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1章

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「君、うちのと不倫してるね?」
 玄関ドアの前でいきなり見知らぬ男性から声かけられた。隣には黒のボブの髪型できれい系の顔立ちの女性がいた。
男性は黒のポロシャツに薄いグレーのパンツ。ショートカットのワックスかけたような髪型で、背は自分より背が高い。多分百八十はあると思う。ダンディーな雰囲気を醸し出し、濃い顔立ちの人だ。
女性は白のブラウスにネイビーのロングスカート
 開口一番「不倫してるだろ?」と聞かれて困惑しかない。
「……一体どういうことだ? 妻って?!」 
 マンション内の廊下だから近所の人に聞こえるだろう。
 隣の家の人がちょっと神経質なので、後で怒られるかもしれない。
 すいません、明日天文堂てんもんどうのたい焼き持ってきますのでこれで勘弁してください。
 これ以上声が響くのが嫌なので、自宅に二人を招き入れる。
 どうぞお座りくださいと小さな丸テーブルに案内した。
「これを読んでみて」と茶封筒を渡される。
 封筒を開けると「慰謝料請求します」というような内容。しかも三百万だ。こんなのドラマの話だと思ってた。
 きちんと弁護士の名前書いてあるから、ガチっぽい。
 でも請求されるようなことをした覚えはない。
 カードや家賃の支払いはきちんと給料が振り込まれたらすぐにやってるし、滞ったことがない。
 三百万なんて、社会人歴一桁の自分にはめっちゃデカい金額。
「どういうことですか?」
「君はこちらの女性と半年前から関係を持っているね?」
「はい」
「――僕の妻なんだ」
「はあーっ?! つ、妻?!」
 調子はずれの声を出すの二回目。
「どういうことだ? お前既婚者だったのか?!」
「はい……頼むから、払ってくれないと……夫に殴られるから……それにあなたの家に乗り込むって……」
 懇願するようなすすり泣くような声。
「待ってくれ! 君が既婚者なんて聞いて」
「お願い、払って……」
 話を遮るように払ってくれのお願い。
「……という訳だ。払わないと裁判になるよ。証拠は十分ある。君も騒ぎになりたくないでしょ? 今週までに払ったらなかったことにしよう」
 一方的に言って男女二人は辞去じきょした。

 そんな馬鹿な。俺は不倫をしたというのか?
 不倫なんかドラマや別世界の話だと思っていた。
 同級生や会社の同僚やよその部署で不倫がどうのこうの、離婚してかなり揉めた話を散々きいてきた。
 なぜ気づかなかった? そんな素振り全く見せなかった。
 指輪なんてしてる姿なかったし、お互いの予定をすり合わせてデートをしていた。
 歳は二十八歳。自分と三つ下の女性。
 いつも自分に対して優しくて、口調も丁寧で、一緒にいて心地よかった。
 いつかこの人と一緒にいたいと思っていたのに。
 家族に彼女を紹介して気に入っていた。いい感じだった。
 それが「女性の夫」と名乗る男性が出てきたことで全て台無しになった。
 もしかして、教えてもらったプロフィールも嘘ついてるのか? 独身と偽っていたなら、他も怪しい。
 一体どこからどこまで嘘なのか?
 数年ぶりの彼女ができて舞い上がっていた。大学時代から四年間付き合ってた元カノとは、婚約の最中に相手の浮気で別れた。
『あんたは真面目すぎておもしろくないの。今彼はぐいぐい来るから頼もしいの。お金もあんたよりあるし』
 嘲笑するように言われた言葉が心をえぐる。
 今度は自分が知らないうちに不倫の片棒かたぼうを担いでいた。
 
 ――あなた、二十代のうちは女難じょなんが続くわ。彼女に浮気されたり、知らずに既婚者と関係もつわ。

 大学時代友人とノリで行った占いの館のおばちゃんに言われた。
 当時は「そんな訳ないだろ」と信じていなかったけど、おばちゃんが言ったことが本当に起きている。
 笑えない話だ。おばちゃん、馬鹿にしててごめんなさい。あなたの言う通りになりました。
 家族に紹介した際、同席していた兄の嫁から「あの子ちょっと苦手かも。なんとなくきな臭いから気をつけたほうがいいかも。引き返すなら今のうちよ」「私に対してなんとなく敵意を感じたの。多分同性が嫌いだと思う」と言われたことを思い出した。
 今、思うとそういうところあったかもしれない。
 兄の嫁になんとなく突き刺すような視線を向けていたような。
 占いの館のおばちゃんも、兄の嫁が言ったことはこれなのかもしれない。
 足がガクガクしてへたり込むように座る。
  これ、大人しく払わないといけないのかな。
 上司に相談して考えよう。

 ――恋愛は所詮砂上さじょう楼閣ろうかくにすぎなかったのだ。
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