将来出会うかもしれないお姉さんの為に人生を捧げてきた俺は、遂にお姉さんに出会うことが出来た。しかし数があまりにも多すぎた。

僧侶A

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17話

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「ってことで今日は楽しかったぞ。またな!」

「ありがとうございました」

「こちらこそありがとう。またね~」

 そのままゆかりさんに別れを告げ、俺の家に戻った。

「じゃあ共に寝るとするか。ちょっと狭いけど我慢してくれ」

「いやいやいや、自分の家があるでしょ?」

「今から帰るには遠いからなあ……」

 そう言いながら指先をツンツンと合わせながらいじらしそうに言う姉さん。

「それは徒歩での話でしょうが。あの車に乗れば20分もかからないでしょ」

「そんなに私と寝たくないのか?」

「うん」

「そんな……」

 俺のきっぱりとした否定にがっくりと膝から崩れ落ちる姉さん。

 姉至上主義の俺としては、姉と寝れるという状況は素晴らしいのだが、どうしてもできない理由が二つある。

 一つ目は明日の朝も涼香が来るから。大学に行ってすらいない大学生が俺たちの登校時間までに起きているわけはないので、確実に鉢合わせる。すると100%誤解を受けるし、2人は勝手に揉める。

 別にこれだけなら一度目だけ我慢すれば良いから問題ないのだが、二つ目も加わるとなると流石にNGである。

 その二つ目とは、命に関わる恐れがあるということ。

 というのも、この姉さんは寝相が尋常ではないレベルで悪いのだ。一緒に寝たらクリンチは当然として、殴る蹴るの暴行も働いてくる。

 でも姉ならこの程度受け入れろよ、という姉過激派も居るかもしれない。

 確かに、俺も受け入れられるものなら受け入れたい。

 けれど姉さんは男のプロレスラー以上の力を持っている上、寝ている時はそのタガが外れ、持てる力の全てが発揮されるのだ。

 流石にプロ並みのパンチとキックと寝技を受けて生きて居られる程丈夫な人間ではない。

 だから俺は心を鬼にして言う必要があった。

「というわけで気を付けて帰ってね」

 俺は膝から崩れ落ちた姉さんを脇から抱え上げ、強引に立たせた。

「弟……」

「そんな表情で言っても騙されないからね、ほら歩いた歩いた」

 悲しそうな表情を浮かべたまままともに動かない姉さんを無理やり歩かせ、車の運転席に座らせた。


「ん!」

「なに?」

 姉さんは突然ほっぺを指差して何かを主張してきた。

「私はさよならのキスを所望する!」

「ああ、なるほど」

 まあその位ならと軽い気持ちでほっぺにキスをした。

「これで1年は生きていける!ありがとう、弟よ!」

 すると先程とは打って変わり元気はつらつな姉さんに戻った。

「う、うん」

 別に良いけどさ、その程度で喜ぶのはちょろすぎやしませんかね姉さん。

「では!さらばだ!」

「またね」

 姉さんはそう言い残し、勢いよく車を走らせて出ていった。

「ふう」

 俺は姉さんが帰ってから一息つき、家に戻った。

 その後風呂に入り、寝巻に着替えた後ベッドに直行した。


「今日も非常に有意義な一日だったな」

 一日の頭から終わりまで姉に包まれる日々。

 姉狂いとしては最高の一日であり、この世で一番幸せの濃度が高い人間の一人である。

 しかもこれが毎日続くのだ。もう人生はバラ色であるとしか言いようが無い。



「もう嫌だ!!!!!!!疲れた!!!!!」

 俺は隣に響かないよう、枕に向けてそう叫んだ。

 幸せ?んなわけあるか。毎朝5時に起きて夜12時に就寝し、一日中誰かしらに尽くすんだぞ!?奴隷じゃねえんだ俺は!!!!

 幸せも度が過ぎれば不幸に変わるんだよ!!!!

 俺の心に決めたルールが無ければとっくに失踪してるわ!!!

 姉はこんなに要らん!多くても3人までだわ!なんでこんなに要るんだよ!ビッグ〇ディもびっくりだよ!

 助けてくれ!!!!!



「よし、寝るか」

 一通りストレスを発散した所で眠りについた。明日も早いからな。



 そして翌日もゆかりさんの朝食を作り、涼香に朝食を振る舞われ、志田先輩に働かされ、次葉先生の所で仕事を済ませて帰宅し、ゆかりさんの夕食を作った。

 姉さんが来なかったのと、夏目先輩が部活をしなかったお陰で多少は楽だけれど、それでも十分に大変な一日だった。

 だから昨日と同様に尋常ではない疲労が溜まっている。

 しかし、今日の俺はイキイキしている。何故なら今日は金曜日だから。

 世間一般の方々はそれを聞いたら明日が休みの日だからと考えているかもしれない。

 だが、弟という称号は休日等存在しない。

 何があろうとゆかりさんに朝食と夕食は作らないといけないし、今週の場合だと土曜日は夏目先輩の買い物に付き合わされ、日曜日は丸一日次葉先生の家でアシスタントの仕事だ。

 確かに平日よりは楽だし、楽しい要素の方が強い。けれどインドア派の俺にとっては一日中外なのは結構きつい。なんなら姉さんが持ってきた仕送りの整理も終わっていないし。


 では何故俺はウキウキなのか。それは、

「一週間ぶりだね、少年」

「はい、燐さん」

 俺の周囲を取り巻く最後のお姉さん、望月燐さんに会えるからである。

「とりあえず座りな」

「はい」

 俺は燐さんに促され、公園のベンチに座る。

「相変わらず疲労が溜まりまくっているね」

「まあ、一週間頑張らざるを得ないので」

「別に頑張る必要なんて無いだろうに」

「それが俺の信条なので」

 燐さんは晴翔以外で俺の姉好きが原因で掲げてしまった信条のせいで疲れ果てている事を知っている唯一の相手である。

「相変わらず変わっているな」

 そして燐さんはそれを知った上で優しく接してくれている。お姉さんなのに。ガラの悪い金髪ヤンキーなのに。

「燐さんこそ」

 普通ならドン引きして距離を置くレベルの驚愕の新事実だが、燐さんは初対面でそれを知った上で笑って距離を詰めてきたのだ。

「私は目的があるからね、ほら行くよ」

 そう言って燐さんは俺の手を引いて歩きだした。
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