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8話
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「はいはい、そこまで。行くよ優斗君」
と考えていると、たまたま近くを通りかかった次葉が助けに来てくれた。
「ああ、だがお姫様抱っこはやめてもらえないか?」
「小さいから人が集まった瞬間にすぐに見失うんだもの。こうした方が楽なんだ」
「あのな……」
「ねえあなた、どちら様?」
なんて会話をしていると、ファンの一人が不満げな様子で次葉に文句を言ってきた。
「私?春乃次葉。この子の幼馴染だよ。これで良いかな?」
「幼馴染ってことは彼女じゃないんでしょ?邪魔しないでよ」
「折角話せたのに……もっと話そうよ、優斗君」
「どうせ授業も一緒に受けるんでしょ?これくらい良いじゃん」
その会話を聞いていて、少々私は違和感を覚えた。
「次葉、ちょっと降ろしてくれ」
「ん?良いよ」
何か意図があると察してくれた次葉は私を降ろした。
「なあ、そこのファン3人」
「「「何かな?」」」
「全員ここの大学生じゃないだろ」
「ここの大学生だけど?」
「何を言っているの?」
「ここに居るんだからそれ以外ないでしょ」
私が疑いの目を向けると、当然否定するファン三人。
「じゃあ学部はどこだ?」
「どこって。私たち3人共文学部だけど」
「なるほど。嘘だな。というわけで帰ってもらえるか?ここは大学関係の人間のみが入って良い場所だ」
「どうして断定できるの?」
「本当に文学部だよ?」
「と言われてもな。私が文学部だからとしか言いようが無いな」
もし学年が違ったとしても同じ学部なら絶対に顔を知っているからな。
「「「うっ……」」」
「というわけでお引き取り願おう」
私がそう言うと、ファン三人は大人しく去っていった。
「流石優斗君。鮮やかな手並みだったね」
「次葉が来たからどうにかなっただけだ。こういうのは慣れないな」
「意外だね。慣れていると思ったんだけど」
「好意に好意で返す以外の方法を知らないんだよ」
「なるほどね。にしてもあの三人、見事に引っ掛かってたね」
「ああ。しかし配信だけ見ていたら当然の勘違いではあるんだがな」
私が文学部の生徒だと思うわけが無いからな。あれだけ配信で芸術の素晴らしさを訴えかけたのだから、芸術学部以外だと考える方が難しい。
ちなみに次葉も芸術学部ではなく、法学部の生徒だ。
どうして芸術学部をお互い選ばなかったのかというと、単に学ぶことが大して無いからである。
私は芸術単体よりも歴史を学んだ方が芸術に活きると考えたので文学部を選んだ。
そして次葉は絵だけで生きていくことが確定しているものの、学歴だけは欲しいということでテスト以外で登校する必要が無い法学部を選んだというわけだ。
そもそも、この大学に通う生徒で次葉の事を知らない学部生というのがまずおかしな話である。ミスコン系に出たことは当然一度も無いが、美人ということでかなりの有名人だからな。
「にしても、まさかあんな輩が出てくるとはね……」
「顔出ししているからな。一人や二人いたところでおかしくはないだろう」
私の才能は留まるところを知らないからな。気持ちはよくわかる。マナーとしては好ましくなかったがな。
「ねえ優斗君、今度の配信からVtuberにならないかい?私が絵を担当するからさ」
「どうしてそうなる」
「優斗君が有名になっていくことは確実だから、今後はもっと外で話しかけられる機会が増えると思うんだ。そうなると日常生活が不便にならないかなって。まだ配信回数が少ない今なら取り返しが効く段階だし」
「Vtuberか」
Vtuber。配信者、OurTuberとして最近台頭してきた一つのあり方だ。
イラストレーターなどが創作した二次元のキャラクターに乗り移り、そのキャラクターとして生きていく活動の事を指す。
一応2Dと3Dの両方のパターンがあるが基本的には誤差だ。
メリットは顔出しをしなくても良い点と、イラストレーターが創作しているので確実になりたい自分になれるということ。
「私はやる気はないな」
しかし、私にはやる必要性が感じられなかった。
「どうしてかな?」
「私はこうなりたいと思う自分の姿が存在しないからな。今の自分が何よりも一番だ」
勝手な私の見解だが、Vtuberになる大きな理由の一つは変身願望だと思っている。
だが私には一切その願望はない。ありのままの自分が何よりも一番だと思っているから。
「でも、危険じゃない?」
「大丈夫だ。いざとなればすぐに逃げられるさ」
体は小さいが、私は危機から逃れられないほどに弱いわけではない。
「そっか」
私の解答を聞いた次葉は少々悲しそうな顔をしていた。最初から私の解答は予想できていただろうに。
