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1章
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湖が窓に反射してよく見える。
水面がカーテンのよう。
これが夜になれば月に反射してますますエモいのだろう。
・・・・・・なんてロマンチックなことを考えてるのが虚しい。
ネットで出会い、気になる人と食事のお誘いをした。
待ち合わせの場所はここだ。
この日のためにシャレオツなレストランはないか必死にリサーチした。
人気があまりなく、静かな場所。
――相手の人が来なくなった!
十五分、三十分経ってもなかなか来ないなーとやきもきしていたら、スマホの通知に『突然ですが今日用事が入ったので、またの機会でお願いします』の文面。
はいきた! ドタキャンですか!
呆れと悲嘆が同時にやってくる。
レストランを予約してキャンセルするのも心苦しいので、一人で食べることにした。
白ワイン片手に前菜のカルパッチョを一瞥する。
「二名なのに、うわーこいつ一人でこんなとこに来てるー。断られたのかなー」と今頃厨房で話題になっているだろう。
もういいや、やけになってやると言わんばかりに、白ワインを口つける。
何がダメだったのか一人で反省会をする。
写真の服装か? 趣味か?
ファッションセンスが悪いのは自覚している。
元々服は最低限清潔感ある風に着れたらいいという考えだ。
コーディネートは二の次。
以前イメチェンしようとファッション雑誌を買って読んでみた。
ブラウスだけで三万円・・・・・・頭から足まで揃えたら十万円余裕で越えそうだ。
服にお金かけるなら、趣味の電車撮影につぎ込みたい。
電車好きというだけでよく思わない人は少なからずいる。
特に撮り鉄は色々と騒ぎやトラブルを起こしたりと、散々マナーについて問題視されている。
マナー悪い人が一向に減る気配がない。
注意しても逆ギレや開き直る人が多い。
世間様のイメージが悪いので、最近はオープンにしないようにしている。
ネットで公表しているプロフィールも写真が趣味と濁している。
実際、電車以外にも野鳥や風景も撮っているから嘘はついていない。
メインディッシュが出た頃、お店に男女の来店者が二名。
女性の方は鼠色のスーツにショートカット。化粧が控えめだろう。年齢的にに五十代ぐらいか。
男性の方は――青のジャージ上下で、腕組んで店員と女性のやり取りを見てるだけ。
所々聞こえる会話から予約してなさそうだ。
二人は案内され、窓側の席についた。
その斜めに自分がいる。
うわぁ、こんな所にジャージで来るか?!
もうちょい考えろよ。
紺のシャツに白の半ズボンに柄物のサンダルの自分も人のこといえないか。
この格好はプロフィール写真と同じものである。
すぐ見てわかるようにしたのに。
店員に注文を聞かれ「白ワイン二つ」と女性が答える。
「・・・・・・あの人亡くなったわ。これからどうする?」
他人の会話が気になる性分だ。
会話に耳をダンボにしつつ、カバンの中からスマホを取り出し、録音アプリを開く。
「喘息かなんだかしらねーけど、たかが生徒一人亡くなっただけで騒ぎすぎなんだよ。せっかくの飯が不味くなる。なぁ、倫子、保健室の先生探すフリして逃げたのは正解だったな」
「そうね。責任がここにきたら困るから、警備員とあの生徒二人に押し付けましょ。適当に理由つけて、学校に来れない形にすればいいのよ。あの警備員、学園長派だから追い払うのに丁度良かったわ」
女性は無邪気な子どものように微笑みながら、水が入ってるグラスに一口つけた。
「だいたい、志村だっけ? ガキの癖に俺に刃向かうなんておかしいんじゃねーの。学校で騒ぎ過ぎなんだよ。今どきの奴は根性ねーなー。俺、くたばった奴の両親に怒られたくないんだけど」
男性は水をがぶ飲みして、勢いよくグラスを置く。
女性は少し品のある雰囲気。
赤のメガネでショートカット。食べる姿勢も仕草も上品だ。
育ちのいいお嬢さんだったんだろう。
一方男性の方は、体格がよく力もありそう。
清潔感があるとはいえず、髪の毛がボサボサ、ふんぞり返って座ってる。
しかも声も音も大きい。
そもそもジャージでこんなシャレオツな店来る時点でいいとはいえない。
しかも口悪い。チンピラのようだ。
