欲望が満たされなくなった天使は化け物へと変貌する

僧侶A

文字の大きさ
上 下
10 / 49

10話

しおりを挟む
 帰宅中、

「何故最後にあの話を付け加えたんですか?」

「金に困っている奴がいるって聞いたろ?その中には広告効果があってもそのメリットを理解しない奴は多いからな。明確に展覧会から直の仕事を受けられると明言して置いたら理解しやすくなるんじゃないかと思ってな。色んな奴らに見てもらうことで名声を上げることが目的とはいえ、金持ちも結局は見に来るだろうしな」

 確かに。いくら有名になって人々からの名声を得ても、仕事相手は金持ちだ。だからこそそのメリットは提示しておいた方が良い。

「ま、奴らが受け入れるかどうかは分かんねえけどな」

 結局は相手の機嫌次第。待つ以外に術はないのだ。

 返事が返ってきたのは3日後だった。

「この間の話じゃが、それならやってみても良いという声が一部上がっていた」

 結果はオッケーだった。

「後はそれを事業としてやってくれる人間がいるかって話だな」

 ルーシーさんがそう言った。

「そうですね。とりあえず頼んでみます」

 僕はその案を出した張本人、ジョニー君に聞いてみることにした。

「確かに俺はこの間そういう話をしたけれど、まさか本当に持ってくるとは思わなかった。知り合いでもいるのか?」

「ちょっとね。もしよかったらジョニー君の所の商会でやってみてくれないかな?」

「ちょっと待ってくれ」

 ジョニー君は、ペンを手に取り、授業に使うノートに何やら計算をしていた。数式を見るに、予算と利益率、見込まれる集客数について考えているのだろう。

 そして数分間経ち、持っているペンを机に置いた。

「オッケーだ。契約の中身についてその芸術家と話をさせてくれ」

 そう言われた通りに、ジョニー君を連れて行った。

「本当にお主が取引相手なのか?」

 マルティンさんは、連れてきた相手が僕と同じ若者だったことに心配していた。

「そうだよ。一応親から在学中に何かしらの商売に挑戦するようにって資金をある程度貰っているから問題ない」

「それに、ジョニー君は大学の中でもかなり優秀な生徒ですから安心してください」

 何度も助けてもらっている僕が優秀ではないにしても、ジョニー君は明らかに優秀だった。

「まあ、こちらとしては取引して一定期間展覧会が開催出来るのであればあまり問題は無いだろうし、お主の事はある程度信頼しているからの。まあそこにいる男は分からんが」

 案外僕の事を信頼していてくれているようだった。

「何で俺が信頼できないんだ。こうも誠実で出来る男を」

 と、昼間から酒飲んで推理小説を呼んでいる男が憤慨している。

「お主に関しては何しているのかすら分からんからの。どうやったら信頼できると思えるのだ」

 確かに。僕もあの時助けてもらえなかったとしたらこの人を信用できるわけがない。

「とりあえず次の話をしましょうか」

 ジョニー君は話を続けようと次の話題を出す。後ろでルーシーさんが何か言っているが、他の3人は華麗にスルーしていた。

「絵についてだけれど、正直な所1枚1枚が馬鹿みたいに高すぎる。大量展示する上で現実的な額がこれなんだが、流石に安すぎるだろ?」

 想定される額をジョニー君は示した。

「確かに。一枚にかかる時間や絵の具の費用のことを考えると、そこらへんで軽く手伝いをして駄賃でも貰った方がマシじゃな」

 指定された額は結構な額に見えるが、それでも少なすぎるらしい。

 あの絵が相当な時間をかけて作られていたのだと思い知った。

「ってことで提案なんだが、一枚一枚の絵のサイズを小さくしねえか?大体この位を想定しているのだが」

 そう言いながらジョニー君は紙を取り出した。それは、ノートより少し大きい程度の者だった。普通絵というのは貴族の大きな家に展示するということもあり、小さくても1m位はある。

「確かに、このサイズならこの額でも足りるかもしれぬな。寧ろこれならかかる時間とかの分普通の仕事よりも利益率は高いかもしれぬ」

「それなら良かった。こちらとしても、通常サイズの絵だった場合建物を作るための代金が馬鹿にならなかったからな」

 確かに、あのサイズの絵を複数展示するのは大変だよな。一般的な商会の店の場合、ちゃんとスペースを開けることを考慮した場合10枚くらいが限度だしな。

 恐らく30枚以上の絵を展示することになるのだ。それだけの額を子供に任せるとはいくら儲かっていたとしても到底思えない。

「これで絵に関係する者の場合は解決しそうじゃな。貴族の間で人気になってくれば1枚当たりの単価も余計に取れるしの」

 そう。解決したのはあくまで絵関係の芸術家。最初の段階であれば完全解決で大団円だったのだが、今はそれ以外の文化的活動を行う者達が集まっているのだ。

「ここまでは絵のみの話だったが、これからはそれ以外も込みの話をするか」

 ジョニー君はそれについても考えてくれていたようだ。

「これは絵の展示スペースを少なく出来たから出来る話なんだ。先程の話のお陰である程度省スペースで展示できるようになった。それにより平屋で運営できるようになった」

「そうじゃの。あのサイズだと50枚くらいあっても一フロアで事足りる」

「ただ、ここは国の中心、ノウドルだ。そんな場所で商会が平屋とかいうみみっちい商売したら勿体ないし、名が廃るってもんだ」

 でも、子供がするにはそれで十分な気がするが。それに、50枚絵を集めるだけでも結構な商売じゃないか。

「なら、どうするのじゃ?」

「建物はを4階建てにして、絵の展示を行う1階以外のフロアにそういった職業の奴らを日替わり、週替わりとかでぶち込む。大規模商業施設ならぬ、大規模文化施設の爆誕ってわけだ」

 それは、あまりにも壮大な計画だった。

「それだと、あまりにも金額がかかりすぎないか?」

 その計画では、普通サイズの絵を50枚展示した方がマシな計画だった。金がかかりすぎるって何だったのか。

「ああそれか。金がかかりすぎるってのはこの計画を実行に移したかったからだ。流石に絵を通常サイズで展示しちまった場合、土地がそもそも存在しないんだ。その場合どこかの土地を住人や店から買い取らなきゃいけない羽目になる。それだと流石に無理だ。それに、絵を通常サイズにした場合、他もフルサイズでやらせないといけなくなる」

 確かに、誰かが使っている土地を買い取る場合は、相場の5倍はかかると言われているから真っ当な話だった。

「なるほど、よく分かった。私達としても断る理由の無い良い話じゃ」

「最後に、うちの計画に参加した奴の中で、希望者がいればだが、この先の全ての仕事にて契約の手伝いをウチの商会の構成員が手伝ってやる。利益の一部を取ることにはなるが、結果的に以前より大きな金をとれることを約束してやる」

「今回の話は、きちんと伝えておく。ここまで準備してくれて、非常にありがたかった」

「問題ないさ。こちらとしても美味しい話だったからな」

 ジョニー君とマルティンさんは熱い握手を交わした。

「そこの二人、その代わりにデモを止めろという話だったな?」

 突然僕達に話が飛んできた。

「ああ、そうだ。でなきゃいずれ警官が出てきて面倒なことになるだろうからな」

 あのデモを強引に鎮圧した場合、誰かしら暴走者が出るのは間違いないだろうしな。

「分かっておる。ちゃんと責任を持って止めることを宣言する」

 家を出た後、ルーシーさんは気分を納めるためにダンデさんの酒場に向かったので、ジョニー君と二人になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました

陽好
ファンタジー
 ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。  東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。  青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。  彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。  彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。  無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。  火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。  そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。  瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。  力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...