「では授業に————」
「なら声優活動はどうだい?」
と考えていると、たまたま近くを通りかかった次葉が助けに来てくれた。
「ああ、だがお姫様抱っこはやめてもらえないか?」
「小さいから人が集まった瞬間にすぐに見失うんだもの。こうした方が楽なんだ」
「あのな……」
「ねえあなた、どちら様?」
なんて会話をしていると、ファンの一人が不満げな様子で次葉に文句を言ってきた。
「私?春乃次葉。この子の幼馴染だよ。これで良いかな?」
「幼馴染ってことは彼女じゃないんでしょ?邪魔しないでよ」
「折角話せたのに……もっと話そうよ、優斗君」
「どうせ授業も一緒に受けるんでしょ?これくらい良いじゃん」
その会話を聞いていて、少々私は違和感を覚えた。
「次葉、ちょっと降ろしてくれ」
「ん?良いよ」
何か意図があると察してくれた次葉は私を降ろした。
「なあ、そこのファン3人」
「「「何かな?」」」
「全員ここの大学生じゃないだろ」
「ここの大学生だけど?」
「何を言っているの?」
「ここに居るんだからそれ以外ないでしょ」
私が疑いの目を向けると、当然否定するファン三人。
「じゃあ学部はどこだ?」
「どこって。私たち3人共文学部だけど」
「なるほど。嘘だな。というわけで帰ってもらえるか?ここは大学関係の人間のみが入って良い場所だ」
「どうして断定できるの?」
「本当に文学部だよ?」
「と言われてもな。私が文学部だからとしか言いようが無いな」
もし学年が違ったとしても同じ学部なら絶対に顔を知っているからな。
「「「うっ……」」」
「というわけでお引き取り願おう」
私がそう言うと、ファン三人は大人しく去っていった。
「流石優斗君。鮮やかな手並みだったね」
「次葉が来たからどうにかなっただけだ。こういうのは慣れないな」
「意外だね。慣れていると思ったんだけど」
「好意に好意で返す以外の方法を知らないんだよ」
「なるほどね。にしてもあの三人、見事に引っ掛かってたね」
「ああ。しかし配信だけ見ていたら当然の勘違いではあるんだがな」
私が文学部の生徒だと思うわけが無いからな。あれだけ配信で芸術の素晴らしさを訴えかけたのだから、芸術学部以外だと考える方が難しい。
ちなみに次葉も芸術学部ではなく、法学部の生徒だ。
どうして芸術学部をお互い選ばなかったのかというと、単に学ぶことが大して無いからである。
私は芸術単体よりも歴史を学んだ方が芸術に活きると考えたので文学部を選んだ。
そして次葉は絵だけで生きていくことが確定しているものの、学歴だけは欲しいということでテスト以外で登校する必要が無い法学部を選んだというわけだ。
そもそも、この大学に通う生徒で次葉の事を知らない学部生というのがまずおかしな話である。ミスコン系に出たことは当然一度も無いが、美人ということでかなりの有名人だからな。
「にしても、まさかあんな輩が出てくるとはね……」
「顔出ししているからな。一人や二人いたところでおかしくはないだろう」
私の才能は留まるところを知らないからな。気持ちはよくわかる。マナーとしては好ましくなかったがな。
「ねえ優斗君、今度の配信からVtuberにならないかい?私が絵を担当するからさ」
「どうしてそうなる」
「優斗君が有名になっていくことは確実だから、今後はもっと外で話しかけられる機会が増えると思うんだ。そうなると日常生活が不便にならないかなって。まだ配信回数が少ない今なら取り返しが効く段階だし」
「Vtuberか」
Vtuber。配信者、OurTuberとして最近台頭してきた一つのあり方だ。
イラストレーターなどが創作した二次元のキャラクターに乗り移り、そのキャラクターとして生きていく活動の事を指す。
一応2Dと3Dの両方のパターンがあるが基本的には誤差だ。
メリットは顔出しをしなくても良い点と、イラストレーターが創作しているので確実になりたい自分になれるということ。
「私はやる気はないな」
しかし、私にはやる必要性が感じられなかった。
「どうしてかな?」
「私はこうなりたいと思う自分の姿が存在しないからな。今の自分が何よりも一番だ」
勝手な私の見解だが、Vtuberになる大きな理由の一つは変身願望だと思っている。
だが私には一切その願望はない。ありのままの自分が何よりも一番だと思っているから。
「でも、危険じゃない?」
「大丈夫だ。いざとなればすぐに逃げられるさ」
体は小さいが、私は危機から逃れられないほどに弱いわけではない。
「そっか」
私の解答を聞いた次葉は少々悲しそうな顔をしていた。最初から私の解答は予想できていただろうに。
「では授業に————」
「なら声優活動はどうだい?」
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