欲望が満たされなくなった天使は化け物へと変貌する

僧侶A

文字の大きさ
上 下
5 / 49

5話

しおりを挟む
「そうですね。頑張ります」

 もう既に過ぎてしまったものはどうしようもない。ルーシーさんの言う通りだ。

「それよりも明日から大学だろ?」

「あっ、完全に忘れていました……」

 僕は夕食を食べた後、急いで支度をした。

 入学式当日。

 とは言ってもこの大学、ノウドル大学ではよくあるような壮大な式は行われない。大学の規模自体は大きいのだけれど、専門によって場所が点々としているから全校生徒が一堂に会することのの出来る会場というものが無いのだ。

 当初はそういったものを作ろうという動きもあったようだが、そんなことをするくらいなら研究費や設備に投資しろという声が教授陣から多数集まったらしく、その話が無くなったらしい。

 というわけで簡易的に作られたクラス単位で説明を受けるだけである。

「以上で説明は終わりだ。何か質問はあるか?」

 行われたのは卒業に必要な単位数と必修についての説明。そして自分が使うキャンパスの設備紹介だった。

「無いということで今日は終了だ。各自帰るように」

 という解散の合図によって一日が終わった。

「ペトロ君、明日から一緒に授業受けない?」

 僕もそれに倣って帰ろうと思っていたら、隣に居た男に声を掛けられた。

 たしか、

「ジョニー君だっけ?」

「合ってるよ」

 目の前で笑っている、パーマがかかった金髪で少し不真面目そうな男はジョニーで合っていた。

 一度に40人位の名前を聞いたから覚えているか心配だったけれど、どうにか覚えていたらしい。

「僕は商家の息子でね、経営について学んで来いって言われてきたんだ。君は?」

 着崩してはいるが高給なスーツを着ていたのでお金を持っている家の息子だろうとは思っていたけれど、予想通りだった。

「最初に言っちゃっていいの?」

「別に良いんじゃない?仲良くするんだったらいずれバレるんだし」

 この大学はアルグネ全土の優秀な人材を集めて将来国の発展に貢献してもらうという名目で運営されている。

 そのため身分に関係なく学ぶ気概のある優秀な人材を集めている。だから平民と貴族が一緒の場で学ぶことになってしまう。

 近年は差別意識のようなものは薄れてきているが、大学としては身分の違いで交流の機会を減らしては勿体ないということで、名字を公表してはいけないという決まりがある。

 身なりで大体分かると言いたいところではあるが、貧乏に見せる貴族や、逆に貴族のフリをする平民も居るのである程度目的は達成できている。

 そんなルールを目の前にいる人はあっさり破っている。

「それもそっか」

 仲良くなると過去の話をすることもあるだろうし、そんなものだろう。

「それに、バラすとかバレるとかじゃなくて差別することが問題なんだから。誰が何であれ平等に接してあげれば良いんだよ」

 ルールは破っているけれど、自分なりの芯が通っていて好印象に思えた。真面目な人からは嫌われそうだけど。

「まあでも今は言わないでおきたいかな」

 わざわざ貴族なんて名乗りたいわけでは無いし。

「もしかして他の国からの移民だったりして」

「かもね」

「まあ君が貴族だから仲良くしたかったとかでも無いし、別に良いけど」

 商家の息子なら大学にいるうちに貴族とのコネクションを増やしておきたいと考えるような気もするが、そうではないらしい。

「少し意外そうな顔をしているね」

「それはまあ。貴族は大口の顧客だから」

「確かにそれは間違いないし、大抵はそうだよ。でも、その分貴族は少ないから。今後の発展でこの国全体が豊かになっていくことを考えたら、人が多い平民の方も重要になってくるから、どちらとも仲良くすべきだと思うんだ」

「確かに貴族は1000人に1人位だしね」

 コスパは悪いけれど、金持ち1人から儲けを得るよりも900人から儲けを得た方が将来的には良いかもしれない。その中で金持ちも来てくれるかもしれないし。

「そういうこと。自己紹介も済んだし、今日はこのくらいにしようか」

「そうだね」

「じゃあまた!」

 僕達は別れを告げ、それぞれ自宅へと帰っていった。

「ただいま帰りました」

「おう、お疲れさん」

「おかえりなさい」

 他に用事は一切無かったのでそのまま帰宅すると、二人が共用のリビングに居た。別に自分の部屋にもキッチンもリビングもあるのに、仲が良いらしい。

 ランセットさんはキッチンで料理をしている。

「んで、何でこうなっているんですかね、ルーシーさん」

 微笑ましく思いながらも、目の前にある逃げてはいけない現実に取り組むことにした。

「俺がどうかしたか?」

「どう見てもお酒飲んでますよね。昼間から酒飲まないって嘘だったんですか」

「俺は昼間から酒場に入り浸る男じゃねえって言っただけだ」

 正直酒場にいるより酒を昼から飲んでいる方がダメ人間だと思う。

「それに本の内容は頭に入っていますか?」

 酒を片手に顔を真っ赤にした男が最近発売された推理小説を読んでいた。

「この程度なら余裕だ」

 絶対余裕じゃないでしょ……

「ランセットさんも注意してあげてくださいよ」

 恐らく保護者であろう人に文句を言う。

「私が言った所で止まらないのよね……もう理性がちゃんとあればいいかなって思っているわ」

 どうやら、僕がここに来る以前から一悶着あったらしい。

「それに、今日は俺の仕事は休みだからな」

「それでも問題ですよ。んで、次の仕事はいつなんですか?」

「数か月後」

「じゃあ僕何でここに居るんですか」

 正直数か月に1度ならその時期にこの家に来れば良かったような。

「ん?一緒に天使助けするためじゃねえか。明後日探しに行くぞ」

「それ仕事じゃないんですか?」

 普通にお金とかもらっているものだと思っていた。

「ボランティアみたいなもんだ」

「じゃあお金はどうしているんですか?」

「困った時に湧かす」

 お金が湧く?どういうこと?

「この人、そこそこ有名な小説家なのよ。お金が足りなくなったら部屋に引き籠って書いて出版社に送り付けているわ」

「そういうこった」

「私としては常にお金に余裕を持って欲しいんだけどね。突然書けなくなったからってこの家に泊めてあげるほど親切には出来ないわよ」

「生憎俺は天才なんでな。一生書き続けられる自信しかない」

 この人突然書けなくなって破産しないかな。

「こんな男よりも、ペトロ君今日はどうだった?」

「噂に聞いていた通り、少し変わった所で慣れるまでに時間がかかりそうです。ただ、この国で一番の環境らしいので早く授業を受けてみたいですね」

 今はまだジョニー君としか話していないけれど、他の人と交流するとき、どんな反応になるのかが少し気になる。

 将来の事も考えて普通の平民の子とも話してみたいけれど、上手くいくのだろうか。

「それなら良かったわ」

「頑張っているみたいだな。さて次の酒はっと」

「「それはダメ!!!!」」

 これ以上飲ませると碌なことになりかねないので、必死に止めた。

 翌日、約束通り僕とジョニー君は一緒に授業を受けた。

 ジョニー君は見た目にそぐわず優秀で、授業の内容が最初から頭に入っているみたいだった。初めての授業ということもあり分からないことが結構あったけれど助けてもらった。

「ありがとう。助かったよ」

 授業後、教室の移動中にお礼を言う。

「別に良いよ。減るもんじゃないし」

「それは嬉しいな」

「俺が今度どこかで詰まったら教えてくれよな」

「勿論」

 ちゃんと勉強しなきゃと意気込んで受けた次の授業でもジョニー君の助けを受けることになった。

 流石に申し訳なくなったのと、今後もお世話になることが濃厚だったのもあり、お礼として昼飯を奢ることにした。

 その際、ジョニー君の行きつけの店があるとのことで大学を出て外でご飯を食べることになった。

「あれ何やってんだろ」

「デモかな」

 飯屋の通り道で男達が集団で何かを叫びながら歩いているのを見かけた。

「見に行く?」

 ジョニー君の提案に頷き、二人で様子を見に行くことに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初めて入ったダンジョンに閉じ込められました。死にたくないので死ぬ気で修行したら常識外れの縮地とすべてを砕く正拳突きを覚えました

陽好
ファンタジー
 ダンジョンの発生から50年、今ではダンジョンの難易度は9段階に設定されていて、最も難易度の低いダンジョンは「ノーマーク」と呼ばれ、簡単な試験に合格すれば誰でも入ることが出来るようになっていた。  東京に住む19才の男子学生『熾 火天(おき あぐに)』は大学の授業はそれほどなく、友人もほとんどおらず、趣味と呼べるような物もなく、自分の意思さえほとんどなかった。そんな青年は高校時代の友人からダンジョン探索に誘われ、遺跡探索許可を取得して探索に出ることになった。  青年の探索しに行ったダンジョンは「ノーマーク」の簡単なダンジョンだったが、それでもそこで採取できる鉱物や発掘物は仲介業者にそこそこの値段で買い取ってもらえた。  彼らが順調に探索を進めていると、ほとんどの生物が駆逐されたはずのその遺跡の奥から青年の2倍はあろうかという大きさの真っ白な動物が現れた。  彼を誘った高校時代の友人達は火天をおいて一目散に逃げてしまったが、彼は一足遅れてしまった。火天が扉にたどり着くと、ちょうど火天をおいていった奴らが扉を閉めるところだった。  無情にも扉は火天の目の前で閉じられてしまった。しかしこの時初めて、常に周りに流され、何も持っていなかった男が「生きたい!死にたくない!」と強く自身の意思を持ち、必死に生き延びようと戦いはじめる。白いバケモノから必死に逃げ、隠れては見つかり隠れては見つかるということをひたすら繰り返した。  火天は粘り強く隠れ続けることでなんとか白いバケモノを蒔くことに成功した。  そして火天はダンジョンの中で生き残るため、暇を潰すため、体を鍛え、精神を鍛えた。  瞬発力を鍛え、膂力を鍛え、何事にも動じないような精神力を鍛えた。気づくと火天は一歩で何メートルも進めるようになり、拳で岩を砕けるようになっていた。  力を手にした火天はそのまま外の世界へと飛び出し、いろいろと巻き込まれながら遺跡の謎を解明していく。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

悪役令嬢の追放エンド………修道院が無いじゃない!(はっ!?ここを楽園にしましょう♪

naturalsoft
ファンタジー
シオン・アクエリアス公爵令嬢は転生者であった。そして、同じく転生者であるヒロインに負けて、北方にある辺境の国内で1番厳しいと呼ばれる修道院へ送られる事となった。 「きぃーーーー!!!!!私は負けておりませんわ!イベントの強制力に負けたのですわ!覚えてらっしゃいーーーー!!!!!」 そして、目的地まで運ばれて着いてみると……… 「はて?修道院がありませんわ?」 why!? えっ、領主が修道院や孤児院が無いのにあると言って、不正に補助金を着服しているって? どこの現代社会でもある不正をしてんのよーーーーー!!!!!! ※ジャンルをファンタジーに変更しました。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...