118 / 140
木は実によって知られる
4
しおりを挟む
世間はお盆シーズンだが、長谷川ひかるは仕事で忙しかった。
プライベート用のスマホのディスプレイには、通知の山だ。
いつも行ってるスーパーや保護者仲間の連絡、そして最寄りの警察署。
警察署から、連日不審者情報が来てげんなりする。
ほぼ毎日といっていいぐらいだ。
不審者はもちろん、盗撮、痴漢、高齢者を狙った詐欺や行方不明者など、枚挙に暇がない。
この4月から双子の琥珀と翡翠が小学生になったので、余計神経質になる。
2年前にこの近辺で殺害事件があった。
7月から9月の間に、小学生から高校生、それぞれが通う学校の校門の前で、遺体として遺棄されていた。
犯人は被害者家族に100万の要求をし、被害者が性的被害に遭っている様子を送りつけた。
犯行時間は18時台、家族への送信は22時だった。
警察は家族へ送っていることから、面識のある人間ではないかと考えていた。
しらみつぶしに聞き込みや情報提供した結果、20代の男性が逮捕された。
彼は被害者達と面識があった。よく遊んで貰ってた近所のお兄さんポジションのような関係。
彼は「秘密基地」で遊ぼうと被害者達を山奥に連れ出し、犯行に及んだ。
その秘密基地は、被害者達は何度も行ったことのある場所だった。
近所では遊び上手のお兄さん、優しい人と評判だった。
ひかるも、近所のスーパーで少し話したことある程度に面識があった。
犯人逮捕の緊急速報で、テロップに名前出た瞬間、夫と一緒に「嘘でしょ」と声を出した。
以来、子供達には知っている人でも大人がいないときは関わらないように、警察に逃げるなど口酸っぱく言っている。
休憩がてらリビングに向かう。
ダイニングテーブルには、白髪交じりで穏やかな笑みを浮かべる男性がいた。父の悠真だ。
「陽鞠、庄吾くんが淹れてくれたコーヒー飲もう。仕事で疲れただろ? ほら、用意してるから。庄吾くんのは美味しいからねぇ」
悠真は向かいの席を指差した。
キッチンから「恥ずかしいですよー」と声がした。
細身で170ぐらいあるだろうか、爽やかなスポーツ刈りに大きな目と少し幼く見える顔。
ひかるの夫の稲本庄吾だ。
庄吾は座りなよとひかるに着席を促され、うんと座った。
コーヒーの匂いがひかるの鼻孔を刺激する。
ひかるは「あーいい匂い」と誘われ、ダイニングテーブルに座った。
隣には庄吾がいる。なんでか分からないけど、心躍るというか安心感がある。
まさか自分が結婚して、子供2人なんて思ってもなかった。
恋愛は諦めていたというか、あの人のようになるのが怖くて怯えていた。
高校時代、男子からちょくちょく告白されていたが、全て断っていた。
色恋沙汰にかまけてる暇があれば、勉強や趣味に打ち込む方がいいと。
お陰で学年上位キープし続けてきた。
その一方で、身に覚えのない嫌がらせをちょくちょく受けていた。
男好きとか、整形してるんじゃないかとかの事実無根の噂話、物を隠されたり、授業中に渡される手紙で調子乗るなと一言だけ書いたものが送られたり。
やはり地元の学校だったので、あの人の悪行を知って、それをからかってくるのが一番しんどかった。
――私は私。あの人と一緒にしないで!
犯人は先輩とか他所のクラスの子とか色々。
友達から『ひーちゃん、密かに男子から人気あるよ』で言われ、耳を疑った。
どうも近寄りがたい雰囲気がいいと。それで一部の女子で妬んでる子がいると。
唯一の救いは先生達がまともだったことだろうか。
嫌がらせした人達は、他に余罪があったから退学になった。
そもそも地元でも指折りの進学校なのに、こんなみみっちい嫌がらせをする人間がいるのが驚きだった。
親のことは地元だとついて回るから、早く出たかった。
知り合いのいないとこに進学して、やっと自分らしくいられる。
夫とは大学のゼミで知り合った。
俳優業と大学の両立をやってると聞いて、うさんくさいなと思っていた。
1年の時だ。夏のゼミの合宿(という名の遊び)の時、バーベキューで、荷物持ちや火起こしを率先してやっていたら、夫が手伝ってくれた。
他の女子達は調理するか、サボってるかだった。
そのサボり魔の先輩が一番わがままで、みんなが動きやすい服装の中、彼女だけ、セーラー服とヒールの高いパンプスでやってきた。
まるであの人を見ているみたいで不愉快さMAXだった。
調理している女子達もさすがにないわと怒っていた。
私が力仕事するのは、あの人とみたいになりたくないから。
女性という属性を使って、弱いアピールして、反感を買ってる姿を何度もみたから、反面教師にした。
それに今は男女平等を求められるし、性別や立場を盾にして、弱者アピールや主張を通そうとする輩は叩かれる。
そのサボり魔に夫が強く注意してくれて、スカッとした。
合宿で夫の強さに惹かれた。
それ以来少しずつ話すようになった。一緒にいるとなんとなく安心する。
気づいたら一緒にいるのが当然な関係だったし、娘と息子が生まれた。
人を愛することや好意を持つことは、悪いことじゃないって気づいた。
たまたま運がよかっただけだ。
でもどこかで、子供達、または自分があの人に似てしまったらと思うと怖くなる。
幸い、子供達は今のところ特に問題ないし、トラブルも起こしていない。
夏休みで暑いのに、毎日近所の公園で遊んでいる。
当然熱中症対策して。
プライベート用のスマホのディスプレイには、通知の山だ。
いつも行ってるスーパーや保護者仲間の連絡、そして最寄りの警察署。
警察署から、連日不審者情報が来てげんなりする。
ほぼ毎日といっていいぐらいだ。