喘息で授業中に生徒が亡くなったそうだ。
人が亡くなってるのにひっでぇ言い方。
しかも責任を生徒に負わせるって意味わかんね。
この二人は学校関係者なんだろうか。
「ほとぼり冷めるまでどうする?」
「よし、しらさぎへ行こう。で、次の日は何事もなかったかのように出勤すればいい。倫子も俺も普通通りにすればいい」
「わかったわ。明日保護者会開いて悲しんでるふりすれば大丈夫かな。そして、あの生徒は元からいなかったことにするの」
「当然箝口令敷くよな? 下手すると俺たちのことバレる」
「当然よ。保護者達にもね。とにかく外部にバレないように」
「保護者連中が騒いだらめんどくせーからな」
デザートが来た。
モンブランとコーヒーだ。
向こうの男女はワインがつがれているそうだ。
「おい、ビール持ってこい! メインディッシュはまだか!」
男性が大声店員を呼ぶ。
店員はびびりながら「ビールですね。急いでお持ちします。メインはもう少々お時間を頂きますのでお待ちください」とそそくさと戻る。
「もう怒鳴らないで! これ以上出禁増やすつもりなの?!」
女性が小声で嗜める。
他で出禁になったことあるんかーい! 一体何をしたんだ?
接客で出禁にするのはなかなかできん。
万引きしたとか、悪質なクレーマーだったとか、店のものを壊したとか。
飲食店でアルバイトをしたことあるが、店長をぶん殴って警察沙汰になった客や、男性店員にストーカーまがいのことをした人などちょくちょくいた。
お店側の立場がまだまだ弱いのを分かってやっている人がいるのも少なくない。
もう少し話が気になるがコーヒー飲んで引き伸ばす訳にはいかない。
録音アプリを消して、消音カメラで二人に気づかれないように撮影する。
何か使えそうだから。
店員に会計をお願いして、店を後にした。
駐車場は自分の車と白のワンボックスカーだけだった。
女の子とディナーではなく、あの傲慢な態度の男女を最後まで撮影し損ねたことに後悔した。
水面がカーテンのよう。
これが夜になれば月に反射してますますエモいのだろう。
・・・・・・なんてロマンチックなことを考えてるのが虚しい。
ネットで出会い、気になる人と食事のお誘いをした。
待ち合わせの場所はここだ。
この日のためにシャレオツなレストランはないか必死にリサーチした。
人気があまりなく、静かな場所。
――相手の人が来なくなった!
十五分、三十分経ってもなかなか来ないなーとやきもきしていたら、スマホの通知に『突然ですが今日用事が入ったので、またの機会でお願いします』の文面。
はいきた! ドタキャンですか!
呆れと悲嘆が同時にやってくる。
レストランを予約してキャンセルするのも心苦しいので、一人で食べることにした。
白ワイン片手に前菜のカルパッチョを一瞥する。
「二名なのに、うわーこいつ一人でこんなとこに来てるー。断られたのかなー」と今頃厨房で話題になっているだろう。
もういいや、やけになってやると言わんばかりに、白ワインを口つける。
何がダメだったのか一人で反省会をする。
写真の服装か? 趣味か?
ファッションセンスが悪いのは自覚している。
元々服は最低限清潔感ある風に着れたらいいという考えだ。
コーディネートは二の次。
以前イメチェンしようとファッション雑誌を買って読んでみた。
ブラウスだけで三万円・・・・・・頭から足まで揃えたら十万円余裕で越えそうだ。
服にお金かけるなら、趣味の電車撮影につぎ込みたい。
電車好きというだけでよく思わない人は少なからずいる。
特に撮り鉄は色々と騒ぎやトラブルを起こしたりと、散々マナーについて問題視されている。
マナー悪い人が一向に減る気配がない。
注意しても逆ギレや開き直る人が多い。
世間様のイメージが悪いので、最近はオープンにしないようにしている。
ネットで公表しているプロフィールも写真が趣味と濁している。
実際、電車以外にも野鳥や風景も撮っているから嘘はついていない。
メインディッシュが出た頃、お店に男女の来店者が二名。
女性の方は鼠色のスーツにショートカット。化粧が控えめだろう。年齢的にに五十代ぐらいか。
男性の方は――青のジャージ上下で、腕組んで店員と女性のやり取りを見てるだけ。
所々聞こえる会話から予約してなさそうだ。
二人は案内され、窓側の席についた。
その斜めに自分がいる。
うわぁ、こんな所にジャージで来るか?!
もうちょい考えろよ。
紺のシャツに白の半ズボンに柄物のサンダルの自分も人のこといえないか。
この格好はプロフィール写真と同じものである。
すぐ見てわかるようにしたのに。
店員に注文を聞かれ「白ワイン二つ」と女性が答える。
「・・・・・・あの人亡くなったわ。これからどうする?」
他人の会話が気になる性分だ。
会話に耳をダンボにしつつ、カバンの中からスマホを取り出し、録音アプリを開く。
「喘息かなんだかしらねーけど、たかが生徒一人亡くなっただけで騒ぎすぎなんだよ。せっかくの飯が不味くなる。なぁ、倫子、保健室の先生探すフリして逃げたのは正解だったな」
「そうね。責任がここにきたら困るから、警備員とあの生徒二人に押し付けましょ。適当に理由つけて、学校に来れない形にすればいいのよ。あの警備員、学園長派だから追い払うのに丁度良かったわ」
女性は無邪気な子どものように微笑みながら、水が入ってるグラスに一口つけた。
「だいたい、志村だっけ? ガキの癖に俺に刃向かうなんておかしいんじゃねーの。学校で騒ぎ過ぎなんだよ。今どきの奴は根性ねーなー。俺、くたばった奴の両親に怒られたくないんだけど」
男性は水をがぶ飲みして、勢いよくグラスを置く。
女性は少し品のある雰囲気。
赤のメガネでショートカット。食べる姿勢も仕草も上品だ。
育ちのいいお嬢さんだったんだろう。
一方男性の方は、体格がよく力もありそう。
清潔感があるとはいえず、髪の毛がボサボサ、ふんぞり返って座ってる。
しかも声も音も大きい。
そもそもジャージでこんなシャレオツな店来る時点でいいとはいえない。
しかも口悪い。チンピラのようだ。
喘息で授業中に生徒が亡くなったそうだ。
人が亡くなってるのにひっでぇ言い方。
しかも責任を生徒に負わせるって意味わかんね。
この二人は学校関係者なんだろうか。
「ほとぼり冷めるまでどうする?」
「よし、しらさぎへ行こう。で、次の日は何事もなかったかのように出勤すればいい。倫子も俺も普通通りにすればいい」
「わかったわ。明日保護者会開いて悲しんでるふりすれば大丈夫かな。そして、あの生徒は元からいなかったことにするの」
「当然箝口令敷くよな? 下手すると俺たちのことバレる」
「当然よ。保護者達にもね。とにかく外部にバレないように」
「保護者連中が騒いだらめんどくせーからな」
デザートが来た。
モンブランとコーヒーだ。
向こうの男女はワインがつがれているそうだ。
「おい、ビール持ってこい! メインディッシュはまだか!」
男性が大声店員を呼ぶ。
店員はびびりながら「ビールですね。急いでお持ちします。メインはもう少々お時間を頂きますのでお待ちください」とそそくさと戻る。
「もう怒鳴らないで! これ以上出禁増やすつもりなの?!」
女性が小声で嗜める。
他で出禁になったことあるんかーい! 一体何をしたんだ?
接客で出禁にするのはなかなかできん。
万引きしたとか、悪質なクレーマーだったとか、店のものを壊したとか。
飲食店でアルバイトをしたことあるが、店長をぶん殴って警察沙汰になった客や、男性店員にストーカーまがいのことをした人などちょくちょくいた。
お店側の立場がまだまだ弱いのを分かってやっている人がいるのも少なくない。
もう少し話が気になるがコーヒー飲んで引き伸ばす訳にはいかない。
録音アプリを消して、消音カメラで二人に気づかれないように撮影する。
何か使えそうだから。
店員に会計をお願いして、店を後にした。
駐車場は自分の車と白のワンボックスカーだけだった。
女の子とディナーではなく、あの傲慢な態度の男女を最後まで撮影し損ねたことに後悔した。
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