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33話
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2人が通じ合っている事に若干の憤りを覚えたが、一旦それは置いておくことにした。
「漫画を紙で書いていらっしゃいますよね?」
「そうですね」
「ということでお礼も兼ねてデジタル化のお手伝いをしようかと思いまして」
「?」
つまりどういうことだ?別に紙でも良くないか?
「昔は紙にしかないメリットが数多く存在して、どちらを選ぶかは割と好みだったのですが技術が発達した今はですね————」
頭に疑問符を浮かべていると、玲名さんが丁寧にデジタルで絵を描く事のメリットや最近の事情について丁寧に説明してくれた。
「つまり、デジタル化をすると作業が効率化できるけれど、初期費用が馬鹿みたいにかかってしまうので以降がかなり難しい。だからお礼としてその分の肩代わりをしてくれるということですか?」
「はい。如何でしょうか?一番いいスペックの品を用意したので快適な漫画家ライフを歩むことが出来ますよ」
「そうですね、聞いた話では良い話だと思うのですが、そのクリ〇タ?というものが使いこなせるか怪しいですね……」
慣れれば楽なのかもしれないが、慣れるまでに原稿を落とすとかいう事態になるのが怖い。
「それは問題ありません。私がきっちり教えますので」
「教えると言われましても。企業所属のイラストレーターとかでは無いですよね?」
優秀な方らしいので基本的な技能はきっちりと学べるかもしれないが、絵描きにしか分からない細かい技術に関しては無理だろう。
「私はイラストレーターではないですが、漫画家なので問題ありませんよ」
「「え?」」
どう見ても漫画家の風貌ではない。どれだけ頑張ってもそのカッコいいスーツは漫画の編集までだ。
漫画家はスーツを着る場所なんて無いから、基本的に外は私服だろ。
俺は本当の仕事を聞くべく、MIUの方を見る。
「本当ですよ。暁月ラムという名前で『psychoex』を連載しています」
「それは本当か?」
「ここで嘘をつくわけないじゃないですか」
「確かにな……」
『psychoex』というのは、日本一人気な漫画雑誌である週刊少年ジャ〇プで1,2を争う大人気漫画だ。
週刊連載とは思えない描き込みの量と話の濃密さが特徴で、話はともかく絵はどうやったらあそこまで出来るのかと思った記憶がある。
「だからスーツ着てて真面目そうな金持ちなのに色々抜けていたのか」
その話を聞いて美琴が何故か納得していた。
「美琴、漫画家を何だと思っているんだ」
しかしその納得はいただけないな。
「作品制作に全ステータスを振り切った結果、他がからっきしな人種。劇作家と同じだ」
美琴の答えは劇作家、つまり師匠を引き合いに出しているせいで妙な説得力があった。
「そんなわけ無いだろ。俺は真っ当だし、何人か漫画家と会ったことはあるが普通だったぞ」
絵の関わる人気商売なだけあって服のセンスは良かったし、話をしても常識のある方ばかりだった。
「は?何夢見てんだ剛は」
そう返すと、美琴に呆れ果てられた。
「夢じゃない、現実だ。そもそも社会人の編集が付いてるんだぞ」
「雑誌によって違うんじゃないですか?系統が変われば求められる能力も変わりますし」
「そんなもんか?」
「だと思います。現になみこ先生はしっかりしているでしょう?」
「⋯⋯言われてみれば」
美琴は俺のことをチラチラと見て何かを考えた結果、納得してくれた様子だ。
「とにかく、協力してくれますか?」
「はい、お願いします」
超人気漫画家から直々に手伝って貰えるとなれば選択肢は一つだった。
そして後日、仕事場に暁月先生から直接荷物が届いた。
「なあ幸村、どうやって電源を付けるんだ?」
「うん、無理だね。本体無いし」
「は?あるだろここに」
パソコンもキーボードもマウスも揃っているし、液タブも板タブもあるじゃないか。
「これはモニターって言ってね⋯⋯」
幸村の説明によると、絵を描くための液タブと板タブと画面を表示するためのモニターは届いたが、肝心の本体が無いらしい。
「なるほど、よく分からんが分かった。テレビゲームをしたいのにゲーム機が無い状態ってことだろ?」
「そういうこと」
「つまり、俺たちは今……」
「うん、この部屋では一切の作業が出来ないね」
俺たちは暁月先生の手によって詰まされていた。
単に片付ければ良いだけの話ではあるのだが、この液タブとかいう機械は馬鹿みたいに重いのだ。
幸村情報によると、液タブ本体が10㎏、液タブを支えるスタンドが15㎏の計25㎏が4セット。つまり合計で100㎏というわけなのだ。
その内本体が来ると分かっているというのに再び机から降ろす気が起きるわけもなく。
「でも流石に作業をサボるのはな……」
「締め切り間際はテストが近いしね」
「ああ、テスト期間は大事だからな」
学園漫画を連載している者として、テスト期間のあの独特な雰囲気は貴重だからな。
「一応勉強はしてよね?」
「誰に言っているんだ。学園ものの漫画を描いている男だぞ?」
学園ものを書くためには学校のイベント事はある程度はこなせる必要があるからな。いくらフィクションと言えどリアリティは重要だ。
まあ、過剰にこなす必要は無いので雨宮とか凪咲ちゃんみたいに1番では無い。そもそも頑張った所であの東条が居るので不可能だからだが。
「説明になってないけど、勉強の方は聞くまでも無かったね」
「そんな俺の勉強はどうでもよくてだな、原稿をどこでやるかという話だ。一人一人なら各自家で作業するだけで良いが、流石に同じ場所で出来ないのはキツイ」
「だよね……」
「やはり、あそこに行くしか無いのか……?」
俺はこれまで避け続けていた一つの選択肢を取るかどうかで葛藤していた。
「あそこに行くの?いくら仕事が大事だからって、心は大事なんだよ?」
「ああ。でも今ならいけるかもしれない」
「剛くんが行けたとしても、僕は嫌なんだけど……」
「一日当たり好きなラケット一本でどうだ?」
「行く」
というわけで明日の仕事場が確定した。
「漫画を紙で書いていらっしゃいますよね?」
「そうですね」
「ということでお礼も兼ねてデジタル化のお手伝いをしようかと思いまして」
「?」
つまりどういうことだ?別に紙でも良くないか?
「昔は紙にしかないメリットが数多く存在して、どちらを選ぶかは割と好みだったのですが技術が発達した今はですね————」
頭に疑問符を浮かべていると、玲名さんが丁寧にデジタルで絵を描く事のメリットや最近の事情について丁寧に説明してくれた。
「つまり、デジタル化をすると作業が効率化できるけれど、初期費用が馬鹿みたいにかかってしまうので以降がかなり難しい。だからお礼としてその分の肩代わりをしてくれるということですか?」
「はい。如何でしょうか?一番いいスペックの品を用意したので快適な漫画家ライフを歩むことが出来ますよ」
「そうですね、聞いた話では良い話だと思うのですが、そのクリ〇タ?というものが使いこなせるか怪しいですね……」
慣れれば楽なのかもしれないが、慣れるまでに原稿を落とすとかいう事態になるのが怖い。
「それは問題ありません。私がきっちり教えますので」
「教えると言われましても。企業所属のイラストレーターとかでは無いですよね?」
優秀な方らしいので基本的な技能はきっちりと学べるかもしれないが、絵描きにしか分からない細かい技術に関しては無理だろう。
「私はイラストレーターではないですが、漫画家なので問題ありませんよ」
「「え?」」
どう見ても漫画家の風貌ではない。どれだけ頑張ってもそのカッコいいスーツは漫画の編集までだ。
漫画家はスーツを着る場所なんて無いから、基本的に外は私服だろ。
俺は本当の仕事を聞くべく、MIUの方を見る。
「本当ですよ。暁月ラムという名前で『psychoex』を連載しています」
「それは本当か?」
「ここで嘘をつくわけないじゃないですか」
「確かにな……」
『psychoex』というのは、日本一人気な漫画雑誌である週刊少年ジャ〇プで1,2を争う大人気漫画だ。
週刊連載とは思えない描き込みの量と話の濃密さが特徴で、話はともかく絵はどうやったらあそこまで出来るのかと思った記憶がある。
「だからスーツ着てて真面目そうな金持ちなのに色々抜けていたのか」
その話を聞いて美琴が何故か納得していた。
「美琴、漫画家を何だと思っているんだ」
しかしその納得はいただけないな。
「作品制作に全ステータスを振り切った結果、他がからっきしな人種。劇作家と同じだ」
美琴の答えは劇作家、つまり師匠を引き合いに出しているせいで妙な説得力があった。
「そんなわけ無いだろ。俺は真っ当だし、何人か漫画家と会ったことはあるが普通だったぞ」
絵の関わる人気商売なだけあって服のセンスは良かったし、話をしても常識のある方ばかりだった。
「は?何夢見てんだ剛は」
そう返すと、美琴に呆れ果てられた。
「夢じゃない、現実だ。そもそも社会人の編集が付いてるんだぞ」
「雑誌によって違うんじゃないですか?系統が変われば求められる能力も変わりますし」
「そんなもんか?」
「だと思います。現になみこ先生はしっかりしているでしょう?」
「⋯⋯言われてみれば」
美琴は俺のことをチラチラと見て何かを考えた結果、納得してくれた様子だ。
「とにかく、協力してくれますか?」
「はい、お願いします」
超人気漫画家から直々に手伝って貰えるとなれば選択肢は一つだった。
そして後日、仕事場に暁月先生から直接荷物が届いた。
「なあ幸村、どうやって電源を付けるんだ?」
「うん、無理だね。本体無いし」
「は?あるだろここに」
パソコンもキーボードもマウスも揃っているし、液タブも板タブもあるじゃないか。
「これはモニターって言ってね⋯⋯」
幸村の説明によると、絵を描くための液タブと板タブと画面を表示するためのモニターは届いたが、肝心の本体が無いらしい。
「なるほど、よく分からんが分かった。テレビゲームをしたいのにゲーム機が無い状態ってことだろ?」
「そういうこと」
「つまり、俺たちは今……」
「うん、この部屋では一切の作業が出来ないね」
俺たちは暁月先生の手によって詰まされていた。
単に片付ければ良いだけの話ではあるのだが、この液タブとかいう機械は馬鹿みたいに重いのだ。
幸村情報によると、液タブ本体が10㎏、液タブを支えるスタンドが15㎏の計25㎏が4セット。つまり合計で100㎏というわけなのだ。
その内本体が来ると分かっているというのに再び机から降ろす気が起きるわけもなく。
「でも流石に作業をサボるのはな……」
「締め切り間際はテストが近いしね」
「ああ、テスト期間は大事だからな」
学園漫画を連載している者として、テスト期間のあの独特な雰囲気は貴重だからな。
「一応勉強はしてよね?」
「誰に言っているんだ。学園ものの漫画を描いている男だぞ?」
学園ものを書くためには学校のイベント事はある程度はこなせる必要があるからな。いくらフィクションと言えどリアリティは重要だ。
まあ、過剰にこなす必要は無いので雨宮とか凪咲ちゃんみたいに1番では無い。そもそも頑張った所であの東条が居るので不可能だからだが。
「説明になってないけど、勉強の方は聞くまでも無かったね」
「そんな俺の勉強はどうでもよくてだな、原稿をどこでやるかという話だ。一人一人なら各自家で作業するだけで良いが、流石に同じ場所で出来ないのはキツイ」
「だよね……」
「やはり、あそこに行くしか無いのか……?」
俺はこれまで避け続けていた一つの選択肢を取るかどうかで葛藤していた。
「あそこに行くの?いくら仕事が大事だからって、心は大事なんだよ?」
「ああ。でも今ならいけるかもしれない」
「剛くんが行けたとしても、僕は嫌なんだけど……」
「一日当たり好きなラケット一本でどうだ?」
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というわけで明日の仕事場が確定した。
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