よろず屋ななつ星~復讐代行承ります~ 藤ノ宮女子高校死亡案件

月見里ゆずる(やまなしゆずる)

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「ねえ、妹の写真見たいって言ってたでしょ?」
 昼休みにすずらんはすいせんとみみずくと大屋を呼んで、スマホの画面を見せた。
 色白で目鼻立ちがよく、背が高い。学校のきまりで二つくくりにしている。
 長袖ブラウスに紺のスカート、そして白の運動靴。
「おおっー、可愛いじゃん!」
「ほんとですねー」
「確かにすずらんに似てるわー」
 妹が中学二年の時の文化祭の写真だ。
 近くにいた保護者にお願いして撮ってもらった。
 なぜか校門の前だ。多分校門の前の立て看板に『二つ星中学校 第六十一回 文化祭』と書いてあって分かりやすかったからだと思う。
 両親が忙しいので代わりに見にきた。
 さすがに自分のことを知ってる教師はもういないだろうと思って行った。
「すずらんさんもステキ! 私、タイプよー」
 当時のすずらんは黒のパンツスーツ上下に、黒のパンプス。
 髪はショートカットで、妹同様細身で背が高い。
 塾の事務をしていた時に、女子生徒からモテていた。バレンタインデーの時は、男性から講師より貰っていた。
「いやー、妹さん可愛っすねー」
 みみずくが身を乗り出してすずらんのスマホの画面をのぞき込む。
「うちの妹はやらんぞ! 妹が許しても私が許さん!」
 むしろフラれるだろう。
 妹はクラスのまとめ役で元気一杯な所があるが、家ではオタクモードになる。
 流行りのアニメや漫画やゲームの話をするのが好きだ。学校ではそんな素振りを見せないが。
 しかもコミュニケーション苦手な人に対して少々容赦ないところがあった。
 多分みみずくとは合わないだろう。
「えー、俺、妹さん欲しいって一言も言ってないんですけどー」
「下心丸出しよ。うちの妹とあなたは合わない。だいたいあんた年上すぎるよ。まずはこの服装をなんとかしなさい。別にたっかいブランドもんじゃなくてもいいから」
「Tシャツどこで買ったの? あともう少し痩せなさい。そのうち健康診断ひっかかるわよ」
「Tシャツは近所のスーパーや適当にネットで……夜更かししてついつい食べすぎちゃうんですよねー。夜ラーメン食べてアニメリアタイ視聴なんか最高ですよ?」
「何時に寝てるの? 起きるのは何時?」
「夜中二時ですね。八時から九時に起きてます」
「みみずくっていくつだっけ?」
「二十八です」
「・・・・・・そうなの?!」
「なんですか! そのリアクションは!」
 みみずくの服装は、白のTシャツに社畜の単語が筆文字で書いたっぽいのをプリントしたのと、水色の半ズボン、そしてビーチサンダル。
 髪の毛も伸び切ってていつ美容院に行ったんだと聞きたい。
 ふくよかな体格ももう少し痩せたらいい感じになるはずだ。多分。
 顔も見た目が童顔ということもあり、少々幼く見える。なんというか、年齢不詳。
 これだと年下の女性と付き合っても、頼りなく見える。
 女性への気遣いが怪しい、服装にちょっと無頓着なみみずくに対して妹は嫌がるだろう。姉である私が許さん。
 マッチングアプリでことごとく断られてる人を妹に紹介したくない。
「そんなー、すずらんさんのけちー!」
「けちで結構! まずは身なりをきちんとしなさい」
 ピシャリと言い放つすずらんに対して「すずらんさんの鬼っ!」とさめざめしく泣く真似をする。
「みみずくの泣き方大根役者みたい。この間見た、佐久間倫子に似てる」
 さらに追い討ちをかけるようにコメントするすいせん。
「あんなのと一緒にしないでください! 俺は少なくとも浮気しないし、田丸みたいに、タバコも吸わないし、ギャンブルしないし!」
「太陽は東から昇り西に沈むレベルのこと言ってるの。当たり前のことでしょう」
「でも芸能人はもちろん、一般人でも男女問わず異性にだらしない人沢山いるじゃないっすかー。俺はそんなこと絶対しない自信あります!」
「あー、もうわかったから! 今度のデートの相手見つかった?」
「……いえ、まだ」
 みみずくの口がぎこちなくなる。
「次のデートまで自分磨きしっかりしなさい。まずは美容院行くこと!」
「は、はぁ……」
「これいいじゃない?」
 すいせんはスマホの画面をイメチェンした男性の写真を見せる。人気俳優のようにパーマとワックスをつけてた。以前の見た目はみみずくと同様、前髪がかかってて、暗い印象だ。
「ほほうー。いいねー」
と大家も納得する。
「ここの美容院よさそうね」
 すずらんはみみずくが住む一つ星町の美容院でシャレオツなとこを検索する。
 駅前の白を基調とした明るそうな雰囲気の美容院だ。