不審者はもちろん、盗撮、痴漢、高齢者を狙った詐欺や行方不明者など、枚挙に暇がない。
この4月から双子の琥珀と翡翠が小学生になったので、余計神経質になる。
2年前にこの近辺で殺害事件があった。
7月から9月の間に、小学生から高校生、それぞれが通う学校の校門の前で、遺体として遺棄されていた。
犯人は被害者家族に100万の要求をし、被害者が性的被害に遭っている様子を送りつけた。
犯行時間は18時台、家族への送信は22時だった。
警察は家族へ送っていることから、面識のある人間ではないかと考えていた。
しらみつぶしに聞き込みや情報提供した結果、20代の男性が逮捕された。
彼は被害者達と面識があった。よく遊んで貰ってた近所のお兄さんポジションのような関係。
彼は「秘密基地」で遊ぼうと被害者達を山奥に連れ出し、犯行に及んだ。
その秘密基地は、被害者達は何度も行ったことのある場所だった。
近所では遊び上手のお兄さん、優しい人と評判だった。
ひかるも、近所のスーパーで少し話したことある程度に面識があった。
犯人逮捕の緊急速報で、テロップに名前出た瞬間、夫と一緒に「嘘でしょ」と声を出した。
以来、子供達には知っている人でも大人がいないときは関わらないように、警察に逃げるなど口酸っぱく言っている。
休憩がてらリビングに向かう。
ダイニングテーブルには、白髪交じりで穏やかな笑みを浮かべる男性がいた。父の悠真だ。
「陽鞠、庄吾くんが淹れてくれたコーヒー飲もう。仕事で疲れただろ? ほら、用意してるから。庄吾くんのは美味しいからねぇ」
悠真は向かいの席を指差した。
キッチンから「恥ずかしいですよー」と声がした。
細身で170ぐらいあるだろうか、爽やかなスポーツ刈りに大きな目と少し幼く見える顔。
ひかるの夫の稲本庄吾だ。
庄吾は座りなよとひかるに着席を促され、うんと座った。
コーヒーの匂いがひかるの鼻孔を刺激する。
ひかるは「あーいい匂い」と誘われ、ダイニングテーブルに座った。
隣には庄吾がいる。なんでか分からないけど、心躍るというか安心感がある。
まさか自分が結婚して、子供2人なんて思ってもなかった。
恋愛は諦めていたというか、あの人のようになるのが怖くて怯えていた。
高校時代、男子からちょくちょく告白されていたが、全て断っていた。
色恋沙汰にかまけてる暇があれば、勉強や趣味に打ち込む方がいいと。
お陰で学年上位キープし続けてきた。
その一方で、身に覚えのない嫌がらせをちょくちょく受けていた。
男好きとか、整形してるんじゃないかとかの事実無根の噂話、物を隠されたり、授業中に渡される手紙で調子乗るなと一言だけ書いたものが送られたり。
やはり地元の学校だったので、あの人の悪行を知って、それをからかってくるのが一番しんどかった。
――私は私。あの人と一緒にしないで!
犯人は先輩とか他所のクラスの子とか色々。
友達から『ひーちゃん、密かに男子から人気あるよ』で言われ、耳を疑った。
どうも近寄りがたい雰囲気がいいと。それで一部の女子で妬んでる子がいると。
唯一の救いは先生達がまともだったことだろうか。
嫌がらせした人達は、他に余罪があったから退学になった。
そもそも地元でも指折りの進学校なのに、こんなみみっちい嫌がらせをする人間がいるのが驚きだった。
親のことは地元だとついて回るから、早く出たかった。
知り合いのいないとこに進学して、やっと自分らしくいられる。
夫とは大学のゼミで知り合った。
俳優業と大学の両立をやってると聞いて、うさんくさいなと思っていた。
1年の時だ。夏のゼミの合宿(という名の遊び)の時、バーベキューで、荷物持ちや火起こしを率先してやっていたら、夫が手伝ってくれた。
他の女子達は調理するか、サボってるかだった。
そのサボり魔の先輩が一番わがままで、みんなが動きやすい服装の中、彼女だけ、セーラー服とヒールの高いパンプスでやってきた。
まるであの人を見ているみたいで不愉快さMAXだった。
調理している女子達もさすがにないわと怒っていた。
私が力仕事するのは、あの人とみたいになりたくないから。
女性という属性を使って、弱いアピールして、反感を買ってる姿を何度もみたから、反面教師にした。
それに今は男女平等を求められるし、性別や立場を盾にして、弱者アピールや主張を通そうとする輩は叩かれる。
そのサボり魔に夫が強く注意してくれて、スカッとした。
合宿で夫の強さに惹かれた。
それ以来少しずつ話すようになった。一緒にいるとなんとなく安心する。
気づいたら一緒にいるのが当然な関係だったし、娘と息子が生まれた。
人を愛することや好意を持つことは、悪いことじゃないって気づいた。
たまたま運がよかっただけだ。
でもどこかで、子供達、または自分があの人に似てしまったらと思うと怖くなる。
幸い、子供達は今のところ特に問題ないし、トラブルも起こしていない。
夏休みで暑いのに、毎日近所の公園で遊んでいる。
当然熱中症対策して。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
熱い風の果てへ
朝陽ゆりね
ライト文芸
沙良は母が遺した絵を求めてエジプトにやってきた。
カルナック神殿で一服中に池に落ちてしまう。
必死で泳いで這い上がるが、なんだか周囲の様子がおかしい。
そこで出会った青年は自らの名をラムセスと名乗る。
まさか――
そのまさかは的中する。
ここは第18王朝末期の古代エジプトだった。
※本作はすでに販売終了した作品を改稿したものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる