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プロローグ
しおりを挟む──世界には魔法が満ちている。
日が昇りやがて暮れ、月が顔を出すのも。風が吹くのも雨が降るのも。水が流れ川となり海へと行き着くのも、雷が鳴るのも炎が熱く燃えるのも。花が咲くのも音が溢れるのも、遠くに見える山が昨日より西に動いたのも……。
この世のよいことわるいこと、全てが魔法だ。
人はこの魔法を操る存在を「ドラゴン」と名付け、畏れ敬うものとした。名付けられたことで「現象」や「法則」はそれぞれ形を持ち、生物としてこの世に在すようになった。
それはきっと歴史が刻まれるよりずっと昔、神話より古い時代の話。常識よりももっと根深い部分から、人とドラゴンは共存している。
あるとき、どこかのドラゴンが、どこかの誰かに力を与えた。
人にも魔法が使えるようになる力だ。
その人は賢く、すぐに魔法を扱えるようになった。教えられたどこかの誰かは、また別のどこかの誰かへと魔法の使い方を教えた。それがよいことだと思ったからだ。
そうして教えられたものが別の誰かに、そして次の誰かがまた別の………というようにして、おおよそ100年をかけ、人が魔法を使える時代が来た。
作物をたくさん作れるようになった。モノを簡単に運べるようになった。危険な生き物と出くわしても倒せるようになった。
人はとても強くなった。
強くなったので、争いが起こった。
長く小さな争いがあった。
2度あった。
2度の争いを経て、魔法は選ばれた人にしか使えないようにしよう、という考えが広まった。人もドラゴンも、その方がよいと考えた。
人は賢く、愚かであったため、魔法を使えるものをたくさん殺して、少しだけ残した。
少しだけ残った人々は、選ばれた人にだけ魔法を教えるようになった。彼らは本当に賢かったので、本当に賢い人にしか魔法を教えなかった。
それから、魔法が争いに使われることはただの一度もない。
争いが終わって、冒険者と呼ばれる人が増えた。
今、魔法というものはほとんど彼らのためにある。
冒険者とは、その足でいろいろなところを冒険する人のことで、危険な魔物を倒して人々の暮らしを守ったり、ダンジョンを攻略して財宝を手に入れたりして稼ぎを得ている。
彼らが強敵と戦ったり、難関なダンジョンに立ち向かうときに魔法が役立つ。
人が人のために魔法を使っているので、人もドラゴンも、そのことはよいことだと思っている。
ドラゴンが死に始めたのは最近のことだ。
魔法の存在だが、存在するので姿かたちのある生き物であるし、生き物なので当然死ぬ。寿命というのはなかなか難しいが、殺すのであれば、頑張れば可能だろう。
冒険者が腕試しで倒そうとすることがある。大抵不可能だが、ときたま勝ててしまうらしい。奇妙だと思う一方で、当然だとも思う。人は賢く、想像より強くなれるからだ。
……終わりが近いのかもしれない。
終わらせられるのかもしれない。
誰が。我々を誰かが終わらせようとしている誰かがいるのか。
それとも我々ではなく、魔法を終わらせようとしているのか。
よくわからない。
よくわからないが、それはきっと、よいことだと思う。
我々も、間違えるから。
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