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23話
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「とりあえずタクシーを呼ぶことにするわ。というわけであなたは帰りなさい」
「言われなくてもそうさせてもらう。またな、後輩君」
「はい、志田先輩」
それから数分後タクシーが来たので、荷物を載せて夏目先輩の家へと向かう。
「あの女に出会ってしまった点を除いて、良質な一日だったわ」
タクシーの中で、そう振り返る夏目先輩は穏やかな笑みを浮かべていた。
「それは良かったです」
弟として、姉が幸せなら全てOKです。一日中とんでも無い量の荷物を持たされていたとか、2人の大喧嘩に巻き込まれたとか、弟の苦労なんて姉の幸せと比べたら価値なんて無いので。
「ここです」
「はい、料金は3000円だよ」
「これで」
「はい。ありがとうございました」
それから少しして、夏目先輩の家の前に着いた。夏目先輩の家は豪邸だったとか、一人暮らしとかの妙な特徴は無く、普通よりは少し大きいだけの庶民の家だった。
「私の部屋は二階だから、そこまでお願いするわ」
「分かりました。お邪魔します」
荷物を運ぶという大義名分があったので、特に意識することもなく家に入る。
「……え?」
二階に上がると、目の前にあったのは扉が一つだけ。
「?入るわよ」
「はい」
「じゃあ壁際に適当に立てかけておいて」
「……え?」
「どうしたの?」
「もしかして、ここ全て夏目先輩の部屋なんですか?」
「当然でしょ。何を聞いているの?」
いやいやいや。二階丸々夏目先輩の部屋ってどういうことだよ。共同で使う兄弟姉妹がいるわけでもなく、一人っ子ですよねあなた?
「普通、子供部屋って二階の半分か三分の一位が割り当てられるんですよ。で、残りが親の寝室になるわけで。一フロア丸々なんて考えられないんですよ。そして両親の部屋はどこなんですか?」
どれだけ金持ちの家でも、こういう割り当て方は無いんだよね。いくら豪邸でも階数には一定の制限があるか。
「地下よ」
「地下?」
「ええ。お父さんもお母さんも昔から地下に住んでみたかったらしくて。私に良い部屋を割り当てるついでに地下を作って丸々部屋にしているのよ」
「よく分からないですけど、分かりました」
地下に住むのを憧れる変人さ。そして、一フロアを丸々差し出す娘に対する甘さ。こういう両親の特性が相まって、こんな変人かつ我儘なお姉さまが誕生したというわけですね。
とりあえず脳内で感謝状だけは作成しておきましょう。
「まあ良いわ、今日はお疲れ様。疲れたでしょう?ちょっとそこで座ってなさい」
「はい」
俺は夏目先輩に言われるがまま、人を駄目にする系のソファに座った。久々に座ったが、やはり快適である。
丸一日重い物を持たされていた為、最低でも10分くらいは抜け出せない気がする。ヤバいなこれ……
「随分とリラックスしているわね」
「すいません、つい」
ソファの魔力に取り憑かれていた俺は、戻ってきた夏目先輩にそう指摘されてしまった為、全力で体を叩き起こした。
「別に構わないわ。少しくらい休んでいきなさい」
「ありがとうございます」
何これ。滅茶苦茶優しいじゃないですか……
唐突に姉レベルを上げないでください。心臓に響くので。疲れているんだから加減してください。
「とりあえず、その体制のままで良いからこれを見なさい」
そう言って見せてきたのは、何冊かの本。
「これは……?」
「あなたが書いた小説」
「え?」
まさか、俺の書いた話を印刷会社に頼んで刷って貰った?
「冗談よ。あなたが書いた小説のデータは殆ど持ってないもの」
「良かった……」
もし事実だったら冗談抜きで死んでしまうところだった。
「これは、お礼。あなたにプレゼントする本よ」
「え?」
驚いたのは、夏目先輩が俺にお礼を言ったことだけではない。渡された本はどう見ても今日買っていた古本ではなく、明らかに新品だったのだ。
「今日は重労働だと分かっていたから。流石にこういうものは準備しておかないとね」
「夏目先輩……!」
冗談抜きで家宝確定です。最高じゃないですか。
「確認してみて」
「はい」
「言われなくてもそうさせてもらう。またな、後輩君」
「はい、志田先輩」
それから数分後タクシーが来たので、荷物を載せて夏目先輩の家へと向かう。
「あの女に出会ってしまった点を除いて、良質な一日だったわ」
タクシーの中で、そう振り返る夏目先輩は穏やかな笑みを浮かべていた。
「それは良かったです」
弟として、姉が幸せなら全てOKです。一日中とんでも無い量の荷物を持たされていたとか、2人の大喧嘩に巻き込まれたとか、弟の苦労なんて姉の幸せと比べたら価値なんて無いので。
「ここです」
「はい、料金は3000円だよ」
「これで」
「はい。ありがとうございました」
それから少しして、夏目先輩の家の前に着いた。夏目先輩の家は豪邸だったとか、一人暮らしとかの妙な特徴は無く、普通よりは少し大きいだけの庶民の家だった。
「私の部屋は二階だから、そこまでお願いするわ」
「分かりました。お邪魔します」
荷物を運ぶという大義名分があったので、特に意識することもなく家に入る。
「……え?」
二階に上がると、目の前にあったのは扉が一つだけ。
「?入るわよ」
「はい」
「じゃあ壁際に適当に立てかけておいて」
「……え?」
「どうしたの?」
「もしかして、ここ全て夏目先輩の部屋なんですか?」
「当然でしょ。何を聞いているの?」
いやいやいや。二階丸々夏目先輩の部屋ってどういうことだよ。共同で使う兄弟姉妹がいるわけでもなく、一人っ子ですよねあなた?
「普通、子供部屋って二階の半分か三分の一位が割り当てられるんですよ。で、残りが親の寝室になるわけで。一フロア丸々なんて考えられないんですよ。そして両親の部屋はどこなんですか?」
どれだけ金持ちの家でも、こういう割り当て方は無いんだよね。いくら豪邸でも階数には一定の制限があるか。
「地下よ」
「地下?」
「ええ。お父さんもお母さんも昔から地下に住んでみたかったらしくて。私に良い部屋を割り当てるついでに地下を作って丸々部屋にしているのよ」
「よく分からないですけど、分かりました」
地下に住むのを憧れる変人さ。そして、一フロアを丸々差し出す娘に対する甘さ。こういう両親の特性が相まって、こんな変人かつ我儘なお姉さまが誕生したというわけですね。
とりあえず脳内で感謝状だけは作成しておきましょう。
「まあ良いわ、今日はお疲れ様。疲れたでしょう?ちょっとそこで座ってなさい」
「はい」
俺は夏目先輩に言われるがまま、人を駄目にする系のソファに座った。久々に座ったが、やはり快適である。
丸一日重い物を持たされていた為、最低でも10分くらいは抜け出せない気がする。ヤバいなこれ……
「随分とリラックスしているわね」
「すいません、つい」
ソファの魔力に取り憑かれていた俺は、戻ってきた夏目先輩にそう指摘されてしまった為、全力で体を叩き起こした。
「別に構わないわ。少しくらい休んでいきなさい」
「ありがとうございます」
何これ。滅茶苦茶優しいじゃないですか……
唐突に姉レベルを上げないでください。心臓に響くので。疲れているんだから加減してください。
「とりあえず、その体制のままで良いからこれを見なさい」
そう言って見せてきたのは、何冊かの本。
「これは……?」
「あなたが書いた小説」
「え?」
まさか、俺の書いた話を印刷会社に頼んで刷って貰った?
「冗談よ。あなたが書いた小説のデータは殆ど持ってないもの」
「良かった……」
もし事実だったら冗談抜きで死んでしまうところだった。
「これは、お礼。あなたにプレゼントする本よ」
「え?」
驚いたのは、夏目先輩が俺にお礼を言ったことだけではない。渡された本はどう見ても今日買っていた古本ではなく、明らかに新品だったのだ。
「今日は重労働だと分かっていたから。流石にこういうものは準備しておかないとね」
「夏目先輩……!」
冗談抜きで家宝確定です。最高じゃないですか。
「確認してみて」
「はい」
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