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33話
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「なるほどな。もしかすると堕天使絡みかもな?」
すると予想外の答えが返ってきた。
「堕天使、ですか?」
「ああ。それだけの人が居なくなっておいて身代金の請求や被害者の家が荒らされているといった事件も起こっていないんだから別に理由があると考えるのが妥当だ。となると純粋に殺人、もしくは人さらいをやりたいからやっているってのが考えられるな」
「純粋な殺人、ですか?」
「ああ。あのダンデが天使教を嫌いな人が多いとかいう曖昧過ぎる共通点しか見つけられていないのがその証拠だ。それに、私怨にしても被害者の数が多すぎる。人数で言えば40人位だっけか?」
「はい」
「そんなに人を殺す程の鬱憤が溜まっている奴が、犯行が学内、そして貧民街で収まっているってのが余りにも理性的でな」
「理性的、ですか?」
「ああ。貧民街は周囲との結びつきが弱く、学生は親が街の外に居る場合が殆どだから失踪の発覚が限界まで遅れる。ある程度雑に殺したところで逃げ延びることが容易だ」
人が居なくなったとしてもその事実に周囲が気付くまでに時間がかかる。言われてみればそうだ。
例え僕が死んでも警察などに発見されなければ、学校は生徒一人一人の管理をしていないためその事実に気付かない。つまり学校側から両親に知らされることは無い。
そうなると見つかるのは次の長期休みの時期。帰ってこない僕を不審に思った両親が手紙を送ってきて、それでも返事が無かった際に僕の家を訪れて真相を知る。
言われてみればそうだ。
「誰かを殺したいという欲望が最大限まで強まってはいるが、理性は犯人として見つかるのは避けたいと考えている。だから大量に殺しても発覚が遅れる、もしくは見つからない奴をターゲットにしようってなったんだろう」
とルーシーさんは推論を立てた。
「なるほど。なら天使教を嫌いな人を狙う割合が高いって理由はわかります?」
「そうだな。断定は出来ないが天使教に罪を擦り付けたいんじゃないか?」
「二重で対策を取ろうってわけですね」
「これは確定では無いけどな」
ルーシーさんが手伝ってくれることが決まったということで、とある策を実行に移すことにした。
「近道使おうかな」
それは思いっきり初歩的な囮作戦だった。現代史の授業の前後に昨日時計を壊しちゃったから修理に行くと偽の理由を宣言し、一人で人気の無い道を歩いている最中だった。
正直本当にそれで引っ掛かるかなとは思ったけれど、ジョニー君が言うには僕も天使教の授業は集中していない方だったから可能性はあるとのこと。
確かに天使教を嫌っている人の様子を見るためにきょろきょろしてたもんなあ。
僕は一抹の不安を抱えながらより人気の無い道を選び、周囲を一切警戒せずいかにもカモですよと積極的にアピールしていた。
そして目的地も無くさまよう事数十分。背後から大きな物音がした。
「そんな危険なものを持って何するつもりだ?」
どうやらルーシーさんが建物の上から飛び降りた音のようだ。
「離せ!何をする!!!」
その正体は天使教の研究をしているカール・フォン・ヴェスパーマンではなく、その授業を手伝っているTAだった。
個人的に犯人は教授かなって思っていたから意外だった。
突然背後から押さえつけられた彼は、必死に脱出しようともがいている。しかしルーシーさんの力は強く、上手くはいかないようだった。
「俺は話を聞いている。何のためにそんな危険な物を持ってここに居るんだ?」
ルーシーさんは苦しむ男の様子を意に介さず、冷静に質問を続けた。
「話すようなことは無い!ただ時計屋に向かっていただけだ!」
と主張する男。
しかし、
「時計屋なんてこの道には無いですよ?」
この周囲に時計を修理できる店が無いのはあらかじめリサーチ済みだ。
「貴様!図ったな!!!」
突然激高しだす男性。僕の事を視線だけで殺しそうな表情をしている。
もしルーシーさんが手を離してしまったら僕は数秒後にはこの世を離れてしまうだろう。
「なああんた、どうしようもなく溢れてくる殺意に苦しんでいないか?本当は殺す気なんて無いのにって」
ルーシーさんはこの男を元に戻す為、対話を試みる。
「溢れる殺意?確かにあるよ。1か月くらい前からかな。どうして我慢するんだ、生きたいように生きて、殺したいように殺せば良いじゃないかって」
と語る男性。その目は苦しみではなく、愉悦に浸っているようだった。
「そうか、それを戻す気は無いか?」
「戻す気が無いかって?どうせ出来ないだろそんなこと?まあ、答えてやるとしたら当然無いね。一度愉しみを知ってしまったんだ。戻れるわけが無い。人が苦しみ、泣き叫ぶ姿は非常に滑稽で、そそるものだったよ」
と一切悪びれることなく、寧ろ誇らしげに語っていた。
「そうか、お前との対話は無理みたいだな」
ルーシーさんはいつになくあっさりと引き下がっていた。
その表情は非常に冷たいものだった。
「はは、そりゃあそうだ。この幸福を知らない奴と対話なんて不可能だよ」
「どうしようもないみたいだ。じゃあな」
ルーシーさんは一切の躊躇いなく、腰に下げていた剣を抜き両腕を切り落とした。
「ギャアアアアアアアアアア!!!」
男の悲鳴が周囲に響き渡る。しかしここには3人以外誰も居ない。
「どうして……?」
僕は目の前で広がった惨劇に驚きを隠せないでいた。
「こうでもしないと無理だからな」
そう語ったルーシーさんは予め用意していたのだろう包帯で強引に止血をしていた。
「もう一回聞こうか。元に戻る気は無いか?」
「は、はい……」
両腕を切断された男の顔は、これ以上ない恐怖に染まっていた。
「じゃあやるか」
ルーシーさんはいつもの様子に戻り、着ていたコートから大きな布を取り出してその場に広げる。
ルーシーさんの部屋にある巨大な魔法陣だ。
「よいしょっと」
ルーシーさんはその上に男を投げ入れて、いつものように元に戻す作業を行っていた。
すると、不思議なことに服についていたはずの血は消え去り、切れたはずの腕が再生していた。
「よし、じゃあ警察に行くぞ」
ルーシーさんは完全に元に戻った男を抱え、警察へ届けに行った。
「いやあ助かった助かった。俺たちも原因を捜していたからなあ」
連れて来た犯人を見て嬉しそうに話すのはジョン・ヘリオットさん。この間の警視監だ。
「警察の方で事件を察知していたんですか?」
街中で警官がどこかを探し回っているとか警戒しているといった様子は一度も見られなかった気がするが。
「殺人だとは思っていなかったけどな。単に貧民街から人が減っているって話を聞いていてな。あいつらの身元がはっきりしていない以上、警察の体制的に動くことは出来なかったんだが、良くないことだろうなあって予想が立っていたんだ」
それから数日後、この連続殺人事件を巡って裁判が起きた。殺した人数やその計画性、そして貴族の子が非常に多かったことから死刑以外ありえないと判断したのか元TAであるジュゼッペ・ガランは一貫して容疑を否認していた。
しかし彼の自宅から多数の凶器と、死体を運ぶための道具が大量に見つかったこと。そして彼の住む家の下水から切り刻まれた死体の一部が発見されたことによって容疑は確定。
すると一転して気が狂っていた、精神的な異常をきたしていたと主張しだすが、その程度で連続殺人の犯罪性が十分に落ちるわけが無く。死刑が課せられた。
という話をクラスメイトから聞いていた。どうやら友人に被害者が居たらしく、犯人の行く先を最後まで見届けてやりたかったとのこと。
それから1カ月以上は学校中が陰鬱なムードに包まれていたけれど、少しずつ元の日常に戻っていった。
すると予想外の答えが返ってきた。
「堕天使、ですか?」
「ああ。それだけの人が居なくなっておいて身代金の請求や被害者の家が荒らされているといった事件も起こっていないんだから別に理由があると考えるのが妥当だ。となると純粋に殺人、もしくは人さらいをやりたいからやっているってのが考えられるな」
「純粋な殺人、ですか?」
「ああ。あのダンデが天使教を嫌いな人が多いとかいう曖昧過ぎる共通点しか見つけられていないのがその証拠だ。それに、私怨にしても被害者の数が多すぎる。人数で言えば40人位だっけか?」
「はい」
「そんなに人を殺す程の鬱憤が溜まっている奴が、犯行が学内、そして貧民街で収まっているってのが余りにも理性的でな」
「理性的、ですか?」
「ああ。貧民街は周囲との結びつきが弱く、学生は親が街の外に居る場合が殆どだから失踪の発覚が限界まで遅れる。ある程度雑に殺したところで逃げ延びることが容易だ」
人が居なくなったとしてもその事実に周囲が気付くまでに時間がかかる。言われてみればそうだ。
例え僕が死んでも警察などに発見されなければ、学校は生徒一人一人の管理をしていないためその事実に気付かない。つまり学校側から両親に知らされることは無い。
そうなると見つかるのは次の長期休みの時期。帰ってこない僕を不審に思った両親が手紙を送ってきて、それでも返事が無かった際に僕の家を訪れて真相を知る。
言われてみればそうだ。
「誰かを殺したいという欲望が最大限まで強まってはいるが、理性は犯人として見つかるのは避けたいと考えている。だから大量に殺しても発覚が遅れる、もしくは見つからない奴をターゲットにしようってなったんだろう」
とルーシーさんは推論を立てた。
「なるほど。なら天使教を嫌いな人を狙う割合が高いって理由はわかります?」
「そうだな。断定は出来ないが天使教に罪を擦り付けたいんじゃないか?」
「二重で対策を取ろうってわけですね」
「これは確定では無いけどな」
ルーシーさんが手伝ってくれることが決まったということで、とある策を実行に移すことにした。
「近道使おうかな」
それは思いっきり初歩的な囮作戦だった。現代史の授業の前後に昨日時計を壊しちゃったから修理に行くと偽の理由を宣言し、一人で人気の無い道を歩いている最中だった。
正直本当にそれで引っ掛かるかなとは思ったけれど、ジョニー君が言うには僕も天使教の授業は集中していない方だったから可能性はあるとのこと。
確かに天使教を嫌っている人の様子を見るためにきょろきょろしてたもんなあ。
僕は一抹の不安を抱えながらより人気の無い道を選び、周囲を一切警戒せずいかにもカモですよと積極的にアピールしていた。
そして目的地も無くさまよう事数十分。背後から大きな物音がした。
「そんな危険なものを持って何するつもりだ?」
どうやらルーシーさんが建物の上から飛び降りた音のようだ。
「離せ!何をする!!!」
その正体は天使教の研究をしているカール・フォン・ヴェスパーマンではなく、その授業を手伝っているTAだった。
個人的に犯人は教授かなって思っていたから意外だった。
突然背後から押さえつけられた彼は、必死に脱出しようともがいている。しかしルーシーさんの力は強く、上手くはいかないようだった。
「俺は話を聞いている。何のためにそんな危険な物を持ってここに居るんだ?」
ルーシーさんは苦しむ男の様子を意に介さず、冷静に質問を続けた。
「話すようなことは無い!ただ時計屋に向かっていただけだ!」
と主張する男。
しかし、
「時計屋なんてこの道には無いですよ?」
この周囲に時計を修理できる店が無いのはあらかじめリサーチ済みだ。
「貴様!図ったな!!!」
突然激高しだす男性。僕の事を視線だけで殺しそうな表情をしている。
もしルーシーさんが手を離してしまったら僕は数秒後にはこの世を離れてしまうだろう。
「なああんた、どうしようもなく溢れてくる殺意に苦しんでいないか?本当は殺す気なんて無いのにって」
ルーシーさんはこの男を元に戻す為、対話を試みる。
「溢れる殺意?確かにあるよ。1か月くらい前からかな。どうして我慢するんだ、生きたいように生きて、殺したいように殺せば良いじゃないかって」
と語る男性。その目は苦しみではなく、愉悦に浸っているようだった。
「そうか、それを戻す気は無いか?」
「戻す気が無いかって?どうせ出来ないだろそんなこと?まあ、答えてやるとしたら当然無いね。一度愉しみを知ってしまったんだ。戻れるわけが無い。人が苦しみ、泣き叫ぶ姿は非常に滑稽で、そそるものだったよ」
と一切悪びれることなく、寧ろ誇らしげに語っていた。
「そうか、お前との対話は無理みたいだな」
ルーシーさんはいつになくあっさりと引き下がっていた。
その表情は非常に冷たいものだった。
「はは、そりゃあそうだ。この幸福を知らない奴と対話なんて不可能だよ」
「どうしようもないみたいだ。じゃあな」
ルーシーさんは一切の躊躇いなく、腰に下げていた剣を抜き両腕を切り落とした。
「ギャアアアアアアアアアア!!!」
男の悲鳴が周囲に響き渡る。しかしここには3人以外誰も居ない。
「どうして……?」
僕は目の前で広がった惨劇に驚きを隠せないでいた。
「こうでもしないと無理だからな」
そう語ったルーシーさんは予め用意していたのだろう包帯で強引に止血をしていた。
「もう一回聞こうか。元に戻る気は無いか?」
「は、はい……」
両腕を切断された男の顔は、これ以上ない恐怖に染まっていた。
「じゃあやるか」
ルーシーさんはいつもの様子に戻り、着ていたコートから大きな布を取り出してその場に広げる。
ルーシーさんの部屋にある巨大な魔法陣だ。
「よいしょっと」
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すると、不思議なことに服についていたはずの血は消え去り、切れたはずの腕が再生していた。
「よし、じゃあ警察に行くぞ」
ルーシーさんは完全に元に戻った男を抱え、警察へ届けに行った。
「いやあ助かった助かった。俺たちも原因を捜していたからなあ」
連れて来た犯人を見て嬉しそうに話すのはジョン・ヘリオットさん。この間の警視監だ。
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街中で警官がどこかを探し回っているとか警戒しているといった様子は一度も見られなかった気がするが。
「殺人だとは思っていなかったけどな。単に貧民街から人が減っているって話を聞いていてな。あいつらの身元がはっきりしていない以上、警察の体制的に動くことは出来なかったんだが、良くないことだろうなあって予想が立っていたんだ」
それから数日後、この連続殺人事件を巡って裁判が起きた。殺した人数やその計画性、そして貴族の子が非常に多かったことから死刑以外ありえないと判断したのか元TAであるジュゼッペ・ガランは一貫して容疑を否認していた。
しかし彼の自宅から多数の凶器と、死体を運ぶための道具が大量に見つかったこと。そして彼の住む家の下水から切り刻まれた死体の一部が発見されたことによって容疑は確定。
すると一転して気が狂っていた、精神的な異常をきたしていたと主張しだすが、その程度で連続殺人の犯罪性が十分に落ちるわけが無く。死刑が課せられた。
という話をクラスメイトから聞いていた。どうやら友人に被害者が居たらしく、犯人の行く先を最後まで見届けてやりたかったとのこと。
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