欲望が満たされなくなった天使は化け物へと変貌する

僧侶A

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12話

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「ジョン・エリオットはいるか?」

 迷うことなく受付に話しかけた。

「いますが…… 事前に連絡はしておりますか?」

「いや、してない」

「それならば後日連絡してからお伺い願います」

「とりあえずルーシーが来たってことだけ伝えてくれ。それだけしてもらえれば十分だ」

「ルーシーさん、ですね」

「んじゃ頼んだ」

 その後、僕達は受付の近くにあった椅子に座り待つことになった。

「ジョン・エリオットって方とは知り合いなんですか?」

「一応な。腐れ縁だが」

 事前に連絡が必要ってことはかなりの立場の方なはず。どこで知り合ったのだろうか。

 待つこと数分、ルーシーさんと同じくらいの年齢の人がこちらへとやってきた。

「遅かったな、ジョン」

「何の連絡も無く呼び出すからだ。お前と違ってこちとら日々仕事しているんだ」

 その人は真面目そうな感じで、ルーシーさんと仲良くするようなイメージは湧かなかった。

「まあお前より稼いでいるけれどな」

「うるさい。んで、こちらの男性は?」

「ペトロ・ダンヴルです。ノウドル大学の学生です」

「そりゃあまた優秀な学生がこいつと仲良くしているもんだ。何か騙されていないか?」

「多分騙されていないと思います」

 何を考えているのか分からないから、はっきりとは言えないけれど。

「なら良いか。俺はジョン・エリオット、警視監だ。よろしくな、ペトロ」

「は、はい」

 警視監ってことはバリバリのエリートじゃないか。しかもこの若さでってことはその中でも……

「こいつが凄い奴だと思ったろ?全部俺のお陰だからな」

「俺の実力だ」

「どういうことですか?」

 こんな人が警察で権力を持っているとは思えない。

「堕天使に関する事件の後処理をさせているからだよ。大事件を解決したら出世が早くなるからな」

「お前のよこす仕事、めちゃくちゃ面倒なんだからな」

 軽く言い合っているが、お互い信頼しているというのは分かった。

 確かに、ジョンさんになら仕事を任せても大丈夫なのだろう。

「んで、今回は何なんだ?」

「最近サルトル関連で連れてこられた男が二人いるだろ?そいつらを一時的に外に出してくれ」

 それを聞いたジョンさんは少し思案した後に、

「そういうことか……流石に厳しいな」

 と結論付けた。

「たかが一市民だろ?別に問題無いんじゃないか?」

 たかが一市民とは言うが、確かに牢に入っている貴族よりは出しやすいのは事実。注目度合いが違うから。

 権力がある方が抜け出しやすいというのはあくまで正攻法の場合で、裏口の場合は一般市民の方が楽だ。

「そのサルトルとかいう奴が無駄に権力を持っていてな。警察に圧力をかけているんだよ」

「圧力ですか?」

 確かあの人も身分的には一般市民の筈。貴族でもない政治に一切関係の無い画家という職業の方が公的機関に権力を持つなんて自体は普通あり得ない。

「国内一の画家ということもあって、金だけは無駄に持っているからな。それを使って多方面に対して金を渡しているんだ。この警察にもな」

「それを告発すれば良いんじゃないんですか?」

「無駄だよ。俺らのような公的機関に対しては絵を格安で描くという名目で金を渡しているんだ。そこに付け入る隙はない。それに、今回の主張に一切おかしな点は無い。ごく普通の要求だ」

 今回の騒動はサルトルさんが発端とはいえ、あくまでも被害者という立場だ。それを覆していては行政の根幹が揺らぎかねない。

「それなら仕方ねえか。今後どうなる予定だ?」

「普通の流れであれば、裁判にかけられた後に有罪となれば本格的な投獄となる。裁判は大体1週間後だな」

「サルトルは金に困っていないからちゃんと刑事裁判で潰しに来るだろう」

 となるとあの二人の結末は……

「ってことはこのままじゃあ暴走確定か」

 ルーシーさんは最悪の結果を口にした。

「でもどうすれば」

「正直な所、対処のしようがねえ。どのタイミングで暴走するのかなんて人それぞれだ。裁判直後かもしれないし、今回の事件が世に知れ渡って、それを知った時かもしれない」

「なら早く止めないと……」

 ルーシーさんの言う通りなら、あの二人はどこで爆発するか分からない時限爆弾だ。

 何なら暴走した後様々な所に移動するから爆弾より達が悪い。

「とは言っても俺から出来ることは殆どねえな。どの牢に入れられているかを教えるだけだ」

「まさか……」

「そのまさかだ。ついてこい」

 背景、お父さん。僕は今から犯罪者になってしまうようです。

 僕はルーシーさんに連行され、牢屋のある建物の周辺に来ていた。

 その間に、ルーシーさんは一旦家に戻り、何か巨大な荷物を持ってきていた。

「それは何ですか?」

「今回必要な道具だ」

 ということはあの中にハンマーとかヤスリとか、脱出に必要なグッズがたくさん入っているのだろう。

 ルーシーさんは、ジョンさんの書いた牢屋の地図を元に、その二人が入っている部屋の扉を探した。

「お、居たな。おーいカシス」

「誰だ?」

 牢屋に居た画家の一人、カシスさんはかなり警戒していた。

「そんな警戒するなよ。ただのしがない小説家だ」

「大学生です」

 一応僕もいるよと主張だけしておく。

「この間やってきた変な奴とその仲間か。なにかあったのか?」

「前も言った通り、お前をこのまま放置していると確実に暴走してしまうからな。流石に死にたくはないだろ?というわけで戻しに来た」

「ってことは俺を助けに来たわけじゃないのかよ」

「ある意味助けに来てはいるけれどな」

「正直今後の画家人生が絶たれるのなら暴走したところで問題は無い。寧ろ暴走した方が一泡吹かせられるし万々歳なんだが」

「なんだカシス?この間の奴らか?」

「おう、俺たちを元に戻しに来たってよ」

 堕天使のもう一人、バレンスさんが遠くから反応した。

「そっちにも聞こえてるのか。なら説明は早い。端的に言おう。お前らが暴走しないように元に戻しに来た」

「ここから出られねえのか?なら暴走したところで問題ないな」

 バレンスさんも同じ意見のようだった。

「お前ら、あのむかつく男にやり返したいとは思わねえのか?」

 少し考えた後に、ルーシーさんはそう言った。やり方を変えたようだ。

「それは勿論」

「会えたらぶん殴ってやりてえ」

「なら、暴走してどこの誰とも知れない奴らを殺して街を破壊するだけでいいのか?」

「出来るならそうしてえよ」

「俺も同意見だ。ただどうしようもねえんだろ?あいつは司法に対して圧力をかけられるくらいに権力を持っている」

 サルトルについては本人たちが良く知っているようだ。

「それを解決するいい方法があるんだが、どうだ?」

 絶対ないだろこの人。

「あるんなら……」

「賭けてみたい」

「なら理性を持って行動するために元に戻れ」

「「分かった」」

 あっさり信じちゃったよ。堕天使状態って欲望に忠実な分暴走しやすいのかもしれない。

 その後ルーシーさんは、二人にチョークを渡してルーシーさんの自室にあるような魔法陣を描かせた。

 それだけの時間を使ったら見回りの人に見つかるのでは、と思ったがどうやらジョンさんが根回しをして時間を稼いでくれていたらしい。

 そして無事に二人を元に戻すことに成功した。

「感情がすっきりした気がするな」

「そうだな。今なら冷静に判断できる気がする」

「お前、方法ってなんだ?」

「それは……」

「あるわけないだろ」

 存分に貯めた後、堂々と宣言した。

「おい、てめえ!」

「ふざけんな!」

 そんな怒号が飛び交う中、ルーシーさんは帰っていったのでそのまま付いていく。

「何故あんなことをしたんですか」

 わざわざ騙すことも無いだろうに。

「時間が無かったからだよ。仕方ないだろ」

 そう悪びれもせずに言った。相変わらずこの人は……

 まあ命が助かったのだから良しとするしかないよね。
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