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因果応報の続き
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まだ日が高く昇っていて、窓から光が差し込む。
9月の残暑と心地よい風が吹く。
部屋には長机と椅子が囲むように並べられ、10人ぐらいのスタッフ達が、壁に向かってせっせと作業していた。
大量の段ボールが机の上に載っていて、できあがった封筒が中に詰め込まれていた。
結花は丸岡の隣に座って、作業をはじめる。
壁掛け時計を一瞥すると、10時になったばかりだった。
お昼休みまであと2時間。
なんでこんな仕事しないといけないんだろう。
本当だったら、夫と娘と一緒に住んで、悠々自適な生活を送っていたはずなのに。
お姫様のような扱いされていたのに。
もう嫌! こんな地味な仕事ばっかしたくない。
せめて電話の応対とか、PCで作業とか、採用とかがいい。
結花は3ヶ月の研修を経て、7月に人事の事務作業に配属された。
初っ端から上司だろうが先輩だろうが、職場でも自分のことを「ゆいちゃん」と言うわ、誰に対してもタメ口で上から目線。
次の日には、可愛い新人がやってきたではなく、ヤバイ人が入ったとして、社内全員に結花のことが知れ渡っていた。
それでも、最初は上司や先輩達は、電話対応や事務作業を教えていた。
男性社員の前で、書類をわざと落としてドジっ子アピールしたり、舌っ足らずなしゃべり方で電話対応、男性スタッフや見学やインターンで来ている男子学生にちょっかいかけ、その度に注意されていた。
しかし社内で、一部のオッチャンとオバチャン社員が結花の勤務態度の悪さを見逃していた。
結花が上司や先輩に怒られても、可愛さで甘やかされていた。オッチャンとオバチャン社員は、彼女にとって逃げ道のような存在だった。
そのうち部署内で結花を甘やかす人、厳しくする人で対立するようになった。
彼女の勤務態度の悪さは変わらなかった。
入って1ヶ月後に、PCを管理する部署である情報システム部から指摘されて、注意された。
発覚したのは結花のSNSの投稿だった。
時間的に勤務中だと思われること、会社の愚痴を綴っていることを、同僚が上司に報告したから。
会社では情報システム部が、スタッフ全員のPCの利用や履歴を厳しくチェックしていた。
結花はそれを知らずにやっていて、上司から注意されても「履歴見るとかキモっ」と悪態をついた。
態度があれなので、上司は情報システム部の責任者を呼んで結花と面談になった。
情報システム部の責任者にいつどこで、こんなサイトを見ていたと見せられ、結花は恥ずかしさで顔が赤くなった。
『あのね、今はどこの会社もPCの履歴を厳しくチェックしているし、利用制限をかけているんです。キモって思うのは自由ですが、個人情報流出やセキュリティに神経質な時代です。私的利用は家でやってください』
今度は上司や口うるさい先輩がいない日を中心に、隙を見て、通販や動画やSNSの投稿をしていた。
バレないように履歴を消した。
同僚や先輩に黙ってて貰おうと、お菓子をあげたり、ぶりっ子口調でその場でやり過ごしたりと、見逃してもらおうとしていた。
しかし結花の目論見はあっさり崩れた。
1回目の面談からさらに1ヶ月後に、再度上司と情報システム部の人に呼ばれた。
結花としては、証拠を消したのにとバレないと思っていた。
私が悪いんです。つい魔が差してと繰り返し言った。
情報システム部の方には、結花のPCの履歴が残っていた。消しても無駄ということだった。
個人的に使って、ウィルス感染なんてたまったもんじゃないからと、結花のPCには必要最低限の機能だけで、ネットも他のスタッフより厳しいフィルタリング機能をつけた。
元々会社のPCには、厳しくフィルタリング機能をつけていたが、スタッフから使いにくいと声が挙がっていた。
そこで、フィルタリングかけているが、業務で必要なサイトで使いたい場合、情報システム部へ相談及び申請する方式にした。
上司も結花の非常識さに手をこまねいていて、結局2ヶ月ほどで、人事からチャレンジ枠に異動になった。
「あー、まじだるっ」
結花は顔を机の上にのせて、寝るような体勢で、封筒を折る。
「ほんとやってらんない。早く帰りたい」
のんびりお茶すすりながら、事務仕事する前の部署の方が良かった。
甘やかしてくれる人いるし。
ぶつぶつ文句言う結花に丸岡が「文句言える立場じゃないでしょ」と切り捨てた。
「呉松さんさ、ちょっと黙ろうか」
近くで作業していた男性の同僚がボソッと呟く。
「はぁ? あんたにはかんけーないっしょ? 世界一可愛いゆいちゃんに指図するなんて、どういうつもり?」
牙を剥きだして、先輩である同僚にヒステリックに責める結花。
男性は結花を一瞥して「たいして可愛くないですよね」と作業を続ける。
「今なんて言った?」
「たいして可愛くないって。実際そうでしょう。喋り方ウザイんですよねー。いい歳して自分のこと名前呼びする人がまともな訳ないじゃないですか。あたおか過ぎて笑いを通り越してます」
同僚と結花のやりとりに、他の同僚や先輩達も「マジそれな」とか「いいぞ、もっと言ってやれ」と煽り始める。
なんなの! あたおかって。頭おかしいのは向こうよ!
