッペラは四つん這いの体勢で鎧兜盾装備のリモンを震えながら支えている。
凄まじい筋力だ。建設ギルドのメンバーであるというのは伊達ではない。
「何を…やってるんですか」
その光景を思わずラッキーは8度見した。
8度である。並の回数ではない。
「ノッペラ号だ、俺の愛馬!」
「……死、ねッ」
「なぜそうなったのかと聞いてるんです」
「コイツが俺との賭けに負けたからだ。腕相撲だった。俺の圧勝だ、何でも言うことを聞くというから馬にした。フゥン」
「…………ッ、ア゛ッ…!」
「流石にやめといた方がいいんじゃないですかねぇ」
「ん」
「アンタさ、騎士名乗ってるけどよ」
「うむ」
「その重装備で馬に乗れンの?」
そのときリモンに衝撃走る──。
鎧兜で全身を覆い隠すようになったのはドラゴンに呪いを受けてから。巨大な三人用の盾──正式名称・油圧展開式三人用突撃防盾を武器としはじめたのは【ドラゴンスレイヤーズ】加入後。
全てを装備した状態で馬に乗ったことは未だなく、常識に照らし合わせて、その重量に耐えきれる頑健な馬はこの世に存在しない。
「……フゥン」
「フゥンじゃねェよ騎士なんだろがよ騎乗しろよォー、ギャハハハ!」
「煽りおる」
面白くてたまらず、ノッペラは笑いが止まらず腹を抑えてうずくまるほどだ。
「盾騎士から騎士取ったら盾しか残りませんね」
「ヒィーッ、ヒヒッ、それオモシロすぎだろッ、ギャハハ」
「むっ」
同席していたオリヴィアも、冷ややかにノッペラを見ながらもその言説には賛同しているようだった。
「脱げば良いだろ脱げば。鎧などポイだ。盾もポイだ」
「それじゃあ盾騎士じゃなくて騎士じゃないですか」
「ヒャハハハハ!!」
「うるさいぞ!」
リモンはその日から「馬に乗れない」ことを大層気にするようになった……。
「というわけだ」
カレドゥシャ近郊。
一頭の馬とともにリモンはそこに居た。
「頼むぞ」
馬は何も言わない。
「乗るぞ」
馬は何も言わない。
リモンは馬に乗った。
まずは防具一式のない、裸一貫での騎乗だ。
「乗ったぞ。大丈夫か」
馬は何も言わない。
「よし。次」
リモンは颯爽と馬から降りようとして着地に失敗したのを前転で誤魔化した。
「鎧のみ。これは軽くて良いものであるからして。すまん、少し重いぞ」
ひとまず鎧のみを装備。足場に登って馬に跨がる。
馬は何も言わないが、「この程度か?」とでも言いたげに自信に満ちた目をしていた。
「ならもう完全装備だ」
鎧。兜。盾。
全身黒色の不審者が完成する。
総重量、オリヴィアふたりぶんの負荷。
それをまるで普段着でも着ているかのように軽々着こなし俊敏に動ける。リモンはそんな自分が誇らしくなった。
「行くぞ。とても重いぞ」
馬は何も言わない。
ただ、少しばかり「それは無理だろ」というような自信なさげな瞳でリモンを見つめている。
「行くぞ。乗るぞ。行くぞっ」
馬は逃げた。
その脚力をもってして、全速前進した。
彼は賢かった。彼は自分の限界を知っていたのだ。
この場で限界を知らない馬鹿はリモンだけである。
「うぬぬぬぬぬぬ」
どれほど歯噛みしても馬には乗れない。悲しいかな、リモンは「盾騎士」ならぬ「盾」になってしまった。
「悲しき運命だとしても……俺は、盾騎士であるからして……」
本人が盾騎士を名乗っているのだから、たとえ馬に乗れずともリモンは盾騎士である。
それ以上に確かなことはない。盾騎士を自称し続ければ良いだけの話だ。
だが馬に乗れないと格好がつかないのは事実で、リモンは格好良いほうが好きである。
よって、彼はフル装備では馬に乗れないことに大層落ち込むこととなった!
──数日後──
「…………ッ、…………ッッッッ、殺ッッッ」
「ワハハハ!」
リモンはノッペラに乗っていた。
ノッペラは四つん這いの体勢で鎧兜盾装備のリモンを震えながら支えている。
凄まじい筋力だ。建設ギルドのメンバーであるというのは伊達ではない。
「何を…やってるんですか」
その光景を思わずラッキーは8度見した。
8度である。並の回数ではない。
「ノッペラ号だ、俺の愛馬!」
「……死、ねッ」
「なぜそうなったのかと聞いてるんです」
「コイツが俺との賭けに負けたからだ。腕相撲だった。俺の圧勝だ、何でも言うことを聞くというから馬にした。フゥン」
「…………ッ、ア゛ッ…!」
「流石にやめといた方がいいんじゃないですかねぇ」
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない
一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。
クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。
さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。
両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。
……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。
それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。
皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。
※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。
ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった
16歳の少年【カン】
しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ
これで魔導まで極めているのだが
王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ
渋々それに付き合っていた…
だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう
この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである
※タイトルは思い付かなかったので適当です
※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました
以降はあとがきに変更になります
※現在執筆に集中させて頂くべく
必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします
※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる