よろず屋ななつ星~復讐代行承ります~ 藤ノ宮女子高校死亡案件

月見里ゆずる(やまなしゆずる)

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7章

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「これより神原千夏さんの件の経緯をお話致します」
 体育館には金曜日にも関わらず、パイプ椅子が埋まってた。
 舞台の上には学園長、教頭、校長、そして田丸。
 校長と田丸は舞台袖、向かいには教頭と学園長。
「あの人何……? ジャージ着て……誰?」
「あれが例の田丸先生よ」
 保護者席でひそひそと囁く声。
 田丸は保護者会にも関わらず、赤のジャージ姿に、黒のクロックス。しかもパイプ椅子に足と腕を組んで座っている。
 髪の毛も乱雑で明らかにセットしてない。
 そして校長は前回と同じく赤のパンツスーツだ。
 ――明らかに保護者の前に出る服装ではない。
 片や学園長と教頭はビジネスマナーに則り固い服装だ。

 学園長が淡々と今回の経緯を説明していく。
 保護者らは学園長の話に真剣に耳を傾けていた。
 なぜこのようなことが起きたか、現状について。
「……では田丸先生と佐久間校長に一言お願いいたします。佐久間校長からどうぞ」
「初動で皆様にはご不快になられましたら、お詫び申し上げる所存でございます……っぐっ、神原千夏さんに対してなんと言葉を申し上げたら宜しいのやら……ぐっ……藤ノ宮女子高校の名前に傷をつけるような行動をしないよう再発防止に努めます」
 佐久間校長は時折ハンカチで涙を抑えながらお詫びの言葉を述べる。
「田丸先生、お願いいたします」
 田丸はピクっと肩を動かして周りを見る。
「……えーっとなんでしたっけ?」
 それもそうだ。田丸は初っ端から腕を組んで足を投げ出し、船を漕いでいたのだから。話を全く聞いてない。
「学園長から一言話しなさいって言われてるのよ!! ほら、あそこ行って適当に謝っとけばいいの」
 小声で校長が嗜められた田丸は気だるそうに立ち上がり「……騒ぎを起こしてしまい……申し訳ございません。これでいい?」と述べただけだった。頭をかきながら椅子に戻った。
 二人は謝罪と称して言葉を並べただけだった。
 保護者達の視線が突き刺さる。
 まるで軽蔑するかのように。
 覇気のない投げやりな態度。そして挑発的な服装。
 「お二人からお詫びの言葉が出ましたが、皆様どうお感じでしょうか? 私は少なくとも誠意のある態度ではないと思いますが」
 学園長は二人を一瞥する。 
 睨みつける校長、腕を組み足を投げ出してだらけた態度で座る田丸。
 まるでしぶしぶここに来ましたと言わんばかりに。
「はぁー、もう終わりにしません? 謝ったことだし、いちいち過ぎたこと蒸し返されるのも鬱陶しいんですよねー学園長」
「そうですよ。これでよろしいでしょ」
佐久間校長が椅子から立ちあがろうとした。
「いい加減にしろ!」
「おたくら一体何様だ! 自分達の立場分かってるんか!」
「校長の涙もわざとらしいんだよ! 本気で謝ってるつもりでいるんか?」
 保護者席からブーイングの声。国会の野次だった。
 二人の不遜な態度が保護者達の怒りを買うことになった。
 教頭が壇上に達二人に向かって言い放つ。
「終始反省の色が全くないですね。自分たちが悪くないと言わんばかりの態度。だから保護者の前でも平気で場にそぐわない服装が平気でできる……ヘドがでますね」
「――お二人共退職届の準備をして下さい。懲戒解雇です」
 安堵の言葉が出てくる保護者席――教頭から保護者の目の前で言われた二人は言葉を失った。
「ふざけんな、このもやし! 俺が何したってんだ!」
 田丸は教頭めがけて、クロックスを投げつける――見事に的中してしまった。追い討ちかけるように教頭の胸ぐらを掴んだ。
「俺を首にするつもりか? あん?」
 保護者席は「まじ、こいつやばいぞ」と言わんばかりの空気。止めるにも怖くて誰も止められない。
「……っぐ、や、やめ、て、くれ……」
 校長も「がんばってー! 田丸せんせー」と黄色い声が体育館に響く。
「俺と校長をそのまま残留させてくれるなら離す。そうじゃなきゃ、ずっとこのままだぜ」
監督は意地汚い顔で学園長を挑発する。
「く、覆す、ことは、無理……だ……」
さらに田丸の胸ぐらを掴む力が強くなった。
 痛みを堪える教頭はなんとしてでも離れようにも、田丸が無駄に力あるのでどうしようも無い。
 すると、体育館の奥から警備員数人が田丸を取り押さえようと舞台に駆け上がる。保護者席からも舞台に近い数人も一緒に駆けつける。その中には真凜と千夏の父がいた。
「いい加減やめんか!」
警備員と保護者達がひっぺはがす。
「お前ら目障りだ!」
 田丸も負けじと抵抗するが、保護者達も負けてられない。
 ようやく監督を引き剥がすことができた。
「な、なんでクビになったお前がいるんだ! 帰れ! この底辺!」
 警備員――石綿敏夫を見た田丸がつばを吐きながら悪態をつく。
 体格のいい警備員達が監督が暴れないように腕を取り押さえる。
「もう謝ったからいいだろ! 俺に逆らうつもりか!? たかが生徒一人くたばったからって大げさなんだよ! 諸悪の根源は志村真凛だ! 蹴られて当然だ! 俺様に逆らったからな。あいつが体育で足ひっぱらなかったら神原千夏も死ななかっただろ!」
「そうよ、皆様騒ぎすぎです! たかだか生徒一人のためにわざわざ保護者会開くなんてばかばかしいです。それになぜあの人がいらっしゃるの? 処分くだされた分際でここに来るなんて随分神経が図太いのですね。他の警備員の方もご苦労さま」
 校長は石綿と保護者達に嘲笑した。 
「……底辺、ですか……警備員って何も手出しできないんです。一般市民の扱いと一緒ですから。何か起きても私達は通報するまで。せいぜい現行犯で警察に引き渡すまで。美味しい所は全部警察や消防に取られるんですよ。理不尽な因縁や嘲笑の雨を浴びるのは日常茶飯事ですから。立場が弱いからって私達をサンドバッグ扱いする人は少なくないですからね」
 石綿は学園長から『明日保護者会開くけど、もしかしたら田丸監督が暴れるかもしれないから、受付と警備をお願い』
 そして今回決定的な出来事が起きた。
 早く手を打たなかった学園長である自分に非がある。
 保護者から非難されるのも覚悟の上で保護者会を開いた。
 そして保護者会当日、受付に警備員二人、そして体育館の奥で石綿が待機していた。
 案の定、暴れた。
「日陰者らしくおとなしく言うこと聞いていればいいのよ! 石綿元教頭」
「お前も神原千夏も俺と倫子の言う通りにしときゃ、こんなことにならなかったんだよ! どうしてくれる? 俺たちは家族が嫌がらせ受けてるんだ。どう責任とってくれるよ?」
「そっくりそのままあなた達に返します。校長の保護者説明会、あれなんですか? 藤ノ宮のブランドが何? 騒ぎを起こして申し訳ない? 自己保身のためなら、警備員に何してもいいと本気でお思いですか? 適当な理由でっち上げて辞めさせるのも厭わない? 神原さんの件で関わった人達の存在を否定してもいいんですか? 簡単に辞めさせるんですか?」
「神原千夏さんが倒れた日、あなた達は保健室にいくフリして、駐車場に向かってるのを見ました。あと、日頃からあなた達が学校内でいちゃついてるのも知ってますからね! 防犯カメラの映像にも残ってます! 皆さん知っていて言わないだけですが!」
「結局お二人の関係が露見されるのが嫌だから、志村さん、和田さん、高山先生、佐田先生――そして私に処分をくだしたのでしょう。ねぇ? 校長、田丸先生」
「あなた達の関係と過去の行いはもう保護者……いや、世間にしられてますよ」
 滔々と語る石綿に体育館全体が静まる。
 保護者席からは「やっぱりな。あの校長と田丸の関係はガチだったのか」「田丸がクビにならなかったのは、校長が絡んでたのか……」と呆れの声が聞こえる。
「……これ以上喧嘩になるのもあれですので」
 学園長が咳払いをした。
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