ゆいちゃんは悪くない! 好きでやってるわけじゃないし!
「み、みんな、ゆいちゃんいじめないで……」
結花はハンカチを取り出して、泣きマネを始める。
ひどいよと繰り返すが、同僚達は「また始まった」と言わんばかりにため息をついたり、他人のフリに徹したりと、冷たい。
結花はここに来てから、同僚や先輩達に必要最低限しか会話の相手されない。
話しかけても塩対応で、まるで結花と関わりたくないと言わんばかりの態度を取る。
結花の過去のことは入社前に広まっていた。
なにせ少し前にテレビに出て炎上したから、よくも悪くも印象に残った人も少なくない。
今となっては、結花の名前を検索すると、テレビに出演したときの動画、彼女または当時同級生だった、知人、友人などのSNSの投稿が魚拓として残っているし、ネット掲示板のスレに痛い人のブログとして名前が長年挙がっていただけあった。
それを元に見ず知らずの人間に、結花の個人情報が特定され、出身学校、実家、そして過去の悪行がまとめサイトが掲載、SNSで拡散されている。
それでもって、転売したことから罰金刑を食らっている。
その情報は公開されていなかった。
誰がどこで聞きつけた分からないが、呉松家の近所から話が広まっていて、まとめサイトにも載せられていた。
ちなみに結花の兄である良輔も姉の静華も、呉松家の人間は一切に周りに話していない。
もしかしたらすり寄ってくるかもしれないので、もし何かされたら連絡くれと、良輔が陽鞠と悠真に話したぐらいだ。
悠真も陽鞠も、結花のやらかしをわざわざ人に話す必要ないし、話したくないだろう。
浅沼が結花を採用することは、ほかのスタッフは事前に知られていない。
まして本当の理由なんてもっと知らないだろう。
中学時代の仕返しのためにと。
職場にスタッフ向けの掲示板がある。
そこには社内イベントや書類の提出のお知らせや、新入社員がいつ入社でどこの部署に配属されるか貼られる。
掲示されている名前を見た瞬間「もしや、あいつかもしれない」とスタッフ達の間ですぐに広まった。
入社前から「あの炎上した人を入れるなんて、どういうつもりだ」「うちに配属してほしくない」「親のコネか?」「すぐやめそう」とマイナスイメージがついていた。
そしてスタッフたちは、結花の印象をテレビで見たのと全然変わらないと噂になっている。その非常識ぶりと、悲劇のヒロイン願望が。
態度も女性社員と気に入らない男性社員には、反抗的で、挨拶しないことや、若い男性社員やインターンに来ている男子学生にちょっかいかけてる姿で、すぐに有名になった。悪い意味で。
過去の行動が今いる部署にも当然周知されているため、同僚達は塩対応となっている。
浅沼から「結花を甘やかさないように。ビジネスライクで接するように。セクハラや嫌がらせを受けたら、報告するように」と通達されてた。
同僚達は結花の勤務態度を見て、毎日いらついたり、辛く当たっている。
結花に優しく接している人もいるが、後で結花がいないときに「こんなこと言ってたんだぜ」と陰でからかったり、情報収集として共有するためである。
本心からではない。
そもそも結花がまともになることは誰も期待していない。
9月の残暑と心地よい風が吹く。
部屋には長机と椅子が囲むように並べられ、10人ぐらいのスタッフ達が、壁に向かってせっせと作業していた。
大量の段ボールが机の上に載っていて、できあがった封筒が中に詰め込まれていた。
結花は丸岡の隣に座って、作業をはじめる。
壁掛け時計を一瞥すると、10時になったばかりだった。
お昼休みまであと2時間。
なんでこんな仕事しないといけないんだろう。
本当だったら、夫と娘と一緒に住んで、悠々自適な生活を送っていたはずなのに。
お姫様のような扱いされていたのに。
もう嫌! こんな地味な仕事ばっかしたくない。
せめて電話の応対とか、PCで作業とか、採用とかがいい。
結花は3ヶ月の研修を経て、7月に人事の事務作業に配属された。
初っ端から上司だろうが先輩だろうが、職場でも自分のことを「ゆいちゃん」と言うわ、誰に対してもタメ口で上から目線。
次の日には、可愛い新人がやってきたではなく、ヤバイ人が入ったとして、社内全員に結花のことが知れ渡っていた。
それでも、最初は上司や先輩達は、電話対応や事務作業を教えていた。
男性社員の前で、書類をわざと落としてドジっ子アピールしたり、舌っ足らずなしゃべり方で電話対応、男性スタッフや見学やインターンで来ている男子学生にちょっかいかけ、その度に注意されていた。
しかし社内で、一部のオッチャンとオバチャン社員が結花の勤務態度の悪さを見逃していた。
結花が上司や先輩に怒られても、可愛さで甘やかされていた。オッチャンとオバチャン社員は、彼女にとって逃げ道のような存在だった。
そのうち部署内で結花を甘やかす人、厳しくする人で対立するようになった。
彼女の勤務態度の悪さは変わらなかった。
入って1ヶ月後に、PCを管理する部署である情報システム部から指摘されて、注意された。
発覚したのは結花のSNSの投稿だった。
時間的に勤務中だと思われること、会社の愚痴を綴っていることを、同僚が上司に報告したから。
会社では情報システム部が、スタッフ全員のPCの利用や履歴を厳しくチェックしていた。
結花はそれを知らずにやっていて、上司から注意されても「履歴見るとかキモっ」と悪態をついた。
態度があれなので、上司は情報システム部の責任者を呼んで結花と面談になった。
情報システム部の責任者にいつどこで、こんなサイトを見ていたと見せられ、結花は恥ずかしさで顔が赤くなった。
『あのね、今はどこの会社もPCの履歴を厳しくチェックしているし、利用制限をかけているんです。キモって思うのは自由ですが、個人情報流出やセキュリティに神経質な時代です。私的利用は家でやってください』
今度は上司や口うるさい先輩がいない日を中心に、隙を見て、通販や動画やSNSの投稿をしていた。
バレないように履歴を消した。
同僚や先輩に黙ってて貰おうと、お菓子をあげたり、ぶりっ子口調でその場でやり過ごしたりと、見逃してもらおうとしていた。
しかし結花の目論見はあっさり崩れた。
1回目の面談からさらに1ヶ月後に、再度上司と情報システム部の人に呼ばれた。
結花としては、証拠を消したのにとバレないと思っていた。
私が悪いんです。つい魔が差してと繰り返し言った。
情報システム部の方には、結花のPCの履歴が残っていた。消しても無駄ということだった。
個人的に使って、ウィルス感染なんてたまったもんじゃないからと、結花のPCには必要最低限の機能だけで、ネットも他のスタッフより厳しいフィルタリング機能をつけた。
元々会社のPCには、厳しくフィルタリング機能をつけていたが、スタッフから使いにくいと声が挙がっていた。
そこで、フィルタリングかけているが、業務で必要なサイトで使いたい場合、情報システム部へ相談及び申請する方式にした。
上司も結花の非常識さに手をこまねいていて、結局2ヶ月ほどで、人事からチャレンジ枠に異動になった。
「あー、まじだるっ」
結花は顔を机の上にのせて、寝るような体勢で、封筒を折る。
「ほんとやってらんない。早く帰りたい」
のんびりお茶すすりながら、事務仕事する前の部署の方が良かった。
甘やかしてくれる人いるし。
ぶつぶつ文句言う結花に丸岡が「文句言える立場じゃないでしょ」と切り捨てた。
「呉松さんさ、ちょっと黙ろうか」
近くで作業していた男性の同僚がボソッと呟く。
「はぁ? あんたにはかんけーないっしょ? 世界一可愛いゆいちゃんに指図するなんて、どういうつもり?」
牙を剥きだして、先輩である同僚にヒステリックに責める結花。
男性は結花を一瞥して「たいして可愛くないですよね」と作業を続ける。
「今なんて言った?」
「たいして可愛くないって。実際そうでしょう。喋り方ウザイんですよねー。いい歳して自分のこと名前呼びする人がまともな訳ないじゃないですか。あたおか過ぎて笑いを通り越してます」
同僚と結花のやりとりに、他の同僚や先輩達も「マジそれな」とか「いいぞ、もっと言ってやれ」と煽り始める。
なんなの! あたおかって。頭おかしいのは向こうよ!
ゆいちゃんは悪くない! 好きでやってるわけじゃないし!
「み、みんな、ゆいちゃんいじめないで……」
結花はハンカチを取り出して、泣きマネを始める。
ひどいよと繰り返すが、同僚達は「また始まった」と言わんばかりにため息をついたり、他人のフリに徹したりと、冷たい。
結花はここに来てから、同僚や先輩達に必要最低限しか会話の相手されない。
話しかけても塩対応で、まるで結花と関わりたくないと言わんばかりの態度を取る。
結花の過去のことは入社前に広まっていた。
なにせ少し前にテレビに出て炎上したから、よくも悪くも印象に残った人も少なくない。
今となっては、結花の名前を検索すると、テレビに出演したときの動画、彼女または当時同級生だった、知人、友人などのSNSの投稿が魚拓として残っているし、ネット掲示板のスレに痛い人のブログとして名前が長年挙がっていただけあった。
それを元に見ず知らずの人間に、結花の個人情報が特定され、出身学校、実家、そして過去の悪行がまとめサイトが掲載、SNSで拡散されている。
それでもって、転売したことから罰金刑を食らっている。
その情報は公開されていなかった。
誰がどこで聞きつけた分からないが、呉松家の近所から話が広まっていて、まとめサイトにも載せられていた。
ちなみに結花の兄である良輔も姉の静華も、呉松家の人間は一切に周りに話していない。
もしかしたらすり寄ってくるかもしれないので、もし何かされたら連絡くれと、良輔が陽鞠と悠真に話したぐらいだ。
悠真も陽鞠も、結花のやらかしをわざわざ人に話す必要ないし、話したくないだろう。
浅沼が結花を採用することは、ほかのスタッフは事前に知られていない。
まして本当の理由なんてもっと知らないだろう。
中学時代の仕返しのためにと。
職場にスタッフ向けの掲示板がある。
そこには社内イベントや書類の提出のお知らせや、新入社員がいつ入社でどこの部署に配属されるか貼られる。
掲示されている名前を見た瞬間「もしや、あいつかもしれない」とスタッフ達の間ですぐに広まった。
入社前から「あの炎上した人を入れるなんて、どういうつもりだ」「うちに配属してほしくない」「親のコネか?」「すぐやめそう」とマイナスイメージがついていた。
そしてスタッフたちは、結花の印象をテレビで見たのと全然変わらないと噂になっている。その非常識ぶりと、悲劇のヒロイン願望が。
態度も女性社員と気に入らない男性社員には、反抗的で、挨拶しないことや、若い男性社員やインターンに来ている男子学生にちょっかいかけてる姿で、すぐに有名になった。悪い意味で。
過去の行動が今いる部署にも当然周知されているため、同僚達は塩対応となっている。
浅沼から「結花を甘やかさないように。ビジネスライクで接するように。セクハラや嫌がらせを受けたら、報告するように」と通達されてた。
同僚達は結花の勤務態度を見て、毎日いらついたり、辛く当たっている。
結花に優しく接している人もいるが、後で結花がいないときに「こんなこと言ってたんだぜ」と陰でからかったり、情報収集として共有するためである。
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