「みんな、俺をイメチェンするのに躍起になってる……」
 喜んでいいのか……これ……と少し困惑気味だ。
「すずらんさんさっきからエラソーに言ってますけど、そっちはどうなんですか?」
「あら、言わなかったっけ? 私、夫いるわよ。まー、不規則勤務だからねー。とてもステキな人よー」
 うっとりしながら夫は優しくて、不規則勤務だけど家事頑張ってくれて、この間はケーキを一緒に食べたのとノロケ話をする。
  すずらんの夫は葬儀会社で働いているため、月に何回か夜勤でいない。
 妹の葬式の時に、横暴な田丸一家を止めてくれたあのガタイのいい男性スタッフだ。
 葬式以外に色々縁があってだ。全部話した上での結婚だった。
「すずらんさん、既婚者だったなんてー!」
 独身仲間だと思ってたが既婚者と知り意気消沈するみみずく。
 大屋もすいせんも既婚者だ。二人とも子どもがいる。
「今日のすずらんさんめっちゃしゃべるねー」
「そうですよね」
「なんか喋りたい気分なの」
 なんとなく高揚気味のすずらん。自慢の妹をこうやって人に話せるようになったのは何年ぶりだろう。
 神原千夏の件で過去の自分と折り合いがつけられたから、今こうやって色々と話が出来る余裕がある。
 家族のこと、自分のこと、その他諸々……。
 個性的な同僚達に囲まれて、なんだかんだ、彼らの存在に感謝している。そうでなければ、神原千夏の件も過去の自分との決別ができなかったと思うし、解決する出来なかったと思う。
 ずっと自分をどこかで抑えこんでいた。
 冷静沈着で感情を出さない、掴みどころのわからないすずらん。
 人によっては怖いとか厳しいとか淡々としてるとか思う。
 今の自分は同僚達と上司と業務にの合間に話している。
 以前の自分だと考えられない。
「あっ、そうだ、今度の案件なんだけどね⋯⋯マッチングアプリの被害なんだ」
「マッチングアプリですか?」
 すずらんは聞き返してみみずくに視線を向ける。
「な、なんですか?!」
「そうだ! 今、丁度使ってる人がここに……」
 大屋とすいせんもみみずくに視線を向ける。
「当然みみずくも参加してもらうわよ。すずらんとすいせんも」
「はい」
「マッチングアプリはみみずくの活躍要素あると思うよ。期待してるわ!」
 すずらんからプレッシャーをかけられたみみずくは「は、はい、頑張ります……」と少々弱気。
「どうした? なんか不安?」
「女子の機敏きびうとい俺がやって大丈夫なんかと」
 「何弱気になってんのよ! この仕事でしっかり活かせばいいの! ほら、まずは背筋伸ばす! 猫背ねこぜだと自信ないと思われるよ!」
 すずらんはバシッとみみずくの背筋を伸ばすように背中を押す。
「顎は引く! 目線は少し上げる! かかとを重心に立つ!」
「はい、すずらん先生」
「おおーっ! いい感じじゃん!」
 シャキッと立ったみみずくに大屋とすいせんは感嘆の声をだす。
「これ、覚えて。あとは、服装ね……もーちょいきちんとしたのね。まずはプロフィール写真をなんとかしないと。服は白ブラウスと紺のジャケットと、ズボン。半ズボンは向いてない。メガネも外すかコンタクトにしなさい」
「プロフィール写真は、趣味の写真撮ってる姿と背筋伸ばして、全身が写ってるの。加工したのはアウト。趣味の写真は出来れば風景か鳥とか星とか自然がいいかな。電車は微妙かも。すいせんに撮ってもらいな」
「はーい!まかせてー!」
 すいせんは元々結婚式のフォトグラファーをしていたのでこういうのが得意である。
「マッチングアプリはプロフィールから始まるから手を抜いたらだめ! 分かった?」
「はい、すずらん先生!」
「午後はこれといって大きな仕事ないから、次の案件のために、みみずくのマッチングアプリのプロフィールを作り直しと振る舞い方の勉強よ!」
「ひえーっ!」
 最早すずらん先生の暴走は止まらない。
「すずらんめっちゃ張り切ってるわー。でも良かった」
 大屋は笑いを堪えて部下達を見守る。


 表向きは家の修繕、家事手伝い、浮気・身辺調査など請け負っている。――その裏で復讐代行案件を請け負っている。
 ヒントとなるSNSの投稿やネット上の情報を下に、個人情報の特定・拡散・突撃をする。
 外堀を埋めて中へ追い込むようにピースを合わせていく。ジグソーパズルのように。
 彼ら彼女らに目をつけられたら、さあ大変!
 お天道様のもとを歩けなくなるから。

 大人の事情や忖度で泣き寝入りする人達を一人でも減らしたい。
 全ては理不尽なことを無くすために。
 真面目な人が報われる社会であって欲しい。

 ――それらの思いを実現するために、よろず屋ななつ星が存在するのだから。
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