将来出会うかもしれないお姉さんの為に人生を捧げてきた俺は、遂にお姉さんに出会うことが出来た。しかし数があまりにも多すぎた。

僧侶A

文字の大きさ
上 下
2 / 41

2話

しおりを挟む
 こんな心の惨状でもう分かっているかもしれないが、俺の性癖はお姉さんだ。

 産まれた時からお姉さんを求め続けて10数年。遂にお姉さんと呼べる存在が現れたのだ。

 高校になってから一人暮らしを始められて本当に良かったと思っている。

 何故一人暮らしなのか。その理由は当然親の転勤が多いせいだ。

 小中学生の頃は一人だと問題になるということで付いていかねばいかなかったのだが、高校生になったら別に問題無いし、高校で転校を繰り返すのは流石に手間がかかりすぎるということで一人暮らしとなった。

 一人暮らしになってから一週間も経たないうちにこの完璧なお姉さんに出会ったというわけだ。

 転校を繰り返していた小中学生の頃は周りにお姉さんが現れてもすぐに俺が居なくなってしまうのでは意味が無いじゃないかと若干恨んでいたのだが、これまでの布石と考えれば全てが許せる。

 寧ろお姉さんへの感情を高めさせてくれてありがとう。本当に。

 まあ今の現状を鑑みると両手を挙げていいのかという疑問は残るのだが、中学生までの灰色の日々を思えば圧倒的に今の方が素晴らしい。

 っとそんな事をしみじみと考えている時間は無いんだった。

「今の内に部屋を片付けておきますね」

 ゆかりさんが飯を食べ終わる前に部屋の掃除をしなければならない。

「いいのに」

「駄目です。ゆかりさんに任せておいたら確実に悲惨な事になります」

「酷いなあ」

 というのもこの人、片付けが出来ないのである。

 もっと言えば一人で生活が出来ない側の人物である。

 料理や掃除だけでなく、洗濯や家計の管理まで何も出来ないのである。

 つまりおっとり系である上にダメダメお姉さんなのである。つまり最高というわけだ。

 おっとり系は俺たちの生活を助けてくれと思う人も居るかもしれない。だが、これはこれで素晴らしいと思うんだ。

 いや本当に家事が出来ないお姉さんが現れても良いように家事修行をしていて良かったと思う。

「にしても毎日来ているのによく毎回汚くしてきますね……」

「気付いたらそうなっているんだよ。本当にびっくり」

「気付いたのなら掃除をしてくださいよ」

「だって気付いた頃には疲れているんだもん。そりゃあ寝ちゃうよ」

「頑張っているのは分かっていますけどね……」

 毎日部屋が汚れている原因は大量の紙である。そこには難しい数式やら図やらがびっしりと書かれている。

 ゆかりさんが通っているのは日本一頭が良いとされる東央大学の医学部らしい。

 実際に学校で勉強している姿を見たことがないの確定ではないが、お姉さんの主張を疑ってはいけない。つまり確定である。

 だから日々尋常じゃない量の勉強をしなければならないのは分かるが、毎日大量の紙の束を部屋の各地にバラまくのだけはやめて欲しい。せめて勉強机の周囲だけにしてくれ。

 冷蔵庫の上やカーテンレールの上に何故散らばるんだ。

「まあ渚くんがいるからね」

「人を当てにしないでください。俺が高校卒業してしまったらどうするんですか」

「渚くんも東央大学に来るんだから大丈夫だよ」

「さも当然のように言わないでください。一応日本一入るのが難しい大学なんですからね」

「渚くんならいけるでしょ?」

「……無理ですよ。流石にそこまで成績が良いわけではないので」

 嘘である。正直な所、海外の大学に行くのならともかく、東央大学なら余裕で受かる自信がある。

 ただ、考えてみて欲しい。日本一の大学に通う男の事を弟のように接してくれる人間なんて存在するのだろうかと。

『少年、今は大学生かな?』

『はい』

『ちなみにどこの大学なのかな?』

『東央大学です』

『あっ、ってことは頭良いんですね』

『どうでしょう……』

 絶対こんな感じになるよ。凄い大学に行っているからって理由で若干の尊敬と迷いが入ってしまうのだ。

 そして社会人になってもそれは同様である。姉力がどれだけ高かろうと大学名を知ってしまってからも姉を継続してくれない人が大多数を占める。

 だからこそ俺は良い大学に行くとしても分かりにくい所やネタにしやすい所を選びたい。

「じゃあ私が教えてあげる。すぐに成績を上げてみせるよ」

 ……!なんとも素晴らしい提案を!?!?

 所謂家庭教師イベントではないか……

 成績に不安は無いし、楽しみだけを味わえるのでは。

 なんならスーツ姿のゆかりさんを見られるかも……

「ありがたいお話ですけど、やめときます。勉強が大変ですよね?」

 ただ、ここは理性を保ってNOと答える。

 渚流お姉さん5原則の1つに『姉の言う事は絶対』というものがある。

 しかし、その上に1つ重要な決め事がある。

『姉の将来と生活を大切にすること』

 である。

 いくらお姉さんを欲しているといえども、自分の為に人生を失わせるわけにはいかない。

 悲しいエンディングはお呼びでないのだ。

 ゆかりさんはきっと将来は世界に大きく羽ばたくはず。それは毎日の勉強内容が物語っている。

 そんな人の時間を奪ってしまうわけにはいかない。そもそも俺は成績を騙っているのでゆかりさんに失礼でもある。

「確かにそうかもね~。ごちそうさま。今日も美味しかったよ」

 散らばった紙を集めながら話をしていると、ゆかりさんが朝食を食べ終わった。

「それは良かったです。じゃあ食器を持ち帰りますね。紙は一応戸棚に片付けておきました。捨てるかどうかは夜で」

「うん、ありがとう」

「いえ。ではまた夜に」

「うん、じゃあね~」

「さようなら」

 俺は食器を持って俺の家に戻った。

「時間は……6時50分か。急がないと」

 俺はスポンジを風呂場から、洗剤をクローゼットから取り出して食器を急いで洗い始めた。

「これとこれとこれを……」

 それから5分後、

「終わった。後は水を切って……」

 俺はキッチンペーパーを勉強机の引き出しから取り出し、洗い終わった食器の水を全速力でふき取った。

「よし、後は片付けるだけ」

 まず生ごみを纏めて、袋に詰め込む。

 そしてシンクに付いている水をキッチンペーパーでざっとふき取る。

 そのままベランダに向かい、ゴミ箱に生ごみ袋とキッチンペーパーをぶち込んだ。

 使った食器とフライパンはそれぞれ棚へ。

「おっと」

 使った食器は一番上ではなくて一番下に直さないと。

 最後にスポンジと洗剤とキッチンペーパーを所定の位置に戻して、

「終了!ジャージは濡れていないな」

 やることは全て片付けたので、俺は電気を消してベッドに入って眼を瞑る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

夫達の裏切りに復讐心で一杯だった私は、死の間際に本当の願いを見つけ幸せになれました。

Nao*
恋愛
家庭を顧みず、外泊も増えた夫ダリス。 それを寂しく思う私だったが、庭師のサムとその息子のシャルに癒される日々を送って居た。 そして私達は、三人であるバラの苗を庭に植える。 しかしその後…夫と親友のエリザによって、私は酷い裏切りを受ける事に─。 命の危機が迫る中、私の心は二人への復讐心で一杯になるが…駆けつけたシャルとサムを前に、本当の願いを見つけて─? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

手が届かないはずの高嶺の花が幼馴染の俺にだけベタベタしてきて、あと少しで我慢も限界かもしれない

みずがめ
恋愛
 宮坂葵は可愛くて気立てが良くて社長令嬢で……あと俺の幼馴染だ。  葵は学内でも屈指の人気を誇る女子。けれど彼女に告白をする男子は数える程度しかいなかった。  なぜか? 彼女が高嶺の花すぎたからである。  その美貌と肩書に誰もが気後れしてしまう。葵に告白する数少ない勇者も、ことごとく散っていった。  そんな誰もが憧れる美少女は、今日も俺と二人きりで無防備な姿をさらしていた。  幼馴染だからって、とっくに体つきは大人へと成長しているのだ。彼女がいつまでも子供気分で困っているのは俺ばかりだった。いつかはわからせなければならないだろう。  ……本当にわからせられるのは俺の方だということを、この時点ではまだわかっちゃいなかったのだ。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...