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1章

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が引っかかったねー」
 占部浩平うらべこうへいはスマホを瑠実菜るみなに見せて「こいつ色恋沙汰いろこいざたに縁がなさそう」と満足気に頷く。
 マッチングアプリの獲物のプロフィールは、お城をバックに、青の長袖ブラウスにベージュのパンツスタイルにし、髪型はワックスをかけて清潔感を全面に出している。少し子犬のような幼い感じの男性。
 写真が趣味なんだろうか、投稿に星空や田園風景と電車をうまくマッチングさせたもの、山の写真などがある。比率的に電車が少し多い。
 結婚はできれば、子どもは一人いたらいいと、詳細に書かれている。
 住まいは一つ星町だ。家から会えない距離ではない。
「ほんといかにも陰キャ臭半端ないや。すぐに釣れそうだな。前の人もそうだけど」
 浩平は琉実菜の肩を回して「これは期待値でかい」と呟く。
「今度のターゲットはこいつにしよう。瑠実菜頼むよ」
「……はい……」
「元気ねーな、どうした?」
 浩平は深いため息をついた。
「いえ、なんでもありません」
「ほんと釣れるなー。やっぱ琉実菜が可愛いからな」
 浩平は満足げに頷く。
 ちょっと清楚系上品な女性になりきれば、男性はみんな寄ってくる。それでカマトトぶれば効果倍増。
 ちやほやしてくれる。もっというと奢ってくれるし、高価なプレゼントやお金をくれる。
 親が大病なって手術が必要でお金が必要なのとか、親が事業失敗して、身売りされそうなのとか適当なことを言って、少額のお金が借りたいことを言えば、男の人はポンとくれる。言った金額より少し多めにくれる。
「みて、この人ちょっと写真褒めただけなのに、すっごい嬉しそう。こんなパッとしない人彼女出来る訳ないよ」
 浩平は名前を呼んだら喜んでるってどんだけだと鼻でわらう。
「写真が電車が多いね。ザ・陰キャの趣味じゃん。撮り鉄とか言うんじゃ? 駅のホームの端で団子になってて邪魔なんだよなー。しかも三脚置いてさ! 駅で三脚使っての撮影はアウトのはず。この間撮り鉄の集団が線路に入って、電車止まったし」
 瑠実菜は黙って話を聞く。言い返したら、怒られるからだ。
 その手の人を落としていく為に、浩平はスタッフ達にアニメやゲームの勉強させていた。
 関係になるのに手っ取り早いからと。
 今はネット一つで色々分かるから、多少分からなくても誤魔化しが利く。
 少し気がある風を演じればすぐに食らいつく。
 相手といい感じになった頃に、浩平が出てきて「俺の女に手をだしたな。慰謝料請求するぞ。証拠あるぞ。家族にばら撒くぞ」と絶望に突き落とす。
 本人の目の前で言うと効果的である。 
 男性のプライドというのか「慰謝料請求された」と言いにくいのだろう。もう関わりたくないと言わんばかりに払ってくれる。
 こうやって、浩平は楽に稼ぐことを知った以上今さら働くなんてしたくない。
 同級生達や友人達がせっせとブラック企業で働いてる中、搾取する方の立場で、高みの見物をするのは楽しい。
 相手からもらったプレゼントは使ってるフリをして、すぐにネットのフリマアプリで売る。特にブランドものはすぐ高値がつく。
 なんて楽な事だ。これからもずっとそう続いて欲しい。
「そろそろ、デート誘ってみよう」
 浩平に言われた琉実菜は「……まだ早くないですか?」と自信なさげに返す。
 まだやりとりしたばっかだ。怪しまれる可能性があるからと。
「いいじゃん。早く結果だそうよ。こいつはいいカモだ。日時は平日の昼間に。土日とか夜だけとかだと怪しまれる」
 浩平はニンマリと口角こうかくを上げる。
「場所は七つ星駅辺りにしよう。食事に困らんだろう……そうだな、フレンチレストランがいい」
「あと、清楚系上品な女性を演じる為に練習だね。男というのはそういうのに弱いから。で、この人は写真が好きらしいから、話ついていけるようにしないと」
 頭からつま先までひとつひとつ所作しょさに気を遣わないとだめだ。
 瑠実菜は浩平に言われた通りのキャラを演じなければならない。
 元々男性も女性も苦手だ。男性は性的なことでしょっちゅうからかわれてきたし、女性から蛇蝎だかつのごとく嫌われてきた。ぶりっ子していると。そんなつもりないのに。終始自分に自信がない。
「返事がきました」 
 場所と時間を先に指定する。これで主導権イニシアチブは自分が取ったようなものだ。
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