27 / 45
4章
6
しおりを挟む
「じゃぁ、本当に占部瀬里香と血縁関係ないの?」
すずらんが瑠実菜の戸籍謄本と本人を見比べて尋ねる。
「ええ。黙っててごめんなさい。本当に姉だと思ってましたから。今思うと、姉や他の親族が「お前は家族じゃない」と言っていたのはそういうことだったのかと納得出来ます」
「そうみたいって……」
「私は今まで姉だと思ってましたし、高木家と血がつながってると思っていましたから。今も高木瑠実菜として名乗ってますし」
「本当に知らなかったみたいよ。多分おじいちゃんとおばあちゃんが口止めしていたのでしょうね」
瑠実菜の戸籍謄本には、父の名前が藤原太史、母の名前は藤原日奈子だった。
「多分だけど、瑠実菜さんの実のお母さんはずっとお父さんを騙して結婚していたのよ。一年間騙し通してたら、お父さんが親になるからね。もしあなたのお母さんが言っていることが本当だったら――どちらにせよ、あなたの実のお母さんは一番やっちゃーいけないことをしてるの。今、そういう人がもっと増えて、二十人に一人が夫以外の男性の子供を育ててるって言われてるのよ」
今まで「浮気した親の娘」とか「存在の面汚し」と罵られてきたが、これが本当であることを知り納得した。
「そういえば、私の家、なにかとお金があった気がします……」
極端に貧乏というよりはどちらかというと裕福な方だった高木家。
修司と文子が存命中には必要なものは揃って買ってくれた。千鶴と浩二にいうと「不倫した親の娘の癖に乞食が」と罵られるだけだった。
「多分、高木千鶴と浩二夫妻は里親の助成金と瑠実菜さんのお父さんから支払われる養育費が目当てで引き取ったと思うよ」
大屋の言葉に瑠実菜は泣き崩れた。
やっぱりお金目当てだった。
誰からも一番近いはずの家族から「お前は不義の子」や「乞食」と言われるのも当然のことをした。
しかもその家族とは本当に血がつながってなかった。高木瑠実菜を名乗っても、家のために手伝いや学業を頑張っても、どうあがいても高木家の家族の一員にはなれない。
本当の父も自分が違う男性の娘であると言われて捨てた。
――私はどこに行っても歓迎されない。この世にいることさえも。
だから足を引っ張らないように、慎ましく、小さく生きていかないといけない。
でも、自分の幸せがせめて一つ欲しかった。平穏に生きる権利が欲しかった。
誰にも存在を否定されず、性的な目で見られず、一人の人間として――高木瑠実菜として見てくれる人間がいたらと。
「今まで疑って申し訳ございません! 罵倒して申し訳ございません!」
すずらんが深々と瑠実菜の方へ頭を下げた。
「す、すずらんさん!?」
「どうした?」
上司が頭を下げる姿に二度見するすいせんとみみずく。
「私、あなたのことをきちんと見ずに、疑ってかかってました。占部瀬里香と浩二と関係があるからと、美人局をしてるんだと決めてかかってました。でも、この戸籍謄本、そしてあなたの半生を聞いて、あなたがこのようなことをするタイプではないと気づきました。どうかひとつだけ言わせてください、あなたは『どこへ行っても歓迎されない』とおっしゃってましたが、少なくとももうそんな人はいないと思います」
泣きはらしている瑠実菜にさりげなく大屋がティッシュを持ってきた。
「えっ?」
すずらんはみみずくの方へ顔を向ける。
「少なくとも、みみずくは否定するタイプではないわ」
みみずくはうんと頷く。
「多分、あなたは占部瀬里香と浩平に美人局をやるように言われた時、これを機に逃げようと思ったのでしょう」
「はい」
「上司の私がいうのもあれなんだけどね。みみずくは、電車や写真の話ばっかで、女心や人の機微に疎いところがある。でも好きな人の振り向いてもらおうと努力している。嬉しそうにあなたとのやり取りを話していた。否定の言葉なんて全くなかったわ。本当に嬉しそうなの。私たちに流行りのスポットやトレンドを聞いてきたり、ネットで調べたりしていたの。全てはあなたともっといたいからよ」
すずらんの話を聞いていくうちに瑠実菜が泣き止んで、真剣に聞いている。
「だからね、胸張っていいのよ。もうここであなたを否定する人はいないの。受け入れてくれてる人がいるじゃない」
「はい」
「さっきは言いすぎたわ。ごめんなさい。あなたはこれから後ろ指さされることもあるかもしれない。親の因果は子に報いるとか、占部家と関わりがあったからと正当化して、あなたを誹謗中傷する人がいるかもしれない。そういう人はいくらあなたが真面目に頑張っても何しても叩く。これからの人生、あなたが幸せになるかは、あなたの今後の振る舞い次第よ。いつまでも悲劇のヒロインになっちゃだめ」
「はい、わかりました! すずらんさん!」
何か吹っ切れたような顔になった瑠実菜にすずらんは安堵した。
「わかったわ。じゃぁ、これからどうする?」
「私、なんとしてでも姉――いや占部瀬里香と浩平から逃げたいです。関わりたくありません!」
