上 下
20 / 45
3章

8

しおりを挟む
「……きさーん、起きてくださーい」 
 さっきから耳元でささやくような声がする。
 目が覚めると「ゆ・う・きさーん、おはようございますー」と。
 正座を崩して体をカーブした姿の瑠実菜がいた。
 そうだ、昨日女の子を泊まらせたんだ。ガッツリ寝てしまった。
 こんな現場撮られたら最悪だよ。
 一生社会的に抹殺まっさつされるパターン。芸能人だったら週刊誌のネタにされると思う、多分。
 ぐるぐると最悪なことばかり頭に浮かぶ。
 これが普通の恋愛なら、ラッキーだと思う。でもそうじゃない。
 下手するとお金と社会的地位を失うかもしれない。
「お、おはよう、ございます……」
 やっぱり女の子は隣にいるのは落ち着かない。こんな可愛い子が。
 しかも起きたら、グラビアアイドルのねーちゃんみたいなポーズでいたし!
 落ち着かないけど、ちょっと嬉しい。
 写真撮れば良かった!
「朝ごはん作ってもいいですかー?」
「えっ?!」
「色々してもらってばかりなので、申し訳ないなと……」
「いやいやいいよ、俺がやるからさー、君はお客さんなんだ。待っててくれ」
「いいから、いいからー待っててくださーい。食材は何がありますかー?」
「……ほとんど冷食ばっかだよ。あー、卵とパンとコーヒーがあるかなー」
「分かりましたー。ゆうきさん一緒につくりましょ。”共同作業”ですっ」
 結婚式のケーキバイトか!
 琉実菜の押しに負けた。どうも彼女に弱い。
 共同作業といっても、あれはどこにあるだどうのこうの教えているだけで、特に手出しをしていない。
 楽しそうに作ってる姿は眼福がんぷくだ。
「出来ましたよー」
 目玉焼きに、トーストに、コーヒー……こんなきっちりした食事したの何年ぶりだろかと感慨に浸る。
 そしていつものように琉実菜はみみずくの隣に座った。
「はい、お口開けてくださーい」
「えっ?」
「いいから、いいからー」
 琉実菜に言われるままみみずくは口を開ける。目玉焼きを箸で切ったのを「あーん」してもらってる図だ。
「どうですか? 美味しいですか?」
 瑠実菜が不安そうにみみずくの目を見つめる。
「う、うん。超美味しい」
 いい感じの硬さとトロリと広がる卵のきみ。
「あっ、ちょっと待ってくださいー」
 ティッシュを取り出した瑠実菜は、みみずくの口元を拭き取る。
「ふふ、ゆうきさん可愛いですよ」
 みみずくの顔が赤くなり、思わず両手で顔を覆う仕草をする。
 二十何年間生きて女の子にこんなことやってもらえるなんて! うれしいような、恥ずかしような。
 多分結婚や同棲をしたらこういうのしてもらえるのだろうなー。
 さて、そんな日が来るかどうか分からないけど。

 神様ありがとう! 今日はしっかり仕事出来そうです。
 みみずくは琉実菜にやってもらってまんざらでもなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

よろず屋ななつ星~復讐代行承ります~ 藤ノ宮女子高校死亡案件

月見里ゆずる(やまなしゆずる)
キャラ文芸
”ネット特定班”×復讐劇! 世の中には『大人の事情』で制裁されないことがある――そんな理不尽な事を裏で制裁している業者がある。 家事代行・エアコン工事・草むしりその他諸々引き受けます。 表向きは便利屋、裏では復讐代行を請け負っている『よろず屋ななつ星』 高校入学早々体育の授業で神原千夏が喘息の発作が引き金で死亡した。 学校側は事態を隠蔽する姿勢に対し、神原光政・澪子が真実の解明と、校長及び体育教師への制裁をよろず屋ななつ星に依頼する。 依頼を受けたすずらんは藤ノ宮女子高校に関して調べていくが・・・・・・。 十数年前に起きた女子中学生飛び降り事件につながる人物が絡んでいた――。

女の勘、なぜ分かる

御厨カイト
恋愛
俺は妻に黙って浮気をしている。もう半年以上妻にこの生活がバレずに済んでいるため、自分の行動力に自画自賛していた俺。今日家に帰るまでは……

モリウサギ

高村渚
キャラ文芸
完結済。警視庁捜査一課の刑事館那臣は『解決してはならない事件』に手を出し、懲戒免職寸前だった。そんなとき書店で偶然出会った謎の美少女森戸みはや。自らを『守護獣(まもりのけもの)』と呼ぶ彼女に那臣は『主人(あるじ)』として選ばれる。二人の奇妙な同居生活が始まった。次々と起こる女性殺害事件。被害者の女性は皆『オーディション』を受けるため誘い出され、殺害されていた。その影には因縁の相手、警察OBで国家公安委員長である河原崎勇毅、そしてその息子の河原崎尚毅の存在が……?「もう一度、奴らを追う」「主人の望むものすべてを捧げるのが守護獣ですから」那臣とみはや、そしてその仲間たちは河原崎親子の牙城を崩せるのか……?同人誌として6冊にわたり発行されたものに加筆修正しました。小説家になろう・カクヨムにも投稿しています。なお、作中の挿絵も筆者が描いています。

あやかし学園

盛平
キャラ文芸
十三歳になった亜子は親元を離れ、学園に通う事になった。その学園はあやかしと人間の子供が通うあやかし学園だった。亜子は天狗の父親と人間の母親との間に生まれた半妖だ。亜子の通うあやかし学園は、亜子と同じ半妖の子供たちがいた。猫またの半妖の美少女に人魚の半妖の美少女、狼になる獣人と、個性的なクラスメートばかり。学園に襲い来る陰陽師と戦ったりと、毎日忙しい。亜子は無事学園生活を送る事ができるだろうか。

不倫夫にメリーさん凸を仕掛けてやった

家紋武範
恋愛
 夫の不倫を知った妻の遥香は、夫と不倫相手に罠を仕掛け、追い詰めるのであった。

『古城物語』〜『猫たちの時間』4〜

segakiyui
キャラ文芸
『猫たちの時間』シリーズ4。厄介事吸引器、滝志郎。彼を『遊び相手』として雇っているのは朝倉財閥を率いる美少年、朝倉周一郎。今度は周一郎の婚約者に会いにドイツへ向かう二人だが、もちろん何もないわけがなく。待ち構えていたのは人の心が造り出した迷路の罠だった。

金沢ひがし茶屋街 雨天様のお茶屋敷

河野美姫
キャラ文芸
古都・金沢、加賀百万石の城下町のお茶屋街で巡り会う、不思議なご縁。 雨の神様がもてなす甘味処。 祖母を亡くしたばかりの大学生のひかりは、ひとりで金沢にある祖母の家を訪れ、祖母と何度も足を運んだひがし茶屋街で銀髪の青年と出会う。 彼は、このひがし茶屋街に棲む神様で、自身が守る屋敷にやって来た者たちの傷ついた心を癒やしているのだと言う。 心の拠り所を失くしたばかりのひかりは、意図せずにその屋敷で過ごすことになってしまいーー? 神様と双子の狐の神使、そしてひとりの女子大生が紡ぐ、ひと夏の優しい物語。 アルファポリス 2021/12/22~2022/1/21 ※こちらの作品はノベマ!様・エブリスタ様でも公開中(完結済)です。 (2019年に書いた作品をブラッシュアップしています)

薬膳茶寮・花橘のあやかし

秋澤えで
キャラ文芸
 「……ようこそ、薬膳茶寮・花橘へ。一時の休息と療養を提供しよう」  記憶を失い、夜の街を彷徨っていた女子高生咲良紅於。そんな彼女が黒いバイクの女性に拾われ連れてこられたのは、人や妖、果ては神がやってくる不思議な茶店だった。  薬膳茶寮花橘の世捨て人風の店主、送り狼の元OL、何百年と家を渡り歩く座敷童子。神に狸に怪物に次々と訪れる人外の客たち。  記憶喪失になった高校生、紅於が、薬膳茶寮で住み込みで働きながら、人や妖たちと交わり記憶を取り戻すまでの物語。 ************************* 既に完結しているため順次投稿していきます。

処理中です...