とても優しい魔王様も流石に堪忍袋の緒が切れました。だから世界征服をして自分の身をしっかり守りましょう。

僧侶A

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最終話

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 着いたのはどこか分からない街。

 周りを見渡すと大量の人に溢れていた。建物は私の国と違って木やら土と思わしきもので外壁が組み立てられており、屋根は煉瓦と似ているが違う石のような何かで覆われている。

「無事に辿り着きましたね」

 私を謎の場所に送り込んだ犯人ことシキの声がしたので振り返ると、見知らぬ顔の女性が立っていた。

「シキ、なのか?」

「はい。元の姿だと目立つどころじゃありませんので。ちなみに魔王様もそれっぽい格好にしてありますよ」

 鏡が無いので自分の姿を確認することは出来ないが、どうやら俺の姿も何かしらに帰られているようだ。どう見てもシキの方が私より身長が高い。

「この姿、もしかしなくても子供じゃないか?」

「正解です。流石魔王様ですね。天才天才」

 そう言いながら頭を撫でるシキ。完全にバカにしているよこの魔人。

 でもシキの方が強いから後でやり返すことも叶わないんだろうなあ……

「それで、ここはどこだ?」

「ヒノモトですね」

 確か地図に書いてあったな。まさか

「ターゲットの国ですね」

 シキはさも当然のように言う。海から攻撃するんじゃなかったんですかね?

「そんなの無理に決まってるじゃないですか。それが出来るなら勇者はフルボッコですし魔王城からアレスの王都を破壊出来ます」

「じゃあ何故二人でここに来たんだ?」

「それは観光の為ですけど。あっ呉服屋です」

 私はシキの手を引かれ、呉服屋へと入ることに。

「いらっしゃいませ。そちらのお方の着物の新調でしょうか?」

「いえ、私の着物です。先日この子の分は買い揃えてしまったので」

「そうですか。ではこちらへどうぞ」

「じゃあちょっと待っててね」

『何も変なことをしないでくださいね』

 シキに二度釘を刺され、大人しく待っていることにした。

 実は他国に来るのは今回が初めてだ。

 他国との関係が最悪のため当然ではあるのだが。

 そのため必要ないと思って他国の文化はあまり気にしたことが無かったのだが、こうやって目の前にすると知っておけば良かったと思う。

 目の前に広がる光景すべてが真新しく新鮮なのだが、その新鮮なものが何か分からないため何が凄いのか、感動的なのかが分からない。

 まあ敵国なのでそんなことを考えていたら情が出るのでよくない気がするが。

 しばらくしたらシキが戻ってきた。

「お待たせしました。これで満足です」

 手には大量の服を抱えていた。

 ということは購入したということなのだろうが、どこで手に入れたのだろうか?

「勿論作りました」

 流石シキだった。

「じゃあ次に行きましょうか」

 その後は出店で寿司なるものを食べ、この国特有の食器を買った。

 確かに寿司は美味しかったし、食器も今後の食事の幅を広げられることから良いとは思うのだが、本当にこれから国を征服するんだよな?

「では行きましょうか」

 再び手を取られ、転送された。

 そこは大きな建物の中だった。目の前には王と思われる男が座っていた。

「この方は魔王です。この国を征服するためにやってきました」

 着くなりシキはそう宣言した。そして俺の手を取り天井を突き破りながら上空へと飛び立った。

「では行きますよ」

 シキは突然俺に魔力を流し込んできた。

「何を?」

「黙っていてください」

 抵抗しようとするも無理やり魔力を流された。明らかに俺の総魔力量を超えるものだった。

 そして俺の許容量の限度ギリギリに達したタイミングで、俺の体を使用して魔法を放った。

 しかしそれはちゃんとしたものではなく、ただ魔力を塊にして押し出すだけのものだった。

「なんだこれ……」

 目の前に広がるのは、それによって破壊された大量の瓦礫だった。

「なんだこれって魔王様が自分の魔力でやったことですよ?」

 どう考えても俺の魔力は使用された量の10分の1くらいしかなかった気がする。

「魔王様の体から出た魔力なので魔王様の魔力です。じゃあ行きましょう」

 とんでも理論で片付けられ、俺たちはあえて残されたであろう王の間に降りたった。

「これでいうこと聞いてくれますよね?」

「は、はい……」

 一つ目の島国征服はほんの10分足らずで終了した。


 この後の島国征服も似たようなもので、満足するまでシキが観光した後、俺の体を使って魔法を行使して支配する。

 最早シキ一人でやってくれた方が速い気もするのだが、どうも私が居なければ駄目らしい。

 シキ曰く私が全てやると世界中の人間から恐れられて観光が出来なくなるからとのこと。


 ちなみにその後大陸の国もあっさりと征服が終了した。

 シキ一人の手によって。

 流石にこれをメイドの嗜みで終わらせるのは違う気がする。

 そう思いシキを問い詰めた結果、勇者に勝てるであろう強さになった頃から世界旅行をしたいと思うようになったらしく、これほどの強さを手にしたらしい。

 旅行をするためだけに征服された人間達……

 一応国外の魔族が虐げられていた過去があるので良い感情はそこまで無いが、流石に同情する。

「さあさあ行きましょう、魔王様」

「分かった分かった」

 私はそんなシキの誘いによって世界一周旅行をしている。

 正直に私は他国の事を一切知らないと話したら、自分が教えるから大丈夫だと言われた。

「これがオーロラですよ!」

「魔法じゃないのか?これは」

「はい、ただの自然現象でですね——」

 楽しそうに話すシキを横目に見つつ、こう思った。

 魔王が勇者に負けなかったら、これほどに世界は広がるのか。
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