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木は実によって知られる
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都会の歓楽街に多くの雑居ビルの中にそのお店はあった。
夜の帳が降り始めた時間がスタート。
高級クラブ『カナリア』は、スーツ姿の男性達と、赤のマーメイドのようなロングドレスを着た女性――音海咲羽がテーブルで談笑していた。
「いやー、咲羽ちゃん、ホント40代に見えないなぁ!」
「そうですか? 室井さんもかっこいいじゃないですか。ステキですよ」
男性はかっちり目のビジネススタイルのタイプで、少し白髪頭がまじっている理知的な男性。
来店したときは無口だったのに、お酒が入ると饒舌になった。そういうタイプだ。
これでも大企業の顧問らしい……というのはあやめママから聞いた話だ。
音海咲羽こと呉松結花がカナリアに来たのは1年前。
前職を体よく追い出され、ふらふらしてたところ、浅沼工場のからだいぶ離れたクラブ『れんげ』のはすみママに保護された。
ママに結花の身の上と容姿の良さや性格で、この仕事が向いてるんじゃないかと勧められて、しばらく働いていた。
元々男性とおしゃべりやスキンシップが好きな結花にとって向いていたこと、男心をくすぐるのが上手いことから、だんだん常連客からの紹介が増えた。
半年後、ここじゃもったいないとママの紹介で今に至る。
カナリアのオーナーである水嶋あやめが「でしょう」と得意げな笑みを浮かべて。室井をはさむように隣に座った。
あやめママは帯は紺色で、白色の刺繍だろうか、雲と竜の絵が描かれている着物。
丸っこい顔と大きな目はお客達の目を惹きつかせる。
カナリアの店内は、それぞれの席にいるホステス達がお客様2人以上で囲むように座っていた。
時折談笑する声が響く。
「今日はお仕事の帰りですか?」
咲羽の質問に室井は「そうだよー。疲れちゃった。家に帰ったら、孫とゲームするんだ」
室井は近々企業の役員からトップになる予定で、今はその根回しや手続きで疲れ気味だった。
息抜きは、カナリアのホステス達と談笑することと、孫達とゲームすることだった。
「お孫さんとゲームですか? すごーい!」
「夏休み遊びに来たときさ、孫たちとやったんだよ。そしたら、ものの見事にまけちゃってねぇ」
室井が孫達と遊んだゲームはアクション物である。
20年以上前に発売が始まり、そこから数年おきにシリーズとして出されている。
今となっては、子供の頃遊んでいた人達が親になり、親子で楽しんでいるお家も少なくない。
半年前に最新作が発売され、室井はすぐに購入し、孫達といつ勝負できていいように、特訓していたが、結局負けたので悔しがっている。
室井の家には様々な種類のゲームが揃っている。
本人が若い頃から好きということもあり、その影響で長女・次女・長男達も趣味でやっている。
若かりし頃は子供達に勝てていたが、年々成長していく子供達にも敵わなくなってきた。
「おじいちゃんと孫とゲームって素敵ですね。今度見てみたいですねぇ」
「そういうことなら、俺、動画サイトにゲーム実況投稿してるんだ。不定期だけど」
少しはにかみながら「動画投稿している」発言に、彩羽とあやめママはさらに目をまるくした。
「会社の人に孫にゲームで負けた話したら、動画投稿して見て貰えばいいんじゃないですかって言われて。チャレンジしてるんだ。半年前にはじめたばっかだけどね」
室井は『ひでおじーちゃん、ほのぼのゲーム実況してみた』として、配信者になっていた。
会社名は一切出さず年齢だけを公表し、様々なジャンルにゲームを、月1回から2回約1時間ほどだ。
最近ネットで「このじいちゃん強くない?」と密かに話題になっている。
「これでしょうか?」
すぐに検索したあやめママは、仕事用のスマホで、件の動画を見つけ、彩羽と室井にみせる。
「そーそ! そしたらな、若い子が見てたらしくてな、勝負してくださいって言ってくるようになったよ。あとは、会社の公式動画で、社員と私がゲームやって生配信する話出てるけど、やりたい反面、身バレしそうだから怖いな」
室井の話に耳を傾けながら、すごいですね、さすがですねと合いの手をいれるかのように褒める。
「でさ、咲羽ちゃんそっくりな声聞いただよ。ほら、前写真見せてくれただろ? 娘さんの写真」
室井は声をひそめながら2人に話す。
その口調はゲームの時とうってかわって、真剣そのものだった。
「ほら、今放送されてるドラマあるでしょ? えっと……なんだっけな……忘れたや。その試写会に呼ばれたんだ。作者登壇……といっても、本人は来なくって、今流行りのオンラインで顔出しなしでな」
室井が役員やっている「モーモー乳業」がスポンサーなので、その縁で呼ばれた。
本編少しだけプラス主演の3人がトークショーに登壇。最後に少しだけ作者がメッセージとして出てきた。
「顔出しされなかったんですね」
「あの作者……そうだ、長谷川ひかるとかいうひとだ。謎が多いというか、あんまり表出ないタイプみたいだな。SNSの公式アカウントもないからね……新作の情報得られなくってな……今どき珍しいタイプだよ。その人の作品さ、俺も家にあるんだよ。男性向けから女性向けまで幅広いな」
年齢も性別も経歴も非公表。
いつも出版される本のプロフィールには、過去の作品のみ。
ネットでは名前が中世的ということもあり、男性か女性か議論になっている。
女性説が少し優勢だ。
長谷川ひかると彩羽は念仏のように心の中で唱える。
「メッセージと言えばいいのか、コメント言う時の声が咲羽ちゃんに似ててな。どっかで聞いたことある声だなとおもってよ」
「そ、イベントそれどこでしたか? タイトルなんですか?」
咲羽は身を乗り出して室井に尋ねる。
「えっと、タイトルなんだっけな……出てたのは古関波奈と、稲本庄吾と野村舞夜だっけ」
室井はあーなんだっけなと何度もつぶやく。
「む、無理しなくて思い出さなくていいですよ」
「そうだな。確か、あれトークショーは配信されてるはずだから。観たらいいと思う」
「そうね。ありがとうございます。室井さーん」
お礼にサービスしちゃうと、咲羽は焼酎の水割りを継ぎ足した。
室井はますます饒舌になるが、咲羽とあやめママは次の人のに回らないといけないため、移動した。
あんまり長時間同じ人に接客するのはよくないから。
室井は少し名残惜しそうに手を振り、交代できたスタッフと談笑を始めた。
夜の帳が降り始めた時間がスタート。
高級クラブ『カナリア』は、スーツ姿の男性達と、赤のマーメイドのようなロングドレスを着た女性――音海咲羽がテーブルで談笑していた。
「いやー、咲羽ちゃん、ホント40代に見えないなぁ!」
「そうですか? 室井さんもかっこいいじゃないですか。ステキですよ」
男性はかっちり目のビジネススタイルのタイプで、少し白髪頭がまじっている理知的な男性。
来店したときは無口だったのに、お酒が入ると饒舌になった。そういうタイプだ。
これでも大企業の顧問らしい……というのはあやめママから聞いた話だ。
音海咲羽こと呉松結花がカナリアに来たのは1年前。
前職を体よく追い出され、ふらふらしてたところ、浅沼工場のからだいぶ離れたクラブ『れんげ』のはすみママに保護された。
ママに結花の身の上と容姿の良さや性格で、この仕事が向いてるんじゃないかと勧められて、しばらく働いていた。
元々男性とおしゃべりやスキンシップが好きな結花にとって向いていたこと、男心をくすぐるのが上手いことから、だんだん常連客からの紹介が増えた。
半年後、ここじゃもったいないとママの紹介で今に至る。
カナリアのオーナーである水嶋あやめが「でしょう」と得意げな笑みを浮かべて。室井をはさむように隣に座った。
あやめママは帯は紺色で、白色の刺繍だろうか、雲と竜の絵が描かれている着物。
丸っこい顔と大きな目はお客達の目を惹きつかせる。
カナリアの店内は、それぞれの席にいるホステス達がお客様2人以上で囲むように座っていた。
時折談笑する声が響く。
「今日はお仕事の帰りですか?」
咲羽の質問に室井は「そうだよー。疲れちゃった。家に帰ったら、孫とゲームするんだ」
室井は近々企業の役員からトップになる予定で、今はその根回しや手続きで疲れ気味だった。
息抜きは、カナリアのホステス達と談笑することと、孫達とゲームすることだった。
「お孫さんとゲームですか? すごーい!」
「夏休み遊びに来たときさ、孫たちとやったんだよ。そしたら、ものの見事にまけちゃってねぇ」
