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3章
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結局、前回同様みみずくはゆあの上目遣いアピールに負けてしまった。
しかも今日は真っ昼間の十四時からしらさぎの湯に個室四時間コースで取ってしまった。
入浴の後館内のレストランで食事した。その後に個室で過ごす。
個室はさくらという名前だった。
ききょうと同じく、こじんまりとしたお部屋だ。
そしてみみずくの横にゆあが座る。
ま、また! 俺の横に座ったよ! き、緊張する!
「ゆ・う・きさーん、おやつ頼みましょー」
ゆあは注文用のタブレット片手にデザートのおねだりをする。
「そ、そうですね……」
甘いもの食べて気を紛らわせよう。
テレビを見つつ、おやつを食べる。
「うーん、美味しいですー!」
嬉しそうにチョコレートパフェを食べているゆあを見ていると、こっちまで嬉しくなる。
みみずくは抹茶のわらびもちを食べながら思う。
テレビは真っ昼間から、やれ芸能人の不倫だ、政治家の不祥事だと気が滅入る内容だ。でも、ゆあと一緒にいるとそれもどうでもよくなってくる。
家族のことや、学校のことをいろいろ聞きながら頭にいれていくみみずく。記憶力は自信がある方だ。
そしてすずらんから言われた通り、密かにボイスレコーダーを鞄の中に入れていた。何かあったらだめだからと。
初回のデートからなんだかんだ毎日おはようからおやすみまで挨拶している。これでもかなり続いている方だ。
「ゆうきさんって本当に優しい方ですね。私、好きになっちゃいそうです」
「そ、そうですか?」
この子、お酒飲んでるのか? いや、さっきココアをチョコレートパフェと一緒にメロンソーダを頼んでいるからそんなはずない。心の中で疑ってしまう。
みみずくは面食らった。
お人好しとか気が弱いとか、散々言われてきたが、優しいと言われたのはあんまりない。
優しくしているのは業務的なことがあるからだ。
「私、あんまり男性に優しくしてもらったことがなくて……」
曰く、中学時代から見知らぬ男性や同級生から性的なからかいをしょっちゅう受けていた、女子からは妬まれたり嫌がらせを受けることが多かったと。
確かにそういう苦労が沢山あったと思う。
自分も少なからずゆあに対して下心あるのは否定できない。仕事上のこととはいえ。
「そうでしたか……それはさぞ大変だったでしょう」
「ゆうきさんは一人の人間として見てくれています。異性に話を聞いてもらえることって今まであんまりなかったもんで」
そんなこと意識していなかった。
相手の意思と自分の意思をすり合わせるようにとか、露骨に下心出す人をかなり嫌がるからとか、相手を尊重しなさいなどすずらんから言われてきた。
人の機微に疎いところに自覚があるけど、すずらんやすいせんのおかげで今に至る。
「それは、どうも」
なんだか照れる。顔が紅潮している。
「とりあえず、そろそろ夕飯にしましょ。私、さしみ定食にします!」
時間はもう十六時だ。そろそろご飯にしないと退出時間に間に合わないだろう。
二人はさしみ定食を頼んだ。
七つ星漁港で採れた新鮮な魚介類たちが並ぶ。
「いっただきまーす!」
ゆあは緑茶ハイをみみずくは緑茶を頼んだ。
ゆあからお酒飲まれないんですかと聞かれたが、今日も車で来ているのでと断った。
飲酒運転なんかしたくない。そんなことで警察のお世話になるなんて絶対嫌だ。
一つ星町のバスは一時間に一本から二本、終電は二十一時と交通の便がいいとは言えない。車が必須なエリアだ。だから皆高校三年の時に、進路が決まり次第、教習所に通って車の免許を取るのが当たり前だった。みみずくもその一人だ。
飲酒運転して車乗れませんは避けたいとこだ。
ゆあ背筋を伸ばして箸使いもきっちりしている。
みみずくはあんまりマナーに自信がないので、ゆあのそういう所は尊敬する。
食べ終わるとゆあは酔っていた。顔が赤い。そして声が高くいつも以上に甘えて来る。
「ゆ・う・き・さーん」
四つん這いになってみみずくに抱きついてくる。
本当はこの子お酒が苦手なんじゃ……それとも慣れてないとか……あとはわざとか。
ゆあが着ているピンク色の薔薇をモチーフにした浴衣が妖艶で、帯によって締められる事で胸が強調されている。
「本当は私のこと好きなんでしょ?」と耳元でささやく。
「……っぐっ……きです」
彼女に心寄ってきているのは否定できない。
毎日のやりとりが楽しいのは事実だ。
女性にあんまり縁がなかった自分にとって、彼女は長続きしている方だとおもう。今、二回目のデートをしている。今まではドタキャンか、気づかないうちにやりとりが減ってたことが多かったから。
仕事じゃなかったら、騙されても、はい、お気の毒ですねと済む。でもこれは依頼人の無念を晴らすための大事な仕事だ。ヘマは出来ない。
それに自分のことがバレるのはだめだ。
よろず屋ななつ星の鉄の掟は”身バレダメ、絶対”だから。
視線をどこに向ければいいんだ。女の子がいきなり抱きついてきたり、囁いてきたりと、内心は嬉しいけどどうリアクションすればいいんだ。
狼狽えているみみずくにおかまいなく、ゆあは「さっきから様子が変ですよー」「私の胸ばかりみて困った子ですねー」と笑う。
「そ、そうですか?」
もういつもの自分じゃない。目の前にいる女の子にドギマギしている自分が今の現実だ。
みみずくは時計を一瞥した。あと十五分で終わりだ。
「そ、そろそろ帰る準備しないと……」
みみずくが立ち上がった瞬間、ゆあに浴衣の腕を掴まれた。
「あ、あの、もう少し、一緒にいてくれませんか?」
ゆあは鈴を鳴らすような声でみみずくの目を一心で見つめる。
「わたし、ゆうきさんにお話したいことがあるんです」
居住まいを正したゆあの姿にみみずくは「何かあるの?」と正座して聞く。
「あ、あのですね……」
ゆあの懇願するような口調で言われた内容にみみずくは言葉に詰まった。
しかも今日は真っ昼間の十四時からしらさぎの湯に個室四時間コースで取ってしまった。
入浴の後館内のレストランで食事した。その後に個室で過ごす。
個室はさくらという名前だった。
ききょうと同じく、こじんまりとしたお部屋だ。
そしてみみずくの横にゆあが座る。
ま、また! 俺の横に座ったよ! き、緊張する!
「ゆ・う・きさーん、おやつ頼みましょー」
ゆあは注文用のタブレット片手にデザートのおねだりをする。
「そ、そうですね……」
甘いもの食べて気を紛らわせよう。
テレビを見つつ、おやつを食べる。
「うーん、美味しいですー!」
嬉しそうにチョコレートパフェを食べているゆあを見ていると、こっちまで嬉しくなる。
みみずくは抹茶のわらびもちを食べながら思う。
テレビは真っ昼間から、やれ芸能人の不倫だ、政治家の不祥事だと気が滅入る内容だ。でも、ゆあと一緒にいるとそれもどうでもよくなってくる。
家族のことや、学校のことをいろいろ聞きながら頭にいれていくみみずく。記憶力は自信がある方だ。
そしてすずらんから言われた通り、密かにボイスレコーダーを鞄の中に入れていた。何かあったらだめだからと。
初回のデートからなんだかんだ毎日おはようからおやすみまで挨拶している。これでもかなり続いている方だ。
「ゆうきさんって本当に優しい方ですね。私、好きになっちゃいそうです」
「そ、そうですか?」
この子、お酒飲んでるのか? いや、さっきココアをチョコレートパフェと一緒にメロンソーダを頼んでいるからそんなはずない。心の中で疑ってしまう。
みみずくは面食らった。
お人好しとか気が弱いとか、散々言われてきたが、優しいと言われたのはあんまりない。
優しくしているのは業務的なことがあるからだ。
「私、あんまり男性に優しくしてもらったことがなくて……」
曰く、中学時代から見知らぬ男性や同級生から性的なからかいをしょっちゅう受けていた、女子からは妬まれたり嫌がらせを受けることが多かったと。
確かにそういう苦労が沢山あったと思う。
自分も少なからずゆあに対して下心あるのは否定できない。仕事上のこととはいえ。
「そうでしたか……それはさぞ大変だったでしょう」
「ゆうきさんは一人の人間として見てくれています。異性に話を聞いてもらえることって今まであんまりなかったもんで」
そんなこと意識していなかった。
相手の意思と自分の意思をすり合わせるようにとか、露骨に下心出す人をかなり嫌がるからとか、相手を尊重しなさいなどすずらんから言われてきた。
人の機微に疎いところに自覚があるけど、すずらんやすいせんのおかげで今に至る。
「それは、どうも」
なんだか照れる。顔が紅潮している。
「とりあえず、そろそろ夕飯にしましょ。私、さしみ定食にします!」
時間はもう十六時だ。そろそろご飯にしないと退出時間に間に合わないだろう。
二人はさしみ定食を頼んだ。
七つ星漁港で採れた新鮮な魚介類たちが並ぶ。
「いっただきまーす!」
ゆあは緑茶ハイをみみずくは緑茶を頼んだ。
ゆあからお酒飲まれないんですかと聞かれたが、今日も車で来ているのでと断った。
飲酒運転なんかしたくない。そんなことで警察のお世話になるなんて絶対嫌だ。
一つ星町のバスは一時間に一本から二本、終電は二十一時と交通の便がいいとは言えない。車が必須なエリアだ。だから皆高校三年の時に、進路が決まり次第、教習所に通って車の免許を取るのが当たり前だった。みみずくもその一人だ。
飲酒運転して車乗れませんは避けたいとこだ。
ゆあ背筋を伸ばして箸使いもきっちりしている。
みみずくはあんまりマナーに自信がないので、ゆあのそういう所は尊敬する。
食べ終わるとゆあは酔っていた。顔が赤い。そして声が高くいつも以上に甘えて来る。
「ゆ・う・き・さーん」
四つん這いになってみみずくに抱きついてくる。
本当はこの子お酒が苦手なんじゃ……それとも慣れてないとか……あとはわざとか。
ゆあが着ているピンク色の薔薇をモチーフにした浴衣が妖艶で、帯によって締められる事で胸が強調されている。
「本当は私のこと好きなんでしょ?」と耳元でささやく。
「……っぐっ……きです」
彼女に心寄ってきているのは否定できない。
毎日のやりとりが楽しいのは事実だ。
女性にあんまり縁がなかった自分にとって、彼女は長続きしている方だとおもう。今、二回目のデートをしている。今まではドタキャンか、気づかないうちにやりとりが減ってたことが多かったから。
仕事じゃなかったら、騙されても、はい、お気の毒ですねと済む。でもこれは依頼人の無念を晴らすための大事な仕事だ。ヘマは出来ない。
それに自分のことがバレるのはだめだ。
よろず屋ななつ星の鉄の掟は”身バレダメ、絶対”だから。
視線をどこに向ければいいんだ。女の子がいきなり抱きついてきたり、囁いてきたりと、内心は嬉しいけどどうリアクションすればいいんだ。
狼狽えているみみずくにおかまいなく、ゆあは「さっきから様子が変ですよー」「私の胸ばかりみて困った子ですねー」と笑う。
「そ、そうですか?」
もういつもの自分じゃない。目の前にいる女の子にドギマギしている自分が今の現実だ。
みみずくは時計を一瞥した。あと十五分で終わりだ。
「そ、そろそろ帰る準備しないと……」
みみずくが立ち上がった瞬間、ゆあに浴衣の腕を掴まれた。
「あ、あの、もう少し、一緒にいてくれませんか?」
ゆあは鈴を鳴らすような声でみみずくの目を一心で見つめる。
「わたし、ゆうきさんにお話したいことがあるんです」
居住まいを正したゆあの姿にみみずくは「何かあるの?」と正座して聞く。
「あ、あのですね……」
ゆあの懇願するような口調で言われた内容にみみずくは言葉に詰まった。
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