よろず屋ななつ星~復讐代行承ります~ 藤ノ宮女子高校死亡案件

月見里ゆずる(やまなしゆずる)

文字の大きさ
上 下
3 / 36
1章

2

しおりを挟む
 湖が窓に反射してよく見える。
 水面がカーテンのよう。
 これが夜になれば月に反射してますますエモいのだろう。
 ・・・・・・なんてロマンチックなことを考えてるのがむなしい。
 ネットで出会い、気になる人と食事のお誘いをした。
 待ち合わせの場所はここだ。
 この日のためにシャレオツなレストランはないか必死にリサーチした。
 人気ひとけがあまりなく、静かな場所。

 ――相手の人が来なくなった!

 十五分、三十分経ってもなかなか来ないなーとやきもきしていたら、スマホの通知に『突然ですが今日用事が入ったので、またの機会でお願いします』の文面。

 はいきた! ドタキャンですか!
 呆れと悲嘆ひたんが同時にやってくる。

 レストランを予約してキャンセルするのも心苦しいので、一人で食べることにした。
 白ワイン片手に前菜のカルパッチョを一瞥いちべつする。 
「二名なのに、うわーこいつ一人でこんなとこに来てるー。断られたのかなー」と今頃厨房で話題になっているだろう。
 もういいや、やけになってやると言わんばかりに、白ワインを口つける。
 何がダメだったのか一人で反省会をする。
 写真の服装か? 趣味か?
 ファッションセンスが悪いのは自覚している。
 元々服は最低限清潔感ある風に着れたらいいという考えだ。
 コーディネートは二の次。
 以前イメチェンしようとファッション雑誌を買って読んでみた。
 ブラウスだけで三万円・・・・・・頭から足まで揃えたら十万円余裕で越えそうだ。
 服にお金かけるなら、趣味の電車撮影につぎ込みたい。
 電車好きというだけでよく思わない人は少なからずいる。
 特に撮り鉄は色々と騒ぎやトラブルを起こしたりと、散々マナーについて問題視されている。
 マナー悪い人が一向に減る気配がない。
 注意しても逆ギレや開き直る人が多い。
 世間様のイメージが悪いので、最近はオープンにしないようにしている。
  ネットで公表しているプロフィールも写真が趣味とにごしている。
 実際、電車以外にも野鳥や風景も撮っているから嘘はついていない。
 

 メインディッシュが出た頃、お店に男女の来店者が二名。
 女性の方は鼠色のスーツにショートカット。化粧が控えめだろう。年齢的にに五十代ぐらいか。
 男性の方は――青のジャージ上下で、腕組んで店員と女性のやり取りを見てるだけ。
 所々聞こえる会話から予約してなさそうだ。
 二人は案内され、窓側の席についた。
 その斜めに自分がいる。
 
 うわぁ、こんな所にジャージで来るか?!
 もうちょい考えろよ。
 紺のシャツに白の半ズボンに柄物のサンダルの自分も人のこといえないか。
 この格好はプロフィール写真と同じものである。
 すぐ見てわかるようにしたのに。
 店員に注文を聞かれ「白ワイン二つ」と女性が答える。
「・・・・・・あの人亡くなったわ。これからどうする?」
 他人の会話が気になる性分だ。
 会話に耳をダンボにしつつ、カバンの中からスマホを取り出し、録音アプリを開く。
「喘息かなんだかしらねーけど、たかが生徒一人亡くなっただけで騒ぎすぎなんだよ。せっかくの飯が不味くなる。なぁ、倫子みちこ、保健室の先生探すフリして逃げたのは正解だったな」
「そうね。責任がここにきたら困るから、警備員とあの生徒二人に押し付けましょ。適当に理由つけて、学校に来れない形にすればいいのよ。あの警備員、学園長派だから追い払うのに丁度良かったわ」
 女性は無邪気な子どものように微笑みながら、水が入ってるグラスに一口つけた。
「だいたい、志村しむらだっけ? ガキの癖に俺に刃向かうなんておかしいんじゃねーの。学校で騒ぎ過ぎなんだよ。今どきの奴は根性ねーなー。俺、くたばった奴の両親に怒られたくないんだけど」
 男性は水をがぶ飲みして、勢いよくグラスを置く。
 女性は少し品のある雰囲気。
 赤のメガネでショートカット。食べる姿勢も仕草も上品だ。
 育ちのいいお嬢さんだったんだろう。
 一方男性の方は、体格がよく力もありそう。
 清潔感があるとはいえず、髪の毛がボサボサ、ふんぞり返って座ってる。
 しかも声も音も大きい。
 そもそもジャージでこんなシャレオツな店来る時点でいいとはいえない。
 しかも口悪い。チンピラのようだ。
 喘息で授業中に生徒が亡くなったそうだ。
 人が亡くなってるのにひっでぇ言い方。
 しかも責任を生徒に負わせるって意味わかんね。
この二人は学校関係者なんだろうか。
「ほとぼり冷めるまでどうする?」
「よし、しらさぎへ行こう。で、次の日は何事もなかったかのように出勤すればいい。倫子も俺も普通通りにすればいい」
「わかったわ。明日保護者会開いて悲しんでるふりすれば大丈夫かな。そして、あの生徒は元からいなかったことにするの」
 「当然箝口令かんこうれい敷くよな? 下手すると俺たちのことバレる」
「当然よ。保護者達にもね。とにかく外部にバレないように」
「保護者連中が騒いだらめんどくせーからな」
 デザートが来た。
 モンブランとコーヒーだ。
 向こうの男女はワインがつがれているそうだ。
「おい、ビール持ってこい!  メインディッシュはまだか!」
 男性が大声店員を呼ぶ。
 店員はびびりながら「ビールですね。急いでお持ちします。メインはもう少々お時間を頂きますのでお待ちください」とそそくさと戻る。
「もう怒鳴らないで! これ以上出禁増やすつもりなの?!」
 女性が小声でたしなめる。
 他で出禁になったことあるんかーい! 一体何をしたんだ?
 接客で出禁にするのはなかなかできん。
 万引きしたとか、悪質なクレーマーだったとか、店のものを壊したとか。
 飲食店でアルバイトをしたことあるが、店長をぶん殴って警察沙汰になった客や、男性店員にストーカーまがいのことをした人などちょくちょくいた。
 お店側の立場がまだまだ弱いのを分かってやっている人がいるのも少なくない。
 もう少し話が気になるがコーヒー飲んで引き伸ばす訳にはいかない。
 録音アプリを消して、消音カメラで二人に気づかれないように撮影する。
 何か使えそうだから。
 店員に会計をお願いして、店を後にした。
 駐車場は自分の車と白のワンボックスカーだけだった。
 女の子とディナーではなく、あの傲慢な態度の男女を最後まで撮影し損ねたことに後悔した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

よろず屋ななつ星~復讐代行承ります~ マッチングアプリ美人局案件

月見里ゆずる(やまなしゆずる)
キャラ文芸
ネット特定班×復讐劇×スカッとジャパン系! 表向きは何でも屋、裏では”特定班”として、依頼人の復讐や真相解明を請け負っている『よろず屋ななつ星』 瀬川淳平はマッチングアプリ「セリバーテル」で出会った女性の”ゆあ”と半年前から付き合っていたが、ある日突然、”ゆあの夫”と名乗る男性から、不倫をしたとして慰謝料請求をされる。 淳平は”ゆあ”が既婚者であることを知らないと訴えるが、慰謝料を払ってしまう。 『よろず屋ななつ星』のすずらん、すいせん、みみずくは瀬川から真相解明と復讐を依頼される。 瀬川の相手について調べるため、セリバーテルを使ってるみみずくが接触を試みるが……。 ”ゆあ”という女性と接触を成功したみみずくだが、彼女の口から出た内容とは?! セリバーテルの実態、そして”ゆあ”の秘密にたどり着くが……瀬川同様、”ゆあの夫”と名乗る男性から「不倫した」「”ゆあ”が未成年である」ことを理由に慰謝料請求されてしまい……?! 果たして美人局危機を乗り越えることが出来るのか?!

隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち

鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。 心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。 悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。 辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。 それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。 社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ! 食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて…… 神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!

卑屈令嬢と甘い蜜月

永久保セツナ
キャラ文芸
【全31話(幕間3話あり)・完結まで毎日20:10更新】 葦原コノハ(旧姓:高天原コノハ)は、二言目には「ごめんなさい」が口癖の卑屈令嬢。 妹の悪意で顔に火傷を負い、家族からも「醜い」と冷遇されて生きてきた。 18歳になった誕生日、父親から結婚を強制される。 いわゆる政略結婚であり、しかもその相手は呪われた目――『魔眼』を持っている縁切りの神様だという。 会ってみるとその男、葦原ミコトは白髪で狐面をつけており、異様な雰囲気を持った人物だった。 実家から厄介払いされ、葦原家に嫁入りしたコノハ。 しかしその日から、夫にめちゃくちゃ自己肯定感を上げられる蜜月が始まるのであった――! 「私みたいな女と結婚する羽目になってごめんなさい……」 「私にとって貴女は何者にも代えがたい宝物です。結婚できて幸せです」 「はわ……」 卑屈令嬢が夫との幸せを掴むまでの和風シンデレラストーリー。 表紙絵:かわせかわを 様(@kawawowow)

【完結】孤独な少年の心を癒した神社のあやかし達

フェア
キャラ文芸
小学校でいじめに遭って不登校になったショウが、中学入学後に両親が交通事故に遭ったことをきっかけに山奥の神社に預けられる。心優しい神主のタカヒロと奇妙奇天烈な妖怪達との交流で少しずつ心の傷を癒やしていく、ハートフルな物語。 *丁寧に描きすぎて、なかなか神社にたどり着いてないです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

わかりあえない、わかれたい・5

茜琉ぴーたん
恋愛
 好きあって付き合ったのに、縁あって巡り逢ったのに。  人格・趣味・思考…分かり合えないならサヨナラするしかない。  振ったり振られたり、恋人と別れて前に進む女性の話。  5・幼馴染みマウントを取られて、試合を降りた女性の話。 (6話+後日談2話) *シリーズ全話、独立した話です。

黒神と忌み子のはつ恋

遠野まさみ
キャラ文芸
神の力で守られているその国には、人々を妖魔から守る破妖の家系があった。 そのうちの一つ・蓮平の娘、香月は、身の内に妖魔の色とされる黒の血が流れていた為、 家族の破妖の仕事の際に、妖魔をおびき寄せる餌として、日々使われていた。 その日は二十年に一度の『神渡り』の日とされていて、破妖の武具に神さまから力を授かる日だった。 新しい力を得てしまえば、餌などでおびき寄せずとも妖魔を根こそぎ斬れるとして、 家族は用済みになる香月を斬ってしまう。 しかしその神渡りの神事の際に家族の前に現れたのは、武具に力を授けてくれる神・黒神と、その腕に抱かれた香月だった。 香月は黒神とある契約をしたため、黒神に助けられたのだ。 そして香月は黒神との契約を果たすために、彼の為に行動することになるが?

帝都の守護鬼は離縁前提の花嫁を求める

緋村燐
キャラ文芸
家の取り決めにより、五つのころから帝都を守護する鬼の花嫁となっていた櫻井琴子。 十六の年、しきたり通り一度も会ったことのない鬼との離縁の儀に臨む。 鬼の妖力を受けた櫻井の娘は強い異能持ちを産むと重宝されていたため、琴子も異能持ちの華族の家に嫁ぐ予定だったのだが……。 「幾星霜の年月……ずっと待っていた」 離縁するために初めて会った鬼・朱縁は琴子を望み、離縁しないと告げた。

処理中です...