室井が孫達と遊んだゲームはアクション物である。
20年以上前に発売が始まり、そこから数年おきにシリーズとして出されている。
今となっては、子供の頃遊んでいた人達が親になり、親子で楽しんでいるお家も少なくない。
半年前に最新作が発売され、室井はすぐに購入し、孫達といつ勝負できていいように、特訓していたが、結局負けたので悔しがっている。
室井の家には様々な種類のゲームが揃っている。
本人が若い頃から好きということもあり、その影響で長女・次女・長男達も趣味でやっている。
若かりし頃は子供達に勝てていたが、年々成長していく子供達にも敵わなくなってきた。
「おじいちゃんと孫とゲームって素敵ですね。今度見てみたいですねぇ」
「そういうことなら、俺、動画サイトにゲーム実況投稿してるんだ。不定期だけど」
少しはにかみながら「動画投稿している」発言に、彩羽とあやめママはさらに目をまるくした。
「会社の人に孫にゲームで負けた話したら、動画投稿して見て貰えばいいんじゃないですかって言われて。チャレンジしてるんだ。半年前にはじめたばっかだけどね」
室井は『ひでおじーちゃん、ほのぼのゲーム実況してみた』として、配信者になっていた。
会社名は一切出さず年齢だけを公表し、様々なジャンルにゲームを、月1回から2回約1時間ほどだ。
最近ネットで「このじいちゃん強くない?」と密かに話題になっている。
「これでしょうか?」
すぐに検索したあやめママは、仕事用のスマホで、件の動画を見つけ、彩羽と室井にみせる。
「そーそ! そしたらな、若い子が見てたらしくてな、勝負してくださいって言ってくるようになったよ。あとは、会社の公式動画で、社員と私がゲームやって生配信する話出てるけど、やりたい反面、身バレしそうだから怖いな」
室井の話に耳を傾けながら、すごいですね、さすがですねと合いの手をいれるかのように褒める。
「でさ、咲羽ちゃんそっくりな声聞いただよ。ほら、前写真見せてくれただろ? 娘さんの写真」
室井は声をひそめながら2人に話す。
その口調はゲームの時とうってかわって、真剣そのものだった。
「ほら、今放送されてるドラマあるでしょ? えっと……なんだっけな……忘れたや。その試写会に呼ばれたんだ。作者登壇……といっても、本人は来なくって、今流行りのオンラインで顔出しなしでな」
室井が役員やっている「モーモー乳業」がスポンサーなので、その縁で呼ばれた。
本編少しだけプラス主演の3人がトークショーに登壇。最後に少しだけ作者がメッセージとして出てきた。
「顔出しされなかったんですね」
「あの作者……そうだ、長谷川ひかるとかいうひとだ。謎が多いというか、あんまり表出ないタイプみたいだな。SNSの公式アカウントもないからね……新作の情報得られなくってな……今どき珍しいタイプだよ。その人の作品さ、俺も家にあるんだよ。男性向けから女性向けまで幅広いな」
年齢も性別も経歴も非公表。
いつも出版される本のプロフィールには、過去の作品のみ。
ネットでは名前が中世的ということもあり、男性か女性か議論になっている。
女性説が少し優勢だ。
長谷川ひかると彩羽は念仏のように心の中で唱える。
「メッセージと言えばいいのか、コメント言う時の声が咲羽ちゃんに似ててな。どっかで聞いたことある声だなとおもってよ」
「そ、イベントそれどこでしたか? タイトルなんですか?」
咲羽は身を乗り出して室井に尋ねる。
「えっと、タイトルなんだっけな……出てたのは古関波奈と、稲本庄吾と野村舞夜だっけ」
室井はあーなんだっけなと何度もつぶやく。
「む、無理しなくて思い出さなくていいですよ」
「そうだな。確か、あれトークショーは配信されてるはずだから。観たらいいと思う」
「そうね。ありがとうございます。室井さーん」
お礼にサービスしちゃうと、咲羽は焼酎の水割りを継ぎ足した。
室井はますます饒舌になるが、咲羽とあやめママは次の人のに回らないといけないため、移動した。
あんまり長時間同じ人に接客するのはよくないから。
室井は少し名残惜しそうに手を振り、交代できたスタッフと談笑を始めた。
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