「そうね。逃げる方がベストだわ。今、あの二人は追い詰めてあるから、ここには来ないと思うけど、バレるのも時間の問題ね……」
眉をハの字にしてしかめるすずらん。
「動画があがってましたからねー。あと、占部瀬里香についてかなり香ばしいとこがあったのよね……」
「香ばしいとこですか?」
大屋の言葉にオウム返しするすずらんに「占部瀬里香のSNSとか身辺もう少しみた方がいいわ」
「はい」
「あと、瑠実菜さんは私と一緒にいよう。今状況を受け入れるの必死でしょ?」
と大屋は瑠実菜の肩をさすって「私の部屋でまってて。コーヒー一緒に飲もう」と一緒に給湯室に向かった。
「占部瀬里香に怪しいとこ……もう一回洗い直そうかあー」
すずらんは瀬里香の名前をPCで検索し始めた。
SNSが出てきた。
「うわぁ……こいつくずいな……」
画面前ですずらんは思わず呟いてしまった。
「この人色々問題起こしってるっぽい。占部浩平とは……」
「あちゃーですな」
三人はパソコンの前で脱力した。
すずらんが瑠実菜の戸籍謄本と本人を見比べて尋ねる。
「ええ。黙っててごめんなさい。本当に姉だと思ってましたから。今思うと、姉や他の親族が「お前は家族じゃない」と言っていたのはそういうことだったのかと納得出来ます」
「そうみたいって……」
「私は今まで姉だと思ってましたし、高木家と血がつながってると思っていましたから。今も高木瑠実菜として名乗ってますし」
「本当に知らなかったみたいよ。多分おじいちゃんとおばあちゃんが口止めしていたのでしょうね」
瑠実菜の戸籍謄本には、父の名前が藤原太史、母の名前は藤原日奈子だった。
「多分だけど、瑠実菜さんの実のお母さんはずっとお父さんを騙して結婚していたのよ。一年間騙し通してたら、お父さんが親になるからね。もしあなたのお母さんが言っていることが本当だったら――どちらにせよ、あなたの実のお母さんは一番やっちゃーいけないことをしてるの。今、そういう人がもっと増えて、二十人に一人が夫以外の男性の子供を育ててるって言われてるのよ」
今まで「浮気した親の娘」とか「存在の面汚し」と罵られてきたが、これが本当であることを知り納得した。
「そういえば、私の家、なにかとお金があった気がします……」
極端に貧乏というよりはどちらかというと裕福な方だった高木家。
修司と文子が存命中には必要なものは揃って買ってくれた。千鶴と浩二にいうと「不倫した親の娘の癖に乞食が」と罵られるだけだった。
「多分、高木千鶴と浩二夫妻は里親の助成金と瑠実菜さんのお父さんから支払われる養育費が目当てで引き取ったと思うよ」
大屋の言葉に瑠実菜は泣き崩れた。
やっぱりお金目当てだった。
誰からも一番近いはずの家族から「お前は不義の子」や「乞食」と言われるのも当然のことをした。
しかもその家族とは本当に血がつながってなかった。高木瑠実菜を名乗っても、家のために手伝いや学業を頑張っても、どうあがいても高木家の家族の一員にはなれない。
本当の父も自分が違う男性の娘であると言われて捨てた。
――私はどこに行っても歓迎されない。この世にいることさえも。
だから足を引っ張らないように、慎ましく、小さく生きていかないといけない。
でも、自分の幸せがせめて一つ欲しかった。平穏に生きる権利が欲しかった。
誰にも存在を否定されず、性的な目で見られず、一人の人間として――高木瑠実菜として見てくれる人間がいたらと。
「今まで疑って申し訳ございません! 罵倒して申し訳ございません!」
すずらんが深々と瑠実菜の方へ頭を下げた。
「す、すずらんさん!?」
「どうした?」
上司が頭を下げる姿に二度見するすいせんとみみずく。
「私、あなたのことをきちんと見ずに、疑ってかかってました。占部瀬里香と浩二と関係があるからと、美人局をしてるんだと決めてかかってました。でも、この戸籍謄本、そしてあなたの半生を聞いて、あなたがこのようなことをするタイプではないと気づきました。どうかひとつだけ言わせてください、あなたは『どこへ行っても歓迎されない』とおっしゃってましたが、少なくとももうそんな人はいないと思います」
泣きはらしている瑠実菜にさりげなく大屋がティッシュを持ってきた。
「えっ?」
すずらんはみみずくの方へ顔を向ける。
「少なくとも、みみずくは否定するタイプではないわ」
みみずくはうんと頷く。
「多分、あなたは占部瀬里香と浩平に美人局をやるように言われた時、これを機に逃げようと思ったのでしょう」
「はい」
「上司の私がいうのもあれなんだけどね。みみずくは、電車や写真の話ばっかで、女心や人の機微に疎いところがある。でも好きな人の振り向いてもらおうと努力している。嬉しそうにあなたとのやり取りを話していた。否定の言葉なんて全くなかったわ。本当に嬉しそうなの。私たちに流行りのスポットやトレンドを聞いてきたり、ネットで調べたりしていたの。全てはあなたともっといたいからよ」
すずらんの話を聞いていくうちに瑠実菜が泣き止んで、真剣に聞いている。
「だからね、胸張っていいのよ。もうここであなたを否定する人はいないの。受け入れてくれてる人がいるじゃない」
「はい」
「さっきは言いすぎたわ。ごめんなさい。あなたはこれから後ろ指さされることもあるかもしれない。親の因果は子に報いるとか、占部家と関わりがあったからと正当化して、あなたを誹謗中傷する人がいるかもしれない。そういう人はいくらあなたが真面目に頑張っても何しても叩く。これからの人生、あなたが幸せになるかは、あなたの今後の振る舞い次第よ。いつまでも悲劇のヒロインになっちゃだめ」
「はい、わかりました! すずらんさん!」
何か吹っ切れたような顔になった瑠実菜にすずらんは安堵した。
「わかったわ。じゃぁ、これからどうする?」
「私、なんとしてでも姉――いや占部瀬里香と浩平から逃げたいです。関わりたくありません!」
「そうね。逃げる方がベストだわ。今、あの二人は追い詰めてあるから、ここには来ないと思うけど、バレるのも時間の問題ね……」
眉をハの字にしてしかめるすずらん。
「動画があがってましたからねー。あと、占部瀬里香についてかなり香ばしいとこがあったのよね……」
「香ばしいとこですか?」
大屋の言葉にオウム返しするすずらんに「占部瀬里香のSNSとか身辺もう少しみた方がいいわ」
「はい」
「あと、瑠実菜さんは私と一緒にいよう。今状況を受け入れるの必死でしょ?」
と大屋は瑠実菜の肩をさすって「私の部屋でまってて。コーヒー一緒に飲もう」と一緒に給湯室に向かった。
「占部瀬里香に怪しいとこ……もう一回洗い直そうかあー」
すずらんは瀬里香の名前をPCで検索し始めた。
SNSが出てきた。
「うわぁ……こいつくずいな……」
画面前ですずらんは思わず呟いてしまった。
「この人色々問題起こしってるっぽい。占部浩平とは……」
「あちゃーですな」
三人はパソコンの前で脱力した。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
よろず屋ななつ星~復讐代行承ります~ 藤ノ宮女子高校死亡案件
月見里ゆずる(やまなしゆずる)
キャラ文芸
”ネット特定班”×復讐劇!
世の中には『大人の事情』で制裁されないことがある――そんな理不尽な事を裏で制裁している業者がある。
家事代行・エアコン工事・草むしりその他諸々引き受けます。
表向きは便利屋、裏では復讐代行を請け負っている『よろず屋ななつ星』
高校入学早々体育の授業で神原千夏が喘息の発作が引き金で死亡した。
学校側は事態を隠蔽する姿勢に対し、神原光政・澪子が真実の解明と、校長及び体育教師への制裁をよろず屋ななつ星に依頼する。
依頼を受けたすずらんは藤ノ宮女子高校に関して調べていくが・・・・・・。
十数年前に起きた女子中学生飛び降り事件につながる人物が絡んでいた――。
『古城物語』〜『猫たちの時間』4〜
segakiyui
キャラ文芸
『猫たちの時間』シリーズ4。厄介事吸引器、滝志郎。彼を『遊び相手』として雇っているのは朝倉財閥を率いる美少年、朝倉周一郎。今度は周一郎の婚約者に会いにドイツへ向かう二人だが、もちろん何もないわけがなく。待ち構えていたのは人の心が造り出した迷路の罠だった。
金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷
河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。
雨の神様がもてなす甘味処。
祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。
彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。
心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー?
神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。
アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21
※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。
(2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
転校先は着ぐるみ美少女学級? 楽しい全寮制高校生活ダイアリー
ジャン・幸田
キャラ文芸
いじめられ引きこもりになっていた高校生・安野徹治。誰かよくわからない教育カウンセラーの勧めで全寮制の高校に転校した。しかし、そこの生徒はみんなコスプレをしていた?
徹治は卒業まで一般生徒でいられるのか? それにしてもなんで普通のかっこうしないのだろう、みんな!
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる