世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!

月見里ゆずる(やまなしゆずる)

文字の大きさ
上 下
84 / 140
終章

27

しおりを挟む

 自慢の長い髪はショートカットに。
 いつもおしゃれで着ていた黒や紺の光沢のあるワンピースではなく、薄い紫色の藤の花模様のパジャマ。
 化粧っ気もなくなって、10歳ぐらい老け込んだように見えた。
「お、おかあ、さん?!」
 
 ゆいちゃんの知っているお母さんじゃない!
 これ別人よ! 呉松周子の皮を被った!
 お母さんは、髪はもちろん手や足にもネイルしていて、頭から足までおしゃれだったのに。
 今、目の前にいるのは、そこら辺にいるおばちゃんと一緒。
 化粧っ気もなくなって、老け込んでいるし、髪もボサボサ。
 あんた誰って言いたくなる。

「結花連れてきた。あんまりうるさいから、1回”現実”を見てもらおうと」
 これ、衣類なと良輔は紙袋を見せる。
 中には下着や冬用のパジャマや靴下、差し入れのお菓子が入っている。
「えーもう少しおしゃれなのないの?」
 周子は袋の中をみるなり、開口一番お礼ではなく、パジャマへの文句だった。
 冬用のパジャマは、シンプルに薄いピンク色で脱ぎ着しやすいボタンのタイプだ。

「そうよ! りょうにい、これダサいじゃん! お母さんがおしゃれ好きなの忘れてない?」
「自分の立場忘れてないか? お前が口だし出来るレベルじゃないって。そんな言うならお前がお金だせ」
 良輔は結花に煽るように矢継ぎ早に「その財源は? また転売するのか? 俺や紫乃や父さんのお金パクる気か?」と問い詰める。
「だ、だって、お母さんの服が……それにパクったんじゃなくて、必要だっただけ!」

 働かずにお金貰う方法はそれぐらいしかない。
 だって働いたらゆいちゃんいじめられちゃう。
 それか、病気の人演じて、生活保護せしめちゃう?

 良輔は結花の言動に大きなため息をついて、聞いて呆れた。
「そうなのよー。ゆいちゃん、お母さん、いつもパジャマなのよー。りょうくんが買ってくるとセンスがないのよねぇ」
 のんびりした口調で追撃する周子に良輔は、思わず頭を掻いた。
「何言ってるんだ。お母さんの左手がうまく利きにくなったから、このタイプを買ってる。リハビリでなんとかしてるけど」

 周子は1年前に脳梗塞で左手を麻痺して、一時期入院していた。
 リハビリや治療のおかげでなんとか回復したが、家での生活は厳しいということから、このサルースにやってきた。
 でも理由はそれだけではなかった。

 周子が体が不自由になったことから、明博や良輔をこき使うようになった。
 長年いたお手伝いさん達も、数年前の結花の離婚の件で良輔と明博が辞めさせたからいない。
 良輔はこのままだと自分の妻である紫乃が母親のターゲットになるかもしれないことから、一時的に別居状態になっている。

 息子の大翔ひろとは高校時代から引き続き遠方の大学に通っているため、ノータッチだ。
 そもそも大翔は周子に対して苦手意識がある。ついでに叔母である結花もだ。
 数回しか会ってないが、小学校時代に結花にベタベタ触られて以来、苦手になっている。
 周子も将来玉の輿狙えだ、結花のご機嫌伺いするように強いたり、ちょっかいかけてきても目をつぶるようになど、あさっての方向になるので、苦手意識が強い。
 父である良輔と母である紫乃への態度と結花と差別化しているような感じに見え、薄気味悪さを持っていた。

 お年玉の配分も結花と大翔と陽鞠とで全然違う。
 結花は5万貰って、良輔はなし。大翔と陽鞠は毎年2万円ずつだった。
 大翔は成人している叔母がなぜ貰って、自分の父は貰ってないのか不思議でならなかった。
 そういうのも分かっているので、良輔は極力実家に帰る時は、結花と周子がいないときを狙っていた。
 周子の性格の悪さに振り回された家族がうんざりして、良輔と明博が必死に説得して入らせた。

 正直、明博も周子の自己中ぶりに長年うんざりしていたが、体が自由に動かせないことが余計拍車をかけて、彼のメンタルに影響でていた。
 最初は明博は最後まで看取る気満々だったが、遠回しの嫌味やお決まりの婿養子云々が出てくるので、精神的に疲弊していた。
 つまり周子の陰湿さがますますパワーアップしていたのだ。

 明博と物理的に距離を置くことで、お互いのメンタルの平穏を保つことを優先した。
 細々の手続きは良輔と明博でやっている。
 明博は個人で面会に行かず、だいたい良輔と一緒の時が多い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

マキノのカフェ開業奮闘記 ~Café Le Repos~

Repos
ライト文芸
カフェ開業を夢見たマキノが、田舎の古民家を改装して開業する物語。 おいしいご飯がたくさん出てきます。 いろんな人に出会って、気づきがあったり、迷ったり、泣いたり。 助けられたり、恋をしたり。 愛とやさしさののあふれるお話です。 なろうにも投降中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...