1 / 4
第一話
しおりを挟む
私は縁切り代行屋。あらゆる方の縁を切るお手伝いをさせて頂いております。
今回はどのような方が現れるのでしょうか。
おや、これは珍しい客が。
「いらっしゃいませ。今日はどのような御用で?」
私はマニュアル通りに出迎えます。といってもこのお店は私一人なのですが。
「夫との縁を切りたいの!!!」
非常に元気よく言いきりましたね。つまりは離婚の依頼のようで。
「承知いたしました。どのような形で縁を切りましょうか?」
よくある依頼の一つです。だからこんな重い話題でも眉一つ動くことはありません。
「慰謝料の支払いと財産分与無しでスパッと離婚したいの。こちらから切り出すってことは流石に私が払わなきゃいけないのでしょう?」
ということは夫には離婚する気がそこまで無さそうですね。だから裁判ルート濃厚と。
「それに完全に縁を切ってしまいたいから」
なるほど。理由はそこでしたか。確かに金銭のやり取りがある限りは一定以上の関係は続くわけで。それすら嫌だから相談しに来たのですね。
「それはどうしてでしょうか?」
普通結婚までたどり着いた夫婦の一方が完全な縁切りを望むレベルまで到達することはないのですが。
「決まってるでしょ。バツイチであることを隠し通すためよ。この年齢でバツイチなんてバレたら人間性に不安を持たれてしまうわ。そのせいで良い男を捕まえられなくなるなんてまっぴらごめんだわ」
そこまで重苦しい理由ではありませんでした。
確かに理にかなっていますね。確かにこの年齢でバツイチなのは色々とありますものね。
それで人間性を警戒されることが懸念点なのでしょう。
戸籍上のバツイチは消せますが預金通帳のバツイチは残りますものね。
まあこんなこと言ってる時点で感は否めないのですが。
「そうでしたか。かしこまりました」
ただ依頼の理由に犯罪性は無いですね。依頼を受ける条件は満たしていますね。
それではお仕事開始です。
あの話ぶりから推測するに浮気は互いにしてらっしゃらない。
そして、夫は別れる気は無いといったところでしょうか。
兎にも角にも実物を見てみないことには本当の事は分かりません。奥様から聞くと変に色眼鏡がかかりそうですし、実際に会いに行ってみましょうか。
奥様に教えてもらった職場の周辺を探してみるとすぐに見つかりました。現在は昼休憩の途中のようで、同僚の方と仲良くご飯を食べていらっしゃいます。
それでは早速秘儀その1!半年前に使ったきり押し入れの中で埃被っていた透明になれる布!これを被ることによって周囲の人に私の姿が見えなくなるのです!
ワンワンッ!!!!
まあ見えないだけなので犬にはバレますが。人間には分からないので大丈夫です。
周囲が一斉にこちらを向きます。あれ?
本当に大丈夫ですよね?犬が虚空に向かって吠えてるからこっち見ているだけですよね?
気を取り直して。
客が店に入ると同時に中に滑り込みます。普通にドア開けたらそれは心霊現象になってしまうので。
「相変わらず妻のこと大好きだよな」
「当然だろ!あんな可愛くて優しい奥さんなんてこの世にいねえよ!ほら」
同僚にスマホのロック画面を見せつつそう言いました。
どれどれ。見せていたのは奥様の実家らしき場所で犬や猫たちと戯れている写真でした。
美人さんのこういった写真は非常に眼福です。
ちなみにロック画面を解除したら夫婦のツーショット写真でした。
「しかもお前を結婚するために大学まで付いてきてやったこともない家事も特訓したとかほんと神かよ」
離婚する気が無いのは予測通りでしたが、まさかこのレベルで愛してらっしゃるとは。
せいぜい普通の夫婦くらいだと思っていたのですがね。
それに彼女意外と尽くすタイプなのですね。普通に理想の奥様じゃないですか。
その後も二人は妻の話や、趣味の野球の話をしていました。そしてご飯を食べ終わった彼らは会社に戻っていきました。
それでは旦那様の仕事ぶりを見てみましょうか。
奥様からの情報によると確か26歳の院卒だったはず。ということは入社して2年かそこらですかね。なのに今の段階で部長なんですよね。流石にこのペースは速い方なのではないですかね。
私は社会人になってからこの仕事しかやってないので詳しいところは分からないので、単なる予想ではありますが。
ブラックで人が残らないからというわけでもなさそうですし、将来有望株なのではないでしょうか。
まあ会社は大きくないので収入自体はそこまでなのかも。
もしかしたらそこが原因かもしれませんね。
どこかの社長や御曹司と熱愛したいとか思っているのかも。
先立つものは金。よく分かります。
金がないと本当に…… もやしを茹でて食べるだけの生活はもう嫌です……
久々にお肉が食べたいの……
「今から飲みに行かないか?」
今日は金曜日ということもあり、定時で帰ろうとする旦那様に同僚がそうお誘いしていました。
「誘ってくれてありがとう。だけど妻が待ってるから早く帰らないと」
旦那様はそう言って断りました。偉いですね。
「じゃあ今度はお前が誘ってくれよな!」
同僚はあらかじめその返答を知っていたかのように次の約束を取り付けていました。
「すまないな!ありがとう」
素晴らしい夫としての心構え。惚れ惚れします。
共働きだから妻が家に帰っているかどうかも分からないというのに。
今回はどのような方が現れるのでしょうか。
おや、これは珍しい客が。
「いらっしゃいませ。今日はどのような御用で?」
私はマニュアル通りに出迎えます。といってもこのお店は私一人なのですが。
「夫との縁を切りたいの!!!」
非常に元気よく言いきりましたね。つまりは離婚の依頼のようで。
「承知いたしました。どのような形で縁を切りましょうか?」
よくある依頼の一つです。だからこんな重い話題でも眉一つ動くことはありません。
「慰謝料の支払いと財産分与無しでスパッと離婚したいの。こちらから切り出すってことは流石に私が払わなきゃいけないのでしょう?」
ということは夫には離婚する気がそこまで無さそうですね。だから裁判ルート濃厚と。
「それに完全に縁を切ってしまいたいから」
なるほど。理由はそこでしたか。確かに金銭のやり取りがある限りは一定以上の関係は続くわけで。それすら嫌だから相談しに来たのですね。
「それはどうしてでしょうか?」
普通結婚までたどり着いた夫婦の一方が完全な縁切りを望むレベルまで到達することはないのですが。
「決まってるでしょ。バツイチであることを隠し通すためよ。この年齢でバツイチなんてバレたら人間性に不安を持たれてしまうわ。そのせいで良い男を捕まえられなくなるなんてまっぴらごめんだわ」
そこまで重苦しい理由ではありませんでした。
確かに理にかなっていますね。確かにこの年齢でバツイチなのは色々とありますものね。
それで人間性を警戒されることが懸念点なのでしょう。
戸籍上のバツイチは消せますが預金通帳のバツイチは残りますものね。
まあこんなこと言ってる時点で感は否めないのですが。
「そうでしたか。かしこまりました」
ただ依頼の理由に犯罪性は無いですね。依頼を受ける条件は満たしていますね。
それではお仕事開始です。
あの話ぶりから推測するに浮気は互いにしてらっしゃらない。
そして、夫は別れる気は無いといったところでしょうか。
兎にも角にも実物を見てみないことには本当の事は分かりません。奥様から聞くと変に色眼鏡がかかりそうですし、実際に会いに行ってみましょうか。
奥様に教えてもらった職場の周辺を探してみるとすぐに見つかりました。現在は昼休憩の途中のようで、同僚の方と仲良くご飯を食べていらっしゃいます。
それでは早速秘儀その1!半年前に使ったきり押し入れの中で埃被っていた透明になれる布!これを被ることによって周囲の人に私の姿が見えなくなるのです!
ワンワンッ!!!!
まあ見えないだけなので犬にはバレますが。人間には分からないので大丈夫です。
周囲が一斉にこちらを向きます。あれ?
本当に大丈夫ですよね?犬が虚空に向かって吠えてるからこっち見ているだけですよね?
気を取り直して。
客が店に入ると同時に中に滑り込みます。普通にドア開けたらそれは心霊現象になってしまうので。
「相変わらず妻のこと大好きだよな」
「当然だろ!あんな可愛くて優しい奥さんなんてこの世にいねえよ!ほら」
同僚にスマホのロック画面を見せつつそう言いました。
どれどれ。見せていたのは奥様の実家らしき場所で犬や猫たちと戯れている写真でした。
美人さんのこういった写真は非常に眼福です。
ちなみにロック画面を解除したら夫婦のツーショット写真でした。
「しかもお前を結婚するために大学まで付いてきてやったこともない家事も特訓したとかほんと神かよ」
離婚する気が無いのは予測通りでしたが、まさかこのレベルで愛してらっしゃるとは。
せいぜい普通の夫婦くらいだと思っていたのですがね。
それに彼女意外と尽くすタイプなのですね。普通に理想の奥様じゃないですか。
その後も二人は妻の話や、趣味の野球の話をしていました。そしてご飯を食べ終わった彼らは会社に戻っていきました。
それでは旦那様の仕事ぶりを見てみましょうか。
奥様からの情報によると確か26歳の院卒だったはず。ということは入社して2年かそこらですかね。なのに今の段階で部長なんですよね。流石にこのペースは速い方なのではないですかね。
私は社会人になってからこの仕事しかやってないので詳しいところは分からないので、単なる予想ではありますが。
ブラックで人が残らないからというわけでもなさそうですし、将来有望株なのではないでしょうか。
まあ会社は大きくないので収入自体はそこまでなのかも。
もしかしたらそこが原因かもしれませんね。
どこかの社長や御曹司と熱愛したいとか思っているのかも。
先立つものは金。よく分かります。
金がないと本当に…… もやしを茹でて食べるだけの生活はもう嫌です……
久々にお肉が食べたいの……
「今から飲みに行かないか?」
今日は金曜日ということもあり、定時で帰ろうとする旦那様に同僚がそうお誘いしていました。
「誘ってくれてありがとう。だけど妻が待ってるから早く帰らないと」
旦那様はそう言って断りました。偉いですね。
「じゃあ今度はお前が誘ってくれよな!」
同僚はあらかじめその返答を知っていたかのように次の約束を取り付けていました。
「すまないな!ありがとう」
素晴らしい夫としての心構え。惚れ惚れします。
共働きだから妻が家に帰っているかどうかも分からないというのに。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
向原 行人
ファンタジー
母を早くに亡くし、男だらけの五人兄弟で家事の全てを任されていた長男の俺は、気付いたら異世界に転生していた。
アルフレッドという名の子供になっていたのだが、山奥に一人ぼっち。
普通に考えて、親に捨てられ死を待つだけという、とんでもないハードモード転生だったのだが、偶然通りかかった人の言葉を話す聖獣――白虎が現れ、俺を育ててくれた。
白虎は食べ物の獲り方を教えてくれたので、俺は前世で培った家事の腕を振るい、調理という形で恩を返す。
そんな毎日が十数年続き、俺がもうすぐ十六歳になるという所で、白虎からそろそろ人間の社会で生きる様にと言われてしまった。
剣も魔法も使えない俺は、少しだけ使える聖獣の力と家事能力しか取り柄が無いので、とりあえず異世界の定番である冒険者を目指す事に。
だが、この世界では職業学校を卒業しないと冒険者になれないのだとか。
おまけに聖獣の力を人前で使うと、恐れられて嫌われる……と。
俺は聖獣の力を使わずに、冒険者となる事が出来るのだろうか。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる