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125話

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 最初にとんでもないことを言ってきたのは華山ミズキさん。黒髪ロングで眼鏡をかけた優等生みたいで頭が良さそうな女性だった。

「……ちょっと待って。会員増やしてるんですか?」

「勿論。最終目標は九重ヤイバファンクラブ専用のホールを建てることですから」

「そこまで言ったら宗教じゃない……?」

 ファン活動してもらうのは大丈夫だとしてもそこまでやられたら流石に怖いよ……

 まあでもネタだよね?

「宗教ではないですけど、九重ヤイバさんを知ることで1期生の先輩方と仲良くなれましたし、こうして他事務所の方々と交流を深めることが出来るようになって、配信者としても上手くいくようになれたんですから、九重ヤイバさんを広めた上で形として何かを残そうとするのは当然ですよ」

「そうですか……」

 一応華山さんは否定してくれたのだが、後に続いた内容が純度百%の宗教だった。目もキマッている。これは駄目そうだ……

「じゃあ次は私ですね。私は矢田久美と申します。普段は会員No6として活動しています。後これをどうぞ」

 矢田さんと名乗る真っ黒なスーツを着た女性はそう言いながら名刺を渡してきた。

「……UNIONのマネージャーさん!?」

 ファンクラブ会員なら当然Vtuberだと思っていたのだが、全然違った。思いっきりUNIONを運営している株式会社ネクストライトのチーフマネージャーと記載されていた。

 だからスーツだったのか……

「はい。雛菊アスカさん、東雲リサさんのマネージャーを務めさせていただいております。日頃雛菊アスカさんがお世話になっております」

「こちらこそいつもコラボなどでお世話になっております……」

 直接関わった事は無いが、スタジオでのASMR配信等で色々とお世話になった方である。

 アスカから聞いた話によると家事を犠牲にした代わりに仕事がかなり出来る方だと聞いている。矢田さんの部下の仕事の一つに矢田さんの家事手伝いが含まれているんだとか。

 そんな矢田さんが私のファンクラブ会員に入るとは考えにくいので大方アスカに無理矢理加入させられたのだろう。

「今度アスカさんとお二人で案件配信をしてくれないかと依頼が来ているのですが、いかがしましょうか」

 これが本物の矢田さんかと感心していると唐突に仕事の話を投げかけられた。流石は矢田さんである。

「レッドストリームっていうソシャゲの話ですよね。こっちは大丈夫ですよ。そちらが良ければOKの方針で話を進めてもらえますか?」

「ありがとうございます。ギャラの交渉などは任せてください」

「よろしくお願いします」

「なんかさらっと案件決まったな」

「流石は会員No6の矢田さんだね」

 と案件コラボの話をしていると後ろの方でのんびりしているオーサキさんと奏多さんがそんなことを話していた。

 2人も結構有能なマネージャーが付いている側のVtuberでしょうが。


「じゃあ最後は私ですね。会員No7の私は村上剛です。よろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 最後に村上さんと名乗る男性が名刺を渡してきた。

「え……?」

 渡した名刺をよく読んでみると、株式会社SOME所属のマネージャーと書いてあった。確かSOMEってのはゆめなまを運営している会社だ。

「はい。私は水晶ながめさんのマネージャーです」

 つまるところ、この人はながめのマネージャーである。

「あ、いつもお世話になってます……」

「いえいえ、今回もこれまでも本当にお世話になっております……」

 俺がいつもの礼を言うと、村上さんは俺に対して申し訳なさそうに頭を下げてきた。

「えっと、もしかしてこのメンバーで集まったのってながめさんが関わっているグループだからってことですか……?」

 ながめが会員No2だということはなんとなく予想がついていたので薄々感じてはいたが、ながめのマネージャーが居るという事で確信へと変わった。

「はい。他のゆめなまの方々と連絡が取れなくて困っていた所に奏多さんが連絡をくれてこの集まりが出来たんです」

「この配信が上手くいけば安心して連絡取れるようにかもしれないから、いざという時のヘルプとしていたらどうかって提案したんだ。なんならここからながめさんの家って近いらしいし直接駆けつけられるかもしれないしね」

 どうやらこの会は奏多さんの提案だったらしい。

 確かにあの配信にながめのマネージャーが居たら強力な助けになった事は間違いないしな。

 それはそれとして案の定俺以外の誰とも連絡を取れていなかったんだな……

 いや、俺も一緒に夕食を食べるだけで口をきいてはくれなかったから誤差だが。

「そうですか。で、連絡は取れましたか?」
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