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20話
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そんなことがあってから数日、筋肉痛も無くなり訓練で味わった地獄も過去になった頃、
「ヘルド騎士団の奴らが炊き出ししてんな」
「そうだね」
街でヘルド騎士団を見かけることが多くなってきた。炊き出し以外にも孤児院の子達との交流や最近増えた暴走する堕天使の制圧など、様々な活動をしている。
市民の人たちもそれに感化されてか、ヘルド騎士団のように困っている方々を助けるようになり、街としての雰囲気もかなり良くなっていた。
「けっどうだか。腹の裏では何を考えているんだろうな」
しかしルーシーさんは変わらず、不信感を持っているらしい。
「騎士団の人たちはとても良い人でしたって。そんな悪いことを考えるような人達では無いですよ」
まあでもルーシーさんがここまで邪険にするのは、堕天使の暴走が増えたことも原因でイライラしているのもあるだろう。
「別に何か事を起こしているわけじゃねえんだ。疑ってかかるのは良くない癖だぞ」
ダンデさんもルーシーさんを宥めようとしてくれた。
「はっ、お前もあいつらの味方か」
結局ルーシーさんは意見を変えることは無かった。
「ルーシー、そんな事より俺たちをどこに連れていく気だ?」
僕とジョニー君はルーシーさんに付いてこいとだけ言われ、どこかに向かっている最中だった。
事情を知っていると思われるダンデさんにも聞いてみたが、着いてからのお楽しみと言われ詳細を注げてくれることは無かった。
「ここだ」
着いたのは貴族でも中々手を出すのが困難とされている有名な超高級レストランだった。
こういう所はドレスコードがある気がするのだが、ルーシーさんが普段着で躊躇なく入っていったので、大丈夫だろうと判断し中に入った。
「お待ちしておりました。ルーシーさんとその御一行様ですね。お連れいたします」
中に入ると、ウェイトレスが丁寧に出迎えてくれた。
案内の元2階に着くと、1人の男性が待っていた。
「やあ、皆。待っていたよ」
「相変わらずこういう所が好きなんだな」
「美食を追い求めるのは私の趣味だからね。そうだダンデ君、後でご飯食べさせてよ」
「分かった、腕によりをかけて待ってる」
ダンデさんとルーシーさんは、その男性と仲良さげに話している。
「えっと、どちら様ですか?」
「あ、自己紹介がまだだったね。僕の名前はレヴィ、このルーシーと共に堕天使を元に戻す活動を行っているよ」
「初めまして。ペトロです」
「ジョニーだ。よろしく」
「立ち話もなんだし、食べながら話そうよ。ご飯が冷めちゃう」
僕たちは用意された席に座り、食事を始めた。
流石超高級料理店。とんでもなく美味しい。
その感動を共有したくて周りを見渡したが、皆この食事に慣れているようで、感動を覚えている者はいなさそうだった。
そりゃあそうか。僕だけこの街に住んでいる歴が短いし。
そんな僕には関係なく、会話が普通に始まった。
「なあレヴィ。堕天使の状況はどんなもんだった?」
とは言っても仲良く日常の話をするのではなく、堕天使関連だった。
「思っていたよりも多かった。地方ではあまり活動していないイメージだったけど、手を伸ばし始めているみたい」
「ってことは大天使が増えていたってことだな」
「大天使?」
「ああ、お前は知らねえか。堕天使化を乗り越えた奴らが自称している名だ。通常時点で暴走状態の力を手にしている上に堕天使化を天使に施せる力を持った厄介な奴らだ」
「それは面倒だね」
「レヴィの居たところではそんな奴いなかったか?」
「居なかったかな。そもそも僕より強い何かに遭遇してない」
「まあお前だしな」
「レヴィさんって強いんですか?」
レヴィさんが強いというのは意外だった。正直かなり線が細く、簡単に折れてしまいそうな印象を受ける男性だったから。正直あのジョニー君にすら負けそうだと感じる。
「認めたくはねえがこいつはこう見えて馬鹿みたいに強い。暴走した堕天使程度なら簡単に制圧できるし、何なら大天使だったころのエリーゼよりも確実に強い」
あの圧倒的なパワーと飛行能力。そして卓越した武道の技を身に着けていた当時のエリーゼ。ルーシーさんですら一切歯が立たなかった相手よりも確実に強いって。
正直信じがたいが、あのルーシーさんが認めているってことは本当なのだろう。
「それはすげえ。世の中って広いんだな」
「そんでレヴィ、お前が戻ってきたってことはあらかた片付いたってことか?」
「一応ね。現在観測できている堕天使は全て元に戻してきた。しばらくは芸術家たちのデモみたいな大事件が地方で起こることは無いと思う」
「ちゃんと証拠は残らないようにしたよな?」
「そりゃあ勿論。じゃなきゃ今頃暴行罪で逮捕されているよ」
「どういうことですか?」
どうして堕天使を元に戻すのが暴行罪に繋がるのだろうか。
「一応僕もルーシーと同じで堕天使を天使に戻すことが出来てね。ただ、その方法が難儀でね。相手を気絶させることが条件なんだ」
「だからこいつには地方に行ってもらって俺が人の多い街で活動していたってわけだ」
確かにこの街で大量の天使が気絶させられていたら大事件へと発展するからね。出来るなら事件性のない安全な方法で元に戻すべきだ。
警察という概念がより薄い地方であればちょっとした怪異程度で収まるだろうから都合が良かったのだろう。
「で、そこまで急がせてまで僕を呼んだのは、さっき話した大天使についてかい?」
「そうだ。確認できているのが2柱しかないが、大半の大天使がこの街に潜んでいる可能性が高い。だからこちらの最高戦力であるお前をここに置いておくべきだと判断した」
「なるほどね。ルーシーじゃあ対処が不可能だと」
「残念だがそういうことだ」
「その大天使はどうなったの?」
「片方はルーシーの協力の元、自ら元に戻ることを決意してくれた」
「なるほど。もう片方は?」
「消息不明だ」
「なるほど。まずはその大天使を倒して元に戻してしまえば良いんだね」
「そういうことになる」
「情報に当てはある?」
「ちゃんと調べてあるぞ」
ダンデさんは一枚の紙を取り出した。
「流石ダンデ君。これなら辿り着けそう」
そう言ってレヴィさんは席を立った。
「もう行くのか?」
「善は急げって言うしね」
ルーシーさんの言葉に、レヴィさんはそう返し立ち去った。
「みたいなやつだ」
「みたいなやつって。もっと前に説明してくださいよ」
「サプライズって奴だ。驚いただろ?」
ルーシーさんはいたずらが成功した子供のように笑う。
「そりゃあそうですよ。こんなすごい所に何も言わずに連れられて、居たのは初めて見る仲間の方。驚かない方が不自然です」
驚かすにしても一つにして欲しいものだ。
それから数日後、レヴィさんは僕とルーシーさんが住んでいる家までやってきた。
「ルーシー、大天使ウリエルは元に戻しておいたよ」
と軽くあいさつしに来たというノリで報告してきた。
「おう、ご苦労だったな」
「いやあ骨が折れたよ。あの天使、僕と戦ってすぐに力量差を理解したらしくてずっと逃げ回るんだもの」
「んで結局どうしたんだ?」
「もう一回見つけるのは面倒そうだったからそれ以上のスピードで追っかけてあの子の体力が切れるまで粘ったよ」
僕は空を飛べないからねと笑うレヴィさん。
「ならしばらくは休んでくれ。レヴィは今の所大きな仕事は無いからな」
「そういうなら有難くそうさせてもらうよ。ランセットさん、空き部屋使わせてもらってもいいかな?」
「いいわよ。これ合鍵ね」
「ありがとう」
そう言ってレヴィさんは自分の部屋へと入っていった。
それからしばらく経った。
相変わらず堕天使の数は多く、現れては討伐するという方法しか取れずにいた。
『私、ヘレンに投票をお願いします!』
『もし当選した暁には、皆さまの為に尽くすと宣言します!』
人々も化け物の存在に勘付きつつある中、貴族院の選挙期間が始まっていた。
「しばらくは暇になるな」
ルーシーさんは外の喧騒を騒がしそうに聞いていた。
「どういうことですか?」
「この時期は政治家が市民の為に頑張るから欲望が満たされやすいんだよ」
「そうなんですね」
「うん。選挙活動はある意味人気投票のようなものだからね。一番市民にとって喜ばしい存在が政治家になるんだ」
丁度部屋から出てきたレヴィさんが補足する。
「ま、だからといって0になるわけでは無いけどな」
「そうだね。まあ僕たちだけで余裕で対処できるレベルだから、しばらくは大学の授業を頑張ると良いよ。テスト期間も近いようだし」
「はい!」
基本的には毎回授業に参加しているけれど、それ以外の時間は堕天使を元に戻す活動や、文化館を含めアグネス商会の手伝いなどに時間を費やすことが多かった。
今回は科目がかなり多いので乗り切れるか不安だったけれど、時間があるのなら大丈夫そうだ。
「ヘルド騎士団の奴らが炊き出ししてんな」
「そうだね」
街でヘルド騎士団を見かけることが多くなってきた。炊き出し以外にも孤児院の子達との交流や最近増えた暴走する堕天使の制圧など、様々な活動をしている。
市民の人たちもそれに感化されてか、ヘルド騎士団のように困っている方々を助けるようになり、街としての雰囲気もかなり良くなっていた。
「けっどうだか。腹の裏では何を考えているんだろうな」
しかしルーシーさんは変わらず、不信感を持っているらしい。
「騎士団の人たちはとても良い人でしたって。そんな悪いことを考えるような人達では無いですよ」
まあでもルーシーさんがここまで邪険にするのは、堕天使の暴走が増えたことも原因でイライラしているのもあるだろう。
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「ルーシー、そんな事より俺たちをどこに連れていく気だ?」
僕とジョニー君はルーシーさんに付いてこいとだけ言われ、どこかに向かっている最中だった。
事情を知っていると思われるダンデさんにも聞いてみたが、着いてからのお楽しみと言われ詳細を注げてくれることは無かった。
「ここだ」
着いたのは貴族でも中々手を出すのが困難とされている有名な超高級レストランだった。
こういう所はドレスコードがある気がするのだが、ルーシーさんが普段着で躊躇なく入っていったので、大丈夫だろうと判断し中に入った。
「お待ちしておりました。ルーシーさんとその御一行様ですね。お連れいたします」
中に入ると、ウェイトレスが丁寧に出迎えてくれた。
案内の元2階に着くと、1人の男性が待っていた。
「やあ、皆。待っていたよ」
「相変わらずこういう所が好きなんだな」
「美食を追い求めるのは私の趣味だからね。そうだダンデ君、後でご飯食べさせてよ」
「分かった、腕によりをかけて待ってる」
ダンデさんとルーシーさんは、その男性と仲良さげに話している。
「えっと、どちら様ですか?」
「あ、自己紹介がまだだったね。僕の名前はレヴィ、このルーシーと共に堕天使を元に戻す活動を行っているよ」
「初めまして。ペトロです」
「ジョニーだ。よろしく」
「立ち話もなんだし、食べながら話そうよ。ご飯が冷めちゃう」
僕たちは用意された席に座り、食事を始めた。
流石超高級料理店。とんでもなく美味しい。
その感動を共有したくて周りを見渡したが、皆この食事に慣れているようで、感動を覚えている者はいなさそうだった。
そりゃあそうか。僕だけこの街に住んでいる歴が短いし。
そんな僕には関係なく、会話が普通に始まった。
「なあレヴィ。堕天使の状況はどんなもんだった?」
とは言っても仲良く日常の話をするのではなく、堕天使関連だった。
「思っていたよりも多かった。地方ではあまり活動していないイメージだったけど、手を伸ばし始めているみたい」
「ってことは大天使が増えていたってことだな」
「大天使?」
「ああ、お前は知らねえか。堕天使化を乗り越えた奴らが自称している名だ。通常時点で暴走状態の力を手にしている上に堕天使化を天使に施せる力を持った厄介な奴らだ」
「それは面倒だね」
「レヴィの居たところではそんな奴いなかったか?」
「居なかったかな。そもそも僕より強い何かに遭遇してない」
「まあお前だしな」
「レヴィさんって強いんですか?」
レヴィさんが強いというのは意外だった。正直かなり線が細く、簡単に折れてしまいそうな印象を受ける男性だったから。正直あのジョニー君にすら負けそうだと感じる。
「認めたくはねえがこいつはこう見えて馬鹿みたいに強い。暴走した堕天使程度なら簡単に制圧できるし、何なら大天使だったころのエリーゼよりも確実に強い」
あの圧倒的なパワーと飛行能力。そして卓越した武道の技を身に着けていた当時のエリーゼ。ルーシーさんですら一切歯が立たなかった相手よりも確実に強いって。
正直信じがたいが、あのルーシーさんが認めているってことは本当なのだろう。
「それはすげえ。世の中って広いんだな」
「そんでレヴィ、お前が戻ってきたってことはあらかた片付いたってことか?」
「一応ね。現在観測できている堕天使は全て元に戻してきた。しばらくは芸術家たちのデモみたいな大事件が地方で起こることは無いと思う」
「ちゃんと証拠は残らないようにしたよな?」
「そりゃあ勿論。じゃなきゃ今頃暴行罪で逮捕されているよ」
「どういうことですか?」
どうして堕天使を元に戻すのが暴行罪に繋がるのだろうか。
「一応僕もルーシーと同じで堕天使を天使に戻すことが出来てね。ただ、その方法が難儀でね。相手を気絶させることが条件なんだ」
「だからこいつには地方に行ってもらって俺が人の多い街で活動していたってわけだ」
確かにこの街で大量の天使が気絶させられていたら大事件へと発展するからね。出来るなら事件性のない安全な方法で元に戻すべきだ。
警察という概念がより薄い地方であればちょっとした怪異程度で収まるだろうから都合が良かったのだろう。
「で、そこまで急がせてまで僕を呼んだのは、さっき話した大天使についてかい?」
「そうだ。確認できているのが2柱しかないが、大半の大天使がこの街に潜んでいる可能性が高い。だからこちらの最高戦力であるお前をここに置いておくべきだと判断した」
「なるほどね。ルーシーじゃあ対処が不可能だと」
「残念だがそういうことだ」
「その大天使はどうなったの?」
「片方はルーシーの協力の元、自ら元に戻ることを決意してくれた」
「なるほど。もう片方は?」
「消息不明だ」
「なるほど。まずはその大天使を倒して元に戻してしまえば良いんだね」
「そういうことになる」
「情報に当てはある?」
「ちゃんと調べてあるぞ」
ダンデさんは一枚の紙を取り出した。
「流石ダンデ君。これなら辿り着けそう」
そう言ってレヴィさんは席を立った。
「もう行くのか?」
「善は急げって言うしね」
ルーシーさんの言葉に、レヴィさんはそう返し立ち去った。
「みたいなやつだ」
「みたいなやつって。もっと前に説明してくださいよ」
「サプライズって奴だ。驚いただろ?」
ルーシーさんはいたずらが成功した子供のように笑う。
「そりゃあそうですよ。こんなすごい所に何も言わずに連れられて、居たのは初めて見る仲間の方。驚かない方が不自然です」
驚かすにしても一つにして欲しいものだ。
それから数日後、レヴィさんは僕とルーシーさんが住んでいる家までやってきた。
「ルーシー、大天使ウリエルは元に戻しておいたよ」
と軽くあいさつしに来たというノリで報告してきた。
「おう、ご苦労だったな」
「いやあ骨が折れたよ。あの天使、僕と戦ってすぐに力量差を理解したらしくてずっと逃げ回るんだもの」
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僕は空を飛べないからねと笑うレヴィさん。
「ならしばらくは休んでくれ。レヴィは今の所大きな仕事は無いからな」
「そういうなら有難くそうさせてもらうよ。ランセットさん、空き部屋使わせてもらってもいいかな?」
「いいわよ。これ合鍵ね」
「ありがとう」
そう言ってレヴィさんは自分の部屋へと入っていった。
それからしばらく経った。
相変わらず堕天使の数は多く、現れては討伐するという方法しか取れずにいた。
『私、ヘレンに投票をお願いします!』
『もし当選した暁には、皆さまの為に尽くすと宣言します!』
人々も化け物の存在に勘付きつつある中、貴族院の選挙期間が始まっていた。
「しばらくは暇になるな」
ルーシーさんは外の喧騒を騒がしそうに聞いていた。
「どういうことですか?」
「この時期は政治家が市民の為に頑張るから欲望が満たされやすいんだよ」
「そうなんですね」
「うん。選挙活動はある意味人気投票のようなものだからね。一番市民にとって喜ばしい存在が政治家になるんだ」
丁度部屋から出てきたレヴィさんが補足する。
「ま、だからといって0になるわけでは無いけどな」
「そうだね。まあ僕たちだけで余裕で対処できるレベルだから、しばらくは大学の授業を頑張ると良いよ。テスト期間も近いようだし」
「はい!」
基本的には毎回授業に参加しているけれど、それ以外の時間は堕天使を元に戻す活動や、文化館を含めアグネス商会の手伝いなどに時間を費やすことが多